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想い猫  作者: 追々
3/7

怒る勇気 ラース

ただ優しくするのは誰でもできます。本当に想っているなら心を鬼にして怒ることも大切です。自分に嘘をつかないで人に自分の気持ちをぶつけましょう。僕も怒れるようになったのは、高校生になってからです。

早希は今日もトランペットを吹いていた。でも前とは違い、今の早希の周りには部員がいて早希も相変わらず自分の意見は言うが、間違ったことを指摘されれば素直にその意見にも耳を傾けるようになっていた。

「みんなー! 一回集合してもらっていい?」

 顧問の先生が部員全員に声をかける。

 そもそも顧問が部活に来ること自体が珍しいことだ。吹奏楽部は実質部長がほとんど取り仕切っている。

「みんなに紹介するわね。今度転校してくることになった玉城りなさん。入って」

 音楽室に入ってきたのはここの学校のものではない制服を着た女の子だった。

「初めまして。玉城りなです」

「玉城さんはお父さんの転勤の都合でこっちに引っ越してきたの。学年は二年生ね」

「はい、けど新入生と同じ気持ちでみんなと仲良くなりたいと思います。それでこっちでは部活にも入ろうと思って。登校するのは来週からだけど今日は部活だけでも見学したくて。邪魔はしないのでよろしくお願いします」

 りなの快活な声が音楽室に響いた。

 顧問が去ると、部員達はみなそれぞれのパート練に戻る。

「じゃあこの椅子に座って」

 部長がそう声をかけるとりなはお礼を言いながらそこに座る。その様子を見ていると、一ヶ月前の私を見ているようだ。

 早希はそんなことを思いながらそちらに目をやるとりなと目が合った。にっこりとほほ笑みかけて来る。早希はそんな戸惑いもなく笑いかけるりなに興味を持った。

 部活が終わり早希が学校を出ると、さっきまで音楽室にいたりなの後ろ姿を公園付近で見つけた。

「玉城さん?」

 早希が話しかけるとその顔は困っていて今にも泣きそうな表情だ。

「えっと……吹奏楽部の部員で早希って言います。……どうかしたの?」

「実は……道に迷っちゃって」

「え?」

 りなが目の前の市街図を見ながらそう言う。

「お母さんと一緒に来てたんだけど、もっと町を見てみたかったから先に帰ってもらったの。家も遠くないから大丈夫かなって思ったんだけど……やっぱり今日の今日で出歩くものじゃないね」

 悪戯がばれた子どものように困った表情をするりなの顔はまだまだあどけなさが残る幼い顔立ちをしていた。

「家はどこなの?」

「三丁目の郵便局の近くなんだけどわかる?」

 そう言って見せられた地図は早希の家からも近い場所だ。

「ここ私の家からすごく近い……」

「そうなの! ……良かったら案内して欲しいなぁなんて」

 りなはそう言いながら人懐っこい笑顔で早希を見た。

 それが二人の出会いだった。早希はいつの間にか、りなのペースに乗せられいつも一緒に帰るようになった。

 りなは早希と仲良くなったこともあり吹奏楽部に入部することにした――元々音楽が好きだったこともありそれほど迷っていなかったようだが。

 しかしりなもまた早希と同じようにトランペットが担当楽器となった。それはやはり早希の影響が大きかった。帰り道、早希が楽しそうにトランペットの話をするのを自分もやってみたいと思うのは自然なことだったと思う。

「早希ー。そろそろ帰ろうよー」

 いつもの様にりなが早希に寄って来る。今日もギリギリまで練習をしていた早希が一番最後になってしまった。

最近のりなと早希はすっかり打ち解けて意気投合し、クラスは違えど部活のとき、それと、朝と夕方の登下校もいつも一緒だった。お互い半端な時期に入部したことや、トランペットをやるのも初めてということも合って早希もすっかり以前の早希の様に明るく話せるようになっていた。

「はいはい。りなはいつも帰る準備だけは早いんだからな」

「何よそれー。先に出口に行ってるからね」

 りなはそれだけ言うと音楽室を出て行った。

『おい。何してんだよ』

 早希が一人になった途端、彼女に話しかけてきた者がいた。その存在を早希は久しぶりに感じた。

「猫くん」

 そこに現れたのは三毛猫で、表情はないものの言葉や雰囲気から怒っているのがわかった。

『 “猫くん”ではない。俺はラース。早希が失った“怒り”を持つ者』

「怒り?」

『そうだ。お前今何してるんだ?』

「何って……」

 早希は今までとあまりにも雰囲気が違う猫に言葉を失った。猫は窓から飛び下り、早希の足元に近寄って来る。

『俺達がそもそも何でお前の前に現れたか分かってるのか?』

「それは……」

『失ったものを取り戻す為だろ。なのに今のお前と来たらヘラヘラヘラヘラしやがって』

「…………」

 早希は押し黙っている。

『とにかく今のお前のままじゃとてもじゃないけど会わせられないな』

「会わせられないって……誰に?」

「早希ー!」

 りなの声がしたと思うと、音楽室のドアが開いた。

「遅すぎだよー! 何してるの? ていうか今誰かと話してなかった?」

「りな……」

 早希は我に返り、足元を見るとラースはいなくなっていた。


『なんだってあいつは!』

『ラース落ち着いてくれよ』

 ひたすら怒るラースを猫達は宥めている。

『今のあいつを見たか?!タケルのことなんてすっかり忘れているようだぜ』

『そんなことないとは思うが』

 一匹の猫が言う。グリードとアニカが消え、そこにいる猫達ははラースを合わせて六匹だ。

『グリードもアニカもあいつが失ったものを取り戻したからいなくなったんだ。それが無駄だったってことか?!』

『ラース……』

『俺は……俺達は一体何の為にいるのか忘れたわけじゃないだろう?』

 ラースの言葉に猫達はもう何も言えなくなっていた。



 早希は家に帰るとラースに言われた言葉を思い出していた。

『俺達がそもそも何でお前の前に現れたか分かってるのか?』

 ラースと名乗る猫はそう言っていた。彼の言葉が早希の心に引っ掛かる。

 早希は猫達に出会ってからは少しずつ元の自分に戻りつつあると感じていた。でもそれでも彼は今の早希では足りないという。一体何が足りないのか、それが自分でも何なのかわからない。

――タケル。

 早希は傍目に見たら前ほどタケルのことを思い出さなくなったように見えていたのかもしれない。けどそれは間違いで、早希は前と変わらずタケルのことを思い続けいていた。

 こんなときタケルがいてくれたら、タケルは私に何て言っただろう。

 早希はそんなことを思いながら眠りについた。


「早希。早希は僕がいなくても大丈夫?」

 ああ、これは多分夢だ。もういるはずのないタケルが私に問いかけている。

「でも、早希ならきっと一人で歩けるはずだから」

 何言ってるの?

「早希、僕のことは忘れて前を向いて」

 嫌だタケル。タケルタケルタケル――。


 そこで目が覚めた。

 久しぶりに見たタケルの夢。タケルに会えるのは嬉しいけど夢の内容はいつも寂しいものだ。早希はベッドの上でいつの間にか流れていた涙を拭った。


「ごめん、りな。今日は先に帰っててくれる?」

 いつもの様に部活を終え一緒に帰ろうと思っていたりなはその言葉にあからさまに驚きの反応を見せる。

「別にいいけど……早希、どうして?」

「うん、ちょっと用事があって」

「そっか、じゃあ……また明日ね早希」

「うん、また明日」

 早希は自分のしたいこと以外はほとんど自分の意見を言わなかったのでりなは驚いたのだ。

――確かに早希は少し頑固なとこはあるけどでも前はもっと違っていたって他の部員の子が言ってたな。

 りなが転校してくる前の早希の話は同じクラスの子や部員の子に少し聞いたことがあった。何でも大きな事故で幼馴染をなくし、そこから人が変わったように冷たくなったと。

 でも今の早希は、笑うことはなくても私といつもまっすぐ向き合って話してくれる。

 前の学校ではりなはそういった友達はいなく、早希のような子は初めてだった。

 早希――。

 何かあったら話してくれたらいいのに。

 りなは校門を出ると、音楽室の窓を見ながらそんなことを思った。


『早希。ここに一人で来るのは久しぶりじゃないか』

 そこはいつも早希が猫と話す公園だった。最近はりなとずっと一緒に帰っていたので早希が一人でこの公園に来るのは久しぶりのことだ。

「あなたとお話ししたかったから」

『何故だ?』

 ラースは早希に近づき、まるで睨み付けるかのように早希の顔を見た。

「……昨日のあなたの言葉が気になって」

『昨日の言葉?』

「“お前にはまだ会わせられない”って」

『……早希。怒りってどんなに大事なことか分かるか』

 早希はラースの言葉に何か言おうとしたが何と言えばいいかわからず黙り込んでしまった。

『相手のことを想うから、大事な人だから怒るんだ。早希』

 ラースのやはり睨んでいるように感じるがでもその言葉は昨日よりも温かみを感じた。

『何で俺が早希にこんなこと言ってるかわかるか?』

「それは……私が失ったものを取り戻させたいからでしょ?」

『……お前はまだ何もわかってない』

 ラースはそれ以上何も言わなかった。


 早希はラースにそんなこと言われた次の日でもいつもの様に学校に行った。放課後になると例の大会も近いことから練習にも熱が入る。ただ、りなは逆だった。

 りなも最初、トランペットを吹くことを心の底から楽しんでいた。その上達ぶりは目を見張るものがあり、早希と一ヶ月しか違わないと言えど、早希よりも数段先にいってるようだ。

 なのに最近のりなは前よりも楽しくなさそうに早希の目には見えた。

「ストップ! 大分曲とテンポがずれてるわよ。特にトランペット! 誰とは言わないけどもっと集中してね」

 全体練習をしていると珍しく部長の激が飛んだ。部長は普段は穏やかで滅多に怒ることなどないが、大会前、特に期待している人にはつらく当たるところがあった。しかし、それを意味するものはそれだけ当人に期待しているということだった。

「りな……何かあった?」

 いつもの帰り道、早希はりなに質問を投げかけた。

「別に何でもないよ」

 りなはいつもの屈託のない笑顔で返事をするが、それは無理に笑顔を作っているようにしか見えなかった。

「嘘。何かあるんでしょ?」

「やっぱり早希には嘘つけないなあ。私ね……吹奏楽部やめようって思ってるんだよね」

「……いきなり何言ってるの?」

 早希は言葉の意味が分からず聞き返すが、りなは構うことなく言葉を続けた。

「前の学校でもそうだったんよね。チア部に入ってたんだけど、ある程度やってたらつまらくなっちゃって。それでやめたんだよね」

「…………」

 何か言葉を返したかったが、余りに突拍子もないことに早希は何も言えなかった。

「トランペット楽しかったけど、大会とか私そういうの出れなくてもいいかなーなんて。それに最近は部長からもいろいろ言われるようになったしさ」

「それはりなが期待されてるからじゃないの? だってりなは私なんかよりもよっぽどできてると思うし」

 りなは聞いているのかわからないように前を向き歩き続けていた。

「でもそれでも私は楽しいから。りなとこれからも一緒に演奏したいよ」

「それだけ?」

「それだけって……」

 早希は戸惑いながら言葉を探すが何も言えなくなっていた。

「早希とは家も近いし、別に会えなくなるわけじゃないんだしさ」

 その言い方はまるで、一緒に帰ろうと誘うのと同じことを言っているような軽さだ。

「……何よそれ」

「え?」

 りなは最初、早希が言ったのだと分からなかった。

「一生懸命がんばってなんかないのにどうしてそんなことが言えるの?」

 その目は今まで見たことがない光が早希の目に宿っていることがわかった。

「りなはトランペット好きなんでしょう? あんなに楽しそうに演奏してたじゃない? どうしてそんな簡単にやめるなんて言えるの?」

 早希は自分で頭に血がのぼっているのがわかる。でも言うことを止めることが自身で出来なかった。

「私はりなと出会って仲良くなれて本当に心の底から嬉しいって思ったの。私だってやめようって思ったよ。みんなとは仲良くなれないし、トランペット好きなのに全然上手くならないし」

――あの曲を早く演奏したいのに。

 早希はそこで一旦言葉を飲み込む。

「早希……」

「……もういい」

 早希はりなに背を向けると一段と低い声で告げた。

「やめたいならやめちゃえば。りななんかもう知らない」

 そのときりなはどんな表情をしていたのか。早希はもうりなの顔を見ることはなかった。


「ラース、いるんでしょう?」

『なんだ?』

 早希がいつもの公園で呼びかけると、どこからともなくラースは現れた。

『早希の方から呼びかけるなんてよっぽどのことみたいだな』

 そんなことを言うラースの顔は不敵な笑みを浮かべてるように早希には見えた。

「ラース私に言ったよね? 『ヘラヘラなんかするな』って」

『ああ、言ったな』

 いつもならラースに対して何も思わないはずなのに、今日は体から違うエネルギーが湧いてくるようだ。

「……そんなわけないじゃない!」

『……早希?』

「そんなわけない! 私は今だってこんなにタケルのこと考えて、タケルに会いたくて……。でもそんなの無理だって分かってるから。だから今出来ること一生懸命やってるのに!   私だって辛いのに……どうしてそんな風に言われなきゃいけないの!」

『…………』

 ラースは早希が体中から叫んでいる言葉を反論をすることなく聞いている。

「りなだって……りなだってそうだよ。どうしてあんなこと言うの?」

 その言葉は誰に向かって言っていたのだろう。

「私は一緒にいて、下手でも一緒に演奏出来て。りなも同じ様に思ってるんだって思ってたのに。……ラース?」

 早希がそこまで言うとラースの体が光り始めていることに気がついた。

「ラース。どうして? まだ私言いたいこと沢山あるのに!」

『早希。もう一回りなにぶつかってみろ。その気持ち忘れるんじゃねえぞ』

 それだけ言うとラースの体は光に包まれ消えた。

「ラース……」

 そこにはもう誰もいなかったが早希は空虚にむかって呟いていた。



 次の日、早希はいつもの様に部活に向かっていたが、その足取りはやはり重い。

 ラースはやはり消えてしまったようだった。あれからどんなに呼びかけても出てきてくれることはなかった――それは今までの猫達にも言えることだったが。

 音楽室に着いたが、そこにはりなの姿はなかった。

(りな……)

 毎朝一緒に学校に向かっていたが、さすがに今日は昨日のこともあり早希はわざと時間をずらして学校へ行った。だからりなと今日初めて会うのは部活のはずだったが、そのりなはいない。

 りなはやはり来ないのだろうか? 私があんなこと言ったから?

 結局その日は音楽室にりなが現れることはなかった。

 早希は帰り道公園へと向かった。しかし、そこでも自分が望んでいる姿は現れなかった。

 ラース――。

 タケルを失ったときの様な虚無感が早希を包む。


 その次の日。早希はいつもりなと待ち合わせしていた時間にその場所に向かった。しかし、ギリギリまで待ってみてもりなはその場所にも現れなかった。

 早希はりなの教室へと向かった。部活に来てくれないなら、自分の方から向かおうと足早にりなのクラスへと向かう。

「りなちゃん? 今日も休んでるみたいだけど」

「え?」

 教室に着いてみたものそこにりなの姿はなかった。さすがに心配になった早希は近くにいた女子にりなは?と問いかけてみたが思わぬ返事に驚いた。

「どうして休んでるの?」

「うーん、多分風邪とかじゃないのかな? 最近調子悪そうだったし」

「……そっか、ありがとう」

 早希はそう言うと、浅くお辞儀をしてその場を去った。


「はーい」

 玄関のチャイムを押すと、インターホンを通して聞きなれた声が返ってきた。その声は風邪をひいているようには思えない。

「どちら様?……早希」

 玄関のドアから顔を覗かせたりなは、そこに立つ早希の姿を見つけると少し安堵したような表情を見せた。


「何で、今日学校休んだの?」

 早希はりなに問いかけるが、返事は返って来ない。

「……私があんなこと言ったから?」

 やはりりなは黙ったままだ。早希が公園へと連れ出してからりなはまだ一度も口を開かなかった。

「ごめん」

「……え?」

 りなは早希の言葉が意外なものだったようでこちらを見なかったりなが初めて早希を見た。

「昨日私自分の言いたいことだけ言って、りなの話聞こうとしなかった。でもね言ったことは嘘じゃないし間違ってないと思う」

「……うん」

「だから取り消さないよ。……ねぇ、りなはどうして私があんな風に言ったか分かる?」

「それは……私にムカついたからでしょ? 一生懸命やってる早希のこと馬鹿にしたようなこと言ったから」

 そう言うりなの声は震えている。

「それもあるかもしれないけど、それだけじゃないよ」

 りなは不思議そうにそう言う早希の顔を見る。

「ただ……悔しかったの。私はりなと一緒ですごく楽しいのにりなはそうじゃなかったのかなって」

「……早希」

「一緒に演奏して、音が重なると心地よくて安心して……。りなはそうじゃなかったのかなって思ったら悲しくなって……」

――そうだ。ラースと話してたときに体の奥から湧き出てきた衝動。あれは私が失くした怒りだ。

「りなのことわかってあげられなかった自分に対しても怒ってた。……ひどいこと言ってごめんね」

 早希がりなの方を見ると、その目は涙のせいかキラキラして見える。

「早希、私の方こそごめんね」

「りな?」

「私前の学校でチア部に入ってたって言ったでしょ? でもみんな私のこと嫌だったみたいで」

 りなは自分の顔を見られないように早希にさり気なく背を向ける。

「私って……自分で言うのもなんだけど結構何でも出来ちゃうんだよね。それで一年生のときにいきなりレギュラーに選ばれたりしてさ。それが先輩とかは気に食わなかったみたいで、同じ学年の子にも陰口叩かれたりしたの」

「そうなんだ……」

「だから今度もそうなっちゃうのが怖かった。トランペット楽しくて部長にもあんな風に言われたり、私期待されてるのかななんて……」

 早希は何も言わず、ただりなの言葉を聞いていた。その後姿は気のせいか小さく見える。

「でもそんなことどうでもよくて。私は早希と演奏するのが楽しかった。いつも一緒に学校に行って。部活が終わればまた一緒に帰ってさ。早希はいつも私にもトランペットにも真っ直ぐだったから。だから……早希には嫌われたくなかった。好きになれたトランペットも……本当はやめたくない」

 そこまで言うと震えてた声は完全に涙交じりの声へと変わった。

「私だって!……大好きな友達と好きな楽器演奏してたいよ!」

 うわーんと小さい子どもの様に泣き出したりなを早希は後ろからそっと抱きしめた。

「やろうよ」

 その声にりなはゆっくり振り返る。

「そんなことで私がりなのこと嫌うわけないよ。ていうかそんなことで部活やめようとしてたなんてさ……りなって馬鹿なんだから」

「……馬鹿ってなによ。早希の馬鹿」

 りなは涙を拭いながら早希に笑いかけた。

 次の日の放課後、音楽室にはいつもの二人の姿があった。

 演奏中早希の方を見ると、早希もほぼ同時にりなを見て二人は秘密を共有し合うように笑った。


『ラースが消えた』

『でもまだ早希には足りない。それにりなも……』

 残った五匹の猫で話をしている。猫達は一匹、また一匹と消え今残っている者は早希の失った何を持っているのか。その中には何も話さず、一人で怯えていた猫もいた。



今回もお読み頂きありがとうございます。りなが初登場の回でした。

しかしりなの闇はまだあります。次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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