331.みんなにしてほしいことを伝えました
森の家でしばらく待っていると、続々とみんなが集まってきた。
テレーナ、トラージ、カトカ、ターガ、ユニとか、後は鷹がたくさんだな。
森の家にみんなが集まり切った所で、俺は話を始めることにする。
「みんな、集まってくれてありがとう。あらかじめ言っておくが、俺はエンラであってエンラではない。エンラの分身なんだ。それをまず認識してほしい」
「お父さんの分身……? つまり、お父さんはやっぱり……?」
「ああ、恐らくな。そして今の状況をみんなに伝えようと思う。正直非常にまずい状況だ。今すぐに本体の俺を探しに行きたい所悪いが、少し時間をくれないか?」
俺がそう言って、みんなの様子を確認すると、特に異を唱える人はいなかったので、俺はそのまま話を続けることにした。
今起こっている状況。
ドラゴンの大群がイリノス大陸の人間の町を襲おうとしていること。
ドラゴンである本体の俺、あとは火山のエリアボスであるボルドもその大群に加担するであろうこと。
今のままでは人間達は為す術なくやられ、ドラゴンが大陸を支配するであろうということなどをだ。
「一番の問題なのは、ドラゴン達は自分の種族以外をまるで尊重をしない所にある。ドラゴン族ではないものは興味も持たないし、まるで虫を追い払うかのような態度をとるだろう。話し合いによる和解はほぼ望めないと思ったほうが良いだろうな」
「……つまり、人間達がやられるのを放っておくと、後々は僕達も次は標的になるかもしれないってことだね?」
「そういう事だ。俺としてはこのメイの国を守りたいっていうのもあるし、ドラゴン族の蹂躙を許さないためにも、人間達を助けたいと思っている。そこでみんなの力を借りたいんだ」
「お父さんの気持ちは分かったし、もちろん協力するよ。でも、僕達は何をすれば良いかな?」
首を傾げて聞いてくるカトカ。
強大なドラゴン相手に一体自分に何ができるのか?
それがピンとこないのも無理はないよな。
なら、俺がどうしようと思っているかを伝えた方が良さそうか。
「主に三つの役割を分担して担ってもらいたいと考えている。で、その前にだが、俺がやりたいことを話すとな―――」
俺は自分が考えた作戦をみんなに伝えることにする。
まずは前提知識として、俺は何人かを一瞬のうちに転移させることができることを伝える。
これには非常に驚かれたな。
試しにカトカを連れて、イリノス大陸の人がいなさそうな所を選んで転移して、また森の家に戻って見せたりしたので、すぐに信じてくれたけど。
で、後は肝心の作戦なのだが。
俺やメイリスを中心にして、人間達を避難する必要性を説得する。
すぐには避難が終わらないだろうから、その間に襲ってくるドラゴンと戦い、時間を稼ぐ。
そして避難を希望する人々を、アレノス大陸の守りやすい場所に転移させ、そこで人々に待機をしてもらう。
それで、何とか人的被害を減らしたいというのが俺が考えた作戦だ。
「その作戦をするには主に4つの役割が必要だと思っている。人間達に避難を呼びかける役割、ドラゴン達の相手をして時間を稼ぐ役割、アレノス大陸の避難場所をみつけて場を整える役割、避難場所に必要な食料などを確保する役割だな」
「……それなら、わたしがドラゴンの相手をする。エンラの分身、死んじゃ嫌だから……」
「ありがとな、テレーナ。で、最初の2つの役割を担ってくれる人は当然イリノス大陸に行ってもらうことになる。後の2つの役割を担ってくれる人はアレノス大陸で活動してもらうことになる。どの役割も非常に大事だし、どれも手を抜くことはできない。みんな、協力してくれないか?」
俺がそう呼び掛けると、みんなはそれぞれ自分がどの役割をやるかを言い始めてしまって収集がつかなくなってしまう。
みんな、やる気があるみたいで、何よりだな。
とはいえ、誰がどうするかを把握しないと始まらないので、それを整理する所から始めることになった。
そして、それぞれの人が担う役割を整理し終えた後、俺は再びみんなに話しかける。
「まずアレノス大陸の避難場所についてなんだが……。できれば非常に広い場所をお願いしたい。恐らく数万人は超えるだろうからな。あと、防衛に適した場所が望ましいな。見つかりにくく、守りやすい所が理想だ。そんな場所に心当たりはあるか?」
「そうじゃな……。それなら、イルカがいる場所なんてどうじゃ? わらわはわらわのエリアの攻撃の全てを無効化できる。それがなくてもイルカどもの魔力の結界がある故に、民にドラゴンの被害が及びにくい場所じゃと思うのじゃが?」
「なるほどな……。湖の底だから、視認もできないし、あの広さなら相当な人が入れるもんな。……なら、そこにしよう。キュビカさんはイルカ達との段取りのすり合わせとか、色々任せちゃっても良いか?」
「もちろんじゃ。わらわは元よりこの地のエリアボス。その責任をまっとうするだけの話じゃし、何の問題もないのじゃ」
キュビカはえっへんと胸を張ってそう自信満々に言い放つ。
その様子だと、場所を整えるということについてはキュビカを中心に頑張ってもらえれば問題なさそうだな。
「避難場所はキュビカさんに任せるとして、次は食料などの確保だ。これもかなりの数を用意してもらいたい。数万人が数日は耐えられるくらいの準備はしておいてほしい所だな」
「それなら、僕の出番だね。テレーナの修行に付き合うために、全エリアのエリアボスさんがいる所に行ったことがあるんだ。他のエリアの人達にも協力をお願いすることにするよ」
「カトカ。わらわなら他のエリアボスと連絡がとれるのじゃ。連絡についてはわらわに任せて、お主はどういう内容を伝えてほしいかを考えてはくれぬかの?」
「うん、分かったよ。キュビカさん」
「必要なものの確保はキュビカさんとカトカを中心にすれば問題なさそうだな」
キュビカには2つの役割に関わってもらうことになるが、キュビカの余裕そうな態度を見れば、それでも問題ないだろう。
キュビカはイルカ達がいる場の調整を中心に行うことになるし、エリアからあまり出ない方が良いだろうな。
それを考えると、エリアボスとの交渉はキュビカを通して行って、その実際の物の受け取りはカトカ達がやるって感じだろうか。
カトカは各エリアに行ったことがあるし、エリアの案内役としては適任だからな。
「あとはイリノス大陸に行く残る2つの役割なんだが―――お前も行くってことで良いんだな、ユニ?」
「問題ないんだな。オイラはエンラから手に入るはずのない普通の日常をプレゼントしてもらってけど、何の恩返しもできていないんだな。でも、時間稼ぎなら、オイラの幻術魔法が役に立てると思うんだな」
「……ああ、頼りにしているぞ、ユニ。とても危ない場所だろうから、本当に無理だけはし過ぎないようにな?」
「分かっているんだな。コリスのためにも、必ず生きて戻るんだな」
ドラゴン達の相手をして時間を稼ぐ役割に自ら名乗り出たユニは、特に怯えた様子もなく、俺に向かってそう話しかける。
今のユニは覚悟が決まったっていう顔をしているな。
きっと止めようとした所で、止まらない決意がありそうだし、当然俺も止めようとは思わない。
ただでさえ少ない戦力なのだ。
どれだけ時間を稼げるかで被害の大小も変わってくるし、ユニの申し出は本当にありがたかった。
結局イリノス大陸に行くのは、俺とメイリス、テレーナ、トラージ、ユニの合わせて5人になる。
人間がいる場所に行く以上、人間や獣人以外が大勢行くと、人々を怖がらせることになるだろうし、少人数になるのは仕方ないことだろう。
こうして、この話し合いをきっかけに、俺達はそれぞれの役割をまっとうするため、早速行動に移ることになった。




