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春の章・1話

レイン・シュレイア、前世92歳まで生きた老女の魂とその記憶を持って生まれた数奇な星の下に生まれた娘の名前だ


貴族の家に生まれながら、ドレスを身に纏うことは少なく、基本的には動きやすさを重視して特別に作ったツナギを身に纏い生活している


年頃の貴族の娘ならば、朝から晩まで専属の家庭教師によりマナー指導から勉強まで幅広く教わり、ティーパーティーや夜会に出席し、コルセットで内蔵を締め、血の存続のために、良き妻で良き母となるために暮らすものだ


しかし、田舎とはいえ、エーティス第三位の位の領主の娘であるのにも関わらず、その生活はとても貴族の娘のそれとは全く異なる


・・・レインの1日は朝日と共に始まる


朝日と共に起床、身支度を済ませれば、すぐに朝食の弁当を持って一角獣・・・鋭利な角を生やし、その足の速さは時速に換算しておよそ80㌔、車並みである・・・にひらりと飛び乗り、屋敷から少し離れた場所にある研究農地で作物の生育状況を確認するのだが、一つだけではなく、幾つもあるので途中朝食を摂りながら見て回れるところは全て回る


昼には屋敷に戻り、昼食の後、執務をする


執務、つまりは領地運営に関してしなければならない書類作業は、本来ならば、当主である父親セルゲイ・シュレイアの仕事だ


しかしレインは次女で第三子であるが、家族と一族の後押しもあり、次期当主となる事が決まっているので既に八割ほど引き継いでいるのである


日が沈み始め、気温も下がり始めると、午前中に回れなかった少し離れた領地に行ったり、町に出て様子を見たりとその時折で変わってくるが、大体これがレインの1日である


貴族の娘とは思えないほど土にまみれた活動的な1日だ


そんな日々は、勿論、穏やかなことばかりではなく、時に荒れ狂う海に飛び込むような、刺激的で危険な時を過ごすこともある


全てが、思うように、上手く行くことはあり得ないし、実際無い・・・


けれど、レインが強く実感している事がある


例え大変でも、背負うものが重くなっても、それでも、全て自身で取捨選択し、歩むだなんて・・・・・・・・なんと幸福なのかと






まだ、雪がちらつく日も多い春先、(一部除き)四季のあるシュレイア家では暦はわかりやすく1年を12ヶ月に分けていて、机上にある手製のカレンダーは2月後半を指している


まだまだ寒い日が続き、暖炉からは火を切らせることが出来ないでいるが、徐々に徐々に日の出も早くなりつつあり、春も目先に迫ったと感じていた





そんな2月の末日昼過ぎ、さあ今から執務をしましょう、とレインが羽ペンを持った瞬間、辺り一面に響き渡る轟音と共に窓から見える森が1つ、あっという間に炎に包まれた


「何事なの!!??」


開け放った窓からバルコニーに身を乗り出し、囂々(ごうごう)と燃える森を信じられないと目を見開き見詰めるレインは肌を刺す冷たい空気を気にも留めず、じっと睨むように森を見る


轟音からほんの僅かな時間でレインの見ている間に森が焼け野原になっていた・・・それが、炎の勢いと高温を物語っている


・・・離れた屋敷まで聞こえた程大きな音に、周辺に火山なんてあったかしらと一瞬思考が飛んだ

音と焼け野原に、噴火だとレインは思ったのだ


半ば呆然としつつ、よくよく目をこらしたその先、焼け野原に、紅い何か大きなモノが蠢いているのを見つけたレインは眉間に皺を寄せ、すぐに踵を返し部屋を出る


そんなレインを影が複数、ぴったりと背後を追走する


「レイン様」


伺う視線に、視線を一瞬だけ後ろに向ける


「民の誘導を」


「御意」


短いやり取りを影と交わし、愛馬の一角獣で駆ける


愛馬も異変を感じているのか、嘶きを上げ、普段よりもスピードを上げ、まるで弾丸のように駆ける


空にはもくもくと黒煙が立ち上っており、レインが遙か昔、イヤと言うほど見てきた暗く悲しい記憶が魂の底から溢れ出す


唯の火事ならば、良くはないが良いのだが



森があった場所に到着すれば、焦げた臭い、僅かな鉄錆の臭いに目が自然と細くなる

嫌な記憶を振り切るように、レインはキュッと唇を噛みしめた


周囲を見渡せば、護衛によって既に遠く誘導された野次馬となっている領民、護衛達の更にその奥に赤く蠢く巨大な何か


・・・嫌な予感は的中したようだ

レインはその赤く巨大なその存在の正体を知っていた


もっと言えば、この国の人間なら、必ずどこかでその存在を模した絵や像を見ている


「まさか・・・何故この様な場所に・・・!」


「レイン様!!!!お待ち下さい!!」


レインは目を見開き、野次馬を通り抜け、護衛の制止を振り解き、すたすたと近寄った



焼け野原に大きな体を横たえ荒い息には炎が混じる

・・・その存在を、レインは直に数度、式典で見たことがあった

この国、エーティスの至高の存在<八龍>の一角、<焔>を司る<赤龍>を


「(何故此処にいらっしゃるのか、それはとりあえず今は、置いておきましょう)」


護衛達の慌てた制止の声も、今は良い


夥しく流れる血が、決して軽傷ではないとレインに伝えるのだ

怪我人に必要なのは迅速な処置である


それが出来ないと命に間違いなく関わってくることを、レインの魂にこびり付いた古く暗く悲しい記憶が伝えるのだ


レインは一歩、二歩と近づいて行く

驚かさないように、とまるで野良猫を相手するように注意深く進めば、血を流し、身体を蠢かせながらも赤龍は、低く唸りだす


『近寄るな』


少し低めの、拒絶の声

レインを射抜くようなピジョンブラッドの瞳に、何故?とレインは首を傾げる


この状況で近寄らずに治療など出来るはずがない、というのに赤龍は目を細めて口を開いた


『理由が必要か』


「(凄く阿呆な事を言われた気がするわ)


・・・理由が必要か?と仰有ったのでしょうか?

ではお答えいたします。・・・勿論必要でしょう。怪我人の治療は迅速にしなくてはなりませんから


大した理由がないのなら、治療をさせていただくし、そのためには近寄らせていただきます」


怪我人に対して、レインは極真っ当な事を言ったが赤龍は理解が出来ないという空気を醸し出す


『放っておけ。我は、赤龍ぞ』


「存じておりますわ。それが理由になると?


なりませんわよね?」


憮然とした表情で吐き捨てた赤龍に、レインは首を傾げる


『赤龍(我)は、焔と破壊を司る


血に穢れた龍に、近寄りたくないだろう』


自嘲する台詞

だが、だからどうした、とレインは眉根を寄せた


それはレインが赤龍を放置する理由にはならない、なりえない、掠りもしない


そのまま再びレインが近寄れば、赤龍が今度は暴れ出す


尾を大きく地面に振り下ろし、巨躯を蠢かせ燃え朽ちた木の残骸を更に粉々に砕く


触れるな、見るな、と叫び咆哮が上がった


『我が恐ろしかろう!!!!!


この血濡れの龍が!!!


それ以上、近寄るな!!!!!!』


暴れ、叫ぶと同時に赤龍とレインのすぐ側で火柱が上がった


『っ!!??』


赤龍は狙ってレインの間近に火柱を上げたわけではないようで、焦る赤龍が酷く幼く見える


レインは、間近で上がる火柱を気にすることなくじっと赤龍を見詰めた


・・・その瞳が揺れているのは、何故なのか


「(まるで迷子のような目をしてるのねぇ・・・)」


数千年生きている龍にそんな感想を抱いた


「(おかしなこと。私なんかより遙かに年上なのに・・・


ひょっとしたら精神の年齢は孫くらいなのかも知れないわねぇ)」


取り留めないことをつらつらと考えながら尚も近寄るレインに、火柱を上げることはもうないものの暴れる赤龍


レインはこれではすぐ側まで寄れないではないか、と溜息を零した


そして真っ直ぐ、自分が恐ろしいだろうと叫ぶように言った赤龍を思いだし、首を緩く振る


「貴方様のどこが恐ろしいというのでしょう?


とても、優しい目をしているわ」

(そう、愛犬コロのような)


『!!!!!?????』


レインが本心から、きっぱりはっきり告げれば、赤龍はレインを凝視し固まった


「(何かおかしな事、言ったかしら?)」


レインの脳裏に何度目かの疑問が浮かぶも、赤龍が動く気配がない今が好機だと動き出す


「(暑いわ・・・)」


久しく感じることの無かった高温の焔を数十年ぶりに間近に感じながら、上がっている火柱に思うことはたったそれだけだった


漸く赤龍のすぐ側まで寄ったレインは、夥しく流れる血に眉根を寄せながら、慎重に患部を見る


本来、龍族というのは怪我を滅多に負わない種族だ


なにせその鱗といえば大抵の武器を跳ね返すほどで、強度が高い


噂によればダイヤモンドほどの純度だとか・・・


だというのに、流れる血は未だに夥しい


「(やっぱり、これ、毒竜の牙ね)」


患部に埋まる黒い竜の牙

・・・龍族に手傷を負わせる手段は限られている


その手段の1つで最も知られているのが、毒竜と呼ばれる猛毒を持つ竜の牙を武器にすることだ・・・


赤龍にはその毒竜の牙が矢尻に加工され、使われたようだった


「赤龍様、毒竜の矢尻が埋まっています。


・・・あの?いい加減、硬直から解けてくださいませんか・・・?


今から麻酔を打って矢尻を抜きます。暴れないで頂きたいのです」


「(固)」


「・・・まあ、良いわね」


硬直の解けない赤龍に自己完結して頷いたレインは、腰に下げているウエストポーチから麻酔を取り出し患部に打ち、反応が鈍っている事を確認して手袋をし、矢尻を引き抜いた


毒消しの特製の薬草を患部に貼れば漸く、赤龍の視線がレインに向けられた


・・・酷く緩慢に向けられたピジョンブラッドの瞳に浮かんでいるのは焦燥か、諦めか、安堵か


あいにく目と目で会話するなんて初対面で出来るはずもないレインは、口をもごもごと動かし、何か言おうとしている赤龍の言葉を急かすことなく待つ


『・・・お前は我が怖くないのか?』


漸く絞り出すような小さな掠れた声でレインに問いかけた台詞に首を横に振って答えた


「ええ、特には。恐ろしさなど余り感じませんわ」


『うそだ・・・』


迷子の子供のような目を、変わらずしている赤龍にレインはもう一度首を振った


『・・・そんな、こと』


瞼が段々と落ちてきているのを認めたレインは、もう一度恐ろしくないと伝えた


「赤龍様、直、麻酔の効果でお眠りになると思います。


次目が覚めたらば当家かと思いますがご容赦下さいませ」


『・・・』


まもなく、抗えぬ眠気がおそったのか、赤龍はそのまま深い眠りについた

最後まで、レインと視線は絡んだまま


『(お前は我と視線を絡まるのか)』





完全に赤龍が眠ったことを確認して、さて、と腰に手を当て振り向く


無視をしてきたが火柱が上がったときをピークに民達や護衛達のざわめきや制止の声は聞こえていた


「桐藍」


「はイ」


領民を抑える護衛の中で、一際背の高い闇色の髪の男を呼べばすぐに近寄ってくる


その髪と同じく深い闇色の瞳に、安堵が見えて、嗚呼心配を掛けてしまったか、とレインは少しだけ、ほんの少しだけ申し訳なく思った


「お説教は後で聞くから、申し訳ないのだけど赤龍様を屋敷まで運ぶのに手を貸してちょうだい・・・


というか、人型になって下さらないかしらねぇ・・・困ったわ


10m・・・20mは軽くあるわねぇ」


麻酔打つ前に人型になって頂ければ良かった、と後悔しても後の祭りだ


さてどうしよう、レインが顎に手を当て思案していれば、赤龍の体が勝手に人の形を取り始める


真紅の髪(というより鬣かもしれない)、筋肉質な体つきは武人のソレで、身長も2mはあるだろう


美しいピジョンブラッドの瞳は閉じられ見えず、眉間には深い皺が寄せられている


「・・・体力温存のために人型になったみたいねぇ


此方としては助かるわ。桐藍、担げるかしら?」


「問題在りませン」


「ではお願い。だれか、医師を屋敷へ

それからこの焼け野原を立ち入り禁止にしてちょうだい


それから、龍山付近まで行って、速鷹を飛ばしてね。分かっていると思うけど、龍山は禁域。立ち入っては駄目だからね


町のみんなは速やかに元のお仕事に戻って


赤龍様がいらっしゃることは言い触らしては駄目よ?秘密ね」


桐藍が自身より身長も恐らく体重もあるだろう赤龍を肩に担いでいるのを横目で見ながら護衛達に指示を飛ばす


それぞれが頷くのを見て、散!と叫べば消える護衛達


護衛達が速やかに民を誘導しているのに頷いて、先に屋敷に戻った桐藍を追うために愛馬に跨り駆けた




「レイン様、やっぱし赤龍様をものともせんなんだ」


「ウチの次代様は怖いもの知らずじゃわい」


様子を見守り続けていた領民達はレインの後ろ姿を見送ってほお、と息を吐いた


「全く、嫁入り前の娘っこが、火傷したら大変じゃのに」


「怪我が無くて何よりじゃないか。」


「然り然り。さあて、仕事の続きをせねば。牛たちは待ってはくれないんだ」


わあわあと言いながら森から離れていく領民達を、護衛役は見送り溜息を吐く


「どうモ、シュレイアの民はあっさりしていル。


・・・普通、もっと恐れたりするものじゃないのカ?人智を越える力だゾ?」


「レイン様を愛して、信頼している証だろウ。あの方が大丈夫だと思ったなラ、大丈夫だト」


「嗚呼、成る程」


なんとなく、ソレは自分たちでも理解できる、と頷きあった護衛達はそのまま立ち入り禁止の立て札を地面に突き刺し、森跡をロープで一周させた




屋敷に戻ったレイン達が赤龍を客間の寝台に横たえた頃、猛スピードで連れてこられた医師が到着し、その後は医師に任せてしまった


医者さえ来てしまえば赤龍様の処置の間、素人は邪魔なだけである


桐藍と共に客間のすぐ隣の部屋で待つのだがこの間は待機という名の説教タイムである


「レイン様、肝が冷えましタ」


「心配かけたわ。ごめんなさいねぇ」


眉をハの字にし謝るレインに桐藍は深く溜息を吐いた


「そう仰有るくらいならバ、自重して下さいまセ」


桐藍とレインはかれこれ10年の付き合いになり、自他共に認める右腕なのだが、それ故に遠慮も余りない


頭ごなしに叱られると反抗心も芽生えるが、故郷の訛りが混ざりながら真摯な瞳で訴えられるように怒られるとクるものがあるようで、レインは素直にお説教を聞く


「私の方が年上なのに、情けなくてごめんなさいねぇ」


「年上なのは、魂で御座いまス。肉体年齢ではワタシの方が上で御座いましょウ


・・・それに、謝らないで下さいまシ。


勿論、出来るだけ反省して頂きとう御座いますガ、主は簡単に頭を下げてはなりませン。


もう何度もお伝えしているはずでス」


何度も何度も、桐藍は主としての姿勢を諭してきた


「もう何度も言っているけれど、悪いと思ったら謝る。これは礼儀だと思うわ


貴方が私の部下であっても、謝るべき所は謝る。今後もね


それに、私は92年間も庶民していたのよ?それも農民。


頭を下げられるのは慣れないし其れを当然と思うつもりもないわ。


あと75年したら変わるかもしれないけどね」


つまり、現状を変える気はない、とレインが告げれば桐藍は溜息を吐き、やれやれ、と首を緩く振った


「こんな主は嫌いかしら」


「・・・いいエ。そんな貴女だかラ、余計にお仕えしたく思いまス」


仕方ないな、と苦笑してレインを見る桐藍にレインは微笑んだ




「お説教タイムは終了したかのう?お嬢様」


「あらグラン爺様。処置は終わったの?」


「終わりましたよ。随分麻酔が効いていますなぁ。丸一日はお目覚めにならないでしょう」


「緑人族頭領特製の麻酔よ。効いて良かったわ」


「おやおや。それでは効果の程は確かですな。では一旦下がりますよ

またお目覚めになられましたら、お呼び下さいませ」


ほっほっほと笑い、長い髭を手で撫でながらタイミング良く室内に入ってきたグランは、領主お抱えの医師で、若かりし頃は異国の王宮筆頭医師だったこともあるという優秀な経歴の持ち主だ


白髪のゆったりした髭が、年齢より上に見せるが、まだまだ現役バリバリの凄腕である


・・・彼が何故こんな田舎にいるのか詳しいことは何も知らないし、特別探ろうという気もないというのがレイン達の意見である


懐が広すぎて、簡単に受け入れるので一応裏を探らなければならない桐藍達は大変なのだが・・・



グランが帰ると、何時までも隣室で待機していても仕様がない


赤龍には護衛兼侍女の花蓮を付け、桐藍と共に執務室に戻る


「桐藍、赤龍様に手傷を負わせた集団、或いは国の特定をしてくれるかしら?


赤龍様を追って、領内に侵入されることがないように、守護役全員に今回のことは連絡しておいて。


影の民の領内巡回も少し増やしてくれるかしら?負担になると思うのだけどお願い」


「御意ニ」


一礼して影に溶けるように消えた桐藍を相変わらず便利だなぁ・・・と半ば羨みながら部屋に戻った


シュレイアには、他領にない特色が幾つかあるが、その最たる事が異種族の受け入れだ


このエーティスという国は龍と人の国として有名で、排他的、閉鎖的になりがちなお国柄で且つ、貿易なども領地に委ねられているため、内陸部では特に閉鎖的になりがちである


その中で、シュレイアだけが異種族を受け入れている・・・これも土地柄というのか、シュレイアに暮らす者は大らかで、異種族にも寛容である


とはいえ、現在のように全領民の2割5分を異種族が占めるようになったのはこの20年~30年ほどの間なのだけれど


代表格は北の国境隣する剣峰には双頭の狼


東の国境隣する剣峰には半獣、獣人達


南の内海に程近い湖には人魚達


西にある領治で最も大きな森には緑人族がそれぞれ暮らしている


彼らを守護役と呼び、四方に住んでもらい、有事の際いの一番に知らせてくれる手はずになっている


・・・これだけ聞くと、異種族として隔離しているように聞こえるが、実際はそうではなく、このシュレイア全域に皆散らばっている


元々暮らしているシュレイアの民と家庭を持つ者もいるし、緑人族は特に薬草、薬品の扱いは右に出る者は居ないと言われるほどで、領内あちこちの村や町に散っている


鳥の半獣、獣人達は標高の高い村や町を中心に住処にしているし、熊や虎と言った力自慢の半獣、獣人達は軍の代わりになる自警団に所属していたりする


適材適所、これは人にも龍にも、そして異種族にも言えることで此処に贔屓や冷遇は全くあり得ぬ事だし、実際あり得ない


この辺りのシュレイアの土地柄である柔軟さは、酷く心地よくも感じる


それから桐藍含む護衛の影の民・・・彼らは日本で言うところの忍のような生き方をしてきた一族で、身体能力も高く特殊能力に影に潜り移動したり潜んだりするというものがある


見た目は黒づくめで桐藍などは目元と髪しか見えない、まさに隠密という姿だ


領内国内外を問わず影を利用した情報収集を始め、領地の巡回、最近では人手不足で元々雇っていなかった侍女、侍従も兼任していたりと忙しくしている


レイン達一家は労働条件の見直しなどをその都度行っているのだが、如何せん、吃驚するぐらい影の民は欲がない


「また父様と相談しないと」


・・・桐藍達の忠義の心は、嬉しいし、それに見合う主になりたいと思っている

だが実際、まだまだ此方の掛ける負担の方が大きいのが現状なのだ・・・と

レインは溜息を吐いた


「ともかくとして、赤龍様がお目覚めになる前に執務を続けておかないと


(・・・やることは多いわ


それは守るものの多さも示しているのよね


かつて、<私>には力が無くて嘆くばかりの日々だったわね


住み慣れた土地は焼け野原で、<私>は勿論、愛する家族のその日の食事を用意することもままならない

農家の娘であることを言い訳に知を求めなかったから、出来たことはとても少なかった


知っていれば、命を掴めたなんて思わないわよ


そんな傲慢なこと言えないもの

・・・けれど、ほんの僅かでも助けることが出来たかも知れない、とは思ってしまうわ


後悔するたびに、胸にグサグサと見えないナニかが突き刺さるの


もう人生振り返って、後悔だけはしたくない、未練一つ残したくない


せめてこの腕で守れる範囲の者達は守りたい


今度はしっかり布団の上で、我が人生に一片の悔い無し、と言えるように

きちんとあの世に直行できるように・・・・・・)」


レインは夜空に浮かぶ二つの満月を見詰め、決意を新たに机に向かうのだった



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