26.みんなで日本語を勉強してみました
リス達に買ってもらった鉛筆と自由帳は俺が預かっていたので、それを返しておいた。
リス達には日本語の書き方を教えていて、話し方は教えていない。
一方コクリとターガには話し方を教えていて、書き方を教えていない。
だから今回は両方を兼ねてちょっと勉強してもらおうかな。
その為にはコクリとターガ用に自由帳や鉛筆をあげる必要がある訳だ。
リス達からその対価をもらっている関係上、コクリやターガからも対価をもらわないと筋が通らない。
ターガからは先ほどアレノスベリーをもらっているので、それを対価にしたと言えば問題にはならないだろう。
問題なのはコクリだ。
コクリはずっとこの場所で見張りをしてもらっているから、他の場所に物を取りに行く余裕がないだろう。
そんなコクリに対価を要求するのは酷だよな……
見張りの仕事をしてもらっているから、その働きの対価として物をあげているという理屈が通ればいいんだが。
その点、貨幣経済だったら、働きに応じてお金がもらえる訳だし、全く問題にならないんだけど。
今の物々交換の相場だと、物という形のあるもの同士で取引されるのが普通だから、言葉で説明しても納得してもらいにくそうだ。
果たしてどうしたものか。
困った顔をして悩みこむ俺。
するとコクリが話しかけてきた。
「あっ、エンラ、実は私からあなたにプレゼントがあるの」
「ん? どうしたんだ、コクリ?」
「ちょっと待っててね」
えっ?
言葉に出していないのに、まさか察してくれたのか、コクリの奴?
いや、まさかな……
俺と言葉を交わすとコクリは一旦外へ出る。
そしてしばらくするとコクリはまたテントに戻ってきた。
テントの前でブルブル体を震わせて水を弾いたからか、思ったほどは濡れていない状態でテントの中へ入ってくる。
「これよ。実はカトカが持ってきてくれたもので、香ばしい匂いがするのよ、これ」
「クピャア!」
「へえ……確かに良い香りがするな……」
コクリから受け取ったのは一つのキノコ。
形は横にひらぺったく、色は茶色い傘に、白い柄をしていて、形以外はマツタケに似ている。
ちょっと女神ショッピングさんに調べてもらうか。
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”アレノス・フレグラント”を売却しますか?
売却額 10500B
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えっ!?
い、一万Bだって!?
ガチで異世界版マツタケじゃねえか、これ!?
こんなものを持ってくるなんてカトカすげぇな……
「コクリ、これ、おにぎり百個分の価値はあるぞ……」
「えっ、そ、そうなの……?」
「コクリさん、いや、カトカさんすごいな! これがクルミの百倍の価値があるってことだろ?」
「いいなぁ、おにぎり食べ放題……じゅるり」
「うらやましすぎるんだよぉ……」
リス達から羨ましそうな目で見られるコクリ。
まあおにぎり百個分だもんな。
羨ましがるのも無理もないだろう。
結局、マツタケは俺がもらう事にして、その代わりにマツタケ分の物を俺が少しずつコクリやカトカにあげることになった。
うん、これでコクリとカトカにわざわざ対価をもらわずに物をあげる口実ができたな。
コクリとカトカ、ナイスだ!
でもターガには頑張って物を持ってきてもらわないといけなさそうだな。
まあターガはコクリに比べて自由だし、あんまり心配いらないか。
これであっさりとコクリに対する不安が解消された。
こんなやってほしい事をピンポイントでしてくれるなんて、コクリは読心術でも使えるんじゃないかと思ったわ。
言葉に出して伝えた訳じゃないからさ。
たまたまそう行動してくれただけなのかもしれないし、考えすぎても仕方ない。
今はとにかくコクリに感謝しておこう。
さて、そういう訳で、俺はコクリとターガに気兼ねなく自由帳と鉛筆を買って渡すことができた。
ちなみにお金がだいぶ減ってきてしまったので、コクリからもらったキノコはもちろんこっそり売却。
下手にとっておくと劣化して価値が下がってしまいそうで怖いからな。
木の実には殻がついているから日持ちしそうだけどさ。
それから俺はコクリ、ターガの名前の書き方、読み方を教えたり、簡単なあいさつの書き方、読み方を教えた。
リス達には他の言語を話した経験がないから話す事に苦戦し、コクリ達は言語を書いた経験がないから書くことに苦戦した。
特にコクリは四足歩行だし、ターガにはみんなでいう前足が羽になっているから口に鉛筆をくわえて書くしかないから難易度は高そうだ。
まあ無理なようなら別に言葉だけでも十分なんだけどな。
俺が一人で教えるのには限界があるが、リス達はそれぞれ書き方をコクリ達に、コクリ達は話し方をリス達に教えてくれたりしたのでだいぶ助かった。
言葉の種類こそ少ないが、たった一日で教えたりアドバイスできるなんてこいつら凄すぎだよな……
結局しばらく教育は続いた。
昼間になったら俺がおにぎりを人数分買って、みんなで食べる。
ちなみにおにぎりは頑張っているみんなへの俺からのプレゼントという扱いだ。
俺はサイズチェンジで自分の体を米粒ほどの大きさまで縮ませてからおにぎりを腹いっぱい食べる。
ちなみにカトカに俺分のおにぎりをわけてあげた。
カトカよりもむしろ縮んだ俺の方が小さいので何とも不思議な食事風景だったことだろう。
水に関しては、水二リットルと小さな容器詰め合わせを購入しておき、小さな容器に水を少しずつ入れて飲んだ。
500Bで10個の容器が入っていたから小さな容器詰め合わせは結構お買い得だったかもしれない。
容器が空になる度に水を少しずつ出せばいいから水二リットルの購入も結構便利だったな。
食事を終えた俺達はまた勉強を続ける。
そして日没近くになったらリス達は自分の住処へと帰っていき、今日の日本語の勉強は終わりになった。
「どうだった、日本語を書くのは?」
「難しいわね。鉛筆をくわえつつ力を与えるのがとっても難しいの。噛む力を強めると折れちゃうし……」
うん、実際コクリはかなり苦労していた。
鉛筆をかみ砕いてしまうことが五回ほどあったな。
その度に俺が折れた鉛筆を爪で削り、形を整えてから渡したっけ。
まああまりに小さくなったら新しいのをあげたけど。
それでも”あいうえお”とかは書けていたし、上出来だと思う。
ターガに至っては簡単なあいさつの単語を書けるようになっていた。
リス達の学習スピードも早い。
帰り際には俺に向かって日本語で『さようなら』というほどだ。
こりゃみんなで日本語で会話し合う日も遠くないな。
翻訳機いらずでみんなで話せたらどんなに楽しい事か。
ワクワクが止まらないな!
カトカはコクリの毛の中からこっそりと俺達の勉強風景をのぞいているようだった。
カトカはまだ赤ちゃんだから、何をやっているのかよく分かっていないだろうな。
大きくなったら一緒に日本語の勉強をしてくれると俺としては嬉しいんだけど。
ザーッ
うーん、まだ雨は止まないな。
この様子だと一晩中雨は降り続けているのではなかろうか?
今夜はテントの中で寝るとしようかな。
「俺はテントの中でこのまま寝ようと思うが、他のみんなはどうする?」
「私はテントの中にいて見張りをしておくわ」
「おれは木に止まって周囲を監視しておこう。ここにいてもあまり役に立てないからな」
そう言うとターガはテントから出て行き、近くの木の枝にとまった。
こうして今日も二人に夜の見張りは任せ、俺は早めに寝ることに。
ちなみにこのタイミングでバッグに入れてあるアレノスナッツの殻と実を分けてから全部売っておいた。
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六日目:残金39898B
収入:アレノス・フレグラント10500B、アレノスナッツの殻240B、アレノスナッツの実1320B
支出:自由帳200B、鉛筆60B、おにぎり600B、水200B、小さな容器詰め合わせ500B
収支;+10500B
※バッグに入っていたアレノスナッツ六個を全て売却。
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