表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/66

冬の章・序章

久しぶりの赤龍。ちょっぴり酔っ払いモード?


短いです。


秋が終わり、平野部でも雪がちらつくようになった頃、龍山にシュレイアとクレマの領主交代の儀の知らせと招待状が届けられた


「とうとうか・・・何時も通り、私は行かないが名代を誰にするかな」


黄龍は招待状を見つつ誰にしようか、と呟いた


最も、決め兼ねているのは片側だけだったが・・・


「黒竜が以前よりシュレイアの交代の儀に行きたいと申しておりましたね」


「ああ、黒竜は決まりだな。シュレイアは、赤龍も行きたいだろう・・・


緑龍、後で聞きに行ってくれるか?


もう宮に引っ込んだろうからな」


「承知いたしました」


「シュレイアに二龍行かせるからには、クレマにも二龍だな。


白竜がまだ交代の儀に出たことが無かったな?白竜と、金竜に行って貰うか」


「ではその二龍にも伝えに行きましょう」


「頼む。


・・・ああ、赤龍にその酒瓶も持って行ってくれるか?


先日の領主会議の後、周辺国から幾つか酒が届いたんだが、それは赤龍とお前の好みの味だ」


それ、と黄龍が指差した酒瓶に、緑龍は頷いて微笑んだ








「赤龍、いるか??」


「・・・緑龍?どうした」


八龍にそれぞれ作られている宮の中で1,2を争うシンプルな造りの赤龍の宮を緑龍が訪ねた時には、すっかり夜も更けていた


居室にいた赤龍は絨毯に直に座って一人で月を肴に酒を飲んでおり、珍しいな、と夜更けの来客に立って出迎えた


「今、グラスを持ってこよう」


「いや、大丈夫だ。持ってきた」


「・・・用意が良いな」


懐からスチャリと自分の盃を出して見せた緑龍に赤龍はクスリと笑う


「最初から飲もうと思って来たからな。酒は何を飲んでいるんだ?」


「・・・普通に葡萄酒だ。


やはりグラスを持ってくるか?葡萄酒を盃で飲むのもな」


「いや、黄龍様から頂いた酒を飲もう。来る前に頂いたんだ。


盃もちゃんと二つ持ってきたぞ」


そう言って、エーティスでは見慣れない酒瓶を掲げて見せた緑龍に、赤龍は黄龍様が?と苦笑した


座りなおした赤龍の向かいに座った緑龍は静かな赤龍の宮に首を傾げる


「・・・何時か、黄龍様にも申し上げた事があるが、侍女なり侍官なり宮の専属を作ったらどうだ?」


「不要だな。一々怯えられるのはかなわん。


使わない部屋は閉じているし、簡単な事なら自分で出来る。


それに気を利かせた銀竜と青龍が力を使ってたまにピカピカに掃除に来てくれるしな」


苦笑する赤龍に、緑龍は何ともいえない表情を浮かべた


「お前が優しいのだと、早く皆が知ればいいのにな」


「・・・・ずっと諦めていた事だ」


この世界に生まれて二千三百年、八龍以外の、同じ龍族からも恐れられてきた赤龍は早い段階で期待する事を諦めていた


優しさや甘さと無縁だった赤龍を、緑龍たちは長年歯痒く思っていたのだった


「持って生まれた力が、強かっただけだ。


おまえ自身は、苛烈でも凶気染みてる訳でもなんでもないのに」


「ああ・・・そうだな。


持って生まれた力を恨んだ事もある。


だが、この力は黄龍様から溢れた力だ・・・。


力の否定は黄龍様を否定するも同じ事・・・だから、だから良いんだ。


良かったんだ」


そう言って、不意に赤龍は優しい表情になると盃を干して緑龍を見た


「・・・ソレで良かったと思っていた。


何時か、この力に見合った戦場で黄龍様のお役に立って果てるのだと。


最期のその時まで、お前達以外から畏怖の眼差しで見られ、孤独に朽ちるのだと・・・ずっとずっと、そう思っていたんだ。


だが、二千年を超えて生きて・・・まさか、我を優しいと・・・普通の、弱い人間に言われると思わなかった。


それも、この力を間近で見て、真っ直ぐ怯む事無く我を見るだなんて。


・・・そんな存在が現れるなんて思わなかったんだ」


「(酒のせいか・・・常に無く饒舌だな。度数が強いせいか・・・?


しかし・・・嬉しそうに笑う)」


普段仕事しない表情筋が緩み、赤龍は酷く穏やかな表情をしている


緑龍は、赤龍のその表情を満足げに見て、続きを促した


「我の焔は、マグマのようなモノだ。


普通の森なら、一瞬で炭にする・・・どころか、灰にだって出来る。


同じ竜族、それも火竜の一族だって怯む威力だ。


それを間近で感じて、我の心配をする人の子がこの世に存在するとは思わなかった。


優しい目と言ってくれた。


強い力は、自分達を守ってくれたものだと微笑まれた。


臆す事の無い真っ直ぐな目、優しい手、向けられるはずの無かったものを、どうして躊躇い無く向けてくれるのだろう・・・。


・・・・・・・・どうしてあんなに、優しい」


「レイン殿達は、優しいな。


優しい上に、レイン殿達は、色んな意味で普通から逸脱している。


その知識、技術、その度胸、その志、意識の維持も素晴らしい。


血が濃くても薄くても関係なく一族には強い団結力があり、弱いものを守る為に己を省みない。


同じ一族内で血で血を洗うような争いも少なくない貴族の、領主一族だぞ?


領民を慈しむ領主は勿論いるが、ずっと同じ意志を何代も持ち続ける者達がどれ程いた?


命の危機にあって、自分より立場の弱いものの為に盾となれるものがどれ程いる?」


「・・・レインは、シュレイアは、凄いな」


溜息を吐くように、赤龍は静かに呟いた


「ああ、凄い。素直にそう思う。


そして、調べるに次代であるレインが一番普通から逸脱しているぞ。


・・・夏のヴォルケの一件、春のお前の墜落の一件。


国中が、下手したら近隣諸国もシュレイアに目を向けている・・・・・・・・・。


そんな中で、交代の儀があるわけだが」


「・・・交代・・・」


「シュレイアと、クレマの交代だ。


黄龍様は参加されないので名代として誰か行く事になるんだが。


赤龍、シュレイアの交代に立ち会うか?」


「!!」


「ちなみに、黒竜は出席を早々に申し出た。


お前が行かないなら、黒竜が一人で行くが?」


「勿論、我も行く」


酒の酔いから突然醒めたように、真剣な表情になる赤龍に緑龍は笑った


「よし、ではそう伝えてこよう」


結局酒に殆ど口を付けていなかった緑龍は酒に酔ってふらつく事無く立ち上がると、赤龍を見下ろした


「赤龍、私の体験談だが。


・・・・・・欲しいと思ったら格好悪いくらい足掻いてその心を得る努力をしなければ。


待っていても何一つ掌中に落ちて来たりしないぞ??


私や黄龍様はともかくとして、お前はもっと頑張らねば」


「緑、龍・・・?」


「(こういう話は私より黄龍様の方が適任だな)


そうそう赤龍、レイン殿にせっかくだから贈り物でもしたらどうだ?


女性も男性も、贈り物を嫌がる者は中々いない。めでたい事だし。


女性に贈るのだから、青龍と、人間の女性だから黄龍様の奥方のアメリア様にお聞きしてみては如何だろうか?


きっとお力を貸して下さる筈だよ」


緑龍はニコリと笑って赤龍の返答を聞く事無く、赤龍の宮を出て行った


残された赤龍は、少しの間酔って思考が定まらなかったが、緑龍の言葉を理解すると両掌に視線を落とす


「我が、何か贈って・・・レインは喜ぶだろうか・・・?」


喜んで、笑顔を自身に向けるだろうか・・・とレインの笑顔を思い浮かべて赤龍は無意識に頬をうっすらと染めた


「喜んでくれたら、きっと我も嬉しい・・・と思う」


笑顔を向けられると、温かい気持ちになる・・・


胸が熱くなり、荒む心が穏やかになる・・・


・・・・・・これがきっと≪幸せ≫なのだ、と赤龍は最近気が付いた


「・・・明日、黄龍様にアメリア様との面会を希望しよう。


・・・青龍にも、一緒に聞いてみようか」


明日の予定を決める、ただそれだけなのに赤龍にとってはどこか新鮮で、心が穏やかなまま眠りに就いたのだった

1話から序章に変更しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ