春の章・7話
赤龍は翌朝には熱が下がり、昼前には帰還することになった
まだ腹部の傷は完全に塞がっていないので、翼竜に乗って人型のまま龍山に向かう
「お世話になりましたね。本当に有り難う」
「いいえ・・・これは、道中、摘んでください」
どれ程の時間が掛かるか分からなかったので、と前置きしレインは焼き菓子をプレゼントする
「(小腹が空いたら食べて貰えばいいし、不要ならそのまま捨てて貰っても構わないし)」
「!菓子ですね・・・!有り難うございます!」
・・・にこやかに受け取る緑龍に捨てられることはないかも知れないなぁ、とレインは微笑んだ
「レイン、その」
赤龍の伺うような視線に、レインは微笑む
「赤龍様、次回おいでの際は是非、このシュレイアを案内させてくださいませ。田舎ですが見所は結構あるんですよ」
「っああ」
嬉しそうに笑う赤龍様に、龍だというのに子犬の耳と千切れんばかりに振られる尻尾を見た気がした
「(幻覚・・・?幼子に見えたり犬の耳と尻尾が見えたり・・たいがい不遜だわ)」
ではね、と去っていく2龍が見えなくなり、漸く見送りに出ていた面々は肩の力を抜いた
「緊張していたねぇ」
のほほんと言うセルゲイにレインは苦笑する
「ふふ、少なからずね。
なんて言ったって、八龍様がお二方もいらしてたんだし」
「・・・うん。私とフェリスはまだ一年に数回はお会いするけど、君たちは全然だからね」
セルゲイの苦笑にレインも苦笑を返す
「貴族のパーティーも、国主催のパーティーも苦手なの。
キラキラした世界は、どうもねぇ
異国で外交目的なら、全然構わないんだけど、やれ嫁だ婿だとか言われるのはイヤだわ。腹の探り合いって、基本的に苦手なのよねぇ」
「ウチはみんなああいう場が苦手だね。かく言う私も、パーティーに出席するより土いじりしている方が楽で良いよ」
はは、と笑うセルゲイに親子よね、とレインは返した
「私もそうね。土いじったり、一角獣に乗って乗馬したり、そういう方があっているわ」
「それだけで済めば良いのにねぇ・・・・・さて、昼ご飯を食べたら塩湖まで行ってくるよ。塩の精製具合を見てこないとね」
「本当に。・・・私も昼ご飯の後は執務をするわ。・・・あ、明日から6日いないけど、何か先にしておかないといけない事ってあるかしら?後半の3日で蓮に行くから文か何かあれば預かるわよ」
「おや、では今日の夕食後にでも文を書いて渡すよ。劉殿に届けておくれ」
「わかったわ。」
頷きあい分かれた二人
非日常から日常へと戻っていったのだった