61.目的の石を手に入れました
さてここまでは上手くいった。
後は大波をなんとかすれば良さそうだな。
ちょっと疲れたし、大波が来るまでここで待っているとするか。
―――三分経過。
本当、集団魔法なんてものがあるなんて驚いた。
巨大魔法陣から大量の水が湧き出してくる光景なんて初めて見たぞ。
普通の魔法とは桁違い過ぎる規模だよな。
でも何とか無事にやり過ごせて良かった。
地面に少し水が流れてきているし、そろそろ波が来そうだ。
気を引き締めないと。
―――五分経過。
だいぶ波が来るのが遅いな。
確かにだいぶ距離は離したとは思うが、それでもこんなに時間かかるものだろうか?
まさか違う方向から波が来るのか!?
そう思った俺は周囲を見渡すが、波らしきものはどこにも見当たらない。
どうやら心配は杞憂だったようだ。
―――十分経過。
……流石に波が全く来ないのはおかしくないか?
一体どうなっているんだ?
「コクリ、流石にまだ波が来ないのは不自然だよな?」
「……そうね。もう波が襲ってきてもおかしくない時間だと私も思うわ」
「奴ら、また何か企んでいるんじゃないよな……? 何か嫌な予感がする。こちらから出向いて確かめに行った方がいいか?」
「その方が良さそうね。何か手を打たれる前にこちらから行動を起こしてしまった方がいいと思うわ。でも移動は慎重にね」
「ああ、それは分かってる。それじゃあちょっと様子を見に行ってみるとするか」
そう言葉を交わした後、俺達は様子を確かめるためにゆっくりとイタチのエリアの方向へと向かっていくことにした。
しばらくイタチのエリアの方向に進んでいくと、地面に水たまりが増えてきた。
そして中には湯けむりが出ている所もある。
湯けむりが立ち昇っている水に手を触れてみると、ちょうど良い湯加減になっていた。
水位は浅いが、足湯位にはなりそうだし、ゆっくりくつろげたらいいんだが、そうも言ってられないよな。
ここは敵のエリアなんだし、くつろぐ余裕なんてないのだ。
自分の住処に戻ったら入浴施設みたいなものでも作ってみようかな。
この世界に来てからはまだ一回も風呂に入ってないしさ。
その為にも早く目的の石を見つけ出して帰らなければ。
石のある方向に向かって進む俺達。
するとさらに水たまりが増えていき、そして中には沸騰している水も見受けられた。
さすがにそれに手を触れようとは思わなかったな。
火傷するのは間違いない訳だしさ、うん。
そしてついに―――
「あっ、エンラ、あそこに落ちているのが目的の石みたいよ!」
コクリが向いている方向を見ると、そこには地面に転がっている水色の石があった。
でも何でこんな所に石が?
てっきりイタチが持ち歩いているものだと思っていたんだが……
とにかく、目的の石が手に入るのなら文句はない。
俺は石を拾って女神倉庫にしまうことにした。
「これで私達の住処に帰れるわね!」
「ああ、そうだな。でも何でこんな所に石があるんだろう? それにイタチが襲ってくる事もなかったし。その方が助かるからいいんだが」
「……多分だけど、さっきのエンラが出したブレスに怯えてイタチ達は逃げて行ったんじゃないかしら?」
ブレスに怯えて逃げて行った、だと?
そういえばこの一帯にはやけに水たまりが多い上に、その中には熱湯になっているものさえある。
明らかに不自然な光景だよな。
もしかしてそれって全部、さっきの俺のブレスの影響だというのか……!?
にわかには信じがたい話ではあるが、そう考えると辻褄が合うんだよな。
俺が発射した灼熱吐息によって、タイダルウェーブの水が蒸発した。
そして蒸発しなかった水は熱湯と化して地面へと襲い掛かる。
そんな現象が起きたからイタチたちはこの場から立ち去っているという状況なのではないか?
まああくまで推測に過ぎないから、実際の状況は全く違うかもしれないけど。
いくら全力で放ったとはいえ、灼熱吐息にあの大量の水を蒸発させるほどの熱量があったとは思えないしな。
とにかく、石が無事に手に入ったことだし、さっさと帰るとしますか。
こうして俺はコクリと一緒にイタチのエリアを後にすることに。
ちなみにその間もイタチによる妨害を全く受けることはなかった。
というより、妨害を受けるどころか、イタチと遭遇する事すらなかったんだけど。
でも帰る途中でどこかから視線を感じた気がするんだよな。
周囲に気配を感じなかったから気のせいだとは思うんだけどさ。
そしてしばらく歩くと、いつもの薬草の独特な匂いが感じられる所までやって来た。
「あっ、お父さんが帰ってきた! おかえり、お父さん!」
「えっ? あっ、エンラさん、お帰りなんだな!」
森の道を歩いているとカトカとユニと出会った。
ユニはポニーのような体をしているのだが、カトカはその背中に乗っている状態だ。
俺を見つけるとユニは俺に近付いてきた。
「ああ、ただいま。その様子だと二人とも大丈夫そうだな。何か変わった事はなかったか?」
「大丈夫だよ! 変わった事といえば―――リスさん達が遊びに来た位かな?」
「ハハ、それはいつもの事じゃないか。なら特に何事もなかったようで何よりだ」
「それよりもエンラさん。オイラ、もうお腹ペコペコなんだな。早く食事にしたいんだな」
「あっ、それはすまなかったな。みんなと合流したらすぐに昼食にしようか」
なんだかんだで出かけてから数時間は経ってしまったようだからな。
ユニがお腹空く位なんだからキュビカはどんな顔して待っているんだろう?
空腹のストレスで遅いとか言って怒鳴られるかもしれないな。
ハハハ……
若干恐ろしさを感じつつも、カトカとユニと一緒に住処へと向かった。
「あっ、エンラさん、帰ったんだな!」
「おお、ターガか。他の鷹達とうまくやれているか?」
「ああ、もちろんだ。見回りは今日も絶好調! 特に異常はないぞ!」
「お仕事ご苦労さん。そろそろ昼になるし、食事にしようと思うんだが……」
「本当か!? なら他のみんなを呼んでくる!」
ターガは一緒に行動していた鷹二羽とともに空へと飛んで行く。
キュビカの補佐役としての役割に追われることがなくなった鷹は外へ出てパトロールを兼ねて遊びに行ったりしているようだ。
そんな散り散りになった鷹を呼び集めるのは大変だと思うのだが、鷹達の謎の連携で数分あればみんな集まるんだよな。
「あっ、エンラ、戻っておったんじゃな。依頼は無事にこなせたのか?」
「ああ、バッチリだ。イタチがなかなか厄介だったがな」
「なるほどのぉ。やはりイタチが絡んでおったか。すまないな、厄介事を頼んでしもうて」
「いや、元々は俺が動物達が依頼を受けているんだし、気にするなよ」
キュビカ、依頼を俺に丸投げしたことを気にしていたようだな。
意外とこう見えても責任感あるんだな、キュビカって。
ちょっと見直したわ。
「結構時間が経ったし、お腹すいただろ? 鷹達が帰ってきたらすぐに食事を用意するから、もう少し辛抱してくれ」
「おお、そういえばもうそんな時間じゃったな」
「あれっ? いつものキュビカさんならまだ食事の時間ではないのかと詰め寄ってくるのに?」
「失礼じゃな。わらわだって食欲がない時位あるのじゃ」
「食欲がない? なら今日の昼食はいらないのか?」
「食欲がないからといって誰も食事を抜きにするなんて言ってないじゃろ!?」
「ハハハ、冗談だって。もちろんキュビカさんの分も用意するよ」
キュビカに食欲がない時があるなんてな……
よほど俺に仕事を振った事を気にしていたんだろうか?
別にそこまで気にする事なんてないのにな。
「とにかくエンラが無事で良かった」
「キュビカさん、俺の事を心配してくれていたのか? 珍しいな」
「だってエンラがいなければ美味しい食事を二度と食べれなくなるじゃろ? そんなのは嫌なのじゃ」
「結局食べ物かよ!? まあ、でもそこまで心配しなくてもいいぞ。そう簡単にやられはしないさ」
簡単にやられないために、色々と技や魔法を買ったのだ。
まだ身につけるまでには時間が足りないから、イメージトレーニングは欠かせなさそうだけどな。
それにもし万が一、全く敵いそうにない相手が近付いて来たら逃げればいい。
今の俺が敵わないような相手なんてそう多くはないと思うけど。
あとは今まで通り、みんなとの取引をしてお金を着々と稼いで、資金を貯めないとな。
資金が貯まれば、また新たな技を買う事ができるんだからさ。
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三十二日目:残金1008326B
収入:なし
支出:なし
収支;+0B
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