6.助けたオオカミと共闘してみました
穴の入口から漏れてきた光によって目が覚める。
うーん、よく寝た。
やっぱり程よく広い空間って大事だな。
それにしても、本当、色々変わったものだな。
体の大きさもそうだが、俺が放ったファイアの威力もだいぶ変わっていた。
以前とは比べものにならない威力だったもんな。
ファイアって大したことないと思ってしまっていたが、単純に魔法攻撃力が今まで低すぎただけなのかもしれない。
それが成長したことによって魔法攻撃力が上がったと。
そういう事はステータスが見れたらハッキリ分かるのになぁ……
数値化されないのってやっぱり不便だ。
まあ、ステータスなんて見れない方が普通なんだけどさ。
さあ愚痴もこれ位にして、今日も一日頑張りますか。
俺はいつも通り周りに大きな気配がしないことを確認し、地上に出る。
それにしても昨日と比べて大きな気配はだいぶ減ったよな。
それだけ俺が強くなったという事なんだろうか?
それでもまだまだ大きな気配はたくさん感じられるから、自然界ではそれほど強い方ではないんだろうけど。
やっぱり油断は禁物だよな。
しばらく歩くと、前の方に一つ気配を感じる。
多分あの茂みの向こう側に何者かがいるんだろう。
何だか気配がだんだん弱まっていくような感じがするんだが、どういう事なんだろうか?
ちょっと見てこよう。
俺は茂みをかけわけて気配がする方へと向かっていく。
すると見えたのは―――傷ついたオオカミだった。
足から出血しており、倒れこんでしまっている。
息もハアハアと荒くなっているようだ。
ケガをした生き物が目の前にいる。
さあ、どうする?
今ならちょっと攻撃するだけでオオカミを倒したことになるし、オオカミの死骸を売却する権利も得られるだろう。
その一方で助けるメリットは薄い。
相手はオオカミだし、俺が助けようとしたら、逆にその隙を襲われて食べられてしまうかもしれない。
弱っているとはいえ、相手の方がはるかに大きな体をしているし、攻撃力は馬鹿にならないのだ。
ならやる事は決まっているじゃないか?
そうと分かっている。
分かっているんだけど、でもやはり俺は……
俺は女神ショッピングを開き、とある能力を入手する。
そして傷ついたオオカミに近付く。
グル、グルル……
弱った声で、でも近付くなとでも言うかのように警戒した声をあげるオオカミ。
あと一撃でも食らうと致命傷になりかねないのだから警戒するのは当然だろう。
ましてや相手は見ず知らずのトカゲなのだから。
俺はそんなオオカミの声を気にせず、まっすぐオオカミの傷口付近まで近付く。
そしてその傷口の近くに俺は前足をかざし、新しく買った能力、【ヒール】を使用する!
俺の前足は緑色の光を放ち、オオカミの傷口に光を送り込む。
すると徐々にオオカミの傷口は塞がり始める。
傷が治っていくことに気付いたのか、オオカミもうなり声をあげるのをやめ、黙って俺を見てくるようだった。
そしてついに―――
(これで傷口は塞がったな。うん、良かった)
ほっとした俺は、そのまま黙ってオオカミの元を去ろうとしたのだが……
クーン
オオカミは俺の進行方向に立ち塞がり、そして顔を俺のそばまで近付けてきた。
これってガブリと食べてくるパターンなのか!?
でもその割には俺に顔を近付けたまま何もしてこないのが気になるんだが……
あれっ、もしかしてこれって、”俺の背中に乗れ”っていっているのか、このオオカミ?
ちょっと試してみるか。
俺はひょいとオオカミの顔をつたって背中まで登ってみた。
すると―――
クーン、ワオン!
そうオオカミは吠えて、急に走り出した!?
えっ、ちょっ、そんないきなり走られたら振り落とされるって!?
俺は必死にうめき声をあげて、自身のピンチを伝える。
すると俺の訴えが届いたのか、オオカミは一瞬しょんぼりとして、今度は歩き始めた。
進むペースは違えども、しっぽをフリフリ振っていたりして、どことなく嬉しそうな感情が伝わってくる。
どうやら俺の善意がオオカミに届いたようだな。
そんなに嬉しそうにされると俺も自然と嬉しくなってしまうよ。
あっ、でもそっちの方向は行かないで!?
つ、強い気配が感じるんだって!
俺はオオカミをポコポコ叩いて、そちらの方向に行かないように懇願する。
だがオオカミは気付いていないようで、歩みを止める気配はない。
このままじゃ危険すぎるので、俺はオオカミを止めようと頑張ったが、時は既に遅かったようで。
グォワォォン!!
その声を聞いて驚いたのか、急停止するオオカミ。
声がした方を見てみると、そこには二つのブルドッグみたいな頭をした紫色の魔物がいた。
女神ショッピングの売却アナウンスによれば、その魔物の名前は”ツインヘッド”というらしい。
一頭で二つの頭だからツインヘッドとか、ネーミングが直球すぎるのは相変わらずだな。
分かりやすくていいっちゃいいんだが。
グルルルル……
臨戦態勢に入るオオカミ。
どうやら俺は今、野生の魔物の戦いに遭遇してしまったようだ。
ちょっと俺は敵いそうにないので、お暇させていただきますわ……
ぴょんとオオカミから飛び降り、近くの茂みに隠れる俺。
するとオオカミとツインヘッドは一斉に駆け出し、互いに噛みつき攻撃を行った。
攻撃は双方ともにクリーンヒット。
つまり自然と頭の数だけオオカミの方が大きな傷を負う事になる。
グワァァァ!?
グルッ……
痛そうにする二人。
一撃を加えた後は、双方距離を取り、様子をうかがっている。
ツインヘッドには左足に傷が、オオカミには胴体に二箇所傷がついている。
どちらの傷からも血が流れており、ダメージは確実に通っているようだ。
だが、傷の大きさからしてオオカミの方が大きなダメージを負っていることは明らかである。
大丈夫だろうか、アイツ……
このまま噛みつき攻撃が続けば、頭の数だけオオカミの方が大きなダメージを受け続ける事になるし、明らかに不利だろう。
……黙って見ているっていうのも後味悪いな。
何とかできないだろうか?
ただ今回の相手は俺にとっては明らかに格上。
ゴブリンは俺にとってあまり大きな気配になってはいなかったから結構ファイアが効いた。
だがこのツインヘッドからはゴブリンとは比べ物にならないほどの大きな気配を感じるのだ。
つまり、俺がツインヘッドにファイアを撃って当てても大したダメージにはならないだろう。
だからといって俺にはファイア以外にまともな攻撃手段がある訳でもない。
ヒールを1000Bで取得した俺の残り所持金は370B。
370Bじゃ攻撃魔法なんて買える訳がない。
最安のファイアだって500Bしたのだから。
ならどうすれば?
……発想を変えればいいんだ。
今の俺は一人じゃない。
オオカミという味方がいる。
そして攻撃はオオカミが行ってくれるのだ。
なら俺がするべきことは―――
双方様子見をしていたオオカミとツインヘッドだったが、ついに動き出す。
互いに雄たけびをあげると同時に、今にも突っ込もうとするのだが、そこで変化が。
なんとツインヘッドがよろめいたのだ!
それもそのはず。
何故ならツインヘッドの傷口ピンポイントに俺がファイアを当てたのだから!
俺自身の攻撃はツインヘッドには大したダメージは与えていないだろう。
だが注意をそらしたり、ひるませるには十分なものだった。
ツインヘッドに生まれたその一瞬の隙をオオカミは見逃さない。
体勢を崩したツインヘッドの首元にオオカミはかぶりつき、そして引き裂いた!
グォワァァ!?
一つの顔が機能しなくなり、あまりの痛みからか、もがき暴れようとするツインヘッド。
だが、狙いは定まっておらず、オオカミはツインヘッドの攻撃を易々と避ける。
そして隙を見て、残る一つの顔に対して致命傷となる噛みつき攻撃を入れたのだった!
グ、グワァ……
一気に力を失い、倒れるツインヘッド。
オオカミはそこにさらに一撃入れ、完全にツインヘッドは息絶えた。
すげぇな……
たった一瞬の隙を作ってやるだけで倒し切っちまうとは……
オオカミの力、恐るべし。
クーン
先ほどの凶暴さとは一転して甘えた声で俺に近寄ってくるオオカミ。
オオカミの体に飛び乗ってよしよしと頭をなでてやることに。
まあ小さい体の俺が頭をなでてもあまり意味ないんだろうけど。
あっ、それよりも早くオオカミを治療しないと!
ツインヘッドに噛まれた傷がとても痛々しいしな……
早い所治してあげよう。
俺がヒールでオオカミを癒してあげている間、オオカミは気持ちよさそうにその場に伏せて休んでいた。
それにしてもこのオオカミって性格が犬みたいだよな。
オオカミって人に懐かないという話だった気がするんだけど。
まあ好意的に接してくれるのは嬉しいんだけどさ。
さて、ツインヘッドを倒した訳だが、このツインヘッドの死骸はどうする?
オオカミが倒した訳だからオオカミの好きなようにするべきだとは思うが。
「クチャ、グチャチャ?(あのツインヘッドどうするんだよ、オオカミさん?)」
俺は癒しながら、オオカミにツインヘッドをどうするか聞いてみようとした。
だがオオカミはその場に伏せてそのままスヤスヤ眠り込んでしまった。
おいおい、全く興味なしかよ?
なら俺がいただいちまうが、いいのか?
……返事がないし、ここはありがたく俺の獲物とさせてもらいますか。
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あの”ツインヘッド”を売却しますか?
売却額 100000B
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じゅ、十万Bだって!?
桁が違いすぎるだろ……
こんな貴重な獲物、本当に俺がもらっていいんですか、オオカミさん?
……後で恨まないで下さいね?
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”ツインヘッド”を売却しました。
現在の所持金 100370B
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所持金が100370Bか……
何か今までできなかった事が色々とできそうだよな。
何しようかなー?
期待に胸を踊らせつつも、どっと疲れを感じた俺は、オオカミと一緒にその場で休むことに。
……オオカミの体の上で休んでいると、体が何だかムズムズしてきた。
このオオカミの体にダニでもいるんじゃないか?
というのは冗談として。
この感覚は以前あった俺が成長する前の感じに似ているな。
ということはまた成長するんだろうか?
前に成長したときもヒトクイアカバナを倒した後だったし、経験値的なものが手に入っているのかもしれないな。
あー何だか眠たくなってきた。
安全な大穴を買って中で休もっと。
俺は安全な大穴を購入し、そして穴に潜りこむと、すぐに眠ってしまった。
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三日目:残金100370B
収入:ツインヘッド100000B
支出:ヒール1000B
収支:+99000B
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