秋の章・14話
クラウス達がシュレイアに到着したのは太陽が西の空に沈む頃だった
シュレイア家の屋敷の前でキリク、アリア、レインが揃って出迎える
「ようこそシュレイアへおいでくださいました」
「フフフ、久しぶりだねぇキリクもアリアも」
「ご無沙汰しておりますツユリ殿。お元気そうで何よりです」
「お主達、挨拶は良いが先にやることやってしまうぞ??」
挨拶を交わすツユリ達に、クラウスが待ったを掛けてニンマリと笑う
「??」
「さて、ウェルチ、フェルト」
クラウスの呼びかけにクラウスの背後に控えていた二人が頷き、凄まじいスピードでシュレイアの北と南それぞれに飛んでいった
「クラウス殿・・・?」
展開に付いていけないシュレイアの三人に、クラウスは鮮やかに笑った
「沢山お喋りしたいところじゃがな、まずは鬱陶しい羽虫を捕らえねばなぁ」
そう言うと、クラウスもまた掻き消えた
「・・・もしかして」
精霊の対処に?と慌てた様子でツユリを見上げたレインに、ツユリは頷く
「うむ。・・・精霊は、ワタクシ達カラクサの者にとっても、魔族にとっても因縁深き相手。
龍山を出るとき随分張り切っておったよ。
まあ、ワタクシも同じ気持ちだけれどもねぇ」
そう言って美しく笑ったツユリは、白く細い両腕を頭上に翳す
「水が・・・?」
ツユリの翳した手の先に、どこからともなく集まり始めた水は、そう時を置かずに、巨大な球体になった
「俺も便乗させてもらうよ」
そう言って、劉は懐から数枚の紙を取り出すと迷うことなくツユリの作った水球に突っ込む
「発!!」
劉の声に反応して紙から墨の文字が浮かび、まるで意思を持ったように水球の中ををぐるぐると回り出した
「良し、全体に回ったな。良いですよ、ツユリ殿」
「うむ」
水球の様子を見た劉の声に頷いたツユリが、水球をより高く掲げる
すると、水球が生き物のようにボコボコと動きだし、弾け、勢いよく空高くに噴き出した
「これは・・・」
「ワタクシ自身に結界の能力はない。
ワタクシは守備は不得手での。
故に仙術を使う劉殿との共同作業だぇ。先程の水は、雨となってシュレイア一帯に降り注ぐ。
その水は、大地に染み込み結界となる」
「・・・結界と呼んでいるが、これは捕縛の術を元にしている。
ただし、対象は人ではなく人外・・・妖怪だな。まあ、精霊にも効くさ。
これで、シュレイアの領内にいる精霊を逃がさない」
「それは・・・シュレイアの者、例えば影の民には影響は・・・?」
「無い。術の範囲を目に見えぬ特殊な者達にしているから、影の民は問題なく通れる。
この術の範囲を限定的にするために、龍山では夜会以外篭もりっぱなしだったんだ。
レインには是非、美味い飯を作ってもらいたい」
胸を張る劉にキョトンとしたレインは、次いで勿論です、と微笑んだ
「儂も頑張ったぞー!」
「クラウス殿・・・勿論、皆さんのために腕によりを掛けて作りますわ」
突然姿を現したクラウスにキョトンとしたレインは、同じく戻ってきたウェルチやフェルト、ツユリや劉達を見回して、ニコリと笑う
「よしよし、では説明もしなくてはならないが、直に術を込めた雨が降る。
屋敷に邪魔をしても構わないかぇ?」
「はい!どうぞ中に!」
キリクとアリア、レインは笑って一団を屋敷内へと招いたのだった
「さて、ツユリ殿達の術は捕縛の術と聞いたな?儂等が張ったのは、その逆でいれない術じゃ」
「勿論、シュレイアの者に影響はありませんのでご安心を。
我々はどちらかと言えば、いれない術の方が得意ですので、効果は保証しますよ」
レインとアリアが淹れた紅茶を飲みながらクラウスとフェルトが微笑む
そんなクラウス達に、レイン達は深く頭を下げた
「本当に有り難う御座います。
目に見えぬ者への対処は我々では出来ませんから、本当にどうしようかと言っていたトコロでした」
「とても助かりました。本当に有り難う御座いました」
「筆談もとても大変だったんです。おかげさまで腱鞘炎にならずに済みそうですわ」
うふ、と冗談交じりにアリアが言えば、それは良かったよとフェルトが笑った
「それで、なんじゃが」
「??」
「現在シュレイアにいる精霊を捕らえるため、そしてその後始末のため暫くいても構わないか?」
「ワタクシ達もよ」
「俺もそうだな・・・セルゲイに確認したい事項もあるし」
クラウス、ツユリ、劉の言葉に、各側近達も頭を下げる
「顔を上げてください!!」
「勿論、大歓迎ですわ!」
「さしたるもてなしも出来ませんが・・・どうぞごゆるりとなさってください」
レイン、アリア、キリクが慌てたように言うので、クラウス達は顔を上げ、有り難うと笑った
屋敷の外では、雨がシュレイアにのみ降り注いでいた
仙術を含んだ雨は、山に、森に、川に、海に、大地に、街に降り注ぐ
・・・唯一、海に近い湖にのみ、雨は降らなかった
<・・・!!>
<・・・>
ザワザワザワザワと湖に波紋が広がる。風がない、切り取られた様な空間で、不自然な光景・・・イヤ、作られた光景だった・・・
「捕らえたぞ・・・羽虫め」
忌々しいとばかりに、低い声が湖に響いた




