12.食べ放題メニューを注文してみました
ザーッ
「この水本当においしいよね!」
「こんなにおいしい水、飲めて幸せだわ……」
「本当、最高ッス!」
川が流れる音が聞こえる。
それと同時に、数々の動物達の声も聞こえてきた。
どうやら動物達が川の水を飲めるようになったというのは本当らしい。
俺もその中に混じろうと川の近くまで来たのだが……
「う、うわぁぁぁ、逃げろー!?」
「ど、ドラゴンだぁー!? 殺されるー!?」
俺を見るなり動物達は一目散に逃げて行ってしまったのだ。
そして、川に残ったのは俺とコクリだけになった。
「やっぱり怖がられるんだな、今の俺って」
「ま、まあ今のエンラってドラゴンだもんね。無理もないわ……」
体を軽くしたから地響きでみんなを驚かせることはなくなったが、姿は巨大なドラゴンのものであることは変わりない。
多分ドラゴンって魔物の中でも強い存在だろうから、動物達が怖がるのも当然の話だろう。
事実、俺の周囲に脅威となる気配が全く感じられないのだ。
少なくとも俺が気配を感じ取れる範囲の中では。
「悪く思わないであげてね。きっと彼らに悪気はないだろうから」
「それは分かってる。俺だっていきなり強大な力を持つ魔物が来たら逃げ出すだろうし、それは自然な事だからな」
かつてツインヘッドに遭遇した事があったが、その時、俺は逃げ出そうかどうか迷っていた。
コクリを助けたいという思いがあったからその場に踏みとどまってはいたが、一人だったら逃走一択だっただろう。
そのツインヘッドと俺の立場が、今の動物達と俺の立場になっているだけだ。
そう理屈は分かっているんだが、何だか俺がみんなに嫌われている感じがしてちょっと寂しい。
「ほら、川の水を一緒に飲みましょう? 私、喉渇いちゃった」
そう言ったコクリは川に近付き、そして川の水を飲み始めた。
俺もコクリの隣へ行って川の水を飲んでみる。
……うん、美味い。
人間の体だと川の水なんて源流に近い上流の水でないと飲めないものなのかもしれないが、今の俺はドラゴンだ。
人間の頃に比べて体はずっと頑丈になっているだろうし、多少の不純物が水に入っていても、きっと大丈夫だろう。
そういえばお腹が空いたな。
何か女神ショッピングで食べ物を注文しなくては。
でも今の俺の体だと相当な量が必要だろうな……
予算はちょっと多めに1000B位は見ておいた方が良さそうか。
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どの1000B以下で買える食べ物をお買い求めですか?]
残り所持金 73020B
おすすめ順 3215632件中5件表示
本日のお目覚めセット(朝限定) 1000B
チャーシューメン 1000B
アラビアータ(辛口) 1000B
チャーハン 1000B
お寿司詰め合わせ 1000B
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あー、何か美味そうなものばっかりだよなぁ。
だけど絶対量は足りないだろうな。
人間サイズで出てくるだろうしさ。
食べたいんだけど、腹の足しになりそうにない。
残念。
いや、ちょっと待てよ?
なんとかセットって、確か何かがおかわり自由の所もあるんじゃなかったか?
もしかしてこの本日のお目覚めセットというものもそうだったりするんじゃ……
ちょっと見てみるか。
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以下の物を購入しますか?
残り所持金 73020B
本日のお目覚めセット(朝限定) 1000B
○注意点○
・時間は6~11時の間に限定されます
・ご飯とみそ汁と水はおかわり自由です
・11時を過ぎると食べ物が消滅します
・1セットあたり食べる事ができるのは一名のみです
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おっ、やっぱりご飯とみそ汁がおかわり自由と来たぞ!
ご飯を食べていれば腹は膨れるだろ。
これで決まりだな。
だが問題は時間だ。
今の俺には時間を確認する手段がないんだよな。
日の傾きからおおざっぱな時間は分かるんだろうが、この世界でいう太陽がどの位置にあるから何時なのかは分からない。
なら手っ取り早く、時計を取り寄せればいいかな。
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以下の物を購入しました。
残り所持金 63020B
デジタル腕時計(太陽電池付き) 10000B
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ちょっと贅沢してみました。
というか、下手にケチって、時計がすぐに壊れたりするとまずいからな。
時計の電池が途中でなくなるのも困るので、日の光で充電できる太陽電池の時計一択だし。
さて、早速腕につけて―――
って、やばっ!?
腕につけられないじゃないか!?
今の俺の腕のサイズって人間の腕の何倍にもなるだろうからな。
よくよく考えればそのままじゃ人間サイズの腕時計を俺の腕につけられる訳ないじゃないか……
仕方ない。
ここは応急措置だ。
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以下の物を購入しました。
残り所持金 62820B
輪ゴム 100B
セロハンテープ 100B
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俺は腕に輪ゴムを何重か巻き付け、そしてその輪ゴムと腕時計をセロハンテープでくっつけた。
ふう、これで何とか腕時計を装着できたな。
見た目はともかく、使えることが重要だ。
何だかとっても頭の悪い方法をやっている気もするが、気にしても仕方がない。
良い方法を思いついたらその時それを試してみればいいだけだ。
さて、今の時間はというと―――10時10分か。
まだいけそうだな。
この時計、どうやら日の光を感知して自動的に時間を合わせてくれるらしいから時刻の狂いはないらしい。
……この世界の日の傾きと時間の関係が元の世界と一緒だったらの話だが。
とにかく心配しても仕方がない。
この時計が正しいと信じよう。
もし誤差があった場合はどれ位の誤差があるのか把握すればいいだけだ。
さあ、朝食を楽しもう!
「コクリ、お腹空いていないか?」
「え、ええ、空いているけど……」
「分かった。コクリの分も朝食を用意しておくからな」
「えっ、いいの? 私、まだ対価となるもの用意できていないんだけど?」
「そうだな……じゃあこの時計はコクリにあげたもので、そして今回、時計はコクリから対価としてもらったものとする! それなら文句ないだろ?」
きょとんとするコクリ。
でもその後、「気遣ってありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」と言ってくれた。
ドラゴンの姿になっても普通に、親しげに接してくれた事自体が俺にとっては大きな心の助けになったからな。
もう俺はコクリから対価は十分もらっているんだ。
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以下の物を購入しました。
残り所持金 60820B
本日のお目覚めセット(朝限定)×2セット 2000B
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その画面が表示された瞬間、俺とコクリの目の前には和食のセットが出現した!
ご飯にみそ汁、それに漬物。
おかずはアジの塩焼きで、これぞまさに日本の朝食という感じだ。
「な、なんなのこれ……!?」
「うーん、何て言えばいいんだろうな? 遠く離れたとある地域の郷土料理と言っておこうか。結構美味いんだぞ?」
「そ、そうなのね。早速食べてみようかしら」
「あっ、皿などは食べられないから注意しろよ! そのフタ、食べられないからな!?」
みそ汁のフタを食べようとしたコクリに注意する俺。
食器なんて馴染みがないからどうしていいのか分かりようがないか。
前に水をコクリと一緒に飲んだ時は入れ物を食べようとしなかったのは偶然だったんだろうか?
あっ、そういえばその時は容器に水が入っていたから最初に食べようがなかったもんな。
つまり、たまたま問題にならなかったと。
うーん、常識が違うって難しいなぁ。
ただ一回理解してもらえれば後は特に問題にならなかった。
容器に入った食べ物を次々と食べていくコクリ。
箸などは使えないので、もちろん容器に直接顔をつっこむ形で食べる事になるのだが。
そしてあまり時間かからずにほとんどの食べ物を食べ切ることができた。
だが、その中でまだ全然食べきれていないものが一つ。
みそ汁である。
ペロペロとみそ汁を舐めようとしているのだが、ひと舐めする事にビクッと震え、なかなか飲む事が出来ないのだ。
「熱い! 熱すぎるわよ、これっ!? どうしてエンラはそんなに平然と飲めるのよ!?」
「えっ、何でかって聞かれても……慣れかな?」
みそ汁に苦戦するコクリをよそに、俺はみそ汁の容器を手に持ってズズッと慣れた手つきで平らげる。
そしておかわりと念じてまた次のみそ汁を飲み始める。
あっ、もちろんご飯もたくさんおかわりしてます。
でないと腹一杯にならないからな。
やっぱり手が使えるって素晴らしい。
手先の器用さは人間の時には及ばないみたいだが、それでも容器を持ちながらみそ汁を飲んだり、箸を使って料理を食べるには十分だった。
サラマンダー時代よりも断然人間らしい生活が出来ている感じがするな。
正直別に人間である事にこだわりはない。
だからドラゴンの体をしていることに不満は全くないのだ。
でもやっぱり人間としての生活に慣れてしまっていたからか、そういう生活が俺にとっての理想になってしまっているんだよな。
これからも女神ショッピングを活用して、もっと快適な暮らしが出来るように頑張ろっと。
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四日目:残金60820B
収入:なし
支出:お目覚めセット(朝限定)2000B、デジタル時計10000B、輪ゴム100B、セロハンテープ100B
収支:ー12200B
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