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秋の章・9話

レイン達が魔族の作った空間から抜けると、そこは会議場の近くの西日の差す廊下だった


「(かなりの時間が経過したように思ったのに、実際の時間はそれほど経っていないのね)」


目を瞬かせて、安堵の息を吐くレインに、クラウスが廊下に片膝を着き、レインの首に傷に触れないよう、そっと手を添えた


「無傷と言うわけにはいかなんだか・・・


・・・薄皮一枚とはいえ、手傷を負わせてしまうとは・・・


レイン、説明は後じゃ。フェルト、治療頼む」


「承りまして。


・・・お久しぶりですな、レイン殿。相変わらずのご様子、私もウェルチも肝が冷えましたよ」


「ご心配をお掛けしまして、申し訳ありませんわ。


それにしても、驚きましたわ。


普段は国内にいらっしゃるフェルト殿がいらっしゃるだなんて」


安心したようにフェルトに微笑みかけるレインを横目に、クラウスは面白くなさそうに鼻を鳴らした


「この度は、陛下の命に背いた魔族がいるという事で、その処置に参ったのです。


とはいえ、尻尾を出すまでは動きようがなかったので、私はずっと部屋に篭もって執務を。


本来なら真っ先にご挨拶に伺いたかったのですが、我らが魔王陛下はご存じだとは思いますが、大変机仕事がお嫌いでしてね。


たあっぷり書類を残して下さったので、今の今まで篭もりっきりだったのです」


厭味をしっかり込めたフェルトの言葉に、クラウスは頬を引きつらせる


「フェルト、お前なぁ・・・」


「とにかく、こんな廊下では治療も、説明もままなりませんので、レイン殿に宛がわれている部屋に移動しても宜しゅう御座いますか?


我々の部屋では客殿に入る過程で見つかる恐れもありますので」


「確かにそうですわね。では、案内いたしますわ。ウェルチ殿は・・・」


「・・・ココに。女の作った場は、既に跡形もなく消しました」


「では、全員揃ったようですし、移動いたしましょうか」


フェルトの声に、全員が頷いたのだった








「さて、まず何から話そうか」


レインとセルゲイに宛がわれた部屋で、深くソファに腰掛けた面々の中、そう、切り出したのは困ったような表情をしたクラウスだ


事情を聞いたセルゲイも含め、視線は寝台に寝かせられたトレーネに集まる


「・・・ヴォルケ殿はいつから支配されていたのですか?」


「ずばり、約五十年前からじゃ。


その位からあの魔族の女・・・名はアモイと言うんじゃが、その気配が西にあった・・・まさか手出しを禁じているエーティスにいるとは思わなかったんじゃがなぁ。


誤解の無いように言っておくが、儂は四大国に手を出すと面倒じゃから、百年前に全ての魔族に出入りを禁じる命を出したのじゃ。


しかしそれをアヤツは無視し、長い時を掛けてヴォルケの闇を増長させ、憎しみをより深く、濃く育てた」


レインの質問に、クラウスは溜息混じりに答えた


「「面倒・・・」」


「ぶっちゃけ、面倒じゃよ!


エーティスにしろ、蓮やカラクサにしろ、大国にちょっかいを掛けるのは面倒じゃ。


歴史の浅い国ならまだしも何れも五千年以上の国じゃ。


ただじゃスマンからのう」


サラッとぶっちゃけるクラウスにレインとセルゲイは揃って苦笑する


「魔王様、お言葉が」


「堅いのぅウェルチは。じゃから石頭と呼ばれるんじゃ」


「国の面子というものが御座います。


幾らレイン殿やセルゲイ殿と気安い間柄であっても、此処は自国ではないのですよ?


自重してください。


それから、ワタクシを石頭と呼ぶのは陛下お一人で御座います」


「はいはい」


「返事は一回で結構で御座います」


ピシャリと言うウェルチに、レインは内心コントのようだと笑ってしまった


「魔王様、ウェルチ、話を元に戻して頂けないでしょうか」


「おお、すまん!すまん!!」


話を脱線して常のクラウスへの説教に入りそうな相方を見てフェルトが告げればあっけらかんとクラウスは笑った


「・・・そうそう、よく知っていると思うがアベルは儂を絶対とし、実力主義な完全階級制度じゃ。


他の国々とは違い、法治国家ではない。


外交も一部除いてしていない、閉鎖された国じゃ。


アモイのように、人の魂を喰らう寄生型の弱小種族はアベルでは生きてはいけぬ。


以前にも説明したと思うが、アベルで充満する魔力は濃く、ソレはある程度実力を持つ魔族以外には毒だからのぅ。


故に、国を出て行くのだが、国を出られると儂も中々追いにくくなる。


特に、アモイのようなタイプは寄生してしまうと感知の得意な魔族でも追うのは難しい」


眉間に皺を寄せるクラウスに、あら?とレインは首を傾げる


「五十年程前には気配を感じていたのでは?」


「レイン殿、アモイのように弱い魔族は発する魔力や気配が極々微弱なので、大体の方向は掴めても、はっきりした居所は分からないのです」


ウェルチの補足の言葉になるほどと、レインとセルゲイは頷いた


「うむ、ずっとハッキリした居所は掴めんでなぁ・・・・・アモイにばかりかまけてもいられない


・・・暫くウチは立て込んでいたしの」


「しかし、此のところ国外の魔族の調査をしておりました所、アモイがどうやらエーティスに潜んでいると情報が入りまして。


この突然の訪問は、交流がありますレイン殿に情報提供をする為に参った次第で御座います」


「今夜にでも告げようとしていたのだが、な・・・・危うく手遅れとなる所であった。


すまぬ。


此方の手落ちじゃ」


そう言って頭を下げるクラウス達に慌てたのは、頭を下げられているレインとセルゲイである


「頭を上げてくださいませ・・・!


クラウス殿達には、こうして助けていただいたのですから」


「そうですとも!


それより、気になるのは・・・・・寄生されていたトレーネ殿は、どうなるのですか?」


ささっと話題を変えたセルゲイに、クラウスはかえって困らせたか、と思いつつトレーネに視線を向けた


「・・・命に別状はない。


アモイは何年も時間を掛けて魂を闇に染めていた。


魂が純粋に、真っ黒に染まるまでには長い時間が掛かる


・・・掛かるが、憎悪に染まった魂は、寄生型の魔族にとって時間を掛ける価値が十分にあるほど、ご馳走じゃからな。


途中で喰うこともなく、染めきってしまってから喰らうつもりだったのじゃろう。


そして、今回が仕上げだった。


仕上げには、完全に魂を染めるために力を多く注ぎ込む。


まあ、それゆえ、魔力が漏れだし儂に居所を伝える事となったのじゃがな。


ヴォルケはまだ喰われていないから、暫く寝込めば元に戻るであろう。


・・・ただし、精神は不安定になる可能性は多分にある」


その言葉にレインとセルゲイは、眉根を寄せてトレーネを見詰めた




「・・・私には、そもそも若い頃のトレーネ殿が魔族に付け入られる隙を作ったとは俄に信じがたい。


・・・今でこそ、治領に余り心を向けてはいませんが、かつては非常に優秀で、各領主からは一目置かれていたと、父である先代から聞いたことがあるが・・・」


「・・・トレーネ殿は、最愛の家族の死を受け入れることが出来なかったようです。


恐らくは戦死したであろう夫も、病死した息子も、その死に目にも遺体でさえも見ることが出来なかった為に、前に進むことを止め、その場に留まり続けたのでしょう。


そして、目を付けられたのではないかと」


なんとなく、気持ちは分からないでもない気がしますね、とレインは小さく呟いた


「レイン、何処でそれを・・・?」


「魔族の空間に引き摺り込まれたとき、トレーネさん自身の過去も見ました。


彼女は、自身は夫と息子を亡くしたのに、何故領民を愛せるというのか、と私に言いましたよ」


「・・・そうか。それで・・・




・・・理由が分かった所で、そろそろ良い時間の様だね」


いますぐ準備をしなければ夜会に間に合わないだろう、と呟いたセルゲイに、クラウス達も頷く


「ヴォルケは儂らが、こそっと戻しておくので気にするな。


では、レイン、この度は本当に迷惑を掛けた」


「お気になさらず。私はこうして無事ですから」


「うむ・・・では、夜会でのぅ。


話すことが出来るかは、分からんが」


「陛下は恐らく囲まれるでしょう。


本日の夜会は、ワタクシもフェルトも参加いたします。


我々は、お話しする機会も、しっかり!とあると思いますので、後ほど」


「楽しみにしておりますよ」


「ウェルチ!フェルト!


お主等、レインと喋れないだろう儂に対する嫌味か!!」


「いいえ」


「とんでも御座いません。本心で御座います」


片や無表情、片や微笑みながら、きっぱりと言った両腕に、クラウスはキィッとなりながらトレーネを抱えるとそのまま部屋を出て行った


「何がともあれ、とにかくクラウス殿達がいてくださって本当に良かったね」


「ええ、本当に」


頷きあったセルゲイとレインは時間が迫るパーティーの準備を急いだ


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