168.赤いドラゴンが住処にやってきました
火山にエリアボスが誕生してから数十日経過。
季節はすっかり夏になっていた。
気温は30度を超える日もしばしばあって、とても暑い。
日本の夏と比べると湿度が低めなのがまだ幸いではあるがな。
そんな夏のある日の事。
「エンラさん、遠くから赤いドラゴンがやってくるみたいですよ! どうしましょう!?」
偵察役の鷹がそう言いながら急いで俺の住処へと入ってきた。
赤いドラゴン――恐らくはボルドだろうな。
時期的にもだいぶ一段落ついた所だろうし、遊びに来てもおかしくはないだろう。
前エリアボスの火龍である可能性はゼロではないが、今までの事を考えると、その可能性は限りなく低いと思われる。
「ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ。俺が行く。ドラゴンが見える場所まで案内してもらってもいいか?」
「あっ、はい! こちらです!」
鷹は慌てた様子で外へと飛び出していく。
俺も鷹を追って外へと出た。
「あっ、エンラさん。お久しぶりです! オレです! ボルドですよ!」
外へと出ると、そこにはもう着地している赤いドラゴン、ボルドの姿があった。
その様子を見た鷹は腰を抜かすほどの驚きっぷりを見せていた。
まあ、遠くに小さく見えていただけのドラゴンがちょっとしたら目の前にいるなんて状況になったら驚くよな。
でもドラゴンの飛行速度だったら、そうなってもおかしくはないんだよな。
多分俺が飛んでいる時もそのような状況になる事が多いしさ。
それを考えると、ドラゴン相手に偵察ってあんまり意味がないのかもしれない。
「久しぶりに会ったが、元気そうで何よりだ。自分の仕事は一段落ついたのか?」
「あっ、いやまだ全然終わりそうにはないですけれど……でも結構頑張ってはいるんですよ? エンラさんに火山に来てもらった時の水準位には回復しました」
「おお、それはすごいな。順調という事じゃないか。それで今回、ここまで来てどうしたんだ? 何かあったのか?」
「いや、何となくエンラさんやキュビカさんに会いたくなっちゃって。なかなか会う機会なかったですからね。二、三時間ほど時間がとれそうだったので、ちょっと立ち寄ってみようかと思った次第なんです」
「それはご苦労様だな。このまま立ち話もなんだから、中に入ってくれ」
「あっ、はい! おじゃまします!」
そう言葉を交わした後、俺はボルドと一緒に自分の家の中へと入っていく。
俺の家は自分が通常サイズで入っても大丈夫なような広さがあるので、ボルドほど巨大な体であっても中に入ることができるのだ。
まあ、俺とボルドが中に入るだけで、家の中はだいぶ窮屈にはなってしまうけどな。
「おお、ボルドか。久しいのぉ。エリアボスとしての仕事はどんな感じじゃ?」
「キュビカさん、お久しぶりです。まだまだ大変ですけど、何とかこちらは上手くやってますよ」
そんな感じで話しながら、キュビカの隣に座ってくつろぐボルド。
それからしばらく二人で会話を楽しんでいたようだ。
「この赤いドラゴンがあのボルドさんなのね? エンラから話は聞いていたけど、随分と変わったわね……」
「ああ、本当にな。最初にこの住処をたずねてきたときはひょろひょろで弱々しかったが、今やこんなだもんな。でもこんな見た目をしていても、やっぱりボルドはボルドなんだ」
「そうらしいわね。キュビカと話している時のボルドの顔、とても優しそうな顔をしているもの。多分思いやりのある人なんでしょうね」
「ああ、そうなんだろうな。だからこそ、今の火山はボルドに任せていられるんだ。ここ最近、大きな噴火も特に起きていないしな。きっとボルドが上手くやってくれているんだろう」
かつてオレ達に助けを求めにきた一人の赤いリザードマン。
それが今や火山一帯を管理する巨大なドラゴンだ。
一連の出来事を目にしているとはいえ、やはりにわかには信じがたい事だよな。
今までのボルドと似た容姿をしたカトカは特にその思いは強いようで。
「ねえ、お父さん。ボルドさんってどうなったらあんなお父さんみたいなドラゴンになったの?」
「そうだな……火山を助ける行動をしていたら進化したんだ。とても仲間思いで、勇気ある行動だった」
「ふーん。それなら、僕もそういう事をしたらお父さんみたいに進化できるかなぁ?」
「どうだろうな? 進化の条件については俺もよく分かってないしさ」
「そうなんだ。僕も頑張っていたら、いつかお父さんみたいになれるのかな?」
「なれるかもしれないな。だけど別に俺みたいになる必要もないだろ。カトカは俺以上に器用な手足を持っているし、生活する分にはこれ以上ないほど便利だろ」
「まあ、そうなんだけど……でもやっぱり強くなれたら嬉しいなと思って」
そう言いながらボルドの事を見つめるカトカ。
強くなったら嬉しい、か。
まあ力はないよりはあった方が良いだろうし、気持ちは分からなくはないけど。
でも平和に過ごせるのなら、力は必要ないし、手先が器用で色々とできるカトカの姿が一番な気もするんだけどな。
空を飛びたいと言うんだったら、俺の体の方が良さそうだけどさ。
それからもしばらく、ボルドはキュビカや他の仲間達と色々と話をしているようだ。
仲間達がここでどうして過ごしているのかを聞いたり、今自分が何をしているのか、どう過ごしているのかを話しているようだな。
ボルドが話に夢中になっている間に俺は昼食の準備をする事にした。
ちなみに今日の昼食はハンバーガーだ。
紙に包まれている状態で買う事ができるから、気軽に食べられていいよな。
俺がみんなにハンバーガーを手渡していって、ボルドにもハンバーガーを手渡した。
「エンラさん、これは何なんです?」
「これはハンバーガーという食べ物だ。色々と具材が入っていて、結構美味いんだぞ?」
「へぇ、こんな食べ物初めて見ました。いただいてもいいんですか?」
「ああ、遠慮せずに食べるといい。せっかくここまで来てくれたんだしな」
「そうですか。それでは遠慮なくいただきます!」
ボルドはそう言うと、ハンバーガーを一口で丸飲みにしてしまった。
おいおい、まるでキュビカみたいな食べ方をするな。
もう少し味わって食べてほしかったんだが……
でもボルドの体じゃあ、ハンバーガーは小さすぎたか。
ちなみにハンバーガーを食べたボルドの感想は。
「……美味しい! シャキシャキしていたり、歯ごたえがあったり、色々な食感と味が感じられて、とても美味しいですね、これ!」
「そうだろ? まあもう少し味わって食べてもらいたかったものだが、時間もそんなにないみたいだしな」
「あっ、すいません……。でも本当に美味しかったです。ご馳走様でした。それでは、そろそろオレはお暇することにします。皆さん、お世話になりました」
そう言ってボルドは立ち上がり、ぺこりと頭を下げて、家の外へと出て行った。
俺もボルドの後を追って、見送る事にした。
「今日はよく来てくれたな。また気が向いたら来てくれよ。また美味い物を用意して待ってるからな!」
「今日は本当にご馳走様でした! また寂しくなったらふらっと立ち寄るかもしれないのでお願いしますね! あと、今度はオレが皆さんを招待できるほど火山を復興できるように頑張ります!」
「ああ、期待しているぞ。くれぐれも無理し過ぎないようにな。体には気を付けるんだぞ?」
「ご心配ありがとうございます。それではまた、会いましょう」
「ああ、またな」
そう言ってボルドは空へと飛び立ち、そして火山の方向へと飛んで行った。
そして数秒もしないうちに、ボルドの姿は小さくなり、そして見えなくなった。
ドラゴンの飛行速度ってやっぱり早いなぁ。
自分でも何となく早いとは思っていたけど、こうやって客観的に見ると一層感じるわ。
「エンラ、おかわりはまだかー?」
「あー、はいはい! 今戻るからちょっと待ってろ!」
家の中からおかわりを催促するキュビカの声が。
あまり待たせるとキュビカの奴、うるさいからな。
ボルドを見送った俺はすぐに家の中へと戻り、そして昼食を再開するのだった。
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二百六十九日目:残金17496150B
収入:キュビカ達の獲物(32日分)2938000B
支出:食費など(32日分)1012000B
収支:+1926000B
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