340.メイリスには不満がたまっていたようです
城の兵士に連れられて、わたくしは城の中にある自室に軟禁されることになった。
わたくしが父の望む姿になるべく作られた、わたくしの忌々しい部屋。
ここに戻ることになるとは薄々勘付いてはいたけれど、こうして実際に戻ると、やっぱり嫌な気分が抑えられないわね。
……他のみんなはちゃんとやれているかしら?
それに、ギルドの人達はちゃんと動けているかしら?
一応、ギルドの建物を避難場所として使えるようにしてくれるということと、それを他の町にも伝えてくれてるとは言ってくれていたけど。
でも、そうじゃなくてわたくしがいた町にいないと意味がないことまでは伝えられなかったのよね……。
そもそも、こうして囚われの身になってしまった時点で、それを伝えられたとしても、意味はなくなってしまったのだけれど。
この国はきっと大変な被害を被ることになるでしょう。
ギルドの人達が動いてくれていれば、もしかしたらいくつかの町の避難をエンラがしてくれるかもしれないですけれど。
でも、それにも限界がある。
エンラは軍事国には足を踏み入れたことがないし、つまりは軍事国の町への瞬間移動は使えない。
空を飛んで町から町まで行くしかないけど、そうなると、どうしても避難が間に合う町の数は限られてしまう。
正直、絶望的な状況と言っても過言じゃないと思うわ。
一応この城に着いてから父親と会う場が設けられたから、事情は説明してみたけれど、全然聞く耳を持ってくれなかったし。
挙句の果てには、「我の大事な娘にこんな変なことを吹き込んだヤツは誰だ」とか見当違いの怒りを見せていたし。
本当にどうしようもないクソ親父ですこと。
娘を本当に大事に思うなら、娘の言う事を信じることから始めなさいっての。
あのクソ親父は私を大事に思っているのではなく、クソ親父が思い描く理想の王女という姿を私に押し付けようとしているだけ。
だから私の事を見ようともしないし、その理想像から離れたら、私を押さえつけて矯正しようとしてくる。
本当、どうしようもないヤツだと思うわ。
そんな愚痴をブツブツつぶやいていると、外から兵士が部屋の中に入ってきて、報告があると言ってきた。
その内容を聞けば、私に変な思考を植え付けた二人の男を捕らえたとのこと。
その二人の男は、闘技大会の現優勝者、前優勝者だったということを。
それを喜ばしいことのように語る兵士に対して、私は軽蔑するような目を向けて、ため息をつく。
「……フェリメイリス様? いかがされたのです?」
「別に。ただ、もうこの国に未来はないんだと思っただけのことですのよ」
「何をおっしゃるのですか、フェリメイリス様。フェリメイリス様がこうして戻られた以上、この国は間違いなく繁栄をするに違いありません! どこにそんな不安がられる必要がありますか!」
そう無邪気に語り掛ける兵士。
どこに不安がられる必要がありますか、ねぇ。
何もかもよ。
ドラゴンの襲撃に関する周知。
ドラゴンに対する対抗策。
それに対する避難の準備。
そのどれもできてないじゃない、この国は。
挙句の果てに、それを秘密裏に進めてくれていた貢献者を罪人扱い。
終わってるわね、この国は。
本当に。
別にわたくしはこの国に思い入れもありませんし、後は好きにやったら良いと思いますわ。
エンラが人々を救いたいっていう思いに共感したから、わたくしも自分が一番役割を果たせそうなこの軍事国の説得をしようとしたというだけのことですし。
それを聞き入れようとしない愚かな王の民は、滅びる運命にあると見てもおかしくないでしょう。
民達には何の罪もないのだけれど、恨むなら愚かな王を恨むことね。
きっと、その王の娘であるわたくしも恨まれることになるのでしょうけど。
それはもう仕方がないことよね。
本当、あの王はどこまでいってもわたくしにとって害しか為さないわよね。
腹立たしい限りですわ。
とはいえ、そんなことを王の息がかかった一兵士に言った所で何の意味もないので、適当に話を合わせて帰ってもらった。
そしてわたくしは一人考え事に沈む。
すると、数分経った後、またもや兵士が外から部屋の中に入ってきた。
「大変ですっ! 捕らえたはずの二人の男の姿がどこにも見えません! それに、一人の女の行方もいなくなってしまったみたいです!?」
兵士は焦りを隠せない様子で、そうわたくしに報告をしてくる。
すると、わたくしは少し微笑みを浮かべて、「そう……」とだけつぶやく。
あのエンラが牢屋に捕らえられたままでいる訳がないものね。
むしろこうならない方がおかしいし、むしろ見る目のない者たちがうろたえてパニックになる様子を見ていると愉快に思えてくるわ。
「危ないですから、フェリメイリス様の部屋には我々兵士が駐在させていただきます! 申し訳ありませんが、安全の為です! ご容赦ください!」
「……護衛なんていらないわよ。むしろ邪魔。目障り。部屋に入って来ないで」
「いえ、これだけは譲れません。何より、王様から直々に命令が出ておりますので」
……またあのクソ親父か。
本当、余計なことばかりするわよね、アイツは。
自分が望まないことばかりを押し付けてくるあの男に向かって、心の中でつばを吐くわたくし。
そして、早くエンラが迎えに来てくれないかなとわたくしは近々来るであろう未来を想像していると、頭の中に待ち望んだ声が聞こえてきた。
『メイ。今はまだ警備が厳重だろうから、助け出せなくてすまないな。ドラゴン騒ぎが発生したら、警備は薄くなるはずだ。その時が来たら、俺に強く訴えかけてくれ』
エンラの念話が聞こえてきて、わたくしは確信した。
やっぱり、エンラはわたくしのことを思って、対策を考えてくれていたのだと。
その事実に満足したわたくしは、目障りな兵士達が目を離す時が来るのを虎視眈々と待ち構えるのだった。




