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冬の章・7話




レインがよければ、と案内したのは青龍の龍域の程近く、岩壁に幾つも穴の開いた場所が北の領域を守る双頭の狼達の住処だった


「ようこそおいでくださいました。ワシはクガネ



この双頭の狼を束ねる頭でございます。後ろに控えるは我が一族。



貴方の来訪を心より、喜びもうしあげる」



八重より大きな体躯の持ち主は金の瞳を和ませ、軽く双頭を下げると長老の下に案内しよう、とレイン達を先導する


「長老が、このシュレイアに住み始めた祖のような存在か?」


「いいえ、ここに最初に来たのは、目の前の金ですわ。



金がいくらかの仲間とココにたどり着き、黄龍様から住む許可を頂いてから少しずつ、世界の彼方此方にいた仲間が集ったと聞いております。



長老もまたその1人」


「我等は、このような見た目故ヒトに迫害され生きてきました。



長老のような年老いた者や狩りの出来ぬ童は隠れ住み、動ける者とは生活を分けていたのですよ」


「迫害・・・」


「ええ。ヒトにはないこの二つに分かれた頭、鋭い牙に爪は畏怖の対象ですからな。


貴方達龍族のように確固たる力があれば、なんとかやっていけたのかもしれませんが、我等にはそれがない。



一対一なら魔法族でなければ勝てるが、多数になれば勝てる確証はない・・・。


ですので、我等は散り散りになりながら生きていたわけです。ココに来るまでの昔の話ですがね」



クツリと喉を鳴らして笑った金に、赤龍は複雑な表情になる


「(もし、黄龍様がいなければ・・・エーティスが国として確立していなければ、我(龍族)もまた同じ道を辿っていたか)」


あったかもしれないその道を考え、赤龍は無意識に背を粟立たせていた


「ここに辿りついた亜人の多くは理由は多少異なれど同じでしてね・・・このシュレイアを最後の地と思ってきているわけです。東の方で言うところの、藁にも縋る思いで。



何故、このシュレイアなのか・・・。


それは何度も聞いたかもしれませんがこの地に生きる者達の祖が元は流入民だったが故に自身と同じ余所者を受け入れなれているのと・・・単純に性格ですな。


ワシ等は滅多に町へ降りませんが、それでも全くのゼロではない。


だが、下りても気軽に挨拶はされど畏怖される事はない。


領主にして領民ありとはこの事だと思いますよ。


さあ、長々話してしまいましたな。ここが長老の住処です」


金の言葉に自身にも覚えのある話だと春の祭りを思いだした赤龍は、ふと共にいたレインに頼みがあるのだが・・・と告げた








「ようこそ、赤龍殿。わしがこの双頭の狼で一番の年寄りじゃ」


案内された長老の住処の奥に、老成した雰囲気を醸し出す巨躯の双頭の狼が単身で来訪した赤龍を待っていた


「初に目に掛かる。我は八龍が一、赤龍と申す。このたびは突然の来訪の受け入れ感謝する」


「おや、ココは貴方達の国。わし等はその一角に住まわせて頂いている。


むしろわし等が挨拶に伺うべきであるのだが、この地はシュレイアの北の守り。


手薄にする訳にはいかぬし、わしも老体ゆえ馳せる事が出来ん。申し訳ないのぅ」



「いや、シュレイアの北の守りはそのままエーティスにとっても国の守りだ。


ここが強固に守られるからこそ、国の安寧は守られているといっていい」


事実、エーティスの中で一番多く国境を持つシュレイアは国の守護という面でも重要地である



・・・田舎という認識が先立ってしばしば忘れられがちであるが・・・



「さて、赤龍殿はわしに如何なる用かのぅ?レイン嬢に席を外してもらう理由が?」



そう、赤龍はある理由でレインには席を外してもらうよう願ったのだった



「レインのことを知りたい。貴方達の眼から見たレイン・シュレイアを。



もうじき、レインはシュレイアを纏める領主になる。


その祝いを渡したいと思っているのだが、何を渡せば良いか悩んでいる。


・・・そもそも我はレインの事を思っていた以上に知らないようで、まず彼女の事を知るところから始めたいのだ。


そのとっかかりとして、貴方達が知るレインを聞きたいと思った・・・教えていただけぬか」



あくまでも下手に出る赤龍に、長老は笑う。それは酷く穏やかで思わず零れたという表情だった


「失礼ですが貴方は、レイン嬢を特別に思っておいでですかな?」



「・・・ああ」



己を救ってくれた優しいヒト・・・前を向きひたむきに走り続けるレインを見て、何時だって心を揺さぶられてきた



その横顔に、眼差しに、微笑みに胸を打つ何かを感じたのは何時の段階だったか赤龍は覚えていない・・・気付けば既に特別だったのだ



「ふむ・・・・では、この老いぼれの知るレイン嬢をお話しましょう。


・・・レイン嬢はシュレイアにとって特別な存在です。


だが、決して強いわけでも、万能でもない。


貴方がレイン嬢に何か強さを感じたのであれば、それはレイン嬢が覚悟を持って動いているからでしょうな。


その双肩に、このシュレイアの民が乗り、家族が乗り、自身に信頼をおいている異国の友人達の期待を含んだ諸々が乗っているのだから。


ただ、レイン嬢の感情は、彼女だけのものではないのですよ」


「それは・・・」


困惑する赤龍に、双頭の狼の長老は溜息混じりに口を開いた。


「あの子には沢山の見えない鎖が巻き付いているのだ。雁字搦めに・・・。


だが、困った事にあの子はそれを何とも思っていない。


元来の性格なのか頼られるとヤル気にみなぎるようですな。


困ったものだと思いませぬか?手を貸したいと思うのですよ。


その双肩の重みを少しでも軽くしたいと思う。



この領地に生きる亜人も徒人も等しくレイン嬢を思っている。



・・・しかし此方が感じているほどあの子には重みではないのです。


頑張って当然だと生きるものに休息を与えるのは非常に大変なものじゃ」


「翁・・・・」


「皆、シュレイアのレインに目が行く。


だが、そう・・・貴方はただのレイン嬢として接しているように思う。



それは、貴方自身が自分を見て欲しいと願うからであろう?


中々そんな存在は周囲にはいない」



お互いにとって稀有な存在のようですな・・・と長老は笑った










「・・・ふむ・・・」


長老に礼を言い、その住処を後にした赤龍は無意識に双頭の狼の一族の住処を離れ歩いていた

思考は纏まらず、もやもやとしていてそれを晴らしたかったからだ




「お待ちくださイ。コレより先に行かれるとレイン様が悲しまれまス。どうかお戻りくださイ」



無意識にどんどんと雪道を進んでいた赤龍を、影からぬぅっと姿を現した桐藍が留める。



「!?そなたは・・・影の民、だったか」



「はイ。主人であるレイン様から影警護をせよと申し付けられておりましタ。



その歩を止めさせ申し訳ありませんガ、その先は崖となっておリ、万が一貴方様に何かありますト、レイン様が嘆かれル。


ひいては責任問題にもなります故ご容赦くださイ」



感情の読めない目をした桐藍はそう言って赤龍の歩みを完全に止めさせた


「いや、我こそすまぬ。ちょっとモヤモヤしていてつい逆方向に来てしまったようだ。



これ以上進まない。いやむしろ帰るから安心してくれ」


「御意」


頷き、影に戻ろうとした桐藍は、赤龍によって潜る寸前で引止められた



「レインと長く共にいると聞くそなたにも聞いていいだろうか?」



何を、とはあえて言わなかった。影警護という言葉に長老との会話も聞いていただろうと踏んでいたからだ


「・・・そうですネ・・・我等から見たレイン様、でしたカ・・・?


我等は影の民ゆえあの方は掛け替えの無い主君であり、我等に故郷を与えてくださった恩人であるわけですガ・・・。



・・・困った事にあの方は貴方様が思う以上に生きる事に重きを置いてはいませン。あの方の一番は領地領民であり、次点に家族。


自身のことなど手駒の1つ程度にしか思っていないかもしれませんネ。


勿論理由があるわけですがそれは彼の方に貴方様が直接聞かれる方が良いでしょウ。


優しい方でス。自分の幸は後回しで他人の事ばかり優先しようとすル。ほんの少し不器用デ、無茶も良くされまス。


あの方に付き従ってもう何年も経ちますガ、荒事に縁のある方でよく巻き込まれまス。



外れ者なこんな我等を守らんとすル・・・我等にとっては命よりも大事なお方デ、誰よりも幸せになって欲しい方。笑顔の似合ウ、畑仕事を好む貴族の姫にしては珍しい方。


あの方が喜ぶのハ、実用的なものでしょウ。


何にせヨ、あの方の為に貴方様が思い悩み選んだモノならば小石とてきっと喜ぶ事でしょウ。



贈り物ハ、その人が喜ぶところを想像して一生懸命選べば間違いなイ。と思いますしある方がそう言っておりましたヨ」



ふ、っと覆面の下で桐藍が珍しく笑う。



不器用な男だと思う・・・与えられ慣れていないから、余計にレインから向けられる優しさを人一倍感じているのだろう。


そして自身が感じた分だけ返したいと思っているのだ・・・亜人の第一世達の多くが経験した道を不可思議な事にこの世界でも類を見ない強い力を持つ龍が進もうとしている事が面白かったのかもしれない・・・



「さア、戻りましょウ。歩みが止まっておいでダ。レイン様がきっと心配されておりますヨ」


「!ああ。帰る」


雪道を戻りながら、赤龍の頭を占めるのはレインへの贈り物と何故か桐藍に感じたモヤッとする何かの正体についてだ






(それは、己の知らないレインを知る桐藍への嫉妬心なのだがそれには気付かない)





結局モヤッとしながら双頭の狼の住処に戻ったのだった




・・・赤龍が消えたことで探しに出ようとしていたレインと鉢合わせるまであと少し・・・

コレじゃ無い感・・・間を空けすぎて作者も書き方を模索してます(自業自得という)


もしかしたら一部書き直すかもしれませんが、何より続きを書くほうを喜ばれそうなので暫く直さないと思います。ご容赦ください。

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