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冬の章・8話

山の夜は早くやって来る


双頭の狼の集落の中心部には太い丸太が組まれておりパチパチと炎が燃えていて辺りを橙色に照らしていた


「これをどうぞ」


「これが、レインの言っていたこの時期にこの場所でしか食べられないモノ、か?」



「ええ。陸海豹のベーコンと雪原山羊のチーズを乗せたサンドイッチと雪原山羊のミルクにこの山脈産の蜂蜜を入れたホットミルクですよ。


陸海豹はこの時期にのみ狩猟解禁するこの周辺に生息する大きな海豹です。



雪原山羊もここよりもう少し高い場所にいる渡り鳥ならぬ渡り山羊で、寒い場所を夏場と冬場で移動する山羊なんです」



ニコニコと笑ってホットミルクを飲むレインに赤龍は花が散って見えた



「///」



そんなレインの顔をみて、頬を赤くした赤龍は、レインにバれないようにそっと顔を背ければ、いつの間にか周囲にはすっかり双頭の一族達が炎を囲むように地面に寝そべり食事を楽しんだり談笑したりと思い思いの時間を過ごしていた


「レインの、シュレイアの領民には本当に多くの種族が暮らしているのだな」



「ええ。みんな自慢の家族のような存在ですわ」



「ほう」



「強くて優しくて可愛らしい。(もふもふは)癒しですのよ」



「かわいい・・・」



赤龍の目には牙も爪もあるし随分大きな、しかも頭が2つもあるちょっと強面の肉食獣にしか見えない・・・残念ながら可愛い要素と癒し要素が赤龍には理解できない・・・



「嬢、赤龍殿が困っているじゃないか」



「儂等を可愛い等言うのは昔からシュレイア家くらいじゃ」



「儂等は怖がられてずうっと住処を点々としていたのにのぅ」



カラカラと笑う者、呆れたように笑う者、しみじみと言う者と双頭の狼達にそんなに変かしらねぇ?とレインがサンドイッチにかぶりつきながら小首を傾げる



「レイン達の一族は、今、大半が外国にいるのだったか」



「そうですよ。



セルゲイ・シュレイアとフェリス・シュレイア、そしてその子供である私達だけが今、このシュレイア領を守っています」



「その目的は、全て、領地と領民のため、だったか。



いつだったか、黒龍が言っていた。



この領地の領主一族にとって一番大切なのは自分自身や家族ではなく、領地であり、領民なのだと。



領地を発展させ領民を慈しむためにシュレイア家の大半は国を出て、世界の彼方此方へ散ったのだと」



「まあ、間違ってないですわね。



それだけ聞いたら本当に二心ない聖人の集まりのようですけれど」



レインが苦笑すれば赤龍が驚いたようにレインを見下ろし、目をパチパチと瞬かせる



「違うのか」



「違いますわねぇ」



「しかし、実際に自分たちより領地や領民に心を注いでいる」



「勿論、それは当然なんですが・・・



だって、領地は黄龍様からお預かりしている天領。



領民も同じ。



守るべき領民がいなければ領主なんてただの飾り。



価値がないものですわ」



「飾り・・・」



「豪華な生活をして、偉そうにするならばその生活に見合った仕事をしなければなりません。



立場に見合った働きは私達にとって当たり前なんです。



それをするから私達は領主一族として受け入れられているのだと思うから。



みんな、それぞれにそれぞれが出来ることを見つけて実行に移しているのですよ」



兄も、姉も、弟妹達も、遠く離れて今は一年に一度会うか会わないかの親族達もレイン自身も役目を課し課され、その責務を全うする



「お前達の覚悟、というのかその思いはやはり凄いな」



一途に領主一族として在ろうとするその生き様と覚悟に赤龍の胸が少し軋んだ音がした



「故郷を持たなかった私達の一族に、国の民を名乗ることを許し、その上、貴族の位や領主位を下さった黄龍様に少しでも報いたいと生きてきた祖先と気持ちを同じくしていたいのですよ」



恩に報いたい、恩を返したい



・・・今が幸せだと実感できるから余計に・・・



そう言って笑うレインに、穏やかな表情にとてもじゃないがこの一年の怒濤の日々は見て取れない



「シュレイア家はずっとこんな感じさ」



「真っ直ぐで折れず、ぶれず、突き進む。



儂等を受け入れたときから変わらぬ」



「だからこそ危うい。



目が離せぬだろう?」



ああ、そうだな・・・と赤龍は頷いた



目が離せない



・・・離したら最後何処に飛んでいってしまうかわからない糸の切れない凧ではなく自ら羽ばたく鳥のようだ

・・・



凧は糸を結び直せば地に下ろせるかも知れないが、羽ばたく鳥を捕らえるのは難しいものだ



「そんな危なっかしい幼児のようでしょうか?」



「幼児より性質が悪い」



「翁に同意する。レイン嬢はなぁ・・・」



「レイン様はなぁ」



次々に溜息混じりに呟く双頭の一族にええ・・・とレインが苦く笑う



「あー。とにかく、どうです?赤龍様。



今回の訪問は」



「ん?ああ、良い物が沢山みられたな」



青龍の龍域の美しさも、レインの大切な領地や領民も間近で触れることで如何に慈しんでいるか肌で感じることが出来た



「そうでございましょう?



ウチの領は良いところが沢山ありますわ」



ふふふ、と一転、笑顔になるレインは我が子を誇る母のようだ



「勿論、我が領地があるのも慈しめるのもエーティスが安寧だからですわ。



八龍の皆様が国を守ってくださっているからですし、最たる方が赤龍様だというのも皆が知り誇っている。



この領地をみて、この地を生きる人々をみて、その笑顔を貴方様が守っているのだと実感していただければ良いのですが」



「え」



「私達はみんな、赤龍様が大切ですよ。



誇りに思っています。だからどうか、自身をどうでも良いかのように称するのは止めて下さいね」



「大切・・・?」



「ええ。この国を守ってくださる貴方様が大切です。どうかご自愛いただきたいと切に願います。



だって、私達が大切に思う貴方様が、貴方様自身をどうでもいいと投げてしまったら私達はどうしたら良いのでしょう?



私自身も、赤龍様と僭越ながらもっとお話出来ればと思っているのです。



だから、というのも変な話ですがどうぞ、ご自愛下さい」



「わかった・・・だがそれならば・・・」



「?」



「ならば、レインも約束して欲しい。



お前もお前自身を大切にしてくれ。



身体と心を慈しんでくれ。



領地と領民に向ける心をほんの少しでも自分に向けてくれ」



すっと流れるような動作でレインの頬に手を当て目の下に指を添わせ化粧で隠された隈をなぞる



「流入民の一件で多忙なのだろう。



それでなくても、冬場は忙しく、今年は特に代替わりがあって多忙な日々だと聞いた。



我には何も出来ない。



心配することしかできないのだ」



少し悔しいな、と赤龍は苦く笑う



「我には何も出来ないな」



「赤龍様・・・?」



「我自身には、何も。



だからレイン自身に気を配ってもらわなければならんのだ」



「・・・わかりました。



精一杯致しましょう」



頷き、微笑んだレインに赤龍もくすりと笑った









「(奇しくも、二人の願いは同じというわけだ)」



双頭の狼のクガネは笑った



随分、似たもの同士じゃないかと

無茶をするのも無理するのも無鉄砲なのも同じ二人が、奇妙な運命で交じり合うはずがなかった道が交じって出会ったのは奇跡なのではないか、と



「(この先どうなっていくと思う?)」



「(さてなあ?)」



相棒のシロガネに問えば笑い混じりに楽しみじゃないか、と返ってきた



「(なににせよ、皆がレイン嬢の幸を願っている。



それが壊れない事を儂等は見守るだけさ)」



「(然り然り)」


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