冬の章・1話
「お待ちしておりましたわ。赤龍様」
「待ってたわよー」
「遅かったな」
黄龍の宮を訪れた赤龍を出迎えたのは、黄龍の番であるアメリア、青龍のアルテナ、そして黄龍だった。
「黄龍様・・・」
「私がいるのに驚いたか?しかし、幾ら赤龍といえど私のアメリアと2人きりにはな」
「黄龍様、私もいるんですが・・・」
サラリと惚気た黄龍に、青龍は溜息を吐いた
「すまんすまん。さて、とにかく中に入りなさい。中庭で話しでも聞こうか」
ははは、と笑った黄龍は赤龍を自分の宮に招き入れる
「・・・しかし、お前が相談事とは珍しい・・・それもアメリアや青龍にとは」
赤龍を先導しながら笑う黄龍に、それほど珍しいでしょうか、と首を傾げた
「あらー珍しいわよ。そもそも、赤龍、アメリアと殆ど喋った事ないじゃない?
アメリアは基本的に黄龍様の宮にいるし、赤龍はずっと自分の宮にいるか仕事で警邏か戦場だもの」
「確かに、そうかもしれない・・・」
赤龍の呟きに、黄龍はにんまり笑う
「お前が、他者を頼るというのはいい傾向だと思うよ。お前はいつだって、死に急いでいたし、自分で決めたら中々覆さない。
揺るがぬのはいい事だが、お前の場合はそうではないからなあ」
「そうですわね。自身は恐れられているのだと。そう決め付けて他者と関わろうとしなかったわ。
確かに、赤龍を恐れるものが多いのは確かですわ。
どうしても戦闘に特化した力を持つ以上、持たぬものにとっては脅威でしょうから。
特に、同じ火竜ならばその力の強さは私達以上に感じるでしょう。
でも、私達だって恐れられないわけではないわ。
力を持たぬ弱者にとっては、赤龍のみならず、幼く八龍の中では力の弱い白竜とて畏怖する対象だもの。
八龍は、他の龍族の追随を許さない。故に、私達はこの国において特別なのよ」
苦笑する青龍に、黄龍は頷く。
「長年、決め付けて自ら孤独でいたが、蓋を開けてみればどうだ赤龍?
シュレイアを筆頭に、お前を慕うものは存外多かったろう?お前に恐怖心を持たぬ者は多かったろう??
探せばもっと現れるぞ??世界は意外と広いからな。
・・・まあ、巨大な力を間近で感じればどんな生き物も多少は命を脅かされると怯えるものだから・・・・・
やはりある意味、レイン殿が特殊なんだ。
誰だって、武器を向けられれば畏怖し恐怖するだろう??」
「・・・そう、ですね」
「確かに、私の旦那様だって私の力を間近で感じれば多少怯えますわ。
愛し愛される仲であっても、そうなのですから、やはり規格外ですわね」
青龍の台詞に、一同苦笑するなか、ずっと黙っていたアメリアがけれど・・・と控えめに声を上げた
「私はレイン・シュレイア様を直接は存じ上げません。
・・・しかし人間の事なら黄龍様たちより存じております。
レイン様はひょっとしたら心がとても強いのかもしれません。けれど」
「けれど??」
「恐怖心が浮ぶよりも、もっと別のことに気を取られたか、恐怖している場合じゃないと無意識に思ったかもしれません。
噂に聞く限り、責任感の強そうな方です。
周囲に守らなければならない存在がいて、眼前には敬うべき存在がいて・・・ですからひょっとしたら自分自身の恐怖心は二の次にしたかもしれないと。
勿論、これは1つの考えであって、本当のところはレイン様しか分からぬ事ではあります」
「なるほど、そういう場合もあるわけか」
「恐怖は生き物の大切な生存本能のようなものだから、それを上回るものがあったかも・・・なんて考え付かなかったわぁ」
「か、可能性ですよ!!??
やはり、当人に率直に聞くほうがあれこれ考えるより良いかも知れませんし!!」
それに・・・とアメリアは内心で呟く
<それにもしかしたら生存本能が著しく低いってことも考えれないわけじゃない>
アメリアはレインの噂しか知らない・・・実物を見た事も、実際に喋った事も無い以上あくまでも全て憶測なのだ
「それはそうだな。わかったからアメリアは落ち着きなさい」
慌てるアメリアに黄龍は笑って落ち着かせ、酒か茶を頼むと送り出した
「さて、なんだかんだと中庭に着いたな。席は用意してあるよ」
広い中庭を赤龍は促されるまま進む。中央には、中庭にはあまり似合っていないふかふかしたクッション性のある豪華な椅子と同じく立派な大理石の机が用意されていた
「相談と聞いていたのでね。じっくり聞けるように用意してみた」
にこやかに笑った黄龍が赤龍と青龍に座るよう促す
「さて、アメリアが戻ってくるまでにシュレイアの交代の儀に就いて改めて説明をしておこうか」
「交代の儀・・・」
「お前が交代の儀に出た事は・・・一度あった筈だな?とはいえ随分昔だ。
勝手も違うだろう。最近の交代は、レオナード・ハレイか。丁度良い。
あの時は青龍が行ったんだったか?赤龍に教えてやってくれ」
「ええ。ハレイ産の真珠は重宝していますから、是非にと参加させて頂きましたわ。
20数年前だったかしら??
交代の儀は、基本八龍のいずれかが参加するわ。今回は赤龍と黒竜でしょ?
ハレイの時は私だけ。同時期に複数行う時は、同人数が参加するわ。
交代の儀では、現在の領主が次代・・・セルゲイがレインに領主の証を渡すのよ。その領地によって、領主の証は違うわね。
それを私達八龍が見届けるの。
その後は祝辞を言うのだけど、私達以外にも招待された客人がいればその客人からも祝辞を述べてもらう事になるわ。
客人は、その領地の代表する権力者だったり、他の領主やその代理人だったりかしら??
・・・シュレイアはどちらかといえば国外の客人が多そうよね。
その後は交代する者、セルゲイとレインがそれぞれ謝辞を言ったり、これからどう治領するかを宣言したりするわね。
・・・ここまでが、交代の儀の大まかな流れよ。
で、ここから、新領主主催のパーティが始まるのよねー。
各領地のそれぞれの特徴が出てくるから、楽しいわ」
「青龍はソレが楽しみなんだな」
「その、ようで」
うふふと笑う青龍に、黄龍と赤龍は揃って苦笑した
「お待たせいたしました・・・!せっかくですから、シュレイア産のお茶をご用意いたしました!」
トレーを慎重に持ちながら、アメリアが戻ってくると、さて本題だな・・・と黄龍は赤龍を見た
「それで赤龍、私やアメリアに何が聞きたかったの??」
「私でお役に立てますでしょうか・・・」
赤龍に対し好奇心を隠さない青龍と控えめなアメリアに、赤龍は正反対の反応だな・・・と苦笑しつつ、ほんの少し躊躇いながら口を開く
「その・・・・・・・・・・・・女性への贈り物は何が喜ばれるだろうか」
「へぇ!!」
「あら・・・」
「なるほど、それは確かに二人に聞くのが適任だ」
うんうん、と頷く黄龍に、赤龍は照れる
「我は誰かに、何かを贈った事がない。
・・・だからその、アメリア様や青龍に助言を頂きたい」
「良いわねぇ。勿論協力は惜しまないわ。ねぇアメリア?」
「はい!勿論です!!」
微笑む女性陣に安堵の息を吐いた赤龍は、それで・・・と続ける
「女性は何を好むのだろうか」
「大体の女は、光物が好きよね。特に貴族だもの」
「お花も良いですけれど、花は枯れてしまいますから、やはりアクセサリー等がいいのではありませんか??」
「アクセサリー・・・」
「一番は、レインが欲しいもの、好きなものを贈る事だけれど、何か知ってる?
こんな物を持っていたとか、好きな色や形とか」
青龍の言葉に、赤龍はピシリと固まった
「青龍、それが分かったら赤龍はそもそも聞かんだろうさ」
「そうよねぇ」
「ぐ・・・」
苦笑する黄龍に、青龍はやれやれと溜息を吐いた
「一般の女性が喜びそうなものを渡したいの?
それとも、レインが喜びそうなものを渡したいの??」
「勿論、レインが喜んでくれるもの、だ。
・・・・・ただ」
「ただ??」
「・・・・・ただ、きっとレインに何を贈ってもきっとレインは何でも喜んでくれるような気がする。
・・・誰が贈っても同じ反応をすると思う」
ポソリと呟く赤龍に、あらあら、と青龍は苦笑する
「それじゃあ嫌なのね??」
「あ、あぁ。我が贈った物を、喜んで欲しい。笑って欲しい」
こっくり頷く赤龍に、青龍とアメリア、そして黄龍は顔を見合わせ微笑み合う
「良いわ!!頑張って調べましょう!!
(初恋に胸を焦がす)可愛い同胞の頼みですもの!」
「私も出来うる限り協力いたしますわ!!」
「他ならぬ赤龍の願いだ。私も協力しよう」
「っありがとう青龍・・・!有難う御座います黄龍様、アメリア様・・・!!」
感激だと、嬉しそうに笑う赤龍に、青龍たちは親心(母性本能)を刺激され俄然ヤル気になるのだった
結局その日4人は夜遅くまで贈り物について話し合ったのだった
アメリアと青龍は仲が良いので青龍はアメリアを呼び捨てにしてます。
赤龍に対して、他の三人は初恋を見守る親心です。生暖かく見守っています。
※参加者が赤龍と緑龍になっていました。正しくは赤龍と黒竜です(´д`|||)
※赤龍に交代の儀を説明しているところで、うふふ、と笑うのがアメリアになっていました。正しくは、青龍です。




