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夏の章・9話

フェンネルが出て行ったのを見送ったクラウスは、レインに静かに向き直った


「・・・ふむ。


黄龍と話すのに、仲立ちが儂と信じやすいよう、ウェルチを置いていく」


そう言うとクラウスはバルコニーの外、気配無く空に浮かんで控えていた側近の男を指し示す


金髪碧眼で無表情な人形みたいな顔立ちの男だ


「お久しぶりで御座いますレイン殿」


「お久しぶりで御座います。このたびは、お力添え、感謝いたします」


深く頭を下げるレインに、いえ、とウェルチは首を横に振った


「貴女には沢山助けていただきましたし、魔王陛下がお手を貸されなくても、ワタクシがお貸ししておりました。


陛下は退屈を好みませんから、貴女の近くは中々いろいろ起こって楽しいようですのでお気になさらず」


少しだけ頬をゆるめるウェルチに、クラウスは膨れっ面になった


「儂が我慢のきかぬ、やや子のようではないか。


つーかお主、何で儂には微笑まんのにレインには大盤振る舞いするんじゃ」


ぷりぷりと怒るクラウスに、ウェルチは小首を傾げる


「・・・何か間違っていましたでしょうか?


大盤振る舞いした覚えもありませんし、いつでもワタクシは笑っていますが」


「ウェルチ・・・お主、儂をなんだと思っているんじゃ。


そしてまっっっっっっったく、笑ってないから。


鉄仮面じゃから」


「魔王陛下ですが。


・・・そうですか?」


「あ、そう。


・・・うん」


漫才のようなやり取りに、レインはクスリと笑った


そのレインの笑みを見て、クラウスとウェルチは顔を見合わせ微笑む


(ウェルチは表情筋が僅かに働いただけだったが・・・)


「おお、ようやく、らしい笑いを見せたな」


「・・・人を安心させる笑みも、貴女らしいですが、その笑みの方が我々は好きですよ」


「ウェルチ、さらっと口説くな。


・・・事が終わればのんびり茶でもしばきたいが、暫くは忙しそうじゃの


・・しかし、ほんにお主は厄介事に巻き込まれるのぅ。


持って生まれた資質か?」


クツリとどこか呆れを含ませ笑うクラウスに、レインも苦笑を返す


「私も、いい加減この巻き込まれ具合に慣れてきましたよ


今回はさほど危険もなかったので良いですけどね」


肩を竦め苦笑するレインにクラウスとウェルチは顔を見合わせ頷き合う


「ふむ、確かに


しかし、随分<タイム>殿はお主に似てきたんじゃないか?


多少の無茶を顧みぬ所も、為政者の覚悟も、何より使えるモノは何でも使う精神も良い」


呵々と笑うクラウスに、あら、そうですか?とレインは苦笑する


「うむうむ。


じゃがのー」


「??」


笑顔を一転、真剣な眼差しに変えたクラウスは、ずいっとレインに顔を近づける


「だが・・・良いかレイン


・・・<タイム>否、フェンネル殿と違って、お主は決して強くない。


お主が持っているのは、たかだか100年分の記憶と、昔の知識、度胸、覚悟、幅広い横と縦の繋がりじゃ。


膂力が獣人並みでも


魔術や魔法を使えるわけでもない


薙刀は扱えても、武人ではない


儂はお主が、何時か背負いすぎて、働き過ぎて、疲れ果てないか押しつぶされないか心配じゃ」


人は弱いからのぅ、と息を吐いたクラウスにレインはただ困ったように笑う


「自覚はしているのです。


でも、甘さを捨てきれない自分を嫌いになれないんです。


フェンネル殿の願いだって、そうです。


結界を外さないと出ることが出来ないとはいえ、引き受けなくたって良かった。


・・・まあ、領地のためにも要望は通しますから、ただ願いを聞いたわけではありませんが。



昔は無力でしたから。


今以上に、力は無く、ただの農民で、次々と起こる現実にその場しのぎに生きる事しかできなくて。


沢山見送って、沢山後悔して


・・・そんな私が、私は嫌いだった。憎かった。


だからこそ、今生では後悔しないように生きたいんです」


微笑むレイン、だが魂を見る事が出来るクラウスとウェルチは微笑みの奥に困ったように笑う老婆を見て軽く息を吐いた


「やはり、儂はお主を気に入っているよ。そしてソレは儂だけじゃない。


お主に関わったモノは、お主のその心と瞳と魂に惹かれるのだと思う。


実際、我が国でも大人気じゃしな。


己を知る事は悪い事ではない


開き直るのはどうかと思うが、見つめ直すのは良い事じゃ


そんなお主だから、儂等は手を貸そうと思うのじゃ」


ふふん、と笑うクラウスにレインは眼を瞬かせ次いで鮮やかに微笑んだ




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