261.バトルロイヤル式の戦いを観戦してみました
予選が始まり、予選1の組の参加者はそれぞれの思惑を持って、バラバラな動きを見せた。
隠密魔法で姿を隠す者。
近くにいる弱い者に襲い掛かる者。
離れた所にいる協力者と合流し、力を合わせて敵に立ち向かう者。
パッと見た感じでもそんな風に行動が分かれているように見えた。
ちなみに弱い者を倒してもあまり意味がないように一見思えるかもしれないが、この予選では命を取らない限り、何をするにもやりたい放題らしい。
つまり、弱い者を戦闘不能にして、身に着けているものを奪い取ることは許されていることになる。
使い手が弱くても、持っている道具はそれなりに有用なものであることが多いので、道具目的で弱い者を倒しに行くというのは作戦としては十分成り立つ。
『となると、俺はまっさきに狙われてもおかしくはないよな……』
『だな。まあ、そこを一網打尽にして、逆に道具を搾取するのがエンラの作戦なんだろ? 本当、腹黒いヤツだぜ』
『お前に言われるのだけは違うと思うんだけどな……。まあ、否定はしないけどさ。もらっておけば色々と使い道はあるだろうし』
もちろん、その奪ったものの大半を使うのは、闘技大会以降にはなるだろうけどな。
戦闘で役に立つのはもちろん、そうでないものでも最悪女神ショッピングで売却してお金にすることだってできる訳だし。
盗みとは無縁だったごく普通な日本人的感覚からすると、なんと外道な行動だろうと思わないでもない。
けど、この闘技場にはロッカー的なものがあるみたいだし、本当に大事なものはそこにしまっておくだろうから、予選で身に着けていくものは、少なくとも予選で使い切る覚悟で持ってきたものだけにするはずだ。
そういう常識があることはワルデスの思考読みで確認済みだし、それを考えれば、倒れた人の持ち物を拝借することは倒れた人も折り込み済みだろう。
1の組の人達もそれは承知の上で参加している。
それは狙う側もそうだし、狙われる側も当然分かっているということで……。
「ホーリーフィールド!」
「ぐわっ!?」
貧弱な体付きをした男が発した魔法により、筋肉質な体をした男が宙に浮く。
そして、続いて放たれる光の矢の魔法により、筋肉質な男はその場で動けなくなる。
こうして、あっさりと狙われる側の勝利が決まったのだった。
「人は見た目によらない、ってことですね……」
「ああ、そりゃそうだ。そもそも、本当に力のないヤツはこんな所に来ねえよ。弱そうに見えるのにここに参加するようなヤツは、それだけの何かを持ってるに違いねえってな」
トラージは笑みを浮かべながら、俺の事をジッと見てくる。
俺はそんなトラージを無視して、予選の様子を見ながら、考え事をすることにした。
確かにトラージの言う通りなんだよな。
全く戦う手段をもたない弱者が闘技大会に参加するなんて自殺行為にも等しいしさ。
闘技大会に参加している弱く見える者が何かしらの戦う手段を持っているという考えは間違いないのだろう。
とはいえ、強く見える人が絡め手を使ってこないとも限らない訳で。
そうなると、何かしらの策を持ってはいるが、身体的に弱そうなヤツを狙う結論に落ち着くのかもしれない。
実際、弱く見える人は、襲ってきた人を返り討ちにできた人よりも戦って負けてしまう人の方が多かったような気がする。
何かしらの戦う手段を持ってはいても、それが相手の力を上回るものでないと意味がないからな。
そうこうしているうちに、だいぶ人数が絞られてきたようだ。
1の組に参加している人は40人ちょっとほどいたはずだが、残るは10人を切って、8人となっている。
そのうちの6人は互いに戦いあっていて、2人が姿をくらまして様子をうかがっているといった所か。
だが、6人で戦いあう中でも、姿をくらましている相手めがけて攻撃する人もいるようで、予期せぬ攻撃にそのまま1人倒れるのを見かけた。
これはあくまでバトルロイヤル。
誰から攻撃されてもおかしくない戦いだし、油断されることは許されないんだよな。
姿をくらましているもう1人も覚悟を決めたのか、先ほどの姿をくらました人を倒した男に向かって攻撃の闇魔法を放つ。
だが、男はその魔法を避け、その勢いそのままに闇魔法を放った人に打撃を食らわせ、戦闘不能にさせる。
そしてその男を背後から別の男が襲い、魔法使いを倒した男も地に伏して、倒れてしまった。
誰かを倒そうとすれば、その隙を狙って他の人が倒しに来る。
だからといって、誰も倒さないでいれば、攻撃を警戒しないといけない所が一向に減らず、目の前の戦闘に集中できない。
いかに周囲の状況を正確に把握し、自分がとるべき行動を選ぶかが問われているな。
先ほどの攻防が終わって、残るは5人。
それからの展開は劇的に早かった。
フリーになった人が背後から戦っている人のうちの1人を不意打ちし、倒す。
その相手も突然の展開に驚いた一瞬の隙ができてしまったので、その隙を突かれて男にやられてしまう。
また別の2人の勝敗がようやくついたようだが、満身創痍になっていたその勝者は、男の方に向くものの、大した抵抗もできないまま、やられてしまった。
こうして、1の組の勝者が決定した。
「1の組の勝者は、ベルベー! みんな、勝者に拍手を!」
観客席からは勝者を讃える拍手が送られ、ベルベーは片手をあげて、それに応える。
トラージはそのベルベーを見て、フムとつぶやきながら、あごをさすっていた。
「先ほどの戦いはどうでしたか、トラージさん?」
「なかなかだった。バトルロイヤルの面白さがよく見えた戦いだったな」
「そうですよね。俺も、バトルロイヤルの面白さ、あと恐ろしさも分かった気がします」
「フッ、それが分かったようで何よりだ。オレもちょっくら肩慣らしでもしてくるか。エンラはどうする?」
「俺はまだここで試合を見ていきます。俺の試合まではまだ時間がありますし」
「フム……、そうか。残念だ。オレと訓練をしたくなったら、いつでも遠慮なく言うが良い」
「……って、突然とんでもない事を言いますね!? 気持ちはありがたく受け止めますが、気持ちだけで十分ですからっ!」
「そんなに遠慮せずとも良いのだがな。……まあ、お前がそう望むのなら仕方あるまい。この楽しみは決勝まで取っておくことにしよう。ガハハ!」
トラージは笑いながらそう言って立ち上がり、片手をあげて別れの挨拶をしつつ、屋上階から下りていった。
本当、心臓に悪いことを言うよな、あのトラ。
訓練と言いつつ、こちらの手の内がバレてしまったら、俺では、あのトラに勝てなくなる気がする。
ただでさえ、経験豊富なあのトラだ。
手札がバレてしまったら、後は経験の差から来る戦闘センスの差で、全然相手にすらされなくなるような気さえしてくるんだよな。
それを考えると、予選やトラージと戦うまでの決勝では、できるだけ力を見せないように立ち回るべきだろう。
とはいえ、力の出し惜しみをしすぎて予選敗退とかなったら目も当てられないから、そことの兼ね合いになるんだろうが。
うーん、難しい所だな。




