321.次期エリアボスを秘密裏に決めることにしました
赤鬼と青鬼を乗せた俺は、まずはサソリの所まで飛んで行くことにした。
「おや、エンラさんじゃないか? 久しぶりだね。元気にしてたかい?」
俺が着地をする時には、サソリの長がやってきて、話しかけてきた。
サソリの陣地上空近くにいた時から、見張りのサソリがこちらに気付いて動いていたようだし、長を呼んできたって所だろうな。
「まあ、今のところはな。それより、大事な話があるんだが、少し時間をもらっても良いか?」
「大事な話かい? まあ、あたしは構わないけど。こんな外じゃどうかと思うし、中に案内するよ」
「ああ、よろしく頼むよ」
サソリの長は住処の中に案内してくれるとのことなので、俺と鬼達は案内してもらうことにした。
そして、住処の中の比較的広い空間に通されて、何かの食べ物や飲み物を出された後、サソリの長が話しかけてきた。
「で、話を聞かせてもらっても良いかい?」
「事情はおれから説明しよう。サソリの長、お前は大蛇の長とともにエリアボスをやれ」
「……はぁ!? 何言ってんだい、アンタは? エリアボスならボルドがいるじゃないか!?」
「その説明だと、混乱するだろ、赤鬼さん。詳しく説明するとだな……」
赤鬼のあまりに直球すぎる言い方に混乱するサソリ。
俺はそんな赤鬼をフォローすべく、背景を説明してから、お願いごとを伝えた。
「……なるほどねぇ。ボルドがおかしくなっていて、エンラさんもこれからおかしくなる、か」
「まあ、俺としてもそんな事にはしたくないんだけどな。でも、あの火山を命懸けるほど大切にしていたボルドでさえ、あの変わり様だ。俺だけが無事であるなんて事は期待しない方が良いだろうな」
「確かにボルドが火山を道具のように扱うなんて信じられないねぇ。そこまでボルドを変えてしまう程の力となると、抗えないものなのはよく分かるね」
サソリは声のトーンをおとし、そうつぶやく。
その反応からすると、俺が言ったことに特に異議を唱えるつもりはないらしい。
その可能性を認めた上で、これからどうするのかに不安を持っているという感じか。
「そしてもしかすると強大なドラゴン達が火山を襲ってくるかもしれない。エリアボス不在の中、そんな事になれば……後は分かるな?」
「ああ、よく分かったよ。そういう事ならエリアボスになっても良い。大蛇と二人でエリアボスになって、火山を守れって話だろ?」
「ああ、そういう事だ。あと、ここにいる赤鬼さん、青鬼さんをサソリさんと大蛇さんのそれぞれに補佐役としてつけようと思う。火山の危機だし、またサソリと大蛇の間で争いなんてしている暇はないからな」
「それは助かるよ。何しろ、あたしと大蛇だけじゃ、意思疎通に苦労するからね」
言葉が通じないとなると、サソリ、大蛇の行動がそれぞれに対して誤解を生む可能性がある。
例えばドラゴンに対抗するために戦力増強しているのに、大蛇に攻撃するために戦力増強していると誤解されるとか、さ。
そういった間違った認識が少しずつ積み重なり、いつかは関係性に決定的な溝が生まれる可能性は否定できないのだ。
そういった危険性はサソリも十分に理解しているのだろう。
「それじゃ、サソリさんの説得は完了だ。後は大蛇さんだけだな」
「なら、その説得にあたしも行くよ。……まあ、あのヘビなら、事情が飲み込めれば、断るとはとても思えないけどね」
「それもそうかもな。だけど付いてきてくれると助かるよ、サソリさん」
サソリがヘビの説得について来てくれるということなので、俺は鬼とサソリとともに、大蛇の所に向かう。
そして大蛇のところに空を飛んで移動して、出会うと、最初は勢揃いするメンバーを見て大層驚かれた。
でもその後の話を聞くと、納得したようで、大蛇もエリアボスをやってくれるという。
「それにしても、あのボルドが火山を捨てることになりそうとはな……。信じがたい話だ」
「俺も未だに信じられないさ。何かの間違いであってほしいと今でも思っている位だ」
「だが、それはエンラさんがそう確信したことなのだろう? なら、疑う必要はどこにもあるまい」
「ありがとうな、大蛇さん。理解が早くて助かるよ」
「お礼を言うのは我の方だ。すまないな、火山の事なのだから、我らが気付くべきだったことであろうに」
「別に気にしなくてもいい。それよりも今後の事だ。まだボルドがエリアボスをやっているが、そう遠くないうちにエリアボスが空位になるだろう。そのタイミングで―――」
俺はこうして火山の有力者達と細かい段取りをすり合わせる。
俺の作戦に対する異論は特になく、その時が来たら、すぐに作戦が実行することを合意した。
ちなみに大蛇には赤鬼が、サソリには青鬼がつく事に決まった。
比較的冷静な大蛇に荒削りな赤鬼。
ちょっと感情的なサソリに冷静な青鬼。
バランスがとれてて良い感じではなかろうか。
これからやるべきことが決まり、俺も鬼もサソリも大蛇もそれぞれの住処に帰る事になった。
そして、そんな帰り道。
ワルデスが俺に話しかけてくる。
「エンラが洗脳される……か。どうにかなんねぇもんかな?」
「一応いくつか対策はやってみるつもりではいる。俺自身がドラゴン以外の姿に変身して過ごすとか、俺の分身を完全に俺の意識から切り離すとかな。他にも色々試してみようとは思う」
「だよな。俺様ももちろん、エンラのためにやれる事だけはやるつもりだぜ」
「ありがとな、ワルデス。そういえばワルデスはそのドラゴンの族長とやらの事で何か知ってる事はないのか?」
俺は長年生きていると思われるワルデスにそうたずねてみる。
だが、うーんとうなった後、ワルデスは。
「心当たりがないな。少なくとも、俺様が生まれてからはその姿を目にした事は一度もねぇ」
「なるほどな……。ワルデスが見た事がないってことは、ワルデスが生まれるよりも前の時代にドラゴンによる襲撃があったって事か……」
まあ、ワルデスが封印されている間にないとは言い切れないけど。
でも退屈嫌いなワルデスは自分の魂をそんな時間かからずに別の生物に移してそうだし、空白の時間があったとは思えないんだよな。
やはり、ワルデスが生まれる前の大昔にあった出来事と捉えるのが妥当か。
「ワルデス、一つ頼みがある」
「ん? あまり変な事を言うなよ、エンラ?」
「俺もこんな事は言いたくないんだけどな……。もし、俺が俺じゃなくなったら、その時はみんなの事を頼むぞ」
俺がそう真剣に言うと、ワルデスはしばらく黙り込んだ後。
「……ああ、任せておけ」
そうぽつりと力なくつぶやくのだった。




