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Run away! 1

笑う彼女はもういない。

作者: 貴幸

中学二年の夏、骨折をした。

この時、骨折をしなければ俺はこんな苦しい目になんて合わなかった。







笑う彼女はもういない。









少し変に骨折をしたらしく、入院をして手術を受けなければいけないらしい。

馬鹿な事に弟とケンカをしていた時に階段から落とされ骨折をした。

最近弟は本気で俺を殺しにきている。

別に何も問題は無いがここまで来るとうざったい。


「窓側が良かったな…」


動かない左足を松葉杖で支えながら窓側へと動く。

左足は痛いがここは暇すぎる。

窓の前の手すりに寄りかかり、外を眺めた。


…青い。


「お兄さん、空が好きなの?」


不意に声をかけられる。

それは女の声で、あまり女は好きではないため、少し残念な気分だ。


「…あぁ。」


「私も好きなんだ、空。」


横を見た俺は目を疑った。

見た事も無いくらいに明るく綺麗な笑顔で、風がふくと二つにしばってある髪は風にのって滑らかに揺れた。

それは自分の全てを否定しているような気がした。


「お兄さん、足怪我したの?」


「あぁ。」


二つしばりの、女。

俺よりも少し年下な気がする。


「私は病気なの。かかりづらい病気でね、一生治らないんだって。」


なんで、そんな悲しい事をそんな笑顔で言えるんだろう。


「いたくないの。」


「うん、痛くないの。でもね、周りよりほんの少しだけど、成長するのが遅くて、今はなんとも無いけど激しく動いたら死んじゃうんだって。」


にっこりと笑う。

まるでコピーしたものをはったようなセリフ。

多分、何回も話しているんだろう。


「お兄さんの足、はやく治るといいね。」


なんでかわからないのに、おかしいくらいに、笑えるくらいにその人に惹かれた。


「あ、あと私お兄さんと年同じだと思うよ!」


「えっ」









手術はあっさり成功して足も治り始めていた。


「ハルト、おはよう!」


目を覚ますと紗江は俺の上に乗っていた。


「な、何してんの…」


胸に手を当てられていて、心臓が変に動いているのがばれていそうだ。


「リハビリの時間になってもハルトが起きないから!」


毎日寝すぎるのも良いかもしれない。


「起きるから離れろよ…」


「はいはい、ハルトの寝顔可愛かったよ」


「は!?」


やっぱりちゃんとおきようと思った。









俺の足は治って行く中、紗江の身体に変化はない。

足が治ったらこいつと離れる事になる。

それは、なんだか嫌だった。


「ハルト、空を飛ぶってどんな感じなのかな。」


紗江はいつも見せる笑顔ではなく、とてもかなしそうな顔をした。

そんな顔、見たくない。


「知らない。」


わからない。

それが俺の答えだ。


「ここから飛んだらわかるかな」


俺は窓を閉めるよりも先に紗江の身体を抱きしめた。


「ハ、ハルト?」


怖い。


「紗江は、生きてるよ。」


「そうだね…。」


同い年とは思えないくらい小さくて折れそうな身体だけど、ちゃんと心臓は動いていた。






少し肌寒い夜がやってきた。

足は、治った。

明日が退院で、何故か俺は起きていた。

紗江が窓の外を眺めているから、俺も隣で外を見る事にした。


「ハルトの退院、明日だね。」


紗江は優しく笑った。

その笑顔は何人見送ってきたのだろうか。

あんなにも明るく見えた笑顔は寂しく儚くみえる。


「紗江」


紗江の手の上に自分の手を重ねる。

冷たい。


「ハルト、私…」


「私…」


何かを言おうとして、ためらった。


「何…?」


「私、いつ殺されるのかな。」


あまりにも、突然すぎる言葉。


「…え?」


笑えない。

紗江はポロポロと涙を流し始める。


「私ね、実験されるかもしれないの、解剖されるかもしれないの。」


わからない、言っている意味がわからない。


「紗江、落ち着けって」


「落ち着けないの!」


解剖?


「私の病気、珍しいから資料にされるかもしれない…」


そう言って俺の胸に顔を寄せてくる。

涙で服がぬれていく。


「ハルトに会うまで死んでも良かったのに…ハルトのバカ…。バカ…。」


胸が締め付けられる。

俺だって同じだ。

落ち着けるよう背中をさすった。


「助けに行くよ、俺が助けに行く。大丈夫、紗江は生きてる、生きてるから。」


「うん…。」


俺は、できもしない約束をしてしまった。










退院してから同い年という事もあって学校のプリントを紗江に届ける役をかった。


毎日、紗江がちゃんといるか確認出来るように。


あの夜が嘘だったかのように紗江は笑顔で、俺もつられて笑顔になっていた。


中3になったある日。


いつもより病院はざわついていた。

そこに紗江はいなかった。

すぐに近くの看護師にたずねる。


「紗江は!?」


「平川さんは病院を移転したわ。」


移転…?


「ば、場所を教えてください。」


大丈夫だとわかっていても、怖い。

紗江が消えてしまうような気がした。


走って俺はその病院の住所にいった。


「え?」


文字を見て俺は驚愕した。



『病原体研究所』



「嘘…だろ?」


すぐに中へと入る。

受け付けへと目を向けた。


「紗江は!平川紗江は!?」


呼吸がちゃんとできない。


まだ俺の気持ちを何も伝えられてないのに。


「実験室にいるんじゃないかな」


「くそっ!!!」


実験室に入ろうとしたが鍵がしまっている。

思いっきり蹴りを入れた。

ミシッと音がする。

壊せれる。

三回ほど蹴りを入れたところで音を立てて扉が壊れた。


「紗江!」


「ハルト…」


何人かの人をかき分け紗江の手を握る。


「ハルト、怖いよ、私今から殺されるの。」


「俺が助ける、助けるから!」


手を強く握りしめる。

この手を離したく無い。


「実験体から離れろ、そいつは金で買い取った実験体だ。」


大人の声が後ろから聞こえる。


「紗江は生きてる!」


「君まで傷つけるわけにはいかないんだ。」


そいつの目はとても冷たく、心がないみたいだ。


あぁ、俺だ。俺と同じだ。


「ハルト、私ハルトに話したかった事があるの。」


そんなの、別れみたいじゃないか。


「聞きたくないね。」


「ダメ!聞いて!」


「聞きたくない!」


わがままだってわかっていても、本当に聞きたくない。


「ハルトまで、殺されちゃうよ…」


何も、言えない。


「……わかった。」


なんで、承諾してしまったのだろう。

紗江は俺の手を両手で握ると、まっすぐ目をみてきた。


「私ね、ハルトの事が好きなの。」


「今までありがとう。」


たまらず、俺も言葉がでる。


「紗江、俺も好きだ、大好きだ…!」


手は離され紗江は優しく微笑んだ。


頬を何かが伝った。


何人かの大人に掴まれ、抗っても敵わず数メートルはなされる。

何か合図をしたと思うと上から何枚かの刃が落ちてきて、それが紗江の身体を刻む。

血が俺にも嫌と言うくらいかかった。


声もでなかった。


「残骸を集めて解析しろ。」


赤く染まった何かを大人が回収していく。


やっと動かなかった指が震えを止めて動いた。








「殺してやる。」








久しぶりの感覚に、なんだか変な気分になる。

全身が血で染まっている気がした。

空を見上げ、涙をながした。


「何も、守れない。」


ただただ、泣くことしかできなかった。

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