77.シチューの販売を始めました
朝食をとった後、店の開店準備を始める俺。
いつもは数分もかからないこの作業だが、今回は販売用のシチューを作る関係上、準備には時間がかかりそうだ。
料理は日持ちしないし、どれ位売れるかも未知数なので、とりあえずは先程作った位の量を作る事に。
だいたい50人分といった所か。
万が一売れ残ってしまっても、残ったものはキュビカが買い取ってくれるというから頼もしい。
どうやらキュビカは余程シチューの事を気に入ってくれたようだ。
でも万が一の時も安心とはいえ、やっぱり出来るだけ売れ残らないで欲しいものだけどな。
キュビカにあまり迷惑をかけたくないしさ。
「あっ、エンラさん。もしかしてそれって、さっきの美味しいスープですか?」
「ああ、カリスか。その通りだ。飲みたがっていた動物が多かったけど、なくなってしまったから、また作ろうと思ってな」
「そうなんですか。そのスープ、とっても美味しいですものね!ただのスープとは違ってちょっと濃厚というか何というか」
「そうだよな。カリスにもシチューの魅力が伝わって嬉しいよ」
かつて自分が好きだった味を他の動物達と共有できる。
それってとても素晴らしい事だよな。
「エンラさん。シチューが出来たらまた買ってもいいかなぁ? ボク、お腹すいたんだぁ」
「こらっ、クリス! エンラさんはシチューを食べられなかった動物達の為に今作っているんだぞ! これでまたシチューがなくなってしまったらどうするんだ!?」
「いや、カリス。そんなに心配してくれなくても大丈夫だ。なくなったらまた作ればいい話なんだからな」
「そ、そうなんですか? それならいいんですけど……」
「ということはボク、シチューを買ってもいいんだねぇ? やったぁ!」
「そ、それならオレも一つ買っていっていいですかね?」
「わたしも買いたいんだよぉ……」
「ああ、もちろんいいぞ! 店の開店時間になったら三人分用意しておくから並んでちょっと待っててくれ!」
食いしん坊なクリスだけでなく、カリスとコリスも本当はシチューを食べたかったようだな。
さっき食べたばかりなのによくまた食べようと思えるな。
それほど気に入ってくれたという事だろうけど。
シチューを作っていると、他の動物達も集まってきて、早く食べたいと口々に言っていた。
よだれをすすりながらシチューをじっと見ている者。
ちょっと離れた所で自分は興味ないアピールをしつつもこちらをチラチラ見てくる者。
シチューに手を突っ込もうとして俺に叱られる者。
様々な動物達が集まっていた。
そしてついに―――
「みんな、待たせたな! 開店時間だぞー!」
店の開店時間。
その知らせを聞いた動物達はガヤガヤと何かを話し始める。
どうやらみんな待ちきれない様子だ。
実際、行列に並んでいた動物達はみんなシチューを注文していった。
中には10杯を要求する者もいたが、後ろに並んでいる動物達からの厳しい視線があったので、さすがにそれはやめて欲しいと俺が頼む事になる。
他の種族の言葉は分からないはずなのに、よくその動物がたくさん頼もうとしているのかみんな分かるよな。
雰囲気や俺の反応を見て判断しているんだろうか?
それって何て鋭いこと。
食への執念が成せる技という所だろうか?
とにかくそんな事があったので、とりあえずは一人一杯までにすることに。
欲しかったらまた最後尾に並ぶという決まりを作る事になった。
それでもやはり50人以上の動物達が並んでいる関係上、途中でシチューを切らしてしまう。
そうしたら俺はまたシチュー作りに取り掛かる。
そしてそんな様子をじっと眺める動物達。
しばらく経ったらまた店の前に並ぶ動物達にシチューを販売していく。
その繰り返しだった。
シチューが売れないなんていらない心配だったな。
むしろどれだけ作ればみんなに行き届くのか。
そっちの方が心配になるほどだ。
まあ材料はいくらでも買えるし、時間さえあれば何人分でも作れるんだけど。
シチューを切らして、またシチュー作りをしている頃。
遠くから悲鳴のような声が聞こえてきた!
「な、何があったんだ!?」
「エンラさん、あそこです! アレノスベアーが現れたのです!」
アレノスベアー。
つまりはクマが現れたという事か。
クマ、すなわち肉食獣。
俺のお客さんであるリス、イノシシ、タヌキなどを食べてしまう存在。
つまりは今の状況において招かざる客という訳だ。
「みんなはここで待っててくれ。俺が行って追い払ってくる」
「エンラさんは強いですから大丈夫だとは思いますが、気を付けて下さいね」
「早く追い払ってまたシチューを作ってねぇ」
「きっとトカゲさんなら大丈夫なんだよぉ……」
カリス達に心配されながらも、俺は恐る恐る悲鳴がした方に近寄っていく。
相手はクマ。
人間の頃の自分では全く歯が立たない相手だ。
だけど今の俺はドラゴン。
肉体も人間のものとは違って強靭なものだし、いざとなったら飛んで逃げればいい。
それに向こうから感じる気配はキュビカや水刃のものに比べると小さなものだ。
恐らく今の俺に敵わない相手という訳ではないだろう。
それでも油断は禁物だが。
茂みをかきわけて進んでいく俺。
するとついに、目標の相手。
茶色い毛で覆われた大きな動物、クマの後ろ姿をとらえた!
俺が茂みを進んで音がしたからか、クマはこちらに気付き、こちらの方へと振り返る。
そしてクマは魚を三匹口にくわえていたのだが、俺の姿を見ると、その魚をポトリと地面に落としたのだった。
クマは俺の姿を見て驚いたんだろうか?
まあそれは無理もないよな。
ドラゴンってこの辺りに生息している様子はないし。
できればそのまま怖気付いて逃げ出してくれればいいんだけど……
俺はクマが逃げ出してくれる事を期待してそのままクマとじっと対峙する事にした。
緊張の一瞬。
だがクマは全く逃げる様子はない。
このクマ、結構度胸があるな。
ここは自然の恵みの発動を止めて威圧するべきか?
それで逃げない場合は龍の威厳を使ってさらなる圧力をかけるか……
それでも逃げないとなれば、実力行使に出て痛い目にあってもらわないと、帰ってくれそうにないよな……
でもこの周囲には動物達がいる訳だし、出来ればそんな事はしたくないんだが……
そんな感じでどうしようかと迷う俺。
するとクマが一歩俺の方へと近付いてきた。
おっ、戦うっていうのか?
そっちがその気なら受けて立つぞ?
あまりそういう事は好きじゃないけどさ。
「ドラゴンさん」
おっ、このクマ、俺に話しかけてきたぞ?
クマって話しかけてくるものなんだな。
てっきりいきなり襲ってくるものだと思っていたんだが……
クマがその一言を言った後はしばらくだんまりだった。
よくよく見ればもじもじしているような。
一体何をしたいんだ、このクマは?
「俺に何か用か?」
俺がそういうとビクッと飛び上がるクマ。
こいつ、見た目に反して結構ビビりなのか?
それにしては逃げないのが気になるが。
「え、えっとですね……」
もじもじしながら恥ずかしそうにいうクマ。
その見た目でそういう仕草するってどうなんだろうかと思うんだが……。
「何だ? 言いたいことがあるならハッキリ言ってくれないか?」
俺がそう言うとまたビクりとするクマ。
そんなに一言一言驚かなくてもいいのに。
「しちゅぅ……」
「ん?」
「ぼくにしちゅーを売ってください!」
はいはい、シチューね。
って、ええっ!?
このクマ、シチュー目的で俺に近付いてきたっていうのか!?
********
四十七日目:残金1198826B
収入:なし
支出:シチュー材料3000B
収支;ー3000B
********




