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THE END OF ONE STORY

 

 ――十年前、紫煙立ち込める邪悪なる孤城で、世界を変える決戦が行われたことは記憶に新しい。後に勇者と呼ばれるその青年はアレン=ウィルエルダー。彼とその一行が挑むその相手は魔王・カースとその軍勢だった。


「魔王!」


 アレンは天から黒雲の覗く玉座の間にたどり着くや、ここまでの戦いで満身創痍だったことも忘れ去ったように、気迫に満ちた瞳で叫ぶ。


「ククク、ついに来たか」


 邪悪な瞳がギョロリとアレンを見下ろす。カースはそれから二人の仲間を舐めるように眺め、低く笑った。


「勇者アレン。そしてパーティの竜戦士アメリアにエルフの魔術士キリトよ。よくぞここまでたどり着いたものだ」

「ふん、貴様はわかっているのか? 私たちパーティをここにたどり着かせる為、どれだけ世界が傷を負ってきたか……」


 アメリアは悲哀に満ちた声を振りしぼる。カースは薄笑いを浮かべながら、飛竜族にも引けを取らない禍々しい黒翼を広げてみせる。その翼だけで玉座の間を包囲してしまうかのような威圧感。


「安心しろ、アメリア。主らに明日は訪れん。余が今より主らを八つ裂きにしてしまうからなぁっ!」


 魔王城を揺るがす慟哭どうこくとともに、カースは宙空を舞う。野獣然とした口許に赤色の魔法陣が光った。


「地獄の業火というものを見せてくれる。──〝ヘル・フレア〟」

「〝地獄の息〟だ、跳べ‼︎」


 アレンとキリトが宙へ跳び、アメリアは翼を広げ、カースの更に頭上へと飛ぶ。刹那、カースの放ったヘル・フレアが玉座の間に広がる。隙をついてアレンがカースを斬りつけるが、伝説の剣を持つ彼ですら魔王の皮膚を裂くことは叶わない。

 アレンはそれを見極めるや、剣を持っていない左手をカースにかざし、目を見開いた。


「〝白雷呪文セティ・エクトール〟‼︎」


 アレンが唱えると、カースを挟むように白色の魔法陣が対になって光る。魔王は黒翼で魔法陣をかき消そうと試みるが、瞬間、左右の魔方陣は彼に向けて白い雷を直撃させていた。


「ぐぐ、これしき……」

「アレンにばかり気を取られていてはいけませんね。──〝氷結呪文コキュートス〟」


 とっくに青色の魔方陣を完成させていたキリトが微笑み、詠唱すると、カースの身体が白く覆われる──雪だ。身体の自由を奪われたカースは業火の燃え盛る玉座の間に墜落する。

 それを見届けたらしいアメリアが、空高くから降り注いでくる。落下の速度と相まって、それは流星が降り注ぐようでもあり。激しい突撃音とともに、動きを封じられたカースの右翼をもぎ取っていった。


「ゆ……許さん……余を本気にさせてしまったようだな」

「悪いが、お前の本気とやらは見られそうにない。これで終いにさせてもらうぜ」


 傷だらけのアレンは笑っていた。勝利を確信したように、笑みをつくっていた。その傍らで、キリトが身体強化呪文キルトを、アメリアが武器強化呪文アクスを重ねがけしている。

 カースはその姿を認めるや渾身の力を込めて立ち上がり、紫色の極大魔方陣の生成を始めるが、アレンの姿が瞬時に消える。


「決着だ、悪いな」

「ふん、何を言っている。余の持てる最強の闇魔法で貴様らなド……っ⁉︎」


 言葉が最後まで続くことはなかった。アレン必殺の一刀が既にカースの身体を裂いていたからだ。均衡を保てなくなった巨体は地響きを鳴らしてその居城に崩れ落ちる。


「俺の剣はスピードが売りなんだ。見えなかったろ?」

「く……っ、よもや余が竜人族でもエルフでもなく……人間にとどめを刺されるとは」

「何言ってんだよ、最後の一撃は俺たち勇者一行の総結集だっつーの。俺一人じゃない、エルフと竜人族の助力あってこその一撃だ」


 アレンはにこやかに宣った。そう、彼の剣はスピード重視だからこそ、パワーに劣る。そこを身体強化と武器強化によってカバーしている。言わば未だ発展途上なのだ。


「くくく……そうであるな。だが気を抜くなよ、勇者ども。余はこれで終わりではないぞ」

「何ですって?」


 業火の引いてきた玉座の間に降り立ったキリトが怪訝な顔で訊く。


「貴様ら〝光〟がそこにあるのであれば……、我らが〝闇〟はいつでもそこにいる。せいぜいつかの間の平和を味わうが良い……」


 カースはそう言い残し、力尽きた。屍は光に姿を変えて霧散していく。辺りには魔王の消え去った後の静寂だけが残されていた。

 戦いは終わった。魔王が地上に降り立ってから永い間、人々は戦いを強いられてきた。その魔王が滅び、平和を取り戻したのだ。


 これが後世に伝えられていく世界の変わり目、〝魔王討伐決戦〟である。この決戦から十年、平和な時は流れる。しかしこの十年後、世界に更なる波乱が起ころうとしているとは、この時はまだ誰も知るよしもなかった。

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