20.九尾と遭遇しました
空に舞い上がった俺。
だが予想以上に高い所まで来てしまい、空気が薄くなって慌てふためく!
く、苦しい……
高度を下げなくては!
俺はウェイトチェンジを使って自身の体重を増加させ、高度を落とす。
ある程度の高さになった所で体重を微調整して、その高度で安定するようにした。
ふう、いきなりの事で焦ったが、何とかなったか。
翼をとりあえず広げておけば前へと進んでくれるみたいだしな。
ほら、鷹の姿も見えてきたぞ。
小さく見えた鷹の姿がみるみるうちに大きくなって―――そして通り過ぎた。
あれっ!?
俺の速度が速すぎたのか!?
速度の微調整ってどうやればいいんだろう?
とりあえず、翼を羽ばたかせて滞空するとしようか。
俺は鷹の進行方向で滞空して待った。
すると少しして鷹が俺に追いついてきた。
「ずいぶんと豪快な飛び方をするんだな、あんた」
「飛んだ事がなかったんだから仕方ないだろ!? むしろ初めてでこれだけ飛べている事をほめてほしいわ!」
「飛んだ事がない? あー、そうか。あんた、生まれて間もないんだっけ?」
「そうだよ! この姿になってまだ二日目だから飛ぶ機会すらなかったんだって!」
「……二日目ねぇ。その真偽はともかくとして、あんたに飛んだ経験がない事はわかったよ。それならおれが飛び方というものを教えてやる。空の移動はおれ達翼のある生物には欠かせないからな」
「おっ、やけに親切じゃないか。いいのか、俺なんかに教えてしまって?」
「一応命の恩人だからな。とにかく、とっととやるぞ」
こうして俺は鷹から飛び方を教わる事になった。
気流、翼の角度、地形、色々と注意すべき点があるようだ。
地形によっては突風が吹くような所もあるので、そこは避けて進んだ方がいいらしい。
元の世界にあった高い高層ビルに挟まれた空間にビル風が吹くのがその良い例だな。
強すぎる風を浴びればバランスを崩しやすく、飛行に支障がでるから要注意だとか。
鷹の丁寧な指導によって、少しすると、俺は比較的安定した飛行をすることが出来るようになった。
速度の微調整もある程度できるようになったし、これで鷹と一緒に飛んで移動する事が出来そうだ。
そんな中、ゆっくりとこちらに近付いてくる強力な気配を感じ取る。
しばらく感じた事のないこの強大な気配。
一体何者だろうか?
「あっ……あれはみんなと―――姉御!?」
鷹はそう言って驚きふためくが、俺にはまだあまりに遠すぎて目視できない。
どうやら鷹達と九尾がいるそうだが。
あれっ、九尾って空飛べるんだっけ?
不思議に思いながらしばらくその場で待つと次第に目視できるようになった。
大勢の鷹が緑色の半透明なヒモみたいなものをくわえて飛んでいる。
そしてそのヒモは緑色の半透明な球体と繋がっており、球体の中に丸っこくて大きな赤いものがあった。
見た感じ、鷹はその赤いものが入った球体を頑張って飛んで持ち上げているように見えるのだが、気のせいだろうか?
そしてその赤いものから強大な気配を感じるのだ。
それってつまり―――
「なあ、もしかしてあの赤いものが九尾なのか……?」
「そ、そうだ。昔はもっとすらっとしていたんだが、食っちゃ寝を繰り返した結果、あのような体になってしまったのだ……」
そ、そうなんですか……
そりゃあ動かずに食べ続ければ太るよな。
もしかすると、鷹を補佐役に任命してから九尾は食料の調達を全部鷹に任せていたのかもしれないな。
そして自分は特定の場所でごろりと。
強い力を持つなら敵が襲ってきても心配いらないし、動く必要もないということだろう。
でもそんな九尾がなぜ移動してきているんだろう?
何かあったんだろうか?
俺はその場で滞空してしばらく待っているとついに九尾と相見えた。
遠くからは赤い団子のようにしか見えなかったが、よく見るとちゃんとキツネの顔、それに九つの尻尾もあるようだ。
ただ、やっぱり顔や尻尾に比べて体が大きすぎてアンバランスだよな。
そして九尾を持ち上げている鷹達が心なしか苦しそうにみえる。
フラフラと九尾、揺れてるし。
補佐役も大変だなぁ……
「おい、そこの龍」
「ん、呼びました? えっと、九尾さん……ですよね?」
「わらわの事が分かるのか。ならば話は早い。わらわの邪魔をしてくれるな。鷹どもが怖がってわらわも迷惑しておる」
「邪魔って……リスの近くで俺が鷹に攻撃されたことですよね? それって単なる言い掛かりでしょう? むしろ俺は被害者なんですよ? 俺は鷹に何の危害も加えてない訳ですから」
「実際に被害にあったかどうかは問題ではないのじゃ。事実、こやつら鷹どもは脅えており、もう狩りに行きたくないとごねておる。それではわらわは困るのじゃ」
こちらとしてはちょっと自然の恵みの発動を切っただけなんだけどなぁ。
それで文句を言われましても。
「九尾さんがリスを食べたいというのは知っていますが、それではこちらとしては困るんです。俺にはリスの知り合いがいるものですから」
「リスの知り合いじゃと? お主にか?」
「そうです。俺にはこう見えてもリスとかオオカミに知り合いがいるもので」
「リスにオオカミ……お主、他種族語を理解しておるのか。道理でわらわが話しかけても驚かぬ訳だ」
「そういえば九尾さんも俺が返答する事を知っていたかのような話しぶりでしたよね。どうして分かったんですか?」
「分かるも何も、わらわはこのエリア生まれの全ての生き物の言葉を感じ取れるからな。エリアボスじゃからのぉ」
へぇ。
エリアボスだから言葉が分かるということは、エリアボスになる事でそういう能力が手に入るって事か。
自分のエリアの生物と意思疎通を取るためとか何だろうけど。
でもなるだけでそんな力が入るってすごいよな。
「そんな力があるんなら、リスの言葉だって分かるんでしょう?」
「もちろん分かるのじゃ」
「それでもリスを食らうと?」
「話が分かるのと食べるのは別じゃ」
「なるほど……九尾さん、強いんですね」
「ほほ、分かってくれるか? なら、道を通すのじゃ。これからわらわは直にリスの所まで食らいに行く」
例えリスと会話することができたとしてもなお、食すことを優先する、か。
それは並大抵の精神じゃできないだろう。
九尾にはよほど強い信念のようなものを持っているのかもしれない。
ならば、俺が口先だけでリスを食べないでほしいと言った所で九尾は聞いてくれないだろう。
こちらとしてもそれ相応の覚悟を示す必要がありそうだ。
九尾は鷹の方に向かってコソコソと指示を出す。
そして九尾と鷹は俺を素通りしてリスの方へと向かおうとする。
だが、そこに立ち塞がる俺。
「なんじゃ、何故わらわの邪魔をする?」
「確かに九尾さんは強いとは言いました。ですが、それは九尾さんがリスを食らう事を俺が許した訳ではありません」
「ほほう、お主、わらわに逆らうというのか?」
「……残念ながら、そういう事になりますね」
「フフ、そんな事をしたらすぐに後悔する事になるが、良いのか?」
「……後悔、か。まあするかもしれませんね。何しろエリアボス様に逆らうなんて事になりゃ、無事では済まないでしょうから」
「じゃがそれでも逆らうと?」
「確かに逆らった事に後悔するかもしれませんが、何もしないでただリスが死んでいく様を見ている方がずっと後悔するでしょう。なら、後悔しない方の選択をした方が良くありません?」
「……なるほどな。そういう事なら致し方あるまい。ただ、本当に良いのじゃな?」
「はい。覚悟は出来ていますとも」
「ならば、わらわの技、受けるがいい!」
すると九尾は顔の前に巨大な火の玉を発生させ、そして火の玉を俺に向かって放ってきた!
そしてその瞬間―――
ブチッ!
その音と共に九尾が地面へと落ちていく。
火の玉を放った反動で九尾のバリアに変な負荷がかかってバリアがはち切れたんだろうな。
狙いが甘い九尾の攻撃を軽々と避け、俺は下へ落ちていく九尾をじっと見つめるのだった。
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五日目:残金67698B
収入:なし
支出:なし
収支;+0B
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