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秋の章・7話

まだもう少し赤龍は出てきません。

「お待たせいたしました。おはようございます、皆さん」

領主会議二日目の朝、レインが桐藍を伴って、指定された部屋に入れば近隣諸国8名の宰相達が一斉に立ち上がった


「おはようございます、レイン殿。


ご無沙汰しておりますな・・・


リオルとの一件、よくぞご無事で」


髭の豊かな男が目尻を和ませて呟けば、他の7人もしきりに頷く


「その節はご心配とご迷惑をお掛けいたしました。

この通り、無事ですわ」


にこりと微笑むレインに安堵の息がそこかしこで漏れた


「さあ、挨拶はまた後で致しましょう。


こうして皆さんとお会い出来たのは嬉しく思いますが・・・


・・・塩虫が大量発生したと報告を受けております」


レインの言葉に、宰相達は顔色を変え、深刻な表情となった


「具体的に、どれ程の被害が?


・・・私たちにどういった助けが出来ますでしょうか?」


「・・・ご存じの通り、塩虫は毎年発生しておりますが・・・


今年は内陸で雨が例年に比べて殆ど降らなかったのです。


本来雨で流されるはずの塩虫の卵が、流されることなく孵化しその数は例年のソレを大きく上回りました。


本来、塩虫は1つのルートを通って海を目指しますが・・・今年は3つのルートを通って内陸を横断ないしは縦断しております。


・・・数が多いこともあって、本来の想定していたルートの被害だけでも大きなものですが、想定外のルートにまで被害が及んでおります。


塩虫は、塩を食らいます。


そして水を掛けると溶けて死ぬ・・・」


「水と、塩・・・どちらも内陸にある我々の国にとって非常に貴重なものです。


しかし備蓄はほぼ底をつきました・・・!!


至急、一時的に減らしていらっしゃる水と塩の輸出量を戻していただきたい・・・!」


宰相達の言葉にレインは深く頷いた


「致しましょう。すぐに輸出できるようシュレイアの足の速さを誇る者達が運ぶ手筈を整えます。


それにあたって皆さんには自国を通過する許可を出していただきたい」


「すぐに致しましょう」


「では、私は部屋に戻って準備をいたします。


早い場所は今夜遅くから到着すると思いますが、運び入れるのは一旦各王宮で宜しゅう御座いますか?」


「御願いいたします」


「無理を言って申し訳御座いません」


「困ったときはお互い様、ですわ」


深々と頭を下げる宰相達に、レインは緩く首を振って微笑んだ





一旦宛がわれた自室に戻ったレインは、直ぐに宰相達に約束した塩と水の輸出に関しての内容を文に書くと、それを鳳凰の琥珀の足に括りつけ、シュレイアに飛び立たせた


琥珀が凄まじい勢いでシュレイアの方向に消えたのを見送って息を吐く暇もなく、衣装の乱れを整えると、今度は三国の国主達達の元に向かうために部屋を出る


その直前、レインは桐藍にセルゲイに付いているよう指示をした


「もし琥珀が帰ってきたら、父さまの指示に従って。


ひょっとしたら一旦、シュレイアに戻って影の子達に指示してもらうことになるかもしれないわ」


「御意。お気を付けテ」


深々と頭を下げる桐藍に頷いて、部屋を出ると急ぎ足で国主達の部屋に向かった





「お待たせいたしまして、大変申し訳ありません。


レイン・シュレイア、参りまして御座います」


扉の前で挨拶をすれば、すぐに入室を促される


レインが重厚感のある扉を開けば、豪華な内装が施された部屋に負けることなく堂々と椅子に座る国主3人の姿があった


「ワハハ!!夏ぶりじゃの、レイン」


レインにひらりと手を振ったのは、リオルで停戦に協力したアベル国、魔王クラウスだ・・・


黒く艶やかな髪を結い上げ、項の白さが眩しく、一見して女性に見紛う顔立ちだが、豪快に笑い、大らかな性格もあって実際に間違われることはない


「1年ぶりかぇ?相も変わらず無茶をしておるみたいだねぇ」


呆れたように微笑むのは南の海中にある、カラクサの国王で白鯨の魚人のツユリ・・・


白銀の絹糸のような髪は複雑に結われ、目尻は朱で色づけられていて華奢な身体と美しい顔立ちから絶世の美女という外見であるが、此方も男である


深い藍色の瞳は理知的な光を宿し、長い時を生きる風格が滲んでいる・・・


ツユリ以上に長く生きているはずのクラウスにその気配を感じ難いのは性格だろうと推測される


「お前はよく巻き込まれているな・・・今度護符を書いて送ろう」


苦笑するのは東の大国、蓮の皇帝のりゅう 太白たいはくで、その肩には蓮国の神鳥であり、レインの相棒である琥珀の親でもある鳳凰のこうが留まっている・・・


蓮は地球でいう中国に位置しており、劉は典型的なアジア系の顔立ちである

黒髪に焦げ茶の一重の切れ長の瞳の持ち主である


「クラウス殿、夏は大変お世話になりました。


ツユリ殿、ご無沙汰しております。ご心配をお掛けしたようで・・・この通り、五体満足、無事ですわ


劉殿、最近お祓いをしていただいた方が良いのかも知れないと思っていたところです。


・・・護符、お待ちしております・・・」


一人一人と目を合わせ、微笑むレインに、クラウスが手を叩き、挨拶を止める


「さて、挨拶はそこまでにして席に着きなさい。レイン」


クラウスに促され、レインは一礼して席に着いた


「・・・それで、一体どうなさったのです?


皆さんおそろいでいらっしゃるなんて、滅多に無いことではありませんか」


レインが小首を傾げれば、ツユリが確かにねぇ・・・と艶やかに微笑んだ


「それぞれが君に用事があったから偶然なんだがね


・・・こうして三人揃って君に会うのは三年ぶりくらいかな?」


「それ位じゃろ。


しかし、このエーティスで揃うのは初めてではないか?


基本的に、エーティス以外で会うからのぅ」


「エーティスで会うのは、シュレイア家にリスクが高かったからねぇ」


ふふふ、と微笑むツユリにそうですね、とレインは苦笑混じりに頷いた


「リスクというほど大袈裟なモノではないですが、田舎領主が世界四大国の内の三国と交流があるのは目立ちますからね」


「そうじゃな。田舎領主という外面だけを見れば、確かに目立つじゃろうのぅ」


クッと喉の奥を震わせるクラウスに劉も深く頷いた


「・・・だが、今回、我々はこうしてレインを尋ねた。


どういう意味か分かるかえ?」


小首を傾げるツユリにレインは苦笑を浮かべた


「私たちシュレイアが、この機に路線を変更するだろうとお考えになったのですね?」


「ああ。間違っていないだろう?」


笑う三人に、敵いませんね、とレインは呟いた


「今更、リオルとの一件を隠す事は出来ませんからねぇ。


相当なお馬鹿じゃない限り、シュレイアに何かあると思うでしょう。


なら、情報は下手に隠しすぎない方が賢明というもの。


全てを明らかにする必要性は無いですが、ね」


レインがにこりと笑って告げれば、三人それぞれ笑って返した




「・・・さて、レイン?」


「なんです?ツユリ殿」


「ワタクシは、是非ともエンチュウについて詳しく聞きたいぇ」


「あら、流石はお耳が早いですわね。わたくしも昨日聞いたところですのに


わくわくと興味津々という顔をするツユリに、意外な単語が出たとレインが驚いて目を見開く


「昨晩、丁度この国の周辺国の宰相達の訪問と我々の訪問の時間が被ってねぇ。随分慌てて、憔悴していたから、聞いてみたのさ。


あちらさんは我々の正体に最初気付いていなかったから、自然に教えてくれたぇ。その後正体を知られて随分慌てさせてしまったがねぇ」


ふふふ、と笑って理由を言うツユリにレインは、まさか説明した相手が世に名高い大国の国主だとは思わなかったろうと、宰相の慌て振りを想像し気の毒に思った


「エンチュウについて、ですか・・・」


「是非とも教えておくれ」


普段海中にいるツユリにとっては耳に馴染みのない虫の名前なのだろう。


興味津々といった様子でレインを見るツユリに対して、クラウスは渋い顔をする


「エンチュウか、ありゃ面倒なイキモノじゃのぅ」


そう、溜息混じりに呟いたクラウスに対して、劉はエンチュウがぴんと来ないようで首を傾げた


「?同じ大陸なのに、劉殿は知らんのかぇ?」


「塩虫は、大陸のほぼ中心にある岩山から西にしか移動しないのですよ。


だから、岩山より東にある蓮では殆ど見ることがないのでしょう」


「何故?」


「水じゃよ、ツユリ。


西側の、塩虫の通るルートは特に雨の少ない地域じゃ。


塩虫は水に触れれば溶けて死ぬ故、乾期に孵化し、成虫となって海に向かう。


岩山から東は雨が定期的に降る故、近寄らんのじゃよ」


集団でやって来るから退治が面倒なんだとクラウスが大きな溜息を吐いたのを横目に見つつ、ツユリはクスクスと上品に笑った


「珍妙な生物よなぁ・・・まこと、大陸は面白い」


「儂からしたら海も謎じゃがな!!」


「魔王の国も謎すぎますよ」


「ふむ、ソレを言うと、鳳凰が国主を選ぶ蓮も、竜・龍族中心のエーティスも、他国から見れば謎に包まれているえ」


そこまで言って、お互いの顔を見合わすと、誰が最初か吹き出し、暫し部屋には笑い声が響いた


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