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ドラゴンになってものんびり過ごしたい~動物達と気ままにスローライフ~  作者: かいものトカゲ
三章 ビジネスショッピング
56/357

56.キュビカには買いたいものがあるようです

 あれから二日後。

 いつも通り店を開店させる。

 だが、今回はいつもとはちょっと設備が違うのだ。



「いらっしゃい、タヌキさん。今日は何が欲しいんだ?」

「えっと、今日はちょっと濃厚なあのパンが欲しいです」

「クロワッサンの事だな。銀貨1枚と銅貨5枚になるが大丈夫か?」

「ではこれでお願いします。――そういえばその黒い板は何ですか?」

「ああ、これか? ここに困っているみんなの依頼を書き込んでいって、俺とその仲間達で依頼を受けていくって訳だ」



 そう、一昨日まではなかった黒い板を設置しておいたのだ。

 三脚みたいなものの上に黒いボードがとりつけられてある。

 見た目は小さな黒板といった所か。



「へえ、そんな事をしてくれるようになったんですか。頼もしいですね」

「まあな。みんな困っている事が結構あるみたいだからさ。だからタヌキさんも困った事があったら遠慮なく言ってくれな?」

「分かりました。是非頼らせて頂きます」



 こうしてすっかり常連さんになってくれたタヌキと別れた。

 ちなみにこのタヌキ、あれからいつも妹さんと一緒に来るようになっている。

 妹さんは恥ずかしがり屋みたいで、いつもお兄さんの後ろに隠れているからあまり話す事はないのだが。

 でもお兄さんに時々ぼそぼそと買いたい物を伝えているみたいで、俺が出す食べ物を気に入ってくれていることは分かった。


 どのお客さんも黒板に興味津々なようで、出会い頭にそれは何かと聞かれる。

 そして用途を知ると、そのままちょっとした依頼を試しに頼んでいくという動物達がちらほらと現れた。

 そんな感じで開店一時間で依頼が既に3つもある。

 こんなペースじゃ、とても一人では捌ききれない量になるだろうな……。



「ねえ、エンラ? 商売中悪いけど、早速依頼を受け始めてしまってもいいかしら?」

「ああ、悪いなコクリ。打ち合わせした通りに頼む」

「ええ、任せておいて。じゃあちょっとその黒い板を借りるわよ?」



 そう言うとコクリはひょいと黒板を口にくわえて移動していく。

 コクリは俺の店からちょっと離れ、遠くに待機していたターガやキュビカ達と何やら話を始めたようだ。

 しばらくすると、鷹二羽、キュビカ、ユニとカトカがそれぞれ別の方向へと走り去っていった。

 どうやらうまく伝わったみたいだな。



 ちなみにこの依頼システムの仕組みはこうだ。

 まず俺が依頼主から依頼の詳細、そして依頼達成報酬を聞く。

 そして依頼達成報酬は俺が一旦預かり、そして代わりにとある道具を依頼主に渡す。

 その後、俺が依頼内容を詳しく日本語で紙に書き、黒いボードに貼り付けておくというものだ。


 コクリやターガは日本語を書くことはできないものの、読むことはできる。

 そのため依頼内容はコクリやターガが読み取って、それをみんなに伝えているのだ。

 そして気に入った依頼があったら、その依頼を仲間達が受けに行くと。

 まあコクリはキュビカや鷹達と話す事ができないから、伝えるのはほとんどターガの役割なのだが。

 コクリの役割は黒板を運んだり、ターガが日本語読解に苦戦している時のサポートをすることである。



 ちなみに依頼主が誰なのか、そしてどこにいるかが分からなければ依頼を受けようもないだろう。

 そこで役に立つのが依頼主に渡した道具だ。

 渡した道具はペアストーンというもので、基本的に二つ一組になっている石なのである。

 この石が離れて存在する場合、不思議な力で互いを引き寄せ合う力があり、片割れの石がどこにあるのか感覚で分かるようになっている。


 これの片割れを依頼主に渡し、もう片方を依頼用紙に張り付けておく。

 すると依頼を受ける仲間がペアストーンの片割れを持つことになるから、依頼主に出会えるという訳だ。


 ちなみに依頼主は依頼を達成したと思ったらペアストーンを返すことになっている。

 そうしないと、仲間達に依頼の内容を伝えているとはいっても、依頼主がどのタイミングで依頼を達成したと判断したか分からないもんな。

 言葉が通じない訳だし。

 という訳で、二つ揃ったペアストーンを仲間が持ち帰ってきたら、俺はその仲間に依頼主の報酬分のお金を渡すのだ。


 ペアストーン、なかなかの優れものである。



 とはいえ、もちろん俺が元々こんな便利なペアストーンの存在を知っていたわけではない。

 昨日キュビカにやりたい事を相談した時、ペアストーンという物があると意思疎通がとれやすくなるというアドバイスをもらったのだ。

 そこで俺はペアストーンを女神ショッピングで買ったという訳だな。

 ペアストーン、これだけの優れものなのに価格は1個入りで3Bという破格の安さだった。

 それだけ安かったので、俺はとりあえずペアストーンを100個買っておいた。



 とりあえずはこのような仕組みでやっていこうかと思っている。

 見た感じはうまくいっているみたいだし、これで動物達の依頼もうまくこなせるといいな。

 仲間達の暇つぶしにもなるから意欲も十分だしさ。



 それから二十分後、急いで走ってくるキュビカの姿が目に入った。

 そして俺の近くで急停止する。



「ぜえ、ぜえ……エンラ、これで良いのか?」



 キュビカは2と書かれた青いペアストーンを俺に渡してきた。

 ちなみにどの依頼の石なのか分かりやすいように、昨日一つ一つの石に数字を彫っておいたのだ。

 様々な色の石があるから色で見分けられなくもないが、それじゃ分かりにくいしな。


 それにしてもキュビカ、依頼こなすの早いな。

 食のなせる執念ってやつなんだろうか?



「ああ、バッチリだ。2の依頼の報酬は―――銀貨5枚だな」

「確かに受け取った。で、他の依頼はないのか?」

「依頼はあと2件あるぞ」

「ならその黒い板を寄越すのじゃ!」



 そう言ってキュビカは黒い板を持ち去り、ちょっと離れたところに待機していたターガの元へと移動していった。

 そしてターガから説明を受けた後、紙を一枚取っていって、大急ぎでどこかへと走り去っていく。


 ……キュビカさん、やる気あり過ぎだろ。

 お客さん、キュビカのあまりの迫力に呆然と立ち尽くしていたぞ。

 まあやる気を出してくれているのはいいんだけど。

 キュビカにとってもいい運動になりそうだしさ。



 結局今日1日で数十もの依頼をみんなが達成してしまった。

 そのおよそ半分はキュビカがこなしたんだけど。


 キュビカは動物達と会話できるからか、依頼をこなすスピードが異様に早いんだよな。

 それを食べ物目的じゃなくて、エリアボスとして無償でやっていたら良きボスとしてみんなに崇められるだろうに。

 まあみんなの悩みを解決してくれているだけでもいい事ではあるのだが。



「フフフ、結構稼げたのぉ……」



 そう言ってニヤニヤするキュビカ。

 結局依頼達成で渡した額は金貨50枚位にはなるだろうか。

 金貨50枚といえば、キュビカがあのツインヘッドを狩りまくった時に渡した金貨30枚よりも大金である。

 そりゃ自然と笑みもこぼれるよな。



「エンラ。あのすぺしゃるぱふぇとやらを近々頼んでみせるから、用意しておくのじゃぞ?」

「スペシャルパフェか……そんなに食べたいのか?」

「もちろんじゃとも! 何せあのとても甘くて美味しいパフェが恐ろしいほど大きいものなんじゃろ? 何という素晴らしい食べ物なんじゃろうか!? ああ、はやく食べたいのう……」



 キュビカはパフェを想像しているのか、じゅるりとよだれをすすっていた。


 ちなみにこのような会話になったのは、俺がデザートにいちごパフェを食べているのが発端だった。

 キュビカがわらわも食べてみたいと言ってきたので、金貨1枚と交換で渡してあげたら、いちごパフェをとても気に入ってしまったのだ。

 こんな甘くて美味しい物を食べた事がないと言っていたので、世の中には一人では食べきれないほど大きいサイズのパフェも存在すると伝えたのだ。

 そしたらそれを是非食べたいとキュビカは目を輝かせて言ってきたのだが、その大きなパフェらしき”スペシャルパフェ”の値段はなんと金貨100枚分。

 泣く泣くキュビカは断念したという流れである。


 金貨100枚って高すぎるよな。

 前の世界でも大きいパフェは存在したが、通常サイズの100倍の値段もするものは聞いた事がない。

 一体どんな大きさでどんなものが入ったパフェなんだろうな?

 俺もちょっと気になっていたりする。


 でも今の会話を聞いている限り、キュビカはまだスペシャルパフェを諦めてはいないようだ。

 むしろ一層お金を稼ぐ意欲が湧いているといった所か。

 道理でお金を稼いでもすぐには食べ物と交換しなかったんだな、今日は。

 いつもはすぐに換えてしまうのにさ。

 我慢できないキュビカさんを我慢させていまう"スペシャルパフェ"、恐ろしい物である。



********

三十日目:残金7161126B

収入:キュビカ達の獲物(二日分)137000B

支出:食事など65000B

収支;+72000B

********

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