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夏の章・16話

農民達の言葉は、色んな地方の言葉をまぜこぜにしてます。



「うーん、農作業日和!!!!!」




季節は進み、暦は8月になっていた


8月特有ののぎらぎらとした太陽の下、麦わら帽子にツナギ、首から手ぬぐいを下げ、軍手にブーツを身に纏ったレインは、目の下に隈を作りながらも、目の前に広がる領主一家所有の試験用野菜畑に目を輝かせる



5月の下旬から6月のリオル襲撃、誘拐、停戦、帰還、流入民の受け入れと一月ちょっとの間に随分沢山の事が起こった


残念なことに、ヴォルケ領民は、死者・行方不明者5万5千人、難民80万人以上となり、その内の約30万人がシュレイアへとやってきた


現在は流入自体はなんとか落ち着き、怪我人は勿論治療に専念させ、怪我の殆ど無かった者達は、出張職員達の案でもあった町中での職業訓練施設に入り、働きながらシュレイアで生きるための大人なら誰もが知っている事を一から学んでいる


孤児達は、それまでの生活を鑑みながら、いくつかの街に振り分けられ、シュレイアに元からあった児童会館という名の孤児院で、学舎に通いながら徐々に新しい生活に心と体を慣らしているところだ



「まだまだ仮設の住宅から出してあげれないけれど、街の整備や住宅の建設、インフラの整備は引き続き兄様達が頑張ってくれているし、今回の件で蓮とアベルとカラクサから支援物資も届いたし、前には進んでいるかなー」


余談だが、レインが帰還してから1月、レイン宛の手紙が友好国やら年齢、種族、地位を越えた友人達から相次ぎ、その対応にも追われ、暫く無茶は出来ないな、と内心で苦く笑ったのだった



「レイン様―!収穫準備整いましたべ」


おーい、とレインを後ろから呼んだのは、シュレイアの農夫達で、その農夫達の後ろではもじもじとしながら、<仕事>に目を輝かせる元流入民が大勢揃っていた


「うんうん。準備手伝いありがとうねぇ


今から、第1回、農業体験、兼、収穫体験、兼、交流会を始めます!!」


レインの声に、主に農夫達から拍手が起こる


「まずは趣旨から説明しますね。


多くの、前職を持たない皆さんには、これから農民として土地を貸与致します


その為の第一歩じゃないですけど、まずは収穫の喜びを味わって欲しいと思います。


本日の予定ですが、午前中にまずは畑作りのための第一歩、土を耕します


専門の農家の皆さんに先生役を御願いしているので、腰を痛めないよう気をつけながらまずは土に触れてください。


その後、昼前から、夏野菜の収穫、そして、それら夏野菜をバーベキューします!!


ちなみに、この際、昨年のではありますが、シュレイアが今年から全土で作っている米を振る舞います。秋には一緒にまた収穫しますからねー。


で、夕方まで交流会をしまして、日が傾き始めたら、午前中に耕した農地に冬野菜の種をまきます!


以上が本日の流れになります。


初心者なわけですから、最初からちゃんと農具を扱うことだって、まあまず無理です。


まずは使ってみることが農家就業の第一歩、というわけですから、楽しみながらやりましょう」



最後に、にこっ、と笑ったレインは、質問がないことを確認して、では始めます!!と合図した




「そこは腰をちゃーんといれるだ。


そんなへっぴり腰じゃ、腰さ駄目にするで!」


「ちみっこは草抜きだ。


良い畑作りのための第一歩だけん、ちゃーんと根こそぎ抜くだよ」


「小石も邪魔だで、横さ避けておくんさ。


んで、後でこの小石も使うからな」



何も分からない流入民達に、1つ1つ丁寧に教えていく農夫達を見守りながら、レインは一角を農夫に負けぬスピードで耕していった


そんなレインを、流入民は目を丸くして見詰める


「ん?どうかしましたか?」


小首を傾げるレインに、一番近くにいたレインと年がさほど変わらない娘が、おずおずと口を開いた


「あの・・・その・・・」


「?」


「ど、どうして、領主の姫様なのに、こんな泥だらけになるん、ですか?」


おどおどとしながら、それでも言い切った娘に、あら、とレインは声を上げる


「このシュレイアという土地は、農民無くして成立しない土地なのよ。


領民の殆どが、農作業に従事しているのだから、その仕事を知らなくて領主の仕事は出来ないし、何より、こうして一緒に土に塗れないと分からない事って、意外と多いのよ


領地を知る上でも、領民を知る上でも、農作業って大事。


でも、一番の理由は、私が農作業好きだからなのだけれど」


うふふ、と笑うレインに、そうそう、と相づちを打つのは農夫達だ


「オラ達より、よっぽど農作業さ詳しいべー」


「土さ、触っているときが一番キラキラしてるべよー」


レインの言葉と農夫達の言葉に、娘や話を聞いていた流入民達は目が零れんばかりに見開いた


「領主様っていったら、お茶会に、パーティーにダンス、美味しいご飯を一杯食べて、一杯捨てて、キラキラしたドレスを着て、宝石を飾って・・・」


呆然としながら、自分の知る領主像、貴族像を呟く娘に、ないない、と、レインや農夫達は手をパタパタ横に振った


「今此処で、教えても、きっと分かり切らん。


どうせ、みんなこれから同じ領民だべ?


いーーーっぱい!知っていけば良いさぁ。


ウチの領主様達は、そげんな事はいっこもせんけん」


「・・・しないから心配さするけんど・・・」


「んだんだ」


うんうんと腕を組んで頷き合う農夫達にレインはあはは、と苦笑する


「まあ、何だろ、ウチはとっても特殊だから、慣れるまでに時間は掛かるかも知れないけれど、きっと愛してもらえるような領地にしてみせるから。


不満や不便は何でも言ってね?小さな事から改善していくのが、大事なの。


まあ、取り合えず、今日はどろんこになって、このシュレイアを少しでも知ってくれれば嬉しいわぁ」


笑って娘の手を握ったレインに、娘は涙目になりながら小さく頷いた




わいわいと賑やかに、時に体験談も交えながら農業を教える農夫達


流入民達はそんな農夫達に教わりながら、殆どの人間が初めての農業に四苦八苦しつつも随分楽しそうに畑を耕している


2時間もすれば、当初のぎこちなさは随分消え、積極的に話しに行っているのを見て、レインは、とりあえず成功かしらねー?と1人呟く



「硬さもとれたよう見えるしのう。とりあえずは大丈夫じゃて」


レインの声に返したのは医師のグランである


背後からゆっくりとレインに近寄ったグランは和気藹々としている農民と流入民をまぶしそうに見つめた


「ストレスが随分溜まっていたようだし、交流がちゃんと出来ているから、これから不満や不安もぽろっとしやすいでしょう」


「そのストレスの発散が農作業って言うのが中々ぶっ飛んどるがのー」


ほっほっほっと白い髭を扱くグランに、あら?とレインは返す


「自然に触れ合うのは心に良いのよ。


外の開放感も手助けになっているだろうしねえ」


にへら、と笑ったレインにグランはその様じゃの、と頷いた


「お嬢様に流入民のストレスについて聞きに行ったとき、名案があると瞳を輝かしたときには一体何が出るかと思ったが・・・」


「良い案でしょう?


実際、此処にいるのはこの先農作業に従事する予定の人たち。


姉様の方には酪農、兄様の方には自警団所属予定、父様の方には林業、母様の方はお針子達


・・・職業訓練施設卒業前の研修兼、この先実際に一緒の村や町の住民達と交流する事で、移住した後、孤立しないように、仲間になれるようにと思ってね」


「確かに、前知識があるのと無いのとでは全然覚悟が違いますからなあ」


ふむふむ、と納得したように微笑むグランにレインは微笑む


「レイン様―――!!!」


「ほっほっほ。呼ばれておるぞ?」


「ええ。ふふ。嬉しいわね、守る者が増えるんだもの」


「1人の身体じゃないのぅ」


まるで妊婦に言うような台詞に、あら・・・とレインは微笑んだ


「私が居なくたって、ちゃんとやって行けるだろうけど・・・でもそうね、


貴方と共に生きたいです、一緒に・・・なんて言われたら、きっと幸せね」


うふふ、と微笑んだレインに、ほっほっほ!と面白そうにグランは笑ったのであった







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