31.コリスの体調が思わしくないようです
鷹達が飛び去ってから俺達は食事をとることにした。
俺とコクリ、ターガ、カトカの四人分、朝のお目覚めセットを注文。
ちょっと贅沢だけど、朝にたくさん食べておいた方が体に良いだろうからな。
食べられるだけ食べ、ほっと一息つき始めて少し経った頃、俺の方に近付いてくる気配を感じとる。
この気配は……リスだろうな。
気配がする方に振り向くと、そこにはやはりリスの姿が。
いつものように仲良く二匹のリスが―――って、あれっ?
一匹足りなくないか?
「エンラさん、助けて下さい!」
「ん? 何かあったのか?」
「コリスが……コリスが病気になってしまって……でも薬草がなくなっちまって……」
カリスはひどく動揺している。
どうやらコリスが病気になってしまったが、それを治す為の薬草がきれてしまっていると。
「薬草は何人かが取りに行ったんだなぁ。でも全然戻って来ないんだなぁ……」
「クリスの言う通りだ。本来ならオレ達だけで何とかするんだが、でもこのままだとコリスは死んでしまう……」
「そんなに容態は酷いのか?」
「息も絶え絶えで、衰弱が激しい。だから一刻も早く薬草が必要なんだ。でもオレとクリスだけじゃ弱いし、無事に戻って来れるか分からない。だからエンラさんに護衛を頼めないかなって……」
なるほどな。
確かにリス達は一匹一匹はそんなに強くない。
だからこそ、カリスとクリスが薬草を取りに行っても、無事に住処まで戻って来れる保障がないって訳だな。
無事に戻れるとしても、強い敵がいたら遠回りしないといけないとかするから、戻るまでに時間がかかりそうだしな。
それが俺がいれば、そういった敵をある程度無視して移動することもできるだろうし、カリスは良い判断をしたと思う。
ただ実はコリスの無事を願うのなら、もっと手っ取り早い方法もあるんじゃないだろうか?
「分かった、協力しよう。ただ、その前にコリスの所に向かってもいいか? もしかしたら俺の力で症状を緩和できるかもしれないから」
「そ、そうなのか!? なら、すぐに住処まで案内するよ! クリス、行くぞ!」
「了解なんだなぁ」
俺は治癒魔法ヒールが使える。
だからそれで完治まではいかなくても、多少なりとも症状を和らげたり、進行を遅らせる事が出来るのではないだろうか?
それを試してダメだった場合は薬草取りに行った方がいいけど。
そんな訳で俺はコクリ達に留守を任せ、カリスとクリスと一緒にリスの住処へと向かった。
「ここの穴の中がオレ達の住処だ」
「分かった。体を小さくするからちょっと待っててくれ」
リスの住処は大きめな木の幹に穴がくり抜かれたような形状になっているようだった。
いわゆる樹洞といわれる空間を住処にしているんだろう。
入口は当然狭いので、俺は必然的にリスと同じサイズまで体を小さくする必要があった。
いつもの通りサイズチェンジとウェイトチェンジを駆使し、リスサイズになって快適に動けるようにする俺。
準備ができたら、カリス達と一緒にリスの住処の中に入っていった。
「ひ、ひぇぇぇ!?」
「み、みんな、落ち着いてくれ! この方が優しいドラゴンさんなんだ! みんなに危害を加えたりなんてしない!」
「コリスを助けに来てくれたんだよぉ」
住処に入ると、俺を見るなり悲鳴をあげたり、ブルブル震えるリスもいた。
ちょっとパニック気味になっているリス達をなだめようと声を張り上げるカリスとクリス。
それで落ち着いたリスもいれば、まだ混乱しているリスもいる。
「皆の者、鎮まらんか!」
住処に響き渡るリスの声。
この声を聞くと同時に、これまで話をしていたリスが一斉に話を止め、声を発したリスの方に振り向いた。
「えっと、そなたはエンラさん、で間違いないのだな?」
「あっ、はい、そうです」
「なるほど。我らと話ができる事といい、見た目とは裏腹の物腰が柔らかいその姿勢。カリスから聞いていたドラゴンさんと特徴が一致しておるな」
カリスから聞いていた……
なるほど、やっぱりカリスは俺とのふれあいについて他のリスに話していたのか。
そうでもしなければ、長時間リスの住処から離れることになる訳だし、他の仲間を心配させてしまうだろうからな。
カリス達とは日中ずっと俺の所に来て日本語を勉強したこともあったしな。
それでも他のリスが心配しなかったのも、事情を話していたからなのだろう。
「エンラさん、お騒がせして申し訳ない。ところでコリスを助けに来てくださったというのは本当なのか?」
「ああ、本当だ。俺は治癒魔法が使える。それでコリスを癒せないか試してみるつもりだ」
「なるほど、そういう事ですか。それならば、カリス、エンラさんをコリスの元へ連れて行っておやりなさい」
「分かったよ、長老。オレに任せときな!」
「えーボクもいくよぉ」
「分かった分かった。クリスも一緒についていくといい」
「やったぁ! ありがとねぇ、長老」
そういう訳で、カリスとクリスにコリスのいる所まで連れて行ってもらうことになった。
二人についていくと、いくつか細い部屋をくぐり抜け、そしてたどり着いた一室に、横たわっているリスを見つける。
「ついたぞ。コリス、エンラさんが助けに来てくれたぞ」
「こないで、こないで……こわい、やめてよぉ……」
「……やっぱり返事してくれないか」
「返事してくれないってどういう事だ?」
「さっきからずっと何かにうなされていて、オレ達の声が全く届いていないんだ」
声が全く届かない?
それってただの病気じゃないんじゃ?
俺は横になっているコリスに近付き、コリスの容態を確かめる。
カリスが言っていた通り、コリスの息は荒く、かなり苦しそうに見えた。
そして体全体を見た感じ、目立った傷は見当たらない。
「カリス、コリスはいつからこうなってしまったんだ?」
「はっきりと症状が出たのは昨日の昼間からだな。昨日の朝から調子が悪いとは言っていたんだが……そして今日の朝にはオレ達の声に反応さえしてくれなくなった」
昨日の朝からか。
道理で昨日はカリス達が遊びに来なかった訳だ。
一日位来ない事だってあるだろうとあまり気にしなかったんだが、まさかそんな事になっていたとは………
あと、今日の朝から声に反応しないという事は、昨日は反応出来ていたという事だろうか?
ちょっと聞いてみよう。
「昨日までは声に反応出来ていたという事か?」
「ああ。元気はなくなっていたが、会話自体は普通に出来ていた」
「なるほどな。何かこうなったきっかけ、変わった事があったりはしなかったのか?」
「変わった事……そういえば一昨日、エンラさんの所から帰る時、一回コリスとはぐれてしまったんだよな」
「はぐれた? 見失ってしまったという事か?」
「ああ。だけどちょっとしたらコリスと出会えたし、何かあったか聞いても何でもないと言っていたからあまり気にしなかったんだけど」
見失ってしまった、か。
その時に何かあったのかもしれないな。
でもすぐにカリスが見つけたと言っているし、そんな短時間に何かあるなんて事があるんだろうか?
いや、考えてばかりいても仕方ない。
とにかく俺にできる事をやろう。
俺はコリスに治癒魔法ヒールをかけ始めた。
すると気持ち少しだけコリスの表情が和らいだように見える。
だが、すぐに表情を歪め、そして挙句の果てには俺の手をバシッと叩いてきた!?
「ああっ、エンラさん!? 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ。でもこれ、ヒールで治りそうにないな。どうしたら治るんだ……?」
コリスの症状は肉体的なものではなく、精神的なものみたいだ。
それはつまり、体を治癒した所で効果がない可能性は高いといえるだろう。
周りの声が聞こえず、うなされていることからしても正常とは程遠い状態。
多分ゲームでいう何かしらの状態異常にかかっていると考えた方が良さそうだ。
「みんなー! 薬草を取ってきたぞー!」
入口の方から聞こえるその声。
どうやら薬草を取りに行っていたリスが戻って来たらしい。
それからしばらくすると、薬草をすり潰したようなものを持ってきたリスがやってきて、それをコリスに飲ませようとした。
だが、コリスはそれをバシッと叩いて弾いてしまう!
「こ、コリス……!?」
何だろう?
コリスを治そうとするものに対してコリスが拒否しているこの状態。
だけど当人のコリスはとても苦しそうにしている。
息は荒く、そして次第に弱々しくなっていくのが感じられる。
何だこの状況?
絶対に何かあるはずだよな。
せめてどんな状態異常にかかっているのかさえ分かれば対処のしようがあるのに。
何かいい方法はないだろうか?
……そうだ、鑑定だ!
確か、能力としての鑑定は高すぎて買えないが、道具としての鑑定ならばそれなりの金額で買えたはず!
女神ショッピングさん、お願いします!
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どの鑑定道具や能力をお買い求めですか?
残り所持金 629298B
おすすめ順 3件中3件表示
鑑定 17000000B
鑑定鏡 120000B
中古鑑定鏡 10000B
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鑑定鏡が12万か。
変にケチって中古買ってうまく鑑定できないなんて勘弁だから、ここはお金を惜しまずに使おう。
もたもたしていると手遅れになるからな。
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以下の物を購入しました。
残り所持金 509298B
鑑定鏡 120000B
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それが表示された直後、俺の手元に丸い鏡のようなものが現れた。
多分これが鑑定鏡なんだろうが、どうやって使うんだろうな?
とりあえずコリスをこの鏡に映してみるか。
俺はコリスが映るように鏡の向きを変えてみた。
するとコリスが映ると同時に、鏡の中に文字が表記された。
〇〇〇〇〇〇〇〇
コリス(アレノススクイレル)
HP 3/25
MP 2/30
状態: 幻視(大)
〇〇〇〇〇〇〇〇
おっ、本当にゲームのステータス画面みたいなものが出てきたぞ!
こうやって数値化されるなんて凄いわ……
って、コリスのHPが3しかないじゃないか!?
目に見えて弱ってるから薄々気付いてはいたが、数値化されると本当にまずい事が分かるな。
鑑定鏡の情報を見る限り、幻視というものが今のコリスが苦しんでいる原因のように思える。
幻視という文字から読み取ると、コリスは何か幻を見て苦しんでいるといった所だろうか?
幻視というものがよく分からないが、これを治せばコリスの体調は良くなりそうだな。
なら、これを治す方法を女神ショッピングで検索してみるか。
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どの幻視を完治させる方法をお買い求めですか?
残り所持金 509298B
おすすめ順 1件中1件表示
オールリフレッシュ 12000000B
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た、高っ!?
多分これ、全ての状態異常を治す魔法とかだろ、きっと。
検索でそれしか出ないってことは、幻視だけを治すような手段がないということか!?
どうすればいいんだ?
てっきり幻視だけを治す魔法や道具があると思っていたのに、全くなさそうである。
これでは治しようがないし、コリスは死んでしまう。
発想を変えるんだ。
コリスが生き残るには、幻視によるダメージを受けないようにすればいい。
例えば今は幻視(大)となっているが、これを幻視(中)などに弱められないか……?
治しきれなくても影響を弱める事が出来れば、受けるダメージは減るだろうし、受けるダメージ以上の回復をすれば一命を取り留めるたろう。
なら少し検索方法を変えてみよう。
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どの幻視の症状を緩和する方法をお買い求めですか?
残り所持金 509298B
おすすめ順 1件中1件表示
オールリフレッシュ 12000000B
巫女の祈り 320000B
幻術魔法 310000B
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少し増えたな。
増えた二つとも一応今の所持金で買えなくはない値段だ。
とても高いけど……
それにしても幻視の症状を緩和する方法でさえ三つしかないとか厳しいな。
でも方法があるのならそれを試すだけ。
ただ二つとも買う事は出来ないから、選択はミスれないぞ。
果たしてどちらを買うべきか。
それぞれ考えてみよう。
まずは巫女の祈り。
これは多分巫女の神聖な力によって悪い状態を和らげるといった所だろう。
どれ位の効果があるのかははっきりとは分からないが、悪い影響を与える事はなさそうで安心かもしれない。
ただ、一番の懸念は、果たして俺がこの技を使う事が出来るのかどうかだ。
巫女という名称からして、この技を使うのは巫女。
つまりは女性という事になる。
男の俺がこの技を購入したからといって技を使える保証はないのだ。
次に幻術魔法。
これは俺がコリスに幻術魔法をかけて、今かかっている幻術を上書きするみたいなことだろう。
見ている幻術を不快なものでなく、コリスにとって良いものに変えればダメージも受けなくなるといった所か。
これがうまくいけばいいが、幻術魔法なんて使った事のない俺が果たしてそんなに上手く出来る自信はない。
下手すると余計にコリスを苦しませる結果にもなりうるから、一種の賭けになるよな。
さて、こんな所か。
使えるかどうかが分からない巫女の祈り、使えるだろうけれども加減が難しそうな幻術魔法。
どちらがいいんだろうな?
あー、こんな時に技の詳細を鑑定鏡で確認できればどんなにいいか。
試しに女神ショッピングの画面を鑑定鏡に映してみても、画面に全く変化がないんだよな。
うーん、残念。
あっ、そういえば”朝のお目覚めセット”を買う時には注意事項が出ていたよな?
それと同じ感じで表示させれば巫女の祈りの使用条件も分かるんじゃ……?
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以下の物を購入しますか?
残り所持金 509298B
巫女の祈り 320000B
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そんなに甘くないか。
朝のお目覚めセットの時はこの画面の下の方に注意点が書かれていたんだけどな。
こういうスキルや魔法の時にはそういう注意書きはつけてくれていないらしい。
うーん、どうすればいいものかな?
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八日目:残金509298B
収入:なし
支出:朝のお目覚めセット4000B、鑑定鏡120000B
収支;ー124000B
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