178.呪いについて聞いてみました
「そういえばコクリ、ずいぶんと顔色が悪そうじゃったが、何かあったのかの?」
……確かに、コクリのあの様子は普通じゃなかった。
呪いにかかった俺とハギを見た瞬間にひどく怯えたような表情をしていた事からして、呪いに何か思う所がある事は間違いなさそうだが。
「確かに気になるな。とりあえず、コクリの様子を見てみよう。コクリの体調が回復したら、少し理由について聞いてみる事にするか」
「ああ、そうするのが良いじゃろうな」
俺とキュビカはコクリの様子を見るために、家の中へと入る事にした。
カトカが運んでくれたおかげで、コクリは家の床で横になる事が出来ていた。
休んだからか、気持ち少し顔色が良くなっている気がする。
俺は背中に背負っていたハギを降ろし、横になるようにして休ませた。
呪いが解けた事で、健康な状態に戻ったようだし、もうしばらく休ませれば元気で起きる事だろう。
後はコクリの体調が万全になれば良いのだが。
「カトカ、コクリの様子はどうだ?」
「うん、だいぶ良くなってきたよ。一時はどうなるかと思ったんだけど……」
コクリは現在ぐっすりと眠っているようだ。
体調を回復させる為に、このまま起こさずにゆっくりと寝させてあげた方が良さそうだな。
「それは良かった。コクリ、相当ひどく顔色が悪そうだったからな」
「うん、僕も安心したよ。それはそうと、お父さんも大丈夫なの? 手に黒いもやみたいなものがあったみたいだけど?」
「ああ、キュビカさんが治してくれたからバッチリだ。ハギも無事だぞ」
俺がそう言うと、ふふんと得意げな表情を浮かべるキュビカ。
こういった解呪関係では本当に頼りになるからな、キュビカさんは。
まあ元々そういう分野が専門なんだろうけど。
「う、ううん……」
少し家の中でゆっくりしていると、コクリが目を覚ましたようだ。
少しは良くなっただろうか?
「コクリ、体の方は大丈夫そうか?」
「え、ええ……心配をかけてごめんなさい。そういえばエンラ、手についていた呪いは解けたの?」
「ああ。キュビカさんがしっかりと解いてくれたから問題ないぞ」
「そう。それは良かった……」
そう言うとホッとしたような顔をするコクリ。
やっぱりコクリは先程の呪いに何か感じるものがあったんだろうな。
コクリのトラウマといえば、豹変した氷狼、そして仲間達という出来事だろう。
もしかしてその時も同じような事が起きたんじゃ……?
「なあ、コクリ。もしかしてコクリの同族にもこういうもやがかかっていたのか?」
「ええ。異変が出始めた時、所々に黒い霧が出るようになって、そして体に黒いもやをまとう仲間が出始めたの」
「黒いもやをまとう、か。ちょうど先程のハギのような状態という事か」
「ええ、まさにそんな感じよ。始めはそんな仲間も特に変わった様子はなかったらしいの。普通に話せたし、何か変な行動がないとも聞いたわ」
「聞いたという事は、コクリはそういう奴と直接話した事はないのか」
「そうね。危ないから近付くなって兄に止められていたから……。でもそのおかげで私は呪いにかからずに済んだの」
そう言うとコクリは下にうつむいて悲しそうな顔をした。
きっとコクリの言葉からして、黒いもやがかかった者に近付いた者は、きっと呪いの餌食になったという事だろう。
「呪いにかかった者は、しばらくするとおかしくなっていったのか?」
「ええ。急に姿をくらましたり、意味不明な言葉をつぶやくようになったと言われているの。その時から早めに私達は避難する事になったから、詳しいことは分からないけど」
「なるほどな。そういえばハギは黒いもやに包まれて、すぐに俺を攻撃しようとしてきたんだよな。何もしゃべらず。そういう奴もいたんだろうか?」
「分からないわ。きっと症状が進む早さも、その症状自体もまちまちだと聞いているから。だから何とも言えないの」
「そうなのか……。どちらにしろ、非常に厄介な呪いであることは間違いなさそうだな」
正気を失わせる効果を持った黒いもや。
その黒いもやは伝染し、どんどんと黒いもやにかかる者は増大していく。
非常に恐ろしいものだ。
だけどちょっと気になる事もある。
そんな強力な効果を持っていて、伝染するような黒いもやなのに、どうして俺が見かけた野生の動物には黒いもやはかかっていなかったんだろうか?
感染力が強いのなら、例えばあの人間の建物跡地周辺には黒いもやにかかった動物だらけになるはずだが。
「でも感染力のある呪いが思ったよりも広がっていない事が気になるんだよな。ハギは黒いもやに触れただけで感染してしまったし、相当な感染力がある事は間違いないはずだが、南の草原に住む動物達は全然黒いもやの影響は受けていなかった」
「……確かに、氷山も私達の種族以外、つまり野生動物に黒いもやが侵されているという報告は聞いたことがないわ。私自身の目でも確認したことがないし」
コクリもその点では思い当たる節があるようだ。
特定の種族にだけかかる病なのか、黒いもやは?
いや、オオカミだけでなく、サハギンにもかかるんだから、種族は関係ないだろう。
であれば、どういう事なんだ?
「恐らくじゃが……黒いもやの感染は、呪いの術者の意図によって行われているのじゃろう。じゃから、ターゲットにされていない動物には黒いもやは伝染しない」
「……そういえば黒いもやは悪魔の呪いなんだってキュビカさんは言っていたよな。つまり黒いもやはウイルスではなく呪いの一種。だから術者が感染を望まなければ、伝染する事はない。そういう事か?」
「そういう事じゃ。呪いは魔法の一種に過ぎん。呪いの対象を増やせば増やすほど、術者にかかる負担は増大する事になるじゃろう。故に、呪いをかける相手は術者が特定した者だけに絞っていると考えるのが自然じゃ」
なるほどな。
むやみやたらと呪いを広げるのも愚策という訳か。
でもそうすると、俺とハギはあの生物から明確に呪いをかけるターゲットとされていた訳だよな?
一体どうしてそんなターゲットにされてしまったんだろうか?
人間の町に立ち入った事と何か関係が……?
「つまりは俺とハギは相手に狙われたという事だよな。一体何でだろう?」
「人間の町に立ち入る物好きなど、ほとんどいないじゃろうからな。人間の町には薄い結界を張ってあるから、動物や魔物には不快な空間になっておるしの」
「不快な空間……そういえば町に入ったら気味の悪さや寒気が少ししたが、その影響だったのか?」
「多分そうじゃの。とにかく、そんな空間にわざわざ入り込む生物という時点で、他の野生動物とは違うとみなされてもおかしくないんじゃろうな、きっと」
そういう事だったのか……。
物寂しい風景が、何となく薄気味悪さを感じさせたり、寒気を感じさせているのだと思っていたが、結界だったのか。
まあ少なからず風景もその寒気などに拍車をかける効果はあったのかもしれないけど。
結界の影響があったのなら、確かに戦闘力の低いハギにとってはさぞ居心地が悪かったんだろうな。
だからあんなに嫌がっていたのか。
悪い事しちまったな、俺。
後で謝っておこう。
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