144.鬼と出会いました
飛び立って、そのまま火山へと突入する俺達。
火山に入ると、火山灰などがより酷くなってきたので、キュビカがバリアを張ってくれた。
「ありがとな、キュビカさん。それにしても、やっぱり噴火の源に近付くと一層被害がひどくなるな。火山の住民は大丈夫なのか、ボルケーノリザードさん?」
「はい。ちょっと大きめな噴火だったとは思いますが、生活するには支障ありません。火山灰などに対してオレ達は耐性を持っているので」
ふーん。
まあそうでなけりゃ火山でなんて生活していけないもんな。
火山灰がダメな生物が火山にいたら、ちょっとでも噴火をする度に逃げないといけなくなるしさ。
それはそうと、この赤いリザードマンをボルケーノリザードさんと呼ぶのは何だか面倒だな。
何しろ名前が長すぎる。
もうちょっと呼びやすい名前で呼んでもいいだろうか……
「そういえばボルケーノリザードさんには名前がないのか?」
「えっ? はい、ないですけど……」
「なら好き勝手に呼んでもいいよな? 例えばボルドとかさ」
「はい、構いませんよ。それって名前って奴ですか?」
「まあそういう事になるな。別にこちらで勝手に呼ぶだけだからあまり気にしないでくれ」
名前の呼び方が11文字から3文字に減れば、格段に呼びやすくなるからな。
そもそも他のボルケーノリザードが登場した時に、コイツを呼ぶ際に便利だしな、名前があると。
「そういえばキュビカさん。赤鬼はどの辺りにいるんだ? まだ時間かかりそうか?」
「いや、もうすぐじゃ。ほら、あそこに黒い雲に覆われた山があるじゃろ? あの辺りにいるはずじゃ」
いやいや飛んでいる時にあそこと言われても見えないんですけど……
でも周囲を見渡すと、黒い雲に覆われた山を見つける事ができた。
多分あそこの事を言っているのだろう。
「了解。あそこの山頂付近に行けばいいのか?」
「恐らくそれで問題ないはずじゃ」
「それじゃ、ちょっと加速するぞ。しっかり掴まっていろよ!」
目的地がハッキリとし、速度を上げる俺。
そして一分も経たないうちに、その目的地、黒い雲に覆われた山の山頂付近へとたどり着いた。
着陸した後、キュビカとボルドを陸におろすことにした。
「この辺りでいいんだよな。さて、赤鬼はどこにいるんだろうか?」
「恐らくあちらの方向にいるはずじゃ。では向かおうぞ」
キュビカを先頭にして、俺とボルドは赤鬼のいるであろう場所へと向かうことにした。
周囲は霧に覆われ、視界が非常に悪い。
周囲の気配も探知できないようになっているようで、周囲から気配が全く感じない。
進む先もほとんど真っ白で見えない状態が続き、まさに一寸先は闇状態になっている。
果たして本当にこんな状態で赤鬼に会えるのだろうか?
しかしその心配は杞憂だったようだ。
しばらく進んでいると、ある時、急に霧が晴れると同時に、角の生えた人物の姿が現れたからである。
木製の長机とたくさんの椅子が並んでいて、その机の上には数々の料理と酒らしき瓶が置かれていた。
そしてその料理や酒を味わっている二人の鬼、赤鬼と青鬼の姿を発見することになった。
「久しいな、赤鬼と青鬼や」
「おおっ!? あんたは聖焔さんだな!? 随分と久しぶりじゃねえか!?」
「聖焔殿、ご無沙汰しております」
交わしている言葉からすると、キュビカと鬼達は知り合いのようだな。
あれっ?
でもキュビカって確かエリアボスと自分のエリアの生物としか会話ができないんじゃなかったっけ?
何で鬼と会話ができているんだ?
「キュビカさん、なんで鬼さんと会話ができているんだ? 鬼さんは火山エリア所属のはずなのにさ」
「ああ、それはのぅ。あの青鬼のおかげなのじゃ」
「青鬼さんのおかげ? 何か魔法でもかけてくれているのか?」
「そうじゃ。青鬼は周囲に言葉を通じ合える空間みたいなものを作る事ができる。じゃから青鬼の周囲にいれば、自然と誰とでも会話が成立するんじゃよ」
言葉を通じ合える空間、か。
きっとイルカが使っていた魔法みたいなものを青鬼も使っているということだろう。
実際に、言葉は通じ合っているようだしさ。
「おっ、後ろにいるのは、まさか赤龍か!? その割には色がだいぶ変わったようだが……?」
「いや、こいつは赤龍ではない。わらわのエリアに棲みついておる、エンラという全く別のドラゴンじゃ」
「エンラです。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしくな、エンラさん」
「エンラ殿、よろしくお願い致します」
鬼達とそうやって挨拶を交わす俺。
見た目はごつくて、凶暴そうな大男という感じだが、意外とフレンドリーな奴らなんだな。
ちょっとほっとしたわ。
むしろ青鬼に至っては、物腰柔らかくて、礼儀正しいというか。
赤鬼は比較的イメージ通りのがさつで豪快な鬼って感じだな。
「おっと、まだ連れがいるようだな。そこにいるのは……ボルケーノリザードか?」
「あっ、はい。ボルケーノリザードです。今日はお願いがあって参りました」
「お願いだぁ? 何か言ってみろ」
赤鬼にそう催促されると、ボルケーノリザードはあわわと焦って、俺の方をチラチラと見ながら助けを求めてくる。
別に赤鬼に敵意はなさそうだが、赤鬼にじっとにらまれると緊張する気持ちは分かるな。
だって怖いんだもん、赤鬼さん。
仕方ないから俺が代わりに言ってやるか。
「火山が枯れつつあるのは知っていますよね、赤鬼さん?」
「ああ、もちろんだ。赤龍がいなくなってからは、徐々にではあるが、確実に衰退の一途をたどっているな」
「このボルド、いや、ボルケーノリザードは、その現状の深刻さにいち早く気付き、俺に助けを求めに来たという訳です」
「ほう、ちなみにどんな内容で?」
「火山の衰退を止めてほしいとお願いされました。そしてその為には火山にエリアボスが必要だと。だがエリアボスを立候補している蛇とサソリの決着はつきそうにない。だから第三者である鬼さんに白羽の矢が立ったという訳です」
ちょっと鬼に伝える話を変えてみた。
だってボルドからエリアボスになってほしいと頼まれたって正直に言ったら、「お前さんがエリアボスになればいい話じゃねえか」と言われて終わってしまう気がしたからだ。
もし俺が逆の立場だったら、そう言って適当にあしらおうとするだろうからな。
「ほう。つまりおれにエリアボスになってほしいと?」
「そういう事ですね。現状蛇とサソリの戦力が拮抗していて、全くエリアボスが決定しない状態です。そこで火山出身かつ力もある第三者、鬼さんにそこは解決していただけないかと思いまして」
俺がそう言うと、うーむとうなる赤鬼。
そしてぐびっと近くの杯に入った酒を飲み干した。
「残念ながら、おれにはその資格はねぇな」
「えっ!? それはどういう意味ですか!?」
「確かにエンラさんの言う通り、おれは火山出身だし、それなりの力もある。だがエリアボスというのはエリアを管理する必要があるだろう?」
「まあ、そうですね」
「おれは極度の面倒くさがり屋だ。そもそも火山の他の生物の事なんか知ったこっちゃねぇ。おれはおれだけが快適に過ごせればそれで十分なんだ。エリア全体を管理するなんて真似はとてもできそうにねぇ」
おれだけが快適に過ごせればいい、か。
何だか俺と考えが似ているな。
俺はキュビカのエリア出身だ。
だから火山の事なんか知ったこっちゃないと。
耳が痛くなる話だな……。
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