118.お店を再開してみました
翌日。
俺はいつもの場所で店を開く準備をしていた。
今回はその隣でカトカがシチュー作りをしている所がいつもと違う所だな。
もう昨日何回もシチュー作りをしていたからか、もうカトカのシチュー作りの手順には迷いがない。
実に頼もしいことである。
「おはようございます、エンラさん。あれ、今日はエンラさんじゃなくてカトカさんが料理をしているんですか?」
「ああ、そうだぞ、カリス。今日はカトカが料理担当なんだ。こうみえてもカトカの料理、けっこう美味いんだぞ?」
「そうなんですか! それなら是非一口たべてみたいですね! 良いにおいもしてきましたし!」
「うーん、良い香りなんだなぁ。早く食べたいんだなぁ」
「本当。香りをかいでいたらおなかが空いてきたんだよぉ……」
シチューのにおいにつられたのか、カリスなど、いつものリス三人組がやってきた。
開店前にこうやってカリス達が集まってくるのも随分と久しぶりな感覚だなぁ。
「ちょっと待っててくれよ。あと十数分で開店時間になる。それまではいつもの場所で並んで待っていてくれ」
「はい、分かってます。ほらっ、クリス、コリス、いくぞっ!」
「「はーい」」
こうしてリス三人組は店の最前列へと並ぶのだった。
それからもシチューの漂う香りにつられたのか、他にも続々と動物達が現れ、あっという間に店の前には長蛇の列に。
そして――
「待たせたな! それでは今から店を開けるぞ!」
久しぶりの開店。
そして早速カリス達によるシチューの注文が入り、カトカからシチューを受け取って販売するのだった。
カトカのシチューの評判は上々で、続々とシチューが注文され続け、すぐに作った分が完売。
カトカにシチューの材料を新たに渡して、新しいシチュー作りを任せることに。
今まではこの作業を俺一人でやっていた関係上、その間は店舗の運営ができなかったが、今からはそれができるからかなり良いよな。
シチュー待ちの動物達にはちょっと横にずれてもらい、シチュー以外の用件のお客さんを優先的に対応させてもらうと。
実に効率が良いよな。
そんな感じで店舗再開初日は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
「ふう。疲れたよ、お父さん……」
「お疲れ様。カトカのシチュー、みんなにずいぶんと喜んでもらえていたぞ」
「本当!? 良かった……たくさん売れているから味は大丈夫だとは思ったんだけど、気に入ってもらえている事が分かって嬉しいよ」
そう言うとにっこりと微笑むカトカ。
カトカには動物達の声が分からないから、動物達が何を言っているのか分からないんだよな。
シチューの売れ行きがいいから、シチューが好評だというのは分かってはいたんだろうが、実際の評判までは分からなかったということだ。
だからこそ、俺から動物が喜んでいた事を伝えた時、カトカは本当に嬉しそうな顔をしていた。
昨日頑張った甲斐があったな。
ちなみに昨日のカトカは日中、シチューをずっと作り続けていた。
そのため何度も味見をした影響でカトカの味覚もちょっとあやふやになる。
そして毎回シチューを平らげていたクータとキュビカのお腹もぽっこり膨れて、もう食べられないとでもいうかのような表情に。
シチューに目がないクータと底なしの胃袋を持つキュビカをそんな状態にさせるなんて恐ろしい量だったよな……。
でも結局シチューを残さずに食べきった二人はさすがと言うべきなんだろうが。
とにかく、苦労が実ったというのは良かったことだ。
そういえば、カトカのシチューの成功をクータとキュビカに伝えると、何故か二人とも誇らしげな顔をしていた。
もしかして二人とも、こいつはわしが育てた的な感覚でいるのだろうか?
昨日のシチュー猛特訓に付き合った仲だしな。
まあ、二人とも満足そうにしているし、別にいいか。
そんな感じでそれからの店舗営業の日はカトカが料理担当となることになった。
カトカの料理は動物達の中で評判になり、大盛況。
すぐさま俺の店の目玉商品となることになった。
ずっとシチューばかり売り続けるのもどうかと思うので、たまにはカレーやその他料理をカトカに教えたりもした。
頑張り屋のカトカは、店舗休業日にその料理作りの猛特訓をして、その翌日にはその料理を披露してみせたのだ。
たった一日で仕上げてくるその根性は流石だと言わざるを得ないな。
そんなカトカの料理で店舗が盛り上げる一方で、決して俺達は他の店舗業務もおろそかにはしていない。
具体的に言えば、動物達の悩み相談、購入相談などの業務の事だな。
いつものように俺が動物達の依頼を紙に書いてボードにはりつけ、そのボードをターガがみんなの元へと持っていく。
そしてコクリとキュビカの二大エースを中心に続々と依頼をこなしていくのだった。
ところがある日の事。
「エンラ、この依頼、こなせそうにないわね」
「コクリの担当していたのは……3番の依頼だな。人探しの依頼。またか……」
コクリ達はみんな優秀で、ほとんどの依頼を無事にこなして戻ってくる。
故に動物達からの信頼も厚く、次々と依頼を俺に頼んでくるのだ。
だが、そんなコクリ達でも解決できない依頼がちらほらとある。
その代表例が人探しの依頼だ。
数か月前から行方不明の動物を探してほしいという依頼を受けたコクリではあったが、においの痕跡をたどっても、目的の動物は見つからないのだ。
それはコクリ以外の仲間が担当しても同様の結果となる。
嗅覚に優れたコクリでさえ見つけられないのだから、相当困難な依頼なんだろう。
何しろ行方が分からなくなってだいぶ経つのだ。
手がかりも相当少ないことだろう。
「さすがににおいが薄くなりすぎて厳しいといった所か?」
「そうね……それもあるけれど、一番不可解なのが、途中でにおいをたどれなくなっていることなの」
「においをたどれなくなっている? それってにおいが途切れているっていう事か?」
「そうなの。具体的にいえばあっちの湖、ドルフィンレイクのいる湖付近でにおいが途切れているの」
「おい、それってまさか……」
「……ええ。多分だけど、ドルフィンレイクに連れ去られている可能性が高いわね」
ドルフィンレイク。
サハギン達も寄り着けないほどの強さを持ったイルカ。
そいつに見つかった者は容赦なく湖の中に引きずり込まれ、息絶えていくといわれている。
……どうやら数多くの未解決の依頼はドルフィンレイクが絡んでいるようだな。
というか、湖の中に引きずり込まれている時点で、もう行方不明の動物達は息絶えているだろ。
申し訳ないが、息絶えてしまった動物を救い出す手段はないし、依頼の動物にはそう伝えて諦めてもらう他にないな。
とても気の毒ではあるが……。
「エンラ! 大変、大変なのじゃあ!?」
声がした方を振り向くと、そこにはこちらに向かって走ってくるキュビカの姿が。
すごく慌てている様子だったのだが、一体どうしたのだろうか?
「どうしたんだ、キュビカさん? そんなに慌てて?」
「つい先程依頼をこなしている途中で見かけたんじゃ! 湖の中に動物が引きずりこまれる瞬間をな!」
「な、なんだって!?」
湖の中に動物が引きずりこまれる……間違いなくドルフィンレイクの仕業なんだろう。
その瞬間が目撃されたということであれば、ドルフィンレイクが動物の行方不明事件に関わっている可能性は非常に高いだろう。
そもそも、今のまま放っておけば、引きずり込まれた動物が危ない。
まだ引きずりこまれて間もないのであれば、急げば助けられるかもしれない!
「キュビカ、その湖の所まで急いで案内してくれないか!?」
「分かったのじゃ、こっちじゃ!」
「私もついて行くわよ、エンラ!」
こうしてキュビカとコクリと一緒に、俺は湖へと急ぐことにした。
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百九十三日目:残金15037150B
収入:キュビカ達の獲物(18日分)1318000B
支出:食費など516500B
収支;+801500B
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