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秋の章・6話

影の連絡のために離れていた桐藍がレインの元に戻ったのは、黄龍の挨拶が終わり正式に夜会が始まって直ぐのことだ


「戻りましタ」


「お帰り。何か変わりはあった?」


「是」


頷く桐藍にレインは無言で続きを促した


「塩虫が発生したやモ、と彰夏ガ」


塩虫エンチュウという言葉にレインは目を見開いた


「詳しくは調査中という事ですガ、日付が変わるまでには報告可能とのことでス」


「そう・・・今年は厄年かしら」


はあ、と息を吐くレインに桐藍は苦笑混じりに頷く


「確かに今年は色々ありましたかラ」


「・・・あり過ぎね。例年以上だわ」


苦笑がいつしか変わり、クスクスと笑い出したレインに桐藍は乾いた笑みを漏らした


「(大物ですね・・・貴女という方は本当に。全く頼りになりますよ)」


普通なら、もっと気にしても良いくらいには、レインに起こった事は過酷だった


・・・それこそ、レインと同じような地位の娘が同じ目に遭えば暫く寝込んでしまえるくらいには大変だったはずなのだ


それなのに、レインはとうの昔に起こったことと消化して、既に過去のこととして線引きをしてしまっている


切り替えの速さに桐藍は安心感すら覚えたのだった




桐藍はその後すぐ護衛役として傍に付いたが、程なく突然現れたサラによって会場の端に連れ出された


「・・・何でス?サラ殿」


「レインに笑顔で行ってらっしゃい!て言われたからって、そんなに拗ねないで欲しいわぁ」


「拗ねて等いませんヨ。それより、用件は何でしょウ」


隠すことなく眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにする桐藍にサラは肩を竦めた


「用件なぁ・・・レインの、シュレイアの今後を聞いておこう、って思ってなぁ」


サラの言葉に桐藍は眉間の皺を消して表情を無くす


「どういう事でしょウ」


「シュレイアは目立ち過ぎた、ってことやで」


にへら、と笑うサラは、先を促す桐藍の視線に肩を竦め続きを口にする


「今までずっと情報を操作してシュレイアっていう領地の実情を正確に把握させて来んかった。


阿呆な貴族達は、田舎だというただそれだけで判断して、シュレイアを侮ってきたやん。


ところがリオルの一件があって、蓋を開けてみればおかしな事が一杯ある


・・・で、分かるわけやン?情報操作されてることを。


しかし、調べるために放った草はことごとく戻ってこない。


謎ばかり深まる。


この辺りで、漸く阿呆な貴族も分かるわけやな、シュレイアの異質さを。


・・・・私が聞きたいンは、今後のシュレイアの身の振り方や。


これまで通りにはいかへんで?それでも尚、田舎領主のレッテル張ったままいるのか?それともバラすのか・・・そこんとこどうなん?」


「お答えしかねまス。第一、それは私に聞かれるよりレイン様に直接聞いた方が早いですヨ」


「なんやケチやなぁ・・・ちょっとくらい教えてくれてもええやン?」


「そもそモ、存じ上げないことでス。私はレイン様の護衛ですかラ」


「・・・・・・・・・・・・腑に落ちひんけど、口堅そうやモンな。


粘ってもしゃあないか・・・


分かった。ほんじゃレインとこに戻ろうか」


「ご期待に添えず申し訳なイ」


「めっちゃ無表情のまんまやん。絶対欠片も思ってないやん!」


サラは桐藍にしっかり突っ込んで、仕返しとばかりに桐藍の腕を引っ掴んでレインの元に戻る


慌てたのは勿論桐藍だ・・・貴族の娘の手を振り払うわけにはいかない


離してくれという懇願も鮮やかにスルーされ、結局レインの元まで腕を引かれてしまった


「レインー、どーらんさんお返しするわぁ」


「あら・・・あらあら」


桐藍の腕を掴むサラの手を見て、レインはニコニコとする

その笑顔が非常に居心地悪く、桐藍は斜め下を見た


「あらら。サラ、余り桐藍を虐めないでやって」


「あは。揶揄からかい甲斐のある護衛役やなぁ」


へらっと笑うサラの言葉に、どっと疲れたような気がして内心大きく息を吐いた桐藍だった




「おや、賑やかですね」


「取り込み中でしたか?」


そんなやり取りの最中、新たに声を掛けてきた2人に桐藍は目を見開いた


「あら、エドヴァルド殿、シオン殿。


紹介いたしますわ


。此方は桐藍。東の出身で私の護衛兼右腕ですの。


桐藍、右の方はエドヴァルド・ナザル殿。


左の方はシオン・バルクス殿。


お二人には先程助けて頂いたのよ。それにダンスも誘って頂いたの」


レインの紹介に桐藍は軽く頭を下げ、エドヴァルド達はにこやかに微笑んで返した




「どーらん殿、レイン殿は暫しお連れするよ」


ニコリと微笑むエドヴァルドに、桐藍は是、と言ってその場から離れた


「(ナザル直系でアメリア嬢の叔父であるエドヴァルド殿に、バルクス直系で長子のシオン殿か。


今朝ある程度頭に入れていたが、やはり直系はシュレイアを大なり小なり気にしているのか。先程のサラ嬢も然り・・・


対して、分家はやはり悪意が目立つ)」


ひそひそと小声でレインとサラの悪口を言う娘を何人も見て、桐藍は溜息を吐く


「(己の一族の手綱はしっかりと握っていて欲しいものだ)」


呆れつつ、壁際によると、視界にレインとセルゲイが入る位置で2人を見守る


・・・傍に居すぎると幾ら護衛とはいえ顰蹙ひんしゅくを買うが、遠くに居すぎるといざという時に役に立たない・・・駆けつけることが出来るギリギリの位置に居ることが望ましいのだ


限りなく気配を薄くし、レインのダンスの相手である2人を見る


エドヴァルドは銀の髪を肩で切り揃え、清潔感のある優男といった風貌だ


元々ナザルの領主一族は武勲よりも文勲を立ててきた一族だ・・・恐らくエドヴァルドも又、文官よりなのだろうと桐藍は推測した



一方のシオンは肩より少し下まで伸ばした金髪を頭の下の方で結っている


此方は元々武勲を立てる者が多い家で、シオンは父であるゼウスに比べればまだ細身ではあるものの、鍛えているだろう事が服の上からも分かった


どちらも目鼻立ちのくっきりした二枚目だ・・・確かにこの2人に誘われたとあっては注目もされるだろうと、桐藍はレインの内心を思って苦笑したのだった






その日は結局終始周囲から視線を浴びながら、レインとサラはエドヴァルドとシオンと共に居た


勿論、思惑は双方にあったが、一番はお互いがお互いの虫除けという利害の一致合ってのことだと、夜会終了後に疲れた顔でレインはそう零した


「虫除けですカ」


「私やサラも、良いカモだけれど、あのお二人には負けるわね。


女性からの熱視線の多いこと。いっそ不憫に思うわ。美男子も不便ねぇ」


「サラ嬢やあのお二方も婚約者はいらっしゃらないのでしたカ」


「居ないらしいわね。


元々、婚期云々はよく言われるけれど、やっぱり私たちの場合慎重に決めなければいけないし。


そうやって慎重になりすぎて、未だに好物件のまま。


でも、それは他の直系にも言える事よ?アメリアとセレナも婚約者は居ないし。


だから、今回の夜会では結構積極的に責めてくると思うのよねぇ・・・とっても面倒だわ」


溜息を吐いたレインに桐藍は、慰めるように柚子茶を淹れて差し出した


「あぁ、美味しい。これで復活する私も大概単純だと思うのだけれど、やっぱり疲れたときは甘いものよねぇ・・・




さて、ちょっと幾つか報告を聞いても良い?」


一息吐いて、感情と関心を切り替えたレインに、桐蘭は頷く


「是。


まズ、塩虫ですがやはり発生したようでス。


現在食事をしつつ海に向かって移動中とのこト。


シュレイアに突入するかはまだ分からないとのことでス」


「各国の様子は?」


「この度は塩虫の規模が大きク、被害が拡大しているようでス。


既に対策を練っている国もありますガ、いずれにしても内陸国なので対策仕きれない国も多いようでス」


塩虫というのは塩喰い虫とも呼ばれている、大型の蟻のことだ・・・呼び名の通り、塩を食べ、その弱点は真水だ・・・


例年発生する虫ではあるが、今年は特に塩虫が生まれるとされる大陸の中心で雨が少なかったことから、卵が洗い流されることなく、孵化し、結果かなりの量の塩虫が大陸を横断しているようだった


「あ、レイン。


その事だけど、つい先程、近隣各国の宰相が入国申請して、君との会談を願っているようだよ」


話を聞いていたセルゲイがレインに伝えれば、レインは驚きに目を見開いた


「父様・・・それは本当ですか?」


「私も帰る間際に呼び止められたんだけど、出来れば明日の午前中に時間が欲しいそうだ。急務は無い?」


「強いて言うなら、塩虫対策が急務ね。是非お会いしたいわ」


「うん、じゃあすぐ近くに国府の官が控えているから伝えるよ。何時くらい?」


「8時頃に、御願いしたいわ」


「うん。じゃあそう伝えよう。


ちなみに、蓮、カラクサ、アベルの各王と側近もいらしているようだよ。


此方は近隣諸国宰相との会談の後で構わないそうだけど」


「・・・その三国は何故・・・?」


思いもよらなかった国名に目を見開くレインと桐藍にセルゲイはさあ?と肩を竦めた


「突然の訪問に国府は上へ下への大騒ぎだそうだ。


近隣諸国の宰相には客殿を解放し、三国の方々は黄龍の宮の一角を解放したそうだ」


「そりゃあ、てんやわんやね」


国府の人間には同情をしちゃうわ、とレインは苦笑した




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