69.イタチが攻めてきました
食事を終え、家の中でくつろぐ俺。
うん、なかなかの美味だったな、あのカレー。
比較的安く大人数分のカレーになって結構コスパも良かったし、また気が向いたら作ってみるか。
それにしてもカレーを食べた後、珍しくキュビカさんがちょっと用があると言ってどこかへ走り去ってしまったな。
いつもだったら何杯もおかわりを要求してきそうなのに、結局一杯しか食べなかったし。
鷹達も一緒にキュビカの後を追っていったみたいだし、何が何やら。
でもようやくゆっくり休めるのか。
料理でまた魔力を使っちまったからさらに疲れたぞ、俺。
早く寝よっと。
「エンラさん、大変です!」
「イチガか。なんだよそんなに慌てて?もう俺は寝たいんだが?」
「すいません……。でも緊急事態なんです!」
「緊急事態? 一体何が起こっているというんだ?」
「イタチが……イタチが私達の領域に攻めてきているんです!」
ええっ、イタチが攻め込んできているだって!?
もしかして、俺がイタチの領域に踏み込んだのが原因なのか!?
「キュビカさんはどうした!?」
「キュビカ様はもう既に現場に向かわれています! ですが今回はイタチも本気みたいで、キュビカ様だけで対応し切れるかどうか……」
「分かった、今すぐ応援に行く! キュビカさんの所まで案内をお願いしても良いか?」
「ええ、お任せ下さい。こちらですよ!」
俺はこうして急いでイチガの後に続いて空へと飛び立っていった。
しばらく空を飛んで進んで行くと、何かの物音が聞こえてくる。
その方向を見れば、イタチと他の生物が戦っている様子が見えたのだ。
ちなみにその中にキュビカの姿もあった。
キュビカは他の生物と比べれば大きな体格をしているから目立つし、見つけるには苦労しないんだよな。
キュビカは例の無敵のバリアを使って相手の攻撃を寄せつけず、一方的に相手を攻撃しているようだ。
しかも今のキュビカは前に俺と戦った時とは違って素早く動き回るから、以前のように相手に攻撃が命中しないということもない。
まさに向かう所敵なしといった所だろうか。
そんな無敵のキュビカではあるが、一度に攻撃できる範囲はそれほど広くない。
そのため、他の鷹達やキュビカの領域の動物達が他のイタチと交戦しているのだが、こちらの戦況は芳しくないようだ。
イタチの数は多い上に、連携のとれた動きで攻撃や防御をしてくるため、なかなか厄介なのである。
ターガなど鷹達が抑えている所はイタチと互角、それ以外の場所はイタチが優勢といった所だろうか。
場所によっては既にイタチの侵攻を許してしまっている所もあり、状況は明らかに悪い事が分かるだろう。
「私は仲間の援護に向かいます! エンラさん、くれぐれも無理はしないで下さいね!」
「ああ、イチガもな」
そう言葉を交わすとイチガは他の鷹達が戦っている所へと向かっていった。
……さて、これで上空に残されたのは俺一人な訳だが、これからどうするか。
やはり劣勢な所に助太刀に行った方が良さそうかな。
あの辺りはイタチが攻め込んできてパワーバランスが崩れてきてしまっているしさ。
よし、そうと決めたら早速行動―――
ビシャン!!!
いてっ!?
な、なんだ、何が起きたんだ!?
地上から強烈な水の塊をぶつけられたみたいだが……
水の塊は左の方向から発射されたようなのでその方向を見ると―――
「やっとドラゴン様のお出ましかよ。遅いじゃねえか! おい、みんな、一旦攻撃を止めろ!」
一際体の大きなイタチがそう叫ぶと先程まで戦っていたイタチ達がピタリと攻撃を止めた。
へっ?
どういう事だ、これっ?
状況の変化に戸惑う俺はこの場で滞空して様子をうかがう。
するとキュビカが大きなイタチのいる方向へと進んでいく様子が見えた。
何をしようとしているんだろう、キュビカの奴は。
「おい、水刃や。これは一体どういうつもりなのじゃ? 急にわらわの領域を侵しよって……」
「聖焔か。なに、ちょっとあの龍に用があってな。おびき寄せる為に戦いを仕掛けた訳さ」
そう言うと俺の事を指差してくる大きなイタチ。
えっ?
俺をおびき寄せる為に戦いを仕掛けただって?
一体何のために?
訳が分からないんだけど。
それに聖焔って何だよ?
キュビカにそんな呼び方があったのか?
そんなこと初めて聞いたぞ、おい。
どうやら二人は知り合いらしいが、呼び名で呼び合う仲とは一体……
それに自分のエリア外の生物と会話できないはずのキュビカがイタチと話せているのは何なんだ?
水刃とキュビカが呼んでいるイタチもエリアボスなのかもしれないけれど。
もしかするとエリアボス同士だから意思疎通ができるとかそういった所なんだろうか?
「つまり、お主はエンラに用があるのじゃな? 一体エンラに何をするつもりじゃ? 回答によってはただでは済まさんぞ!?」
「おいおい、聖焔ほどの奴が入れ込むなんて随分と大物のようだな、あの龍は。安心しろ、殺すつもりはないさ。ちょいと実力を見たいと思ってな」
「その言葉に偽りはないじゃろうな?」
「そんなに怖い顔するなって。こう見えても昔からオレってば嘘ついた事はないだろ?」
「むむむ、それはそうじゃが……」
「だからお前があの龍と知り合いなんだったら話は早い。あの龍をここまで連れて来てくれないか? そうしたら穏便に済む可能性は高いぞ? オレの目的はあの龍と戦うということだけなんだからな」
「……本当、お主の考えはよく分からぬわ。まあ、いいじゃろう。わらわが話をしてくる。でも決めるのはエンラ自身じゃから、結果がどうなっても知らぬぞ?」
そう言うとキュビカは俺が飛んでいる方向へと歩みを進めていく。
そして俺の近くまでたどり着くと、俺に呼びかけてきた。
「エンラ! ちょっと話があるから地上に降りてきてくれぬか!?」
キュビカがそう叫ぶので俺はキュビカの近くまで降り立つ事に。
話があると言われても、もう二人の話の内容を全部聞いてしまってるからほとんどキュビカが話したい内容は察せるんだけどなー。
「どうしたんだ、キュビカさん?」
「エンラ、実はな、あそこのイタチがお主と戦いたがっているらしいのじゃ。ちょいと相手をしてくれないかの?」
「ちょっと相手って……あのイタチとだよな? 他のイタチよりも随分と強そうだが?」
「そりゃそうじゃろう。なんていったって、彼奴こそイタチのエリアボス。通称”水刃”と呼ばれる奴なのじゃからな」
え、エリアボスだって!?
なんでそんな奴が俺に勝負を仕掛けてくるんだよ!?
「俺がエリアボス様と戦うだって? 冗談じゃないぞ。何でエリアボスでも何でもない俺が戦わないといけないんだよ?」
「理由は定かではないが、彼奴は昔から強い者を見ると戦いたがる節があってな。今回もそんな所かもしれぬ」
「戦闘好きな奴って事か。そういえばイタチは種族的にそういう所はあるし、あり得なくはないな。でも強い奴と戦いたいならキュビカさんと戦えば良い話じゃないか?」
「昔はわらわも彼奴と何度か戦ったの。それがどうやら最近は彼奴の方が戦いに飽きたみたいなんじゃ。わらわは防御に特化している故、他の者との戦いは激しくなりにくいからかもしれぬ。奴はわらわよりは攻撃的な奴じゃから、きっと激しい戦いを望んでいるのじゃろう」
激しい戦いだって?
そんなの俺は望んでいないんだが?
そもそも戦うこと自体があまり好きな事ではないしさ。
あのイタチには悪いが、ここは退場させてもらおうか―――
俺はそっとその場から抜け出そうと移動し始めた。
だがそんな俺の前に急に水の柱が現れ、そしてその水の柱が例のイタチの姿へと変えた。
「おっと逃げさせないぞ。逃げたらどうなるか、分かってるな?」
パチンと指を鳴らすイタチ。
すると途端に周囲に大きな丸い水の塊が浮かび始めた。
「もしお前がオレとの戦いから逃げるのであれば、オレはこの水の塊を一斉に爆破させる」
「お、お主、正気か!? こんな数のアクアボムを爆発させたらお主の仲間もただでは済まぬぞ!?」
「だからどうした? 多少の怪我はするかもしれぬが、我が同胞は元よりそれ位の怪我など恐れぬわ。ただ、水に耐性のない奴らはどうなるかは知らんがな」
従わなければキュビカの領域の動物達を皆殺しにするという事か。
イタチの言葉は分からなくても、何だかヤバそうな雰囲気を感じ取った動物達はおろおろとパニック状態に陥っている。
イタチの奴、まさか大きな戦いを仕掛けたのはこの人質にする動物達を集める為だったのか!?
何て奴なんだよ……
これでは逃げようにも逃げられないじゃないか。
はぁ……
「分かった。水刃だっけか? お前との勝負を受けてやるよ。どこで戦えばいいんだ?」
「ふふっ、ようやくその気になってくれたか。ありがたい。戦いの場は我らイタチの領域内とする。ちなみにこの体はオレの分身に過ぎないから、本物のオレはずっと向こうにいる」
分身のイタチが指差した方向を見ると、そこには一際大きなイタチがこちらをギロリと睨んでいる様子が見えた。
うーっ、遠くからでも感じる威圧感。
戦わなくていいならどんなに楽だろうか。
でも決まってしまった事は仕方がない。
そろそろ俺も覚悟を決めないとな。
********
四十四日目:残金1260326B
収入:なし
支出:なし
収支;+0B
********




