85.クマはみんなフレンドリーという訳ではないようです
すっかりクマが動物達と打ち解けて、店の行列に並ぶ一人として定着してから数日後。
この日もいつものように、小さな動物達に混じってクマが一頭ゴロンと寝っ転がりながら順番を待っていた。
だが、この時、少し異変を感じる。
遠くから比較的大きな気配が複数この場にやって来ているのだ。
何だろう、この気配?
ちょっと不安を感じつつも、店の営業を続ける俺。
すると気配がすぐそばまで近付いてきて、そして現れたのは――たくさんのクマだった。
なんだ、クマさんか。
そう思って俺はほっと胸を撫で下ろして店の営業を続けようとすると――
グガァァァ!
キャアァァ!?
現れたクマのうちの一頭が並んでいる動物のうちの一匹に襲い掛かろうとしていたのだ!
俺はすかさずグランドウォールを使って動物をクマから守る。
土壁に衝突する事になったクマは痛さで地面をのたうち回り、俺に敵意をむき出しにしてくる。
クマが襲ってきた。
この事実を遅れながら把握した動物達は悲鳴をあげて一斉に逃げ出す。
そしてその中に取り残された寝っころがっていたクマと、襲撃者側のクマ。
一体どうしてこんな事になってしまったのか?
俺は襲撃したクマ達にたずねてみることにした。
「お前達、どうしてこんな事をするんだ?」
「お前、おれ達の言葉を話せるのか。まあ、いい。簡単な事よ。二日毎に食い物が必ず集まっている狩場がある。それが分かったら放っておくのは愚策だろうが? 間違っているか?」
「食い物って……確かにお前達クマにとってはそうかもしれないがな……俺にとっては大切なお客さんなんだ! 少なくとも商売の邪魔をしようというならこちらも黙っていられないぞ!?」
「フン、商売だと? 笑わせてくれる。あんなちゃっちい奴らと何かやって一体何になるっていうんだ? それよりも食ってしまった方が断然早いというのになぁ? それともお前はそんな事も出来ない軟弱者なのかぁ? そこにいる弱虫みたいになぁ?」
そう言ったクマは先程まで地面に寝そべっていたクマの方を見る。
そのクマは今ではビクビク体を震わせていて、緊張している様子だ。
ちょっと後ずさりしている感じすらある。
てっきりいつも店をひいきにしてくれているクマがこの襲撃してきたクマを呼んだのだと思ったが、話を聞いている限り、そうとも限らないようだ。
一応念の為、直接聞いてみるか。
「なあ、クマさん。あの怖いクマ達を呼んだのはお前なのか?」
「い、いや……違いますよお。でも、もしかして……ぼくの跡をついてきて……」
「ああ、その通りだ。最近いつもと違う動きをしていると思って、お前の事をこっそりついていってみたんだ。そしたらそこには獲物が集まっているではないか!」
「しかもその動物達は周りに対して警戒心が薄い。つまり、奇襲すれば狩り放題って訳さ。グへへ……」
コイツら、動物達をただの獲物としか見ていないようだな。
本当に腹が立つわ。
それにしても、やっぱりこの常連のクマはあまり悪くはなかったようだな。
まあこのクマ達を連れてきてしまったというのには変わりないんだろうけど、跡をつけられたのなら仕方ないだろう。
後はコイツらをどうするかだな……
「フン、だが今日はあいにく動物達には逃げられちまったみたいだな。仕方ない、出直すとするか。お前達、ずらかるぞ!」
そう言うとクマの集団は森の奥へ帰っていこうとする。
だが、そうはさせるものか。
このまま帰したら間違いなくまた店の営業中にクマが動物達を襲い掛かろうとしてくるだろう。
もしそんな事が繰り返されたら、不安になった動物達が店に来なくなってしまうだろう。
店に来てもいつクマに襲われるかヒヤヒヤしなければならないのだから。
そうならないように、この場はクマが近寄れない場所だときついお灸を据えてやらないといけないのだ。
俺はクマの進行方向に先回りして、地面に降り立った。
「なんだ? もうお前には用はないんだが?」
「俺はお前達に用があるんだ。お前達、先程お前達が言った言葉を覚えているか?」
「ん? ああ? 何の事だ?」
「今日は逃げられたから出直す。つまり、また後日ここに来て動物達を襲うつもりという事だよな?」
「ああ、そうだ。それがどうした? 強い者が弱い者を食う。そしてあの場所はその絶好の場所。活かさない手はないだろうが?」
何をおかしなことを言っているんだろうというような顔で俺を見てくるクマ達。
コイツら、俺が言おうとしている事を全く理解していないんだな。
自分達が強者で、弱者である動物達が食われて何が悪い。
その一点張りみたいだしさ。
確かにこのクマ達が頂点に立つ程の強さを持つのであれば、その原理も通るかもしれない。
だが、事実はそうではない。
それを今からこのクマ達に思い知らせてやるのだ……
「なるほどな。強い者が弱い者を食う。それが当然か」
「ああ。昔からその事は変わっていない。そんな当たり前の事を何言っているんだ、お前は?」
「つまり、お前達よりも強い俺がお前達を皆殺しにしても誰も文句言えないっていう事だよな?」
俺は自然の恵みを解き、そしてさらに龍の威厳を使う。
するとクマ達は全く身動きがとれなくなり、そして全身から血の気がひいていく様子が見えた。
龍の威厳。
この技は強大な龍の存在感を最大限高めて相手に恐怖感を与える事により、相手に精神摩耗、及び行動力、腕力、知力の低下をもたらす。
さらに一定以上力の差がある弱者には一切の行動を不能にする効果も与えるのだ。
動物のクマ程度では俺と一定以上の力の差がある事は明白。
故に、今のクマ達に行動する術はない。
ちなみにこういう内容はスキル購入時に全てスキルの情報が頭の中に、スキルを使った感覚が体の中になだれこんできたりする。
だからこそスキルを買いすぎると頭の整理が必要になるんだよな……
「どうした? 何か言いたい事があるなら言ってみろよ、ああ?」
クマ達はビクビク体を痙攣させ、全身から大量の冷や汗が流れ出る。
あまりに汗をかくので、クマの足元にはちょっとした水たまりができているほどだ。
このまま放っておいてはクマが脱水症状を起こしてしまいそうなので、最後に一言だけ伝えて開放することにした。
「俺の店のお客さんに手を出した者は容赦なくブッ殺す。それを忘れるんじゃないぞ……」
そう言った後に俺は龍の威厳の発動を止め、自然の恵みを発動させる。
そうして身動きがとれるようになったクマは一目散に立ち去っていった。
ふう。
ここまで脅せばさすがにもう来ないだろう。
もし万が一懲りずに襲いに来た時は、その時は容赦しなければいい話だ。
これで来るような奴はどんだけ命知らずな奴かと思うけどさ。
クマを脅し終わった後、俺はゆっくりと店の方へと戻っていった。
店に戻ると、そこにはひっくり返っていた一頭のクマがいた。
そのクマはもちろん、常連のクマさんなのであるが。
クマは気絶しているようで、手足を上に向けたまま固まっている。
その様子がおかしくて思わず俺がクスクス笑っていると、クマの手足がビクッとなって、クマが起き上がった。
「あれ……? さっきのクマさん達はどこ行ったんですか?」
「ああ、あいつらか。あいつらは俺のお客さんを食べようとしたから俺が脅して追い払った」
「えー、クマさん達、お客さんを食べようとしていたんですかあ!? それはひどいですよお!?」
えっ、このクマさん、気付いていなかったの?
それなら先程襲ってきたクマは何のために来たっていうんだ……
「それなら先程クマたちが来たのは何の為だと思っていたんだ?」
「それはですね。いつものようにぼくから食べ物を奪おうとしてきたのかなって。あのクマさん達、乱暴だからぼくあんまり好きじゃないんですよお」
もしもしー。
あなたもクマさんなんですけど?
んー、まあさっきの襲撃してきたクマとは全然雰囲気も違うし、そういう意味ではちょっと違うクマなんだろうけどな。
というか、このクマの言う事が正しければ、日頃からこのクマはああいうクマから食べ物を奪われていたのか!?
「なあ、いつものようにって……日頃から食べ物を奪われていたのか?」
「はい、そうですよお。大きい魚を捕まえたと思ったら、それを寄越さないと殺すと言ってきたりするんです」
「はあ、よくそんな状況で生き延びてこれたな、お前」
「まあ慣れてますからねえ。一匹取られても、もう一匹捕まえればいい話ですからあ」
このクマ、意外とタフだな。
結構鈍感な所があるから、それである意味イジメみたいなものにあっていても平気なのかもしれない。
だけどこのクマの今後が心配だよな。
俺が襲撃したクマを脅した事によって、このクマへ怒りが向けられて、イジメがエスカレートしないとも限らない。
ここはそうだな……。
「なあ、クマさん。ちょっと話があるんだが、いいか?」
「はい、何でしょう?」
「もしお前が良かったらなんだが……俺達と一緒に暮らさないか?」
「えー!? という事はシチュー食べ放題なんですかあ!? それならもちろん暮らしますよお! ええ、今すぐにでも!」
いや、食べ放題ではないけどな。
きっちり食事代位は働いてもらいますとも。
まあでも、一緒に暮らすことに何のためらいもないみたいだし、これで一件落着といった所か。
俺のそばにいてくれれば、向こうのクマ達も手出しはできないだろうからな。
これでこのクマも安心して暮らすことができるだろう。
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六十七日目:残金5486050B
収入:キュビカの獲物(四日分)336000B
支出:食料など32000B
収支;+304000B
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