88.キュビカには文通相手がいたようです
カトカとの雪合戦はそれからもしばらく続いた。
キュビカに「朝食はまだかー!? エンラ!?」と怒鳴られてようやく終わったのだった。
はい、大人げなくはしゃぎ過ぎました。
すいません。
みんなと朝食をとった後、俺はいつものように店の所まで行った。
だけど正直これからこんなに雪が降ってくるなら店舗営業は厳しそうだな。
冬眠する動物もいるだろうし、こりゃ春までは一時休業した方がいいだろう。
俺としてもあんまり外に出たくないしな。
寒いのは嫌だし。
ただ何も言わずに店を休業するのもどうかと思ったので、それを知らせる為に店の所まで向かったのだ。
さすがに店舗営業時間前から待っている動物はいなかった。
いたら大丈夫なのか心配する所だったが。
営業時間になっても動物は誰一人として来る様子がなかった。
やっぱり雪が積もるとだいぶ事情が変わってくるんだろうなと思いつつ、帰ろうとした時――
「あっ、エンラさん。お店やっていたんですね!」
声をかけてきたのはカリスだった。
今回はいつもの三人組ではなく一人で来たらしい。
「ああ、でももう雪も積もっているし、しばらく今日を最後に休業しようと思ってな」
「そうだったんですか……実はオレ達もそろそろ冬眠しようと思っていた所なんです。だからエンラさんに一言挨拶をと思いまして」
「なるほどな。ならせっかく来てくれたんだし、これを持って行ってくれ」
そう言うと俺はおにぎりを一つカリスに渡した。
「えっ、いいんですか? でもお代は――」
「お金はいいよ。俺からの気持ちだ。もらっておいてくれ。それよりも無事に春まで生き残れよ? 何かあったら俺に相談してくれ。力になれるかもしれないからな」
「……はいっ。本当にご親切にありがとうございます! また絶対にエンラさんのお店に来ますから!」
「ああ、期待して待ってるぞ!」
そう言うとカリスはおにぎりを持って森の奥へ去って行った。
やっぱりみんな冬眠するもんなんだな。
そういえばドラゴンも冬眠するものなんだろうか?
その辺りは全然分からないんだよな。
トカゲは冬眠する動物だったはずだが……
というか、今日は本当に寒いな。
寒さ耐性をつけていても寒さを感じるってよっぽどだろ。
とにかく早く家に帰ってぬくぬくしなくては。
俺はそう思いながら自分の家に急いで向かう事にした。
俺が家の近くまでやって来た時、空から鳴き声が聞こえてきた。
クアックアッ
空を見上げるとカモメのような鳥の姿が。
何か緑のバッグみたいなものを持っているようだ。
ちょっと変わっているな。
その様子をしばらく眺めているとカモメがそのバッグから何かを地面に落とし始めた。
って、危ないな!
もし誰かに当たったらどうしてくれるんだよ、これっ!?
しかしそんな俺の心の声が聞こえる訳もなく、それからカモメはどこか遠くへ飛び去ってしまった。
うーん、一体何だったんだ、今のは?
とりあえずカモメが落としたものをちょっと見てみるか。
俺はカモメが落とした何かがある方に移動し、拾い上げてみた。
どうやらカモメが落としたのは白い瓶のようだ。
この瓶、どこかで見た事あるような気がするが……多分気のせいだな。
それより何か瓶に中身は入っているんだろうか?
俺がその瓶の栓を抜き、逆さまにしてみると、一枚の丸まった紙がヒラヒラと舞い落ちてきた。
それをキャッチする俺。
この世界に紙なんてあるんだな。
薄くて白い紙だから、結構高い技術で作られていそうだな、これ。
ちなみに中身はどんな事が書いてあるんだろう?
ちょっと気になるな。
良心が少し傷付くが好奇心には勝てそうもない。
なに、ちょっと位なら見てもいいよな。
うん、ほんのちょっとだけなら、さ。
丸まっている紙を少し広げてみる俺。
するとそこには文字が書かれていた。
見た事がない文字だけど、よくよく見ると何となく文字の意味が頭の中に入り込んでくる。
多分言語翻訳のスキルが働いてくれているんだな。
これなら何とか読めそうだ。
えっと、どれどれ?
@ーーーーーーーーー
聖焔殿
あなたは相変わらず食べ物の話ばかりですわね。
ですけど今回聞かせてもらった"おにぎり"という食べ物のお話は非常に興味深いですわ。
近いうちに尋ねると思いますので、ご用意――
@ーーーーーーーーー
えっと、聖焔って確かキュビカの事だよな。
つまりこれはキュビカ宛の手紙なのか?
食べ物の話ばかりというのもいかにもキュビカらしいし。
というか、近いうちに尋ねるという事はこの手紙を書いた人が来るという事だよな?
一体誰が来るんだろう?
気になるな……
それとなくキュビカに聞いてみるとするか。
俺は白い瓶に紙を戻し、そのまま瓶を持って家の中に入っていった。
「エンラ、戻ったのじゃな。店には誰も来とらんかったのか?」
「ああ。みんな冬眠したのか、全然いなかったな。唯一会えたカリスも、これから冬眠するらしいしさ」
「まあこれからさらに冷え込みが厳しくなるからのぉ。無理もないわい」
さらに冷え込みが激しくなるのか。
今でさえ十分寒いっていうのにさ。
本当、もう勘弁してほしいわ。
「あっ、そうそう。そういえばこれが外に落ちていたんだが、キュビカさん、心当たりはないか?」
「えっと、どれどれ?……ああ、これは風渡からの手紙じゃな。随分と返事が遅かったのぉ」
「風渡? 誰だ、それ?」
「風渡はな。ここより北北東にあるカモメエリアのエリアボスなのじゃ」
「へぇ……キュビカさんはその風渡さんと前から文通していたのか?」
「まあ、そうじゃな。奴とは長い付き合いじゃからな。わらわがエリアボスになる前からの腐れ縁ってやつじゃ」
ふーん。
キュビカにそういう相手がいたんだな。
しかも相手はエリアボスときた。
……というか、それはつまり、エリアボスがこれからここに来るって事かよ!?
おいおい、冗談じゃねえぞ。
「ちなみにどういう内容の返事が来たんだ? 差し支えなければで構わないが」
「そんな大した事は書いてはありはせんよ。……いや、書いておるな。どうやら彼奴、明日ここに来るようじゃ」
えっ、ええっ!?
明日来るだって!?
そんなの聞いてないから!
「えっと、それはまさか……カモメのエリアボス様が明日ここに来るという事か?」
「その通りじゃ」
「えっと、それはつまり俺がカモメさんをもてなさなければいけないという事か!?」
「いや、そこまでは求めておらぬ。じゃが、この場所は借りても良いか? さすがに外で話をするのは酷じゃからな……」
なんだ、良かった。
てっきり「わらわの顔に泥を塗らぬように精一杯もてなすのじゃ」とでも言ってくるかと思って焦ったわ。
場所を貸すくらいなら別にいいか。
外に出るのは寒くてちょっと嫌だけど。
「ああ、場所は貸してもいいぞ。その間、俺は適当に時間潰して来るから、どれ位出掛けていればいい?」
「ああ、その事じゃがな……エンラにもここに居て欲しいのじゃ」
「えっ、なんで? 俺が一緒にいても邪魔なだけだろ?」
「実はな、風渡の奴はお主が提供するおにぎりに興味を持っておるようなのじゃ。じゃからお主からおにぎりを買わせてもらおうと思ってな」
そういえばあの手紙にもおにぎりに興味があるみたいな事が書かれてあったな。
つまり、おにぎり目当てという所だろうか。
「おにぎりに興味があるだけなら俺いらなくないか? 極端な話、おにぎりさえ置いていけばいい話だしさ」
「確かにそうかもしれぬが、きっと彼奴はお主にも興味を持つじゃろう。なに、そんなに身構えなくてもよい。風渡は意外と寛容な奴でな。恐らく今のわらわに対して話すような感じで話せば全く無礼にはならぬと思うぞ」
「そ、それならいいんだが……」
正直エリアボスが訪ねてくるなんて事がなかったから、どう振る舞ったらいいのか分からないんだよな。
キュビカも水刃もどちらかというと敵対するような出会い方をしていたから結構くだけた感じで接していたのだが。
でもエリアボスを客人としてもてなすのに、いつもの態度はどうかと思うしなぁ……
キュビカにいつも通りでいいと言われてもやはり失礼なんじゃないかと思ってしまう。
うーんとその場で悩んでいると、外からバサバサバサッと音が聞こえてきた。
何かの鳥がとまったんだろうか?
でもこんな寒い時に誰が?
仲間達はみんなこの家の中にいるしな。
疑問に思いながら外に出てみる事にした俺。
するとそこには――
「聖焔さんの気配はこの辺りから感じられますわね。全く、本当に寒いですわ、ここ。よくこんな所で生きていけるものですわ、あの人ったら」
雪の上にとまっていた一羽の純白の巨大鳥。
よくよく見ればカモメに見えなくもないかもしれない。
カモメの何倍も大きな体をしているけど。
そんな急に現れた鳥を見て呆気に取られる俺。
すると鳥はこちらの方に気付いたようで。
「あらっ? あなたはもしかして聖焔さんと一緒に暮らしているドラゴンさんですこと?」
「あっ、はい、そうですが……」
「やっぱり! ということは聖焔さんがこの辺りにいるのは間違いなさそうですわね! よかったら貴方、案内して下さいませんか?」
「あっ、はい、こちらです……」
この鳥、明らかにカモメのエリアボスだよな。
何でこんないきなり来るんだよ。
明日じゃなかったのかよぉ!?
泣き言を言っても無駄だよな。
もう来てしまったからには仕方ないので、俺はとりあえず家の中に招待する事にした。
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六十八日目:残金5325050B
収入:キュビカ達の獲物50000B
支出:朝食など10000B
収支;+40000B
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