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秋の章・2話

「やっぱり翼竜・・・というか空を飛ぶのは苦手だわ」


はあ・・・・と大きく息を吐いたレインにセルゲイは苦笑する


「昨日はちゃんと眠れたのかい?」


「それが、3時間くらいしか眠れなかったのよね・・・」


「寝不足も原因だよ。まだ昼だし、夜会の準備ギリギリまで寝ていなさい」


「それもそうね」


セルゲイの言葉にレインは苦笑しながら頷き、龍山に降り立った






「大丈夫で御座いますカ・・?レイン様」


ふらっとしそうになるレインを、桐藍がしっかり支える


「あら、有り難う桐藍」


「全く・・・どうらんがいて良かった。


黄龍様にはお礼を申し上げなければね」


「ええ、本当に」


神妙な顔をして頷くレインに、桐藍は苦笑する


「私モ、龍山の外でお待ちするのではなク、こうしてお側に居ることが出来て嬉しいでス」


普段の影の民の戦闘服でもある黒の上下に目元しか分からない覆面姿ではなく、白のシャツに黒の燕尾服を着ている桐藍は、覆面代わりの濃い色の布で口元を隠しながらも嬉しそうに目元を和らげた



・・・龍騎士アシルが届けた文には、桐藍の入山許可が書かれていたのだ


元々、極限られた人間しか入山できない(領主の一族、竜・龍族、貴族、官僚)龍山では、基本的に護衛は1名に付き1名だけ許されるのだが、その護衛も、許可が下りた限られた人間しかなれない


桐藍達は、外見は人間だが、その性質は人間とは大きく異なる亜人である為、許可の申請をするまでもなく難しいだろう、と本人もシュレイア家の者も思っていたのだ(龍山では色々と制限がある)


・・・ところが、レインの領主就任と言うこともあり、黄龍から直々に許可が下りたのだ


文を開いたときはまさに目から鱗状態であった


勿論、幾つかの条件はあるが、それは他の護衛と殆ど変わらない


桐藍のみの条件を言うならば、龍山において、影に潜ることは禁じるというものだ


あとは、正装をすることや、諍いを起こさないなど、ごく当たり前の条件だった





「あら、セルゲイさんにレインやない?」


「おや」


「あらサラ?」


指定された宿泊する部屋に向かっている最中、レイン達に声を掛けたのは金の髪を肩口で揃えた、方言の混じる女性だった


名前はサラ・クレマ・・・シュレイア家と内海を挟んで隣するクレマ領の直系長女である


ちなみにレインと同い年で、レインと同じく次期領主だ



「オトン!セルゲイさんとレインやで!」


柱の影に隠れていた男を引っ張り出し、にこやかに紹介するサラに対し、引っ張り出された男は、セルゲイを不機嫌な表情でちらっと見ただけだ


「相変わらずだね、スミス」


「・・・お前もな、セルゲイ」


スミス・・・サラの父にして、当代クレマ領主の男は、苦笑するセルゲイに鼻を鳴らして答えた


「ははは・・・君らしくて良いけどね」


「ふん」


2人の様子に控えていた桐藍は、仲が余り宜しくないのですか・・・?とレインにコソッと問いかけた


「(嗚呼、桐藍このやり取り見るの初めてだっけ?


別に、険悪なほど仲が悪い訳じゃないよ。


ちゃんと会話だって成立するし、まあ、所謂いわゆる喧嘩するほど仲が良いって奴かな?)」


「(せやで、格好いいおにーさん。


オトンとセルゲイさんはな、昔、1人の女性取り合ってん。


で、見事にウチのオトンが惨敗して、ちょっとした逆恨み状態になったんよ。


ちなみに、その女性がフェリスさんやで。


ちゃーんとオカンと今ラブラブやからもう一種の挨拶やけどなー)」


あはは、と呑気に笑うサラに、その様な過去があったんですね、と桐藍は目を丸くした




「ま、あの2人は置いておこう。


レイン、着いたばっかり?」


「ええ。今し方着いたばかりよ」


「なら、知らんやろ?今回の夜会、面倒そうやで?


セレナ・バルクスとアメリア・ナザルがおんねん。


あの2人、絶対喧嘩しよるからなぁ・・・」


「あらまあ・・・」


「バルクス家の直系長女ノ、セレナ・バルクスと直系長子で長女のアメリア・ナザルですカ?


・・・確カ、お二方ともレイン様達と年齢が近かったですネ」


「せや。アメリアが同い年で、セレナが1つ下やで。


バルクスとナザルは、元からお互いライバル意識が高いンやけど、この2人はかなり仲が悪いねん。


趣味が合わんとかでなぁ・・・」


うへえ、と嫌そうな顔をするサラに、レインも苦笑しつつ頷いた


「お互いをある程度認めているからこそ、反発するんだわ。多分ね。


私個人はそれぞれとても良い子だと思うのだけれどねぇ。


そうそう・・・やっぱり、今回の領主会議は家族も多いのかしら?」


「うーん。私も領主会議初やから分からんけど、多分直系の長子達は来てると思うで?


今回は、レインとウチの承認があるからなぁ。


ウチのオトンなんか、レインが就任するって聞いて、慌てて同じ年に領主にするって一族に宣言してんで?


敵わんわー」


渋い顔のサラに、あら、とレインは声を上げる


「私と対抗するにしたって、サラの就任を決めたのは、サラが今迄頑張ってきた事をみんな知っているからでしょう?」


にっこり笑うレインに、サラリと言うし、ホンマ敵わんわー・・・とサラは内心で苦笑した


父であるスミスがセルゲイと張り合うので、昔から、同じ年に生まれたレインと比べられてきた


やれ、レインはもう歩けるようになった、から始まり


文字が書ける、本を読める、乗馬が出来るだの言って、スミスは事あるごとに同じ事をサラにさせようとしてきたし、させてきた


そんな風に幼い頃から比べ続けられれば、捻くれても可笑しくないし、実際に、レインとは会った事も無い段階で敵対心を持っていた


・・・そう、初めてパーティーで顔を合わせるまでは・・・


「(パーティーデビューで初めて顔を合わせた時は、私の仏頂面なんてお構いなしに微笑んで、手を差し出したレイン・・・


同年の他の誰より、兄弟より賢いと言われていた私の言葉に、打てば響く鐘のように返答が帰ってきたときには驚いたものやわ。


自分が知らない事を知っとるし、聞けば隠す事無くサラリと教えてくれるし・・・その姿に大人を感じたなぁ。


えらい自分がちっぽけに思ったんやで?)」


その日の夜会で、サラは素直にレインの凄さを感じたのだ


同時に、自分が如何に井戸の中の蛙か思い知った日でもあった、特別なパーティーデビューだった


「初めて会った時から、私はレインの凄いとこ分かってんねん。


適わんって思うわ。


・・・せやけど、同じくらい、頑張ろうとも思えたんやで」


「・・・そんな風に思われてるなんて知らなかったわ。


でも比べられる為に領主になるんじゃなくて、サラなりの治領をしてね。


同じ年の領主だもの。


しかも友達だし、隣の領だし。


一緒に領主をするの、とても楽しみにしてるのよ」


ニコリと笑うレインに、サラはつくづく適わないなぁ、と内心で思うの


越えて来た場数が違う


「(まだまだスタートラインにすら立てていない私やけど、いつか肩を並べたいと思ってんねん


・・・東は此奴等2人がおるから大丈夫やっ!て、言われたいわ)」


密かな夢を抱くサラの横で、レインはサラから聞いたばかりの夜会の出席者達を思い浮かべ少しだけ憂鬱な気持ちになっていたのだった




領主会議は3日に渡って行われる


翌年の税率を決めたりといった国の指針を話し合うことや、国を挙げた催し物の企画・運営の話し合いなどが例年で、コレに出席できるのは領主と、護衛と黄龍と緑龍、それから国府の最高官と次官、秘書官のみだ


そして、会議の後は、十二の領主とその一族ならば誰でも参加可能な夜会が開催される


重要な政治の場でもあるため、出席率は例年非常に高い


・・・ちなみに夜会は前夜祭から始まるので、基本的に一度の領主会議に4回催される


「今回の領主会議は、領主承認もあるから、私とサラも出席するんだけど、議題に、絶対ヴォルケ領のことが上がると思うわ。


・・・完全に後手に回ったヴォルケを、ここぞとばかりにバルクスとナザルが叩くでしょうね。


そうなると、領主のバランスが崩れるわねぇ」


サラと別れ、部屋に入ったレインは、溜息と共にそう零した


「十二領主は


西の海に面した領地にはヴォルケの領、南の火山地帯にはバルクス領、北には氷山を有するナザル領・・・これらを三領と呼ぶね。


龍山を囲んでベルン、ソーレ、シュペルツ、キーマがあって、この四領は龍族が領主を勤めている。


それから、シュレイアとは内海を挟んでいるクレマ。


ヴォルケの隣にはアズナス。


アズナスとシュレイアの間、ナザルの下にあるムーランド。


それに唯一島であるハレイ。


これら十二の領地、十二人の領主には勿論、仲が良いもの悪いものがある」


セルゲイの困ったような微笑みに、桐藍は頷く


「アズナスとヴォルケは仲が良ク、三領はそれぞれ不仲。


ベルン・ソーレ・シュペルツ・キーマは龍族の関係で四領は仲が良いけれド、人族を見下し気味で他領と関わり薄イ・・・


ムーランドは農民が盗賊や山賊の類になる事が多ク、アズナス、ナザルとは微妙な関係でしたカ」


桐藍の言葉にセルゲイとレインは揃って苦笑混じりに頷いた


「あと付け加えるなら、ウチは基本的に何処の領地、直系以外からも下に見られている、かな?」


ははは、と軽い口調で言ってのけたセルゲイに、レインも笑って頷いた


「そうなるようにしたから、問題ないんだけど・・・


リオルとの一件でちょっと目立ったから、今回その件で突っ込まれたくないわねぇ。


対応が面倒だし・・・」


やれやれ、と肩を竦めるレインに、桐藍は苦笑した


「さて、そろそろ夜会の準備をしなければね。


女性の支度には時間が掛かるし。


どうらん、君は夜会の間だけでも布を外した方が良いんだけどな・・・」


「承知いたしましタ」


頷く桐藍は、あっさりと布を取り払う


「うん。これで今夜の女性陣の視線は1人占めじゃないかな?」


「セルゲイ様・・・それは遠慮したいと思いまス」


「無理じゃないかしら?」


「無理だと思うよ」


レインとセルゲイから間髪入れずに返ってきた答えに桐藍は項垂れたのだった




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