冬の章・9話
「ただいま帰りました」
「おぉ、帰ったか!
・・・実りのあった時間を過ごしたようだな?
贈り物は決めたか?」
「・・・そんなに、分かりやすいでしょうか?
一応、目星をつけました。それに関して黄龍様に御願いが 」
「ほう?なんだ?」
興味深いと、にぃっと口角を上げた黄龍に赤龍はおずおずと願いを口にした
変わって、赤龍が龍山に戻るのを見送ったシュレイアでは、迫る領主交代の儀の準備と平行して三つの案件が、同時進行で準備が進められていた
1つが交代の儀の後行われる周辺国との会談の準備である
領主として初の会談では、内海の航行の確認や、貿易の確認等をしなくてはならない
特に貿易だが、これまでレイン独自で行っていた貿易は今後は領主として行う事になる
単純に規模が変わるため周辺の国々としても会談には大きな意義があるのだ
2つ目がムーランド領の水不足に関する支援と秘密裏に行っている調査である
あくまで他領であるため、別の国による干渉がないかどうか、領外からこっそり調べているのだ
3つ目が交代の儀に合わせたシュレイア一族の召集である
シュレイア一族は山奥から谷底、海中、高山に砂漠と様々な地に分散しているため到着もマチマチであるのだ
この召集の際、合わせて一族の会合も行われるのだが会合の一番のメイン行事がレインと一族の顔合わせになる
・・・何せ一年に一度程度しか会わない為、顔がうろ覚えな親族もいるのだ
「交代の儀の出欠表が出来たぞ」
「あら、どんな感じ?」
「一族は、招待者全員来るな。
周辺国は宰相の皆さんや、国王自らいらっしゃる国もある・・・こいつは特に塩虫対策の支援をした国だな。
アベル、蓮、カラクサは国主と側近」
「予想人数からあまり変わらないみたいね」
「客層が充実過ぎて驚きだが」
「護衛や警備を増やして対応しないとねぇ」
「準備は大変だけれど有難い話だわ。嬉しいわねぇ」
出欠表を見ながら微笑むレインにアリアとキリクもそうだな、と頷く
「姉様兄様、お客様ですよー!」
一階からクリスの声が聞こえ、三人は顔を見合わせる
「お客様?どなたかいらっしゃる予定ありましたっけ?」
「特に前触れは無かった気がするのだけれど」
「まあ、行ってみりゃあ分かるか」
次々と席を立ち、レインの私室を出る
「父様達、近々お戻りになるそうよ」
「あら、劉殿と一緒に?」
「多分そうね。客室の準備をしとくわ」
「お願い。
暫くは当館で過ごして頂くものね。
ごめんなさいね、手が回らなくて」
「あら、良いのよ。
レインは交代の儀の関係でバタバタしているし、私、今はまだ仕事の余裕あるから。
貴女は正面の仕事をきちんとこなしなさいな」
ふふ、と笑うアリアに、ありがとう。とレインは笑う
「おい、二人とも!懐かしい客がいらっしゃったぞ」
先に一階に降りていたキリクの喜色混じりの声に、レインとアリアは顔を見合わせ止めていた足を再び一階に向けた
一階には既にクリスの姿はなく、キリクと、キリクに背格好がよく似た二人の青年が立っていた
「マルス!?オルフェ!?もう到着しちゃったの?!」
「もう到着しちゃった、って・・・。
悪かったな。
長旅が上手いこと途中途中で親切な御仁に助けられて到着が早まったんだ」
「久しぶり。噂は色々聞いている」
蓮の近隣国である鳴国で暮らすマルス・シュレイアとオルフェ・シュレイアはレイン達兄弟の従兄弟にあたる二人だ
「レインが領主に就任すると聞いて、土産も沢山持たされたぞ」
「俺達が世話になっている梁領主が、また遊びに来いって言っていた」
「懐かしい名前ねぇ。まだ桐藍達がウチに来たときに訪ねた領地だったわね」
鳴国は桐藍達、影の民の国を襲った国の1つで、影の民をシュレイアに迎え入れた際、レインとセルゲイで劉蓮国国主と訪れた過去がある
「とにかく、久しぶりの帰郷だ。積もる話もある。部屋に案内する。荷物はカレン、カナン」
「ハい。コこに。オ持ち致します」
「ゴ案内致します」
音もなく現れた二人に、オルフェ達は動じることなく、じゃ、よろしく。と小さめの荷物を手渡した
「アの・・・?」
「女に重たい荷物持たせるかよ」
「貴女達が影の民なのは分かるが、それとこれは違うからな。
此処まで運んだんだ。苦じゃない」
スタスタと歩き始める二人に、華南達もあわてて追いかけた
「相変わらずぶっきらぼうだけれど優しい二人ねぇ」
「うん、流石は叔父様の息子」
「叔父様は今何してるんだっけ?」
「蓮の東にある島に渡り住んでコメを作ってると聞いたが」
「確か、その島の翁に気に入られて娘を嫁に!って言われてるんじゃなかったか?叔父様若くで奥さん亡くしてるし」
「実に叔父様らしい第2の人生ね」
ついつい懐かしい顔に会ったせいか親類の話に花が咲く
「屋敷に客間を用意しているのは、直系のみだったか?」
キリクの問い掛けにアリアが頷く
「えぇ、全員はこの屋敷に入りきらないし。ウチ、多分領主イチ屋敷が小さいからねぇ。
あとはあまり離れてないし街の宿を借りているわ」
「周辺国や、三大国の方も今回は町に?」
「その予定ね。
今回の為に幾つかの宿を借りて防犯面等は手を加えているわ。
客人も多い。1つの街に集って頂く方が護りやすいもの。
ただ、先程レインとも話していたのだけれど、近々劉殿と共に父様達が帰って来る予定なのだけれど、この際はしばらく劉殿には何時も通りウチに滞在していただくわ。
交代の儀が近付けば、街にお手数を掛けるけど移動して頂く。
まあ、クラウス殿達に護衛は不要でしょうが」
レイン達は魔王一行を思い浮かべて苦笑する
「一軍隊が来ても笑って対処しそう」
「むしろ知らない間に領地から出してそう」
「どちらも有り得そうね」
「お客様の手を煩わせないよう気を付けなきゃね」
「違いない。じゃ、俺はオルフェ達を待って墓参り行くわ。
真っ先に行くつもりだろうし。案内兼ねて久し振りだからな、道中昔話に花でも咲かせる」
「じゃ、私はこれからいらっしゃる客人の為に早めに部屋を用意するわね」
「私は執務に戻るわ。
交代の儀に際して、一時的に内海の通行を止める話がサラと出ていてね?ちょっと話し合ってくる」
やらなければならぬ事が多い中、この日以降続々と客人が集まり始め、連日その対応にも追われる三兄妹であった




