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秋の章・17話



シュレイア家での二日目の夕飯は、秋の味覚を盛大に取り入れた豪華なものだった


国が違えば食糧事情も違い、また調理法も全然違う


ちなみに、クラウス達がやって来た日の晩餐は、エーティスで一般的なパンと野禽料理ジビエ、暖まるようにポトフなどだった


「今日は、シュレイア家の夕食にしてみましたわ」


ほかほかと湯気を立て、白くつやつや光る炊きたてご飯、焼きたてのパンは柔らかいロールパンとフランスパンを用意し、サクサクに揚げた茸と野菜の天ぷら、特産の乳製品を使った野菜がごろごろ入っているクリームシチュー、鶏を一匹丸ごと焼き中に米や野菜の詰め物をしたローストチキン、鯛の塩竃焼きも並ぶ・・・


「和洋折衷ですが、美味しければジャンルはいいかなぁと。


お米は今年試験面積を増やしたもので、豊作だったんですよ。


是非召し上がってください。


ツユリ殿達は食べ慣れないと思いますので、パンもご用意しましたわ」


「これは楽しみよ。食に五月蠅いシュレイア式とはねぇ・・・」


ふふふ、と笑うツユリに、クラウス達も楽しみだったんだ、と笑う


「では、召し上がれ」


レインの言葉を合図に、全員でグラスを鳴らし、夕食の時間が始まった


「―――!!!!美味い!」


白米を頬張った劉と凌の二人はその粒の大きさと噛んだときに口に広がる甘さに目を見開いた


「レイン、この米はウチから運んだ米で間違いないのか??!全然違うんだが!!」


「元々は蓮から頂いたお米ですよ。


品種改良をして、私の理想の米を目指しているところなんです。


幸い、ウチには植物のスペシャリストである緑人族と研究好き(研究馬鹿)のサディクがいますので、本来なら数年掛かる品種改良もかなり短期間に行えたのです。


特に緑人族の子達が沢山頑張ってくれたので」


うふふ、と笑うレインに劉は凌と顔を見合わし頷く


「レイン、この米を輸入したい。俵で数俵、ひとまず売ってくれないか?」


「非常に美味しいお米ですので、我が国でも栽培したいのです」


「あら、光栄ですわ。ただ、来年の本格栽培に備えて、十俵しかお売り出来ませんが・・・」


「十分だ。有り難う」


嬉しそうに笑う劉に気に入っていただけたなら何よりですわ、とレインは笑う


「米は食べ慣れぬが、確かに美味いものだぇ。


しかしパンも実に美味。黒パンばかりかと思っていたが、こんな柔らかいパンもあるのだねぇ。


こちらのパンも、かたいが噛むほどに甘く、風味も豊かだぇ」


ツユリが満足げな顔でフランスパンを食べるその横で、クラウスは嬉しそうにシチューを飲む


「儂としては、このシチューがイチオシじゃな。


牛の乳が使われているんじゃろ?別の国で似たものを食ったが、こんなに美味いと思わなかったのぅ」


「バターや生クリームでコクを出しているからでしょうか?乳製品は日持ちしません。


ですので基本的に領内でのみ流通しています。


バターや生クリームを使ったシチューはシュレイアでは一般的なんですよ」


アメリアが微笑むとバターと生クリーム・・・とクラウスが呟く


「ウチではそもそも牛が生きていけませんからねぇ・・・作り方を習ったとしてもダメですね」


ウェルチは、美味しいので作れたら一番なんですが・・・とシチューを見つめる


「アベルでは濃密な魔力が充満していて人間は愚か雑魚の魔族も5分と過ごせないと聞くが、動物もおらぬのかぇ?」


「魔獣ならおるぞ」


「魔獣・・・」


「フツーの生物は生きてはいられないのぅ。魔力に充てられてあっという間に死ぬでなぁ」


「異空間の中で飼おうにも、中々上手く行かず・・・。


コレを食べるためには、シュレイアにお邪魔するしかなさそうですねぇ」


フェルトの言葉に、レインは苦笑する


「ウチで良ければいつでもどうぞ。事前に連絡を頂けたら尚助かりますが」


「儂、シュレイアに住みたい・・・アベルには通いでどうかのぅ?」


「良いというとでも?」


「じゃよなぁ・・・わかっておったとも!」


ウェルチの言葉にブーブーと文句を言うクラウス・・・そのやり取りにレイン達は笑った




「さてさて、話は変わるが、明日は領内を見てきて構わぬかぇ?」


食事もある程度食べ終わり、そろそろ部屋に戻るかという頃、ツユリが口を開いた


「勿論ですわ。しかし、どちらに?」


頷きつつ首を傾げるレインに、ツユリはふふふと笑う


「湖に行きたいのだ。せっかく堂々とシュレイアを訪問したのだし、ホルン達にも

会いたいからねぇ」


湖にはホルン達カラクサ生まれの人魚たちが暮らしている・・・国主であり、人魚達の生みの父でもあるツユリが人魚達の暮らしを気にするのは当たり前だろうと、レインは頷いた


「ツユリ殿、宜しければ湖までご案内いたしますよ。


丁度俺も湖に用があったので」


「では案内頼むよキリク」


案内を買って出たキリクに、ツユリは満足げに微笑んだ


「それなら俺はセルゲイに会いに行きたいんだが、セルゲイは今どこに?」


「父なら、北の開拓状況の確認にも行くと言っていましたので、北にいるかと思います。


細部の居場所は今夜中に調べておきますわ」


「よろしく頼む」


ツユリに続いて劉も声をあげ、翌日の行程を決めると、クラウスもふうむ・・・と周囲を見渡し、レインを見た


「皆が出るならば、そうじゃな・・・儂も少し出てきて構わんか?」


「勿論です。どちらに??」


「うむ。シュレイア家の墓参りでもしようかの」


「あら・・・有難う御座います。でしたら私もお供させてくださいませ」


「うむうむ。でーと、じゃのぅ」


にんまり笑ったクラウスに、私たちもお供しますよ、とウェルチがしっかり釘を刺したのだった






朝から北に南にと去った劉とツユリ達を見送って、レインはクラウス、ウェルチ、フェルト、桐藍と共に陸の上にある屋敷の裏手にある手入れされた花が咲き誇る小さな庭園にやって来た


「墓というより憩いの場のようじゃな」


「ええ。実際、母や妹はこちらでお茶をすることもあるようですわ。


寂しい場所よりにぎやかな場所に、寒々しいところより暖かな場所に・・・


シュレイアの礎を築いて下さったご先祖様ですもの」


「石に、名前がありますが・・・直系の当主のみここに眠るのですか?」


「ええ。とはいえ、実際に遺骨や遺体がある方は少数で。


多くの当主達は、父、セルゲイのように若いうちに引退し別の場所で生きていたそうですから。


亡くなった後、最期を過ごした場所に眠りたいと願う方が多いようです」


レインはそういって、名前が彫られた石を労わる様に触った


「レイン」


「はい?」


「お前さんは、どうしたい」


クラウスの突然の質問に、レインは目を軽く見開いて、困ったように笑った


「領主になってもいない今は、まだなんとも言えませんわねぇ・・・。


中々、波乱万丈といいますか、静かな領主生活は生まれて今日までを考えると望めそうに無いな・・・くらいしか考えれませんわ。


領主ですら、そうですもの。其の先はとてもとても」


出来れば、穏やかな心で務めたいものですけれども・・・と続けたレイン


「しかし、貴女には、さして苦になっていないようですね」


困った顔はすれど、心底辛かったり嫌な顔を見た事が無いとウェルチが言えば、同じ意見だとクラウスもフェルトも、こっそり桐藍も頷いた


「波乱万丈、とても大変ですが・・・何も出来ないよりずっとマシです。


平坦で穏やかな道は理想ですけれども、波乱万丈であっても多くの出会いや別れを経験し、多くの人に助けられ、結局のところ、私は好きに生きさせてもらっていますもの。


幸せです」


本心からの言葉なのだ、とレインの穏やかな声と表情を見て、クラウスは面白そうに笑った


「さすがは、レイン。ということかのぅ!!」


「貴女の年でそのように考える者が果たしてどれ程いますでしょうか・・・全く、人であることが悔やまれますね。


魔族に生まれてくだされば良かったのに」


「然り然り」


笑うクラウスとは対称的にウェルチとフェルトは残念そうに溜息を吐いた


「なあレイン」


「はい??」


「おぬしが勤めを終えたその時は、我が国へ招きたいのじゃが」


「・・・それは、一時的にということですか??」


首を傾げるレインに、クラウスはニヤリと笑った・・・その表情を見て、違うのだと気付いたレインは、困ったように微笑む


「物好きな方ですねぇ・・・しかし、即答は致しません。


人生何が起こるか分かりませんもの」


「賢い返事じゃな。


勿論、強制はしない。


他の全ての者がそうであったように、望んで望まれてが一番じゃ。


候補には、入れてくれるんじゃろう?」


「敵いませんねぇ・・・考えておきますわ。


どちらにせよ、まだ先の話になりますし」


苦笑するレインに、クラウスは嬉しそうに頷いた


「今はそれで構わんさ。さて、冷えて来たし屋敷に戻るか?」


「そうですね。帰って、温かいお茶でも淹れますわ」


「儂、緑茶が良いのぅ。甘味も所望する!」


「ええ。早く出来ますから団子でも拵えましょうか」


「!前に作ってくれたモチモチした奴じゃな!!儂、ミタラシが良いのぅ。


ウェルチとフェルトはどうじゃ??食べぬか?


よし、レイン!!2人はいらぬようじゃから儂に其の分多めで!」


「言っておりません!レイン殿、キナコが食べたいです。手間で無ければ是非」


「レイン殿、私も頂きたい。ショーユでお願いいたします」


「ふふ、承知いたしましたわ」


勧誘など無かったかのように普通にお茶の話をしながら屋敷に向うレイン達に、見守っていた桐藍は詰めていた息をそっと吐いた


「(レイン様が、手の届かないところに行く・・・余り考えたくないものだな)」


桐藍は何時かを脳裏に思い浮かべて軋む心に苦笑したのだった






その日の夕暮れ、クラウスとツユリ達はそわそわしながら暇を告げた


「精霊師の住処が割れた。ちょっと行って来る。


セルゲイの離任とレインの着任の儀には再び邪魔させてもらう」


「急、ですわね」


「直ぐに向かわねば、逃げられるからねぇ・・・


レイン、ワタクシも再び邪魔させてもらうぇ」


獰猛な光がチラチラと見えるツユリの瞳に、レインは困ったように微笑むと、頷いた


「お怪我をなさいませんよう。またお会いする日を楽しみにしております」


「うむ」


「ではな」


笑った二人と会釈した従者の四人は、クラウスが指を鳴らした途端、レインの目の前から掻き消えた


「空間移動をするほどに、急いていらっしゃったか。俺には因縁は良く分からないが」


「劉殿」


「セルゲイと話して、いったんセルゲイとフェリスを連れて蓮に行くが、大丈夫か?」


「お気遣い、感謝いたします。此方は大丈夫ですので、どうぞ劉殿もお気をつけて」


「ああ・・・俺も離着任の儀には邪魔させてもらう。


では、晃・・・セルゲイとフェリスを迎えに行くぞ」


劉が肩に乗っていた鳳凰の晃の頭を撫でると、晃は其の姿を大きく変化させ、劉を背に乗せ大きく羽ばたきあっという間に夕暮れの空に消えていった



「レイン、皆さん行かれたの?」


「あっという間だったな」


「姉様、兄様。ええ、慌しく・・・父様と母様もいったん蓮に行くそうよ」


「そう・・・いよいよね、レイン」


「離任、着任の儀は年明け直ぐ。


各地での作業も軌道に乗ったし、戸籍も大半が完成した。


いったん休憩しよう・・・で、もうひと頑張りしようか」


「クリス達も引き上げさせて、守役たちも呼んで、宴会でもしましょ。


労いと、もうひと頑張り!って英気を養うって事で」


「そうね。この冬は、忙しなくなりそうだもの。温泉にも行きましょう」


「よし、じゃあそういうことで・・・だけどまあ、とりあえず飯にしようか」


キリクの一声に頷きあったレインとアリアは揃って屋敷に戻るのだった





「(本当に、クラウス殿たちに怪我がないといいけれど・・・容易く手傷を負う方たちではないけれど)」










「随分、手間を掛けさせてくれたのぅ・・・」


「ワタクシ達を同時に怒らせ今日まで永らえた事、誇り消えるがよぃ」


獰猛な瞳で睨み、殺気を飛ばす2人・・・逃げる事も、気を失う事も出来ず、震える手で武器を手にする精霊師たちにクラウスとツユリは、冷淡に残酷にその巨大な力を容赦なく振るったのだった

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