8.オオカミと会話をしてみました
森の中を歩いていく俺とオオカミ。
売れそうなものがあったら売却をしてちょこちょこと資金を増やしていく。
アレノスナッツとアレノスキノコというものをそれぞれ二個ずつ売却して520Bを手に入れる。
そしてそんな中で一際目を引くものがあった。
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”アレノス・ロイヤル”を売却しますか?
売却額 10000B
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ちなみにこのアレノス・ロイヤルというものは白いキノコである。
日陰に生えているにも関わらず、キラキラ光っている事からして発光性のようだ。
キレイではあるが、食べる物ではないように思える。
でも10000Bで売れるんだから、何かしらの用途があるには違いない。
だからといって俺が持っていても仕方ないし、売却一択なのだが。
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”アレノス・ロイヤル”を売却しました。
残り所持金 13420B
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おっ、これで所持金が10000Bたまったな。
なら早速中古翻訳機を買ってみようか。
中古だから若干性能とかに不安は残るけど……
まあ万能翻訳機を買おうとしたら100万Bもするから当分買えなくなってしまうしな。
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以下の物を購入しました。
残り所持金 3420B
中古翻訳機 10000B
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その画面が表示されると、俺の目の前の地面にコトリと何かが現れる。
おにぎりの半分以下のコンパクトサイズの立方体の機械。
これが翻訳機なんだろうか?
全然見ただけじゃ何の機械なのか分からないが。
早速試してみるか。
「えー、オオカミさん、俺の言葉が分かりますか?」
「えっ……この言葉、トカゲさんがしゃべってるの!?」
オオカミはひどくうろたえている。
そりゃあ今までトカゲがただ鳴いていただけだったのに、急に話し出したら戸惑うよな。
それより、ちゃんと翻訳機が機能しているようで良かった。
これでまだオオカミと話せなかったらどうしようかと思ったわ。
中古みたいだから性能に不安があったんだが、特に使う分には問題なさそうだ。
「そうだ。俺はオオカミさんと話せるようになったんだ」
「そ、そうなの? 理由はよく分からないけど、それってすごいわね!」
オオカミはそう言って微笑んでいる。
どうやらオオカミには俺と話せることを好意的にとってくれているようだ。
気味悪がって逃げて行ってしまう可能性もなくはなかったから、とても良い事だな。
せっかく話せるようになったんだから何か聞いてみるか。
「せっかくだし、ちょっと聞きたいんだが、どうしてオオカミさんは俺についてきているんだ?」
「えっ? ついてきている理由? そうねぇ、単純に興味本位かしら」
「興味本位? 自分でいうのも何だが、恩返しとかそういう理由ではなかったのか? もしそうだったらちょっと悪い気がしていたんだが……」
「確かにそれもあるけど、でもついてきているのは私の勝手よ。だから別に気を使わないでもらっていいわ」
義務感でついてきているんだったら、あまり無理をさせられないもんな。
だからオオカミが自分の意思でついてきていると言ってくれて肩の荷がだいぶ下りた気持ちだ。
そういえばこのオオカミ、名前はなんていうんだろう?
さすがにずっとオオカミさんと呼ぶ訳にはいかないよな。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。俺はエンラという。よろしくな、オオカミさん」
「エンラ……? あなた、名前があるのね。珍しいわ」
「えっ、という事はオオカミさんには名前がないのか?」
「ええ。そもそも名前がある方が少数派よ」
「何か名前がない理由でもあるのか?」
「特にないわ。必要性がないからないだけ。名前がないのが当たり前だからね。たまーに自分で名前をつける変わり者もいるけど」
「ふーん……」
「あっ……いや、あなたの事をいっているんじゃないのよ!? 本当よ!?」
オオカミはそう言ってあたふたしている。
まあ名前があることが変わっているというのはオオカミの本心なんだろう。
別に俺が動物や魔物としては変わっているのは事実なんだろうし、気にしなくていいんだけどな。
「名前がないなら、君の事は何と呼べばいいんだ? やっぱり”オオカミさん”?」
「そうね……別に好きに呼ぶといいわ。なんなら名前をあなたが決めてしまってもいいし」
「えっ、俺が決めるのか!?」
「別にその方が呼びやすいならそれでいいの。そんなに名前に関してこだわりはないから」
名前にこだわりはない、ね。
それなら遠慮なく決めさせてもらうか。
さすがにオオカミさんと呼び続けていたら、もし他のオオカミと話さないといけないときにややこしくなるしさ。
「なら今からオオカミさんの事をコクリと呼んでもいいか?」
「コクリ? ええ、構わないけど」
「ありがとう。なら、俺の事はエンラと呼び捨てで呼んでくれ、遠慮なくな!」
「ええ。そうしてほしいならそうするわ」
名前にこだわりがなさそうだから、コクリにとってはどんな名前でも良かったんだろうな。
ちなみに名前の由来は”黒”+凛々しいの”り”でコクリだ。
それ以外の深い意味はない。
「そういえばあの白くて黒い食べ物、美味しかったわ。あれ、どこで見つけたの?」
コクリが言っているのは多分おにぎりの事だろう。
見つけたという表現は、その場にある物を食べる動物、魔物らしい発想だな。
おにぎりというものがどこかに実として実っているとでも思っているのだろう、きっと。
「これは買い物をすることで手に入れたんだ」
「買い物……? 何それおいしいの?」
「いや、食べ物じゃねえから。ちょっと見ていろよ」
俺はコクリに見せるために女神ショッピングを呼び出す。
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女神ショッピングへようこそ!
お買い求めの商品を思い浮かべ下さい。
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「ええっ!? なにこれ!? どうなっているの!?」
「驚くのはまだまだ早いぞ。ちょっと見ていろよ……」
俺はいつものようにおにぎりを注文する。
その一部始終を見ていたコクリは終始目を丸くしていた。
ちなみに注文したおにぎりはコクリにあげることに。
「どうだ? 分かったか?」
「エンラが何か不思議な魔法を使えることは分かったわ。もぐもぐ……」
「ん、まあそういう認識で構わないよ。実の所、俺も仕組みについてはよく分かってないからさ」
女神ショッピング、本当に謎だよな。
購入したものはどこから来るのか。
売却したものはどこへ行くのか。
全ては女神しか知らないんだろうな、きっと。
「つまり、この魔法を使えばこの食べ物は食べ放題っていうことなの!?」
「いや、そうではない。この食べ物、おにぎりを手に入れる為にはお金が必要なんだ」
「お金ってなに?」
そうか、動物には貨幣なんて概念はあるわけないか。
貨幣なんて使うのは人間位だもんな。
さて、どう説明したものか……
「えっと……簡単にいえばおにぎりと同じ価値のある物と交換しているんだよ。物々交換っていうやつ」
「ふーん。つまり、エンラの何かとこのおにぎりを交換しているということね。ってことは私が食べているおにぎりも……」
「ああ。俺のお金というものと交換して手に入れたものということになる」
「そ、そうよね。ということは私もエンラと何かを交換しておにぎりを手に入れるべきだったと言う事よね……?」
「まあ本当はそうなんだが、コクリには色々助けてもらったからな。これは俺が勝手にあげたものだし、気にしなくていいぞ」
「そうなの? なら次からはちゃんと何かを用意しておくわね。今は手持ちがないから……」
「ああ、そうしてくれると非常に助かる」
別にコクリには一緒にいてもらえるだけでだいぶ心強いし、対価なんてもらわなくてもいいんだけどな。
まあもらえるんだったらもらうことには越したことはないって話だ。
おにぎりを出すのもただではないからさ。
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三日目:残金3320B
収入:アレノス・ロイヤル10000B、アレノスナッツ240B、アレノスキノコ280B
支出:中古翻訳機10000B、おにぎり100B
収支:+420B
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