18.鷹を追い払ってみました
俺はリス達が向かった方向へと進んでみている。
すると、小さな気配が集まっている所がちょっと離れた所から感じ取れた。
もしかしたらそこがリス達の住処なのかもしれないな。
そこの近くまでちょっと行ってみるか。
小さな気配の集団は少し太い木の中から感じ取れた。
多分木の中をくり抜いて住処にしているのだろう。
そして木の中から無数の声が聞こえてくる。
俺はその中のある声に集中して聞き耳を立てた。
「ただいま! 長老、様子はどうだ?」
「あんまり芳しくはないな……鷹どもはもう準備を整えているみたいだ。魔法が発射されるのも時間の問題だろう」
「ボク達の守りの方はどうなっているのぉ?」
「滞りはない。ただ、前の争いでだいぶ人数が減ってしまったからな……今回も守り切れるかどうか」
「とにかくやるしかないってことか……」
だいぶ深刻な状況らしい。
そして天敵はどうやら鷹みたいだな。
先程聞こえた声は恐らくカリス、クリスのものだろう。
さっきまでずっと聞いていたから間違いない。
やっぱりリス達は天敵に襲われようとしていたようだ……
俺は周囲を警戒する。
するとリスの住処から少し離れた所から、少し大きめな気配の塊が感じ取れた。
それが鷹の集団なんだろうか?
気配がする方向に目を移すと、そこには確かに大きな鳥の姿、鷹の集団を確認することができた。
鷹って単独で行動するイメージがあったんだが、どうやらこの世界では違うらしい。
リス達からも魔法という言葉が出てきたし、大なり小なり地球とは事情が違うんだろう。
何しろ、今の俺のようなドラゴンもいる世界だからな。
そりゃ全く同じ訳はないか。
あっ、鷹が近付いてくる。
仕掛けてくるんだろうか?
「それでは皆、準備はいいな? 三、二、一、発射!」
「「ウィンド!!」」
滞空した鷹達はリスの住処目がけて一斉に魔法を放った!
無数の風の刃がリス達の住処を襲う!
「攻撃来ました!」
「皆の者、魔法を放て!」
「「グランドウォール!!」」
大地が盛り上がり、リス達の住処となっている木を何重にもなる大地の壁が覆い尽くす。
そしてその壁に鷹が放った風の刃が襲い掛かった!
風の刃によって削られる壁。
その刃は壁を一枚、二枚と次々と貫通していく。
だが壁は何重にも張られていた為、数枚壁が壊れた所で風の刃は打ち消された。
さすがはリス達総出で張った魔法だな。
一枚では防ぎきれないから何重にも壁を張っていたことが功を奏したんだろう。
これでリス達は安心―――
「第二波用意! 放て!」
一羽の鷹がそう言うと、再び鷹達から風の魔法が放たれた!?
その魔法は少なくなった大地の守りをさらに切り裂いていく……
「補強だ! 補強を急げ!」
リス達も守りが薄くなっていることに気付いているようで、追加のグランドウォールが鷹達の目の前に現れる。
リス達は壁を増やして防衛し、鷹達はその壁を風の刃で切り裂いていく。
一見状況は拮抗しているように見えるのだが、リス達が増やしている壁の数よりも鷹達が壁を切り裂く数の方が多いことからして、いつか守りは崩れる可能性が高い。
しばらく見守っていると、ついにリスの守りの壁が残り二、三枚ほどまでに減ってしまった。
鷹の魔法は一回で五、六枚は切り裂く。
リスの壁が追加されるスピードは落ちてきていて、次の鷹の攻撃までに補充が間に合いそうにない。
間に合ってもせいぜい一、二枚の補充がやっとだろう。
つまり、次の鷹の攻撃がリスの住処を直撃することになる……!
これはまずい。
魔力切れとかおこして撤退とかしてくれないよな?
「もう少しだぞ! 準備を急げ!」
ですよねー。
まだまだ鷹には余力がありそうだ。
……そろそろ覚悟を決めるとするか。
「リーダー、準備が出来ました!」
「よろしい。では放つぞ! 三、二、一、発射!」
鷹による風の魔法は空中を進み、そのままいつも通りリスの守りの壁に命中―――しなかった。
その代わりに鷹の魔法が命中したのは―――
「ど、ドラゴン!? な、なんでこんな所に!?」
「ま、まずい!? なんでよりにもよって……」
そう、鷹の魔法は壁にではなく、俺に命中したのだ。
命中したというよりかは、俺が鷹の魔法に当たりに行って、立ち塞がったといった方が正しいのだが。
ちなみにドラゴンの体はとても頑丈なようで、鷹の魔法を受けても大したダメージにはなっていない。
俺がリスと鷹の戦いを見ていたことなんて、鷹達に知る由もない。
だから、俺はたまたま通りかかったら鷹達に攻撃されたという設定で行こうと思う。
俺は鷹達の方を見ながら、【自然の恵み】の発動を切った。
それはつまり……
「や、やばい、怒ってるぞ、あのドラゴン!? に、逃げろー!!」
鷹が攻撃してきたことに怒って威圧しているドラゴンを演出できるという訳だな。
その効果はてきめんで、俺が【自然の恵み】の発動を切った瞬間、鷹達は一目散に逃げていった。
……本当、俺ってどれだけ恐れられているんだろうな。
これが本来の俺だというのに。
まあそれはともかく、鷹の撃退には成功する事ができて良かった。
鷹がいなくなったことを確認してから俺は再び【自然の恵み】を発動させる。
「あっ……やっぱりエンラさんだったんですね」
そう声をかけてきたのはカリスだった。
「おっ無事だったか。みんなも大丈夫そうか?」
「ええ、おかげさまで助かりました。ただオレ達三人しか事情を知らないので、ほとんどのリスは恐れて震えていますけど……」
「ハハハ、まあ近くで強大な力を持つ奴から威圧されたら誰でも恐れるわな」
「お、オレは恐れていないですよ! 他の二人だって! なあ、クリス、コリス?」
カリスがそう呼びかけると、グランドウォールの隙間からひょっこりと顔をのぞかせる二匹のリス。
クリスとコリスだ。
「も、もちろんなんだよぉ。こ、怖すぎてビビってなんかないんだからねぇ?」
「わ、わたしもエンラさんだって分かってたから、だ、だいじょぶだったんだよぉ……」
この二人、絶対にビビっていたな。
別に強がる必要なんてないのにな。
まあ、俺を信頼していたという事を伝えたいんだろうし、そこはそのままの意味で受け取っておくか。
「三人とも気遣ってくれてありがとな。これでもう鷹は襲って来ることはなさそうか?」
「いや、どうでしょう……? エンラさんを怒らせたという事でしばらくは様子を見るだけになるかもしれませんが……」
「あのトリ達、ここ二、三ヶ月ずっとボク達を狙ってくるんだぁ」
「わたしたち、何もしてないのに訳が分からないよぉ……」
二、三ヶ月も……!?
鷹は獲物を執念深く追うとは聞いたことがあるが、まさかこれほどとは。
確かにそんな状況なら、いくら俺が脅したとはいえ、またリスを襲い始めるのは時間の問題だろう。
でもどうしてそんなリスを襲うことにこだわりがあるのか理解できない。
それよりも捕まえやすい他の獲物を狙えばいいと思うんだけどな。
これは直接鷹から話を聞いた方がいいかもしれない。
もしかしたら鷹がリスを狙う理由みたいなものがあるのかもしれない。
それに今度はサハギンの時と違って俺に余裕があるから話し合いをするには問題ないだろう。
「三人とも、ありがとう。俺はちょっと用事ができたから、また後でな」
「あ、ああ。エンラさんありがとう、本当に助かったよ」
俺は三人のリスに見送られながら、鷹が飛び去った方へ移動を始めた。
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五日目:残金67698B
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