5.戦うと成長するそうです
俺は外に出て、何もなさそうな所にファイアの試し打ちをすることにした。
まず自分の内に溢れ出る熱い力を口に集中させると、口先に火の玉が出来上がる。
目の前に火の玉があるというのに、不思議と熱さは感じない。
魔法の火って不思議だな。
もしかして使っている本人にだけ熱さを感じないようになっているんだろうか?
でないと攻撃にならないもんな。
みんな熱く感じないのなら、この火をぶつけた所で全く意味ないだろ。
まあとにかく試してみるしかないのだが。
俺は口先に作り出した火の玉を投げつけるイメージをすると、イメージ通りに火が目標地点にある雑草に着火し、火は雑草を燃やし尽くしてから消滅した。
うん、雑草はきちんと燃えたし、攻撃にはしっかりなっているようだな。
雑草すら燃えないのなら使い物にならないと思ってはいたが、さすがにそれはなかったようで一安心だ。
となれば早速このファイアを使って何かと戦ってみることにしようか。
せっかく攻撃手段を得たんだしな。
もちろん命の危険はなるべく少ない方がいいので、戦闘場所は安全な穴(一泊)の近くで行う。
そうすれば万が一の時は穴に逃げ込めば何とかなるはずだからな。
そして攻撃対象はもちろん、前に俺を殺そうとしてきたあの恨めしい肉食植物ことヒトクイアカバナである。
ヒトクイアカバナは確かに危険だ。
だが、前に戦った感じだと、あいつは地面からなかなか抜けられないという特性がありそうである。
となれば、遠くから攻撃してすぐにその場を離脱すれば安全に一方的な攻撃が出来るという訳だ。
ヒトクイアカバナは動き回るようなタイプでもなさそうだから逃げられる心配もないし、まさにうってつけの相手という訳だな。
さあ、俺を食おうとした事を後悔するがいい。
報いを受ける時が来たのだ。
こうして俺は安全な穴の近くにいるヒトクイアカバナを見つける。
そして心の準備ができたら、その場で練習通り火の玉を作り出し、それをヒトクイアカバナに命中させた!
ギシェェエ!?
驚いたヒトクイアカバナはズボッと姿を現す!
ヒトクイアカバナは緑色のタコのような姿をしていて、コケをまとわせており、かなり気味が悪い。
恐ろしくなった俺は速攻で穴の中に引っ込んだ。
ギシェ?
俺が穴の中に潜んでいると、気配から察するに、ヒトクイアカバナは周辺をしばらくウロウロしているようだった。
そして一通り動いた後、元の場所で動かなくなる。
恐らくまたスイート・レッドに偽装しているのだろう。
俺はその隙を見計らって、穴からひょっこり顔を出し、そしてヒトクイアカバナに向かってファイアを放った。
ギシェェエ!?
魔物はうめき声をあげるも、俺はファイアを放つと同時に穴の中に入りこんでいるので、ヒトクイアカバナが俺に気付く事はない。
それを繰り返すこと、多分数時間。
途中でMP切れを起こしたのか、ファイアを放てなくなったので、休憩も挟んだから時間がかなりかかってしまった。
だがついに―――
ギ、シェー……
俺のファイアが当たり、そう力なく鳴き声をあげるヒトクイアカバナ。
するとそのまま動かなくなってしまう。
動かない、という事は勝ったのか……?
いや、油断してはダメだ。
ここは女神ショッピングの売却アナウンスで確認しよう。
@@@@@@@@
あの”ヒトクイアカバナ”を売却しますか?
売却額 1000B
@@@@@@@@
売却可能……所有できているってことはつまり―――勝った!
ついに弱小トカゲの俺が初勝利を上げることができたのだ!
ううっ……ここまで頑張った甲斐があったよ……
ってこれじゃ、もうここで死ぬみたいじゃないか。
まだまだこんな所で死んでなんていられないぞ。
とにかく、倒したヒトクイアカバナは売却しよう。
@@@@@@@@
”ヒトクイアカバナ”を売却しました。
現在の所持金 1300B
@@@@@@@@
残り所持金1300B。
フフフ、だいぶ所持金に余裕ができてきたな。
これなら少しずつスキルを取っていっても問題なさそうだ。
とにかく、もう日が暮れそうだし、今日の所はもう寝るとするか。
体も何だかムズムズしてきたしさ。
あっ、寝る前に食事はとっておかないとな。
まだ余っている米粒と水を呼び出してっと。
ちなみに余談だが、食べる物あれば出す物もあるワケで。
だけど実はその出す物を女神が無料で買い取ってくれる事が判明。
女神様、マジ女神。
という訳で、衛生面でも心配いらなさそうで安心なのである。
食事をとって満腹になってから俺は安全な穴に潜り、そして深い眠りについた。
うっ、息が苦しい……
なんだ、この窮屈な感じは!?
体が……締め付けられる!?
あまりの息苦しさに目が覚めた俺。
この息苦しさは何なのか?
俺は辺りを見渡そうとする。
だが首が動かない。
というか、体がどの部分も動かせない……だと!?
少しして俺は体を動かせない理由に気が付く。
なんと、自分の体が安全な穴の空間を覆い尽くしてしまっているのだ!
寝る前までは穴よりもいくらか小さい体をしていた。
でも今は穴に入りきらないほどの体になっている。
そしてその体は今も大きくなろうとしていて、体が壁に押し付けられようとしているようだ!
耐えられなくなった俺は何とかもがいて穴の外へと出た。
外は真っ暗で、物音一つ聞こえない。
ほんのりと照らす月明かりによって、何とか木や植物の輪郭が把握できるといったところか。
外に出て一息ついた俺は自分の体を見渡す。
体の形はあまり変わっていなさそうだが、体長は以前とは比べものにならないほど大きくなっていた。
というのも、今まで入っていた穴にはもう今の体では入れそうにないのだ。
以前入れていた穴に入れない事からして、いかに自分の体の大きさが変わっているのかを実感する。
また、穴の中には透明な何かがあった。
そして穴から出た今、それを手に持っている。
眠る前にはなかったそれは一体何なんだろうか?
@@@@@@@@
”トカゲの抜け殻”を売却しますか?
売却額 100B
@@@@@@@@
トカゲの抜け殻……
どうやら今の俺はベビートカゲではなく、トカゲになったようだ。
つまり赤ん坊卒業ということか。
生まれて二日で赤ん坊じゃなくなるなんて早すぎるよな。
でもトカゲ基準だったら珍しい事でもないのか?
犬だって一年や二年で大人になるっていうし。
いや、それにしてもいくら何でも早すぎるだろ。
まあ理由はともかく、なってしまったものは仕方ないんだけど。
ちなみに抜け殻は持っていても仕方ないので売却しておきました。
正直今はそんな事はどうでもいい。
それより今しないといけない事は―――周囲を取り巻く殺気立つ敵から身を守ることだ!
グギャギャア!
グギャギャア!
グギャギャア!
月明かりでうっすらと見える。
声の主は恐らく、ゴブリン。
気配からして周囲に五体はいるだろう。
不思議と気配の大きさは以前出会った時よりもずっと小さくなっている。
それは俺が成長して、ゴブリンが以前よりも脅威ではなくなったからであろうか?
だが、どちらにしても俺が不利であることには変わりない。
であれば逃走あるのみ!
俺は強い気配が比較的少ない方向を察知し、そしてその方向にいるゴブリンをファイアで薙ぎ払おうとする!
俺がファイアを使い慣れたからか、はたまた体が大きくなったからかは分からないが、俺が放ったファイアは以前よりもはるかに大きな火の玉と化し、ゴブリンを容赦なく木に叩き付けた!
ちなみに使った感じだと魔法の炎は燃え広がらなさそうので、森の中で放っても火事になることはなさそうだ。
だから心置きなく使っても問題ないだろう。
一体のゴブリンを気絶させてできた道を俺は走って駆け抜ける。
そして残り四体のゴブリンは俺を追いかけてきた。
しばらくそのまま逃げていたのだが、ある時ゴブリンが放っているであろう弓矢が俺の近くまで飛んできた!?
くそっ、遠距離武器持ちかよ!?
結局逃げるだけじゃ身が持たなそうだな!
俺はゴブリンの方を振り向いて、立て続けにファイアを放っていく。
すると次々にゴブリンは木に衝突し、気絶していった。
だが一体のゴブリンだけは魔法が外れたようで、今にも俺に短剣を突き刺そうとしている!
この体勢では、とてもゴブリンの攻撃を避けられそうにない。
ならば……
ゴブリンの剣は俺の尻尾に命中し、そしてそのまま地面に剣がめり込んだ。
だが俺はひるむことなく本体と尻尾を分離させ、俺自身は素早くゴブリンの背後に回り込む。
ゴブリンは剣を放った反動で動けなくなっていたが、俺はその隙に至近距離からファイアを放つ!
するとゴブリンに火の玉が着弾し、火の玉に押されたゴブリンは木に衝突して気絶したのだった。
……ふう、これで何とか戦いはおさまったか?
周囲のすぐ近くには大きな気配は感じられない。
ちなみに気絶から立ち直ったゴブリンは俺に恐怖を抱いたのか、そそくさと逃げて行く。
色々あって疲れた俺はゴブリンを追う事なくただゆっくりと休むことだけを考えていた。
とはいっても、今までの安全な穴(一泊)ではもう体が入りきらない。
ここは一個グレードアップして、安全な大穴(一泊)を買うことにしよう。
俺は30Bを払って安全な大穴を購入し、ようやくゆっくりと眠りについたのだった。
********
二日目:残金1370B
収入:ヒトクイアカバナ1000B、トカゲの抜け殻100B
支出:安全な大穴30B
収支:+1070B
********