秋の章・12話
ちょっと短め
「(領主会議最終日が始まるわね)」
長かったような、短かったような・・・と思いながらレインは席に着いた。
「トレーネは今日から欠席か?一応正式に領主位返上が決まったとはいえ、まだアレは領主だろう」
「体調不良の為、寝込んでいると同行者のアリス・ヴォルケ殿から連絡がありました」
領主会議が始まる直前、部屋にいるメンバーを見渡したゼウスの言葉に、アロウェナが答えれば、室内が少しざわついた
「(トレーネさん、目覚めたかしら?)」
唯一事情を知るレインは、前夜に見た青白い顔のトレーネを思い浮かべ小さく息を吐く
「待たせたな・・・では、会議を始めようか」
遅れてやってきた黄龍に、室内のざわめきは収まる
領主会議の最終日は、来年度に開催される四大国国主会議と、エーティスの開国四千年を祝う式典に関する話し合いとなった
「開国記念式典の開催地は、ナザルだが・・・この度の港の修繕でかなり費用が必要となるが、大丈夫か?」
黄龍の言葉に、アーノルドはしっかりと頷いてみせる
「勿論で御座います黄龍様。
問題なく、出費は確かに大きなものですが、支障は来しません。
道の整備や宿舎などの建築は既に始めております」
「そうか・・・開催時期には、かなりの人数が国内外問わずナザルを訪れる。
ナザルのみならず、周辺国との玄関口になる近隣の領地もまた、合わせて整備などを行ってくれ。
また、人の出入りが激しくなると、当然治安にも影響が出る。
自警団や領軍など、各治安を預かる部隊の育成などにも心を配っておくことだ」
黄龍の言葉に、全員大きく頷いた
「・・・では、少し早いが領主会議を終了する。今夜の最後の夜会は皆楽しんでくれ」
微笑んだ黄龍に領主達は揃って立礼をして三日間の会議は幕を閉じた
「黄龍様」
「ん?レインにセルゲイ?どうした??」
部屋を出た黄龍を追って、セルゲイとレインが呼び止める
「大変申し訳御座いませんが、塩虫の対処のため、我々はこれで帰領致します」
「ああ、そうだったな。
周辺国の宰相方も今朝早く帰国したし、お前達も早く帰って陣頭指揮に立たねばならんのだろう?勿論帰って構わない」
「有り難う御座います。では、御前を失礼いたします」
揃って一礼した2人に、黄龍は頷いて、ふと止まる
「レイン・・・少ししたら、赤龍を寄越して良いか?」
「赤龍様、ですか・・・?勿論、私共に否やは御座いませんが・・・どうされたのです?」
「ん?どうにも、赤龍は人との距離の取り方が下手でなあ・・・。レインには悪いが、赤龍の対人の練習台になってやって欲しい」
苦笑混じりの黄龍に、レインは勿論私でお役に立てるなら、と微笑んだ
「有り難う。ああ、引き留めて悪かった。私が言うのも何だが、急いで帰ると良い」
「御意」
一礼して黄龍の前を辞した2人を、目を細めて見送ると黄龍は夜会の準備の為に自宮に足を向けた・・・
「それにしても・・・私が赤龍様の対人の練習相手を務めるだなんて、大丈夫かしら?」
翼竜の背に跨り龍山を後にしたセルゲイは、高所の恐怖を誤魔化しながら疑問を口にするレインにそうだねぇ・・・と苦笑する
「赤龍様の世界というのは、とてもとても狭いのだろうね。
そして、今までの小さく狭い世界と広い世界を繋ぐ扉があるとしたら、その扉がきっとレインなのだと思うよ」
「私が、扉ですか・・・?」
「レインはとても赤龍様に気に掛けて頂いているだろう?我々も気に掛けていただいているが、レインの方が、余計に。
多分、間違ってないと思うよ?
かつて、劉殿に対しての私がそうであったようにね」
「成る程・・・その頃の話は私も良く聞いておりますが」
「政戦に巻き込まれ、世を厭うた劉殿の世界は、ご自身とご自身を王に選んだ神鳥の晃のみだった。
今思っても狭い世界だ。
その世界に、ある日潜り込んだのが私だったようでね?まあ色々あったけれど、今の劉殿は、とても社交的な方になったよ。
多分、赤龍様にとってのレインは、かつての劉殿にとっての私なんだろうね
・・・こう言うとなんだか烏滸がましいような気がするけれど」
ははは、と笑うセルゲイに何となく分かるかもしれない、とレインは呟いた
「父様・・・」
「うん?
おや!!!レイン、顔色が紙のようだよ!!??」
「とってもキモチワルイです」
「ああ、もう寝ていなさい。話はまた今度だ」
セルゲイは青白い顔色のレインを自分に凭れさせると、瞼に手を乗せ強制的に目を閉じさせた
「ごめんなさい、父様」
「レイン、気にしないでくれ。お前は普段、良く頑張っているんだから。
弱点はあった方が良いよ。
完璧な人間なんて、きっと詰まらないだろうしね」
ははは、と笑うセルゲイに、そうかも知れないわ、とレインは呟いた
「ねえ父様」
「うん?なんだい?」
「私ね、久しぶりに故郷を見たのよ。
魔族の女性の力でね?でも・・・不思議なのだけれど、昔夢に見たときよりすっきりしているの。
さっきの扉の話だけど・・・私の扉は、間違いなく父様と母様よ」
ふふふ、と笑ったレインにセルゲイは一瞬目を丸くすると、そうかい、と柔らかく微笑んだ




