化物恋愛論
「人間は嫌いよ」
彼女はいつも寂しそうなのだ。
同属嫌悪、彼女は人嫌い。
綺麗な眉の形を歪めている。
嫌い嫌い嫌い、大嫌い。
彼女は自分すらも嫌いなのだ。
「全部要らない、皆嫌い」
肩くらいに切りそろえられた黒髪を乱しながら、彼女は鬱陶しそうに告げる。
それが彼女の叫びだから。
黒い深い闇の中で、薄い笑みを湛えたのその顔は美しく歪んでいた。
死んじゃえばいいのに、と小さく呟く。
澱んだ瞳は感情を移すことなく反射する。
世界から人が消えれば幸せだと彼女は笑う。
自分も消えられると嬉々として言い自らの体を抱くのだ。
恐ろしいくらいに美しく、純粋なくらいに狂気的な彼女。
「でもね、アナタだけは愛してる」
クスクス笑いながら告げられる言葉。
俺も人間なんだけどなぁ、と擦り寄ってきた彼女の頭を撫でてやる。
サラサラの髪はひどく指通りが良かった。
感情のない澱んだ瞳に灯る一筋の光。
爛々と輝くそれは俺を殺すもの。
俺が化物みたいだ、と笑うと彼女は笑顔を消し去った。
ひどく傷ついたような顔をする。
整った顔を歪めて俺に縋りつく彼女。
愛してる愛してる愛してる…壊したいくらいに。
彼女の愛は異常だ。
壊したい壊したい壊したい…愛してるから。
そして俺が化物みたいなのではなく、彼女こそが人間の皮を被った化物なのだ。
そして俺はその化物に毒された人間。
毒された俺ももう、化物なのかもしれない。
彼女は人を嫌う。
それは自分が人間の皮を被っているから。
化物である自分を人間は認めようとしないから。
俺は人間でありながらその化物に魅せられたんだ。
毒された人間。
堕ちた先は奈落の底。
戻れない。
「俺も、愛してるよ」
彼女の額にキスを落とすと彼女は小さく吐息を漏らす。
そして彼女は俺のこめかみにキスを落とす。
首に絡みつく彼女の腕は冷たい。
愛を囁く化物、か。
俺は自嘲気味に笑う。
彼女はそれには気付かない。
俺も大概、化物だったのかもしれない。
化物同士、狂気じみた愛を紡ごう。
愛し合えるのは互いを人間と認識していないから。