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夏の章・3話

「(こいつらは、無能か?あぁ?)」


キリクが龍山へ辿り着いたのはレインが連れて行かれたその日の夜半


緊急だからと夜分ではあるがそのまま登城したキリクの視線の先にいたのは大勢の貴族達だった


口々に、対応している官僚を怒鳴っている貴族は、全く品位が感じられずキリクは思わず目を細める


唾を飛ばしながら官僚に詰める貴族達の言葉の端々で聞き取れたのは僅かだったが、それでもキリクを不快にするには十分な内容だった


「(赤龍様を早く出陣させろ、だぁ?


おいおい、巫山戯ているのか???)」


端的に読み取れた内容は、最凶と名高い赤龍を出陣させ、早々に戦争を終わらせろ、というものだ


馬鹿らしい、とキリクは鼻で笑う


八龍が1人でも出陣すれば、その地は荒れ果て荒野になるだろう

そこにあった命は、人も動植物も同じ竜族でさえも、儚く散る


八龍というのはそれほどの力を持つ


だからこそ、黄龍達や国府は赤龍の出陣を見送っているのだ


「(所詮、自分だけが大事なんだよな、テメエらは)」


レインが聞けば、口調が荒れてます!と注意しそうなほど内心でのキリクは荒れに荒れていた


「失礼・・・」


何時までもイライラしていても仕方がない、とキリクは貴族の間を縫い、先頭に立つと茶髪の若い官僚に声を掛ける


「・・・?シュレイア家の」


「お忙しいところ、大変恐縮ですが、至急申し上げねばならぬ事があり、夜分ではありますが登城いたしました。


・・・黄龍様に至急、お目通りを


叶わぬなら、国府の長に、お目通りを願いたい。・・・至急です」


「・・・わかりました。どうぞこちらへ」


キリクの目を見つめ、一度頷いた官僚は、喚く貴族を無視してキリクを連れて奥の部屋へ向かう


勿論、貴族達は続こうとしたが、それは竜騎士達が阻止して見せた

ぱたんと音を立てて扉が閉まると、急に静になる


「黄龍様から、シュレイア家の人間が来たら通すようにと命ぜられておりました」


そう言って、茶髪の髪を肩上で切り揃えたキリクと年の頃は変わらない官僚はキリクを先導する


短くお互いに自己紹介をし、官僚が最高官付きの秘書官であることを知ったキリクはへえ、と瞠目する


最高官付きの秘書官の仕事は、お茶汲みやスケジュール管理などではない


文武両道でいざとなれば最高官の盾となり矛とならなければならず、通常の業務は最高官に届く書類の最終チェックをしているのだ


当然各分野に精通していなければならない上、仕事を滞らせないよう処理スピードも高くなければならない


随分若い秘書官だ・・・と感心していたキリクは、秘書官・・・オウルの言葉に目を細める


「そう、ですか。ひょっとして黄龍様は既に全てご承知なのでしょうか」


「・・・私には分かりかねます


ただ、何かあった、という漠然とした予感を感じていらっしゃるように感じられました。


勿論、私の思い過ごしなのかも知れませんが」


そう言って、オウルの案内したのは黄龍の玉座のある間だった


扉が開くと、黄龍を筆頭に青龍アルテナ以外全員揃っており、国府の最高官を初めとする官僚もまた、数人集まっていた


先に入ったオウルが深く頭を下げ、キリクの入室を伝え、それに続きキリクは額を床に付け跪く最高礼をする


「夜分に失礼いたします

わたくし、シュレイア家直系長子、キリク・シュレイアと申します


本日は黄龍様に至急奏上すべき件があり、登城いたしました」


「面を上げよ、キリク


・・・シュレイアに、リオルの手のものが侵攻したことには気付いている

その件だな?」


「・・・左様で御座います。」


身体を起こし頷くキリクに、黄龍は目を細める


「何があった」


「はい、本日の昼前にリオルのサンダーバードと兵士が数人、シュレイアに降り立ち、レイン・シュレイアを連れ去りました


領民や領地に危害を加えることなく、そのまま一直線にリオルに戻ったと見られます」


「なに?」


<!!??>


目を見開きざわめく一同に、キリクはあくまで平静のまま続ける


「リオルの意図は、分かりかねます。ただ、レインは無傷で連れ浚われました


アレに何か利用価値があって連れ去ったのだろうと思います」


キリクの言葉に、赤龍がすぐに立ち上がる


「黄龍様!!我に出陣の許可を!!!」


戦慄く唇に、血色の悪い顔、焦りを滲ませすぐにでも出て行こうとする赤龍を黄龍は止める


「待ちなさい、赤龍。そう易々と許可を下すわけにはいかない。


・・・それに、お前達が何も考えていないとも思えない」


前半は焦りを滲ませる赤龍に、後半はキリクに向けて黄龍は話した


「はい。仰有るとおり、レインや我々は既に何手か先手を打っております。


ですので、赤龍様には落ち着いていただきたく、お願い申し上げます」


「っしかし」


「落ち着け赤龍。・・・キリク、何をしているのか、教えてくれ」


尚も言い募り焦る赤龍を黄龍はなだめながら先を促す


「1つめは、影の民です。我が領地の強者の中でも、隠行に優れた優秀な護衛がレインの影に潜んでいます。


2つめに、リオルには我がシュレイア家の出の者が居ると言うこと・・・レインに手を貸すよう、既に速鷹・・・鷹ではなく鳳ですが、飛ばしております


3つ目に、情報収集ですが・・・シュレイアの持つ、ありとあらゆる情報ルートをフルで利用し、最新の情報を得ることが出来るようにしています



最後に・・・切り札は、レイン自身です。


アレは、我がシュレイアの切れ者中の切れ者数々の修羅場を経験し、生きて戻っている実績もあります。どうか信頼していただけますよう」


再び額を床に付け頭を下げるキリクに、黄龍はそっと息を吐いた


「・・・そうか。我々に出来ることは?」


「なにも。現状を維持すべきかと。


赤龍様の出陣は止め、まずはヴォルケの領民の避難を優先させてください。


・・・レインが申しておりましたが、どうも今回のリオルの侵攻、少し様子が可笑しいようです。ソレを見極めてからでも遅くはないと思います」


「わかった。ではそのように」


「黄龍様!?キリク?!」


黄龍とキリクのやり取りに赤龍が信じられないと声を上げ、他の八龍も、官僚も驚きで目を丸くする


「宜しいのですか?」


「ええ。何より、レインが浚われたことを知られるのは宜しくないですし、割と前々からこういった事態はありましたので」


最高官の問いかけに、キリクは頷く


レインの前世の知識を領地のために惜しまず利用し始めたときから、何度となく、レインを始め厄介なことには巻き込まれてきた


出る杭は打たれるのが世の常


それでも、無駄な争いを起こすことは本意ではなかったため、情報の操作は緻密に行ってきたし、それぞれが己の身を守るために護身術も習ってきた


争いが起きる前に話術などの力ではなく、頭を使って何度となく回避もしてきた


キリクとアリアは、レインが生まれたときから、ずっと側にいたのだ


父や母より余程同じ時を生きたからこそ、レインの<実力>を知っている


「優先すべきは、一、領主の娘ではなく、弱い民なのです。


どうぞ、逃げ遅れたヴォルケ領民の避難を優先してくださいませ」


キリクが深々と頭を下げれば、それ以上何も言えなくなってしまった赤龍は肩を落とし唇を噛み締める






広間を出て、すぐ、赤龍は石造りの壁に拳を強く打ち付けた


ひびが入りぱらぱらと零れる石壁にぐっと赤龍は込み上げてきたモノを飲み込む


「(無力だ・・・)」


大きな力を持っているのに、自身を初めて受け入れた娘1人助けることが出来ない無力を嘆くしかない、と赤龍は唇を噛み締める


「赤龍、壁に当たるな」


「そうですよ。修繕、だれがすると思っているんです」


「・・・こく、りゅう・・・黒竜、緑龍」


再び壁に向かって振り上げた赤龍の拳を、背後から近寄った漆黒の髪に浅黒

い肌の男と緑龍が止め、いさめる


「全く・・・お前が無力なのは事実だが、壁に当たるな、物に当たるな。


お前は癇癪持ちの子供ではないだろう」


「っ」


やれやれ、と溜息を吐いた黒竜はがしがしと赤龍の髪を乱暴に撫でた


「大丈夫だ。レインを、ちゃんと信じとけ


まだ、ほんの僅かな時間しか接していないから、分からないだろうし、どうも美化されている様だが、レインは結構、したたかで、場数踏んだ猛者だ。


その辺の守られるだけの女じゃない」


「そんなこと」


「そんな事、あるんだよ。


ついでに言うと、シュレイア家の人間は代々しぶとい上に生き汚いから、早々己の命を投げることもない。安心しておけばいい。


きっとけろっとした顔でリオルでも良い意味でも何かやらかすだろうから」


ははは、と笑う黒竜を赤龍は訝しげに見る


ヤケに、シュレイア家を語る・・・そういう目に、漆黒の髪の男・・・黒竜はおや、と目を見開き、にやり、と笑った


「お?知らなかったか?シュレイア家贔屓で、これまで連絡なんかを請け負っていたのは俺だ。


ちなみに初代からの付き合い。


レイン達もフェリスの腹の中にいる頃から知ってるぞ」


「え・・・」


「(おや、ショックを受けてますね)」


固まる赤龍を見て、緑龍は苦笑する


黒竜は赤龍を安心させたいんだか、そうじゃないのか分からないな、と息を吐いた




260222 フェリシア→フェリス

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