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夏の章・1話

とりあえずこの話まで・・・続きはPCが帰ってきたら!!


カツカツカツと、少し早足にレインのブーツが廊下を鳴らす

いつものようにツナギを身に纏ったレインは1つに纏めた髪を揺らしながら右手に書類を抱え屋敷の廊下を早歩きで進む


赤龍を招待した春祭りから三週間が経ち、シュレイアの一部地域では梅雨真盛りとなっていた


窓は雨粒が叩いており、雨足は弱いが長雨が一週間ほど続いている


水田ではゲコゲコと雨蛙が鳴き、紫陽花が色とりどりに咲いていた


最も、この梅雨は地球のように気団の衝突によるものではなく、青龍の力が溢れだした影響なのだが


「参ったわね。こんな時期に


・・・まあ何時だって、基本的に忙しいのだけれど」


はあ、と苦い顔で息を吐いたレインは外に向けた視線を戻し、廊下を進んだ



少し大きな音を立て、扉を開けば中にいた家族の視線が一気にレインに集まる


何れの表情も強ばっており、それが異常性を伝えた


「レイン姉様・・・」


たっっとレインに駆け寄り、その足にしがみついたクリスは、まだ幼く、何も知らないし報せていない


それでも、子供というのは敏感で、肌を刺す緊張感を感じ取っているのかその目にはうっすらと涙が膜を張っている


「クリス」


ひょいと足にしがみつくクリスを抱き上げ、そのままレインは自分の席に着いた


「レイン、クリスとフェリシア、マリアは出さなくて良いの?」


「末弟まで、きちんと説明するわ。何も知らないのは、罪だもの。報せないのも、罪。


まだクリス達は幼いけれど、この子達だってこのシュレイア直系の子供よ。


知るべきだし、知らないとこの子達はきっと不安に思うから」


「そうだな」


アリアの言葉に緩く首を振ってレインが答えると、セルゲイも神妙な面持ちで頷いた



「ではこれより、緊急家族会議を始めよう。

まずは、概要を、レイン」


「はい、兄様


リオル・・・我が国が長きに渡って対立を続けている唯一の国ですが、ここ十年にわたる停戦協定を一方的に破り、本日未明、ライ山を超えて我が国三領の一角、西のヴォルケに侵攻中


現在、ヴォルケの領軍が出動しておりますが、リオル特有の魔法術により侵攻は尚も進んでおります」


「何故そんな容易く国境を越えることが出来るの?


ウチと違って領の軍も持っているんだし、ライ山の巡回はしていなかったの?


領主は?


それに領民の被害はどの程度なの?」


「どうやら、リオル側は感覚を鈍らせる魔法を使ったようで、ライ山を巡回する翼竜の騎士達に気付かれることなく突破したみたい。


領主はその前日から隣のアズナス領での茶話会に出席していて、無事だけれど、現在もアズナス領にいて、国府軍の龍騎士の派遣を要請中


対応が遅れたのは、ヴォルケの領制のせいね。


いざ侵攻があっても、領主の指示がないと動けないようになっているから。


・・・おかげで事態はかなり後手に回っているわ


領民は、既に死者、行方不明者は1万を超えている模様。


元々、ヴォルケには戸籍などの取り扱いが杜撰で、且つ路上生活者も多かったため、人数の把握は、難しいと思われます」


「三領の一角が、聞いて呆れるわね」


「それから、現在多数の領民達が、他領に逃げつつあります。


既に五万の領民が、領境の大門を突破したとか」


「当然、逃げ遅れた人だって多いんでしょうね」


「ええ。怪我人や、親を亡くした子供、病気で身動きの取れない者など社会的弱者が全く逃げおおせておりません。


現状、逃げ出した領民はヴォルケ独自の階級制度で見れば中間層から上部が多く、領主の一族はかなり早い段階で逃げおおせております」


「何とか、救出できないものかしら」


「レイン姉様」


フェリスとクリスの声に、レインは難しい顔をする


「出来なくはないけれど、独断では無理だわ。


領は、12それぞれ独自の支配をしている。


この支配は八龍様とて、容易く介入できないほどの強制権のある国法で定められているもので、強行することは出来るかも知れないけれど、その後を考えると、手順に沿った方が、連れ出す民の為にも良いわ」


八龍は、基本的に領地にあれやこれやという事はない

彼らは、力を持った象徴なのだ(しかしその力は、外には向けても内には向けられない)


「策は?」


「至急、ヴォルケ領主の許可を取ること。この1択しかないわ。

・・・父様、任せて良いかしら?」


「任せなさい」


「うん。


それじゃあ逃げ遅れているヴォルケ領民の受け入れをしましょう。


で、兄様とアルフォードは、手の空いた領民達の力を借りて、郊外に受け入れるためのスペースを確保。


簡易のテントや、医療スペースなんかを準備


スティーブはアーシャの元へ行って、薬作りのサポートを。


ヴォルケ領民の受け入れが始まったら、グラン爺様と共に、怪我人達を診て頂戴


サディクは備蓄食糧をいつでも解放できるように、準備を。


母様とフェリシア、マリアは村々を回って、生活用品などの節約を伝えて


姉様は、屋敷で待機して、私と一緒に情報の整理と司令塔


クリスは、領民受け入れ次第、受け入れ地に行って、不安に思っているだろう子供達を励ましてあげなさい


私は放送を流した後各国に塩と水の輸出規制を掛けるわ」


レインの指示に頷いた面々は、すぐさま席を立ち移動を始める


「どうらん、影の道を開けておくれ。かれん、私の護衛を頼むよ」


影ではなく、レインの斜め後ろに控えていた桐藍は眉を寄せる


「は、ィ。しかし影は御身に負担ガ」


「緊急事態だ。それに、レイン達だけが影の影響を受けないわけではない


私も、多用は出来ないが、多少なら大丈夫」


ウインクをしてみせるセルゲイに、主が主なら主の父も主の父だと内心で苦笑を零し、桐藍は影の民の移動手段である影の道を開いた


影の中、闇の中なら障害物をものともせず駆け抜けることが出来る


・・・ただし、人にとって闇は危険なものだ


どんなに剛胆と知られた者でも、闇を恐れると心を喰われ精神を病む


故に、この道を頻繁に通ることが出来るのは影の民と、それから何故かレインとキリクとアリアだけだ(この3人の恐れるものは何だろうか、というのが実はしばしば影の民の間で話題に上る)


「すい、乗せてもらうよ」


影の道のなかでたたずむ、影の中で育った天馬が移動手段だ


セルゲイはその内の一頭を撫で、背に跨ると、レイン達後ろを気にすることなくその腹を蹴り、花蓮と共に闇の中に消えた


「レイン、くがね達を動員出来るか!?」


「既に影の子が知らせに行ってくれたわ。


だから、シュレイアの警邏は彼らと疾風達に任せて、自警団は全員、あたってもらって大丈夫よ!」


「分かった。アル、行くぞ!」


「はい!兄上!!」




「スティーブ、途中まで一緒に行くよ」


「うん」



「マリア、フェリシア、一人で回れる??」


「大丈夫よ母様。私たちだって、シュレイアの一族だもん」


「ええ。私が東回りに、フェリシアが西回りに、母様は郊外をお願いね」


「ええ。さあ、行きましょう」




「レイン、みんなにこの事を伝えないと」


「姉様!!拡声器の準備出来ました!!」


「有り難うクリス


信号を流して。放送するわよ」



シュレイア家の者達が散った後、レインはマイクを手にした


これは、技術国である友好国と、共に作ったもので特殊な石を使って領内全てに声を発する事が出来る装置だ


ちなみに機械ではなく、魔術と仙術と魔石により作られたファンタジーな物で、シュレイアでは警報、警告から祭りの案内まで幅広く扱われている


「<レイン・シュレイアより緊急放送


第二種警報を発令します


現在、エーティス最西部の領地が異国に侵略を受けています。


我が領地への直接的な被害は今のところありませんが、現状どう動くかまだ分からないため、皆さん何時、第一種警報を発令しても良いように心構えと準備をして下さい。


また、この侵略により、被害を受けているヴォルケ領民の一部受け入れを考えています。皆さんには是非協力していただきたく思います


引き続き、最新情報を得ましたら、皆さんに伝えて参りますので緊急放送には十二分に気をつけておいて下さい。以上放送終了>」




侵略や戦闘の情報を領民に伝えるか否かは、それぞれの領主に一任されている


シュレイアのように包み隠さず言う領地もあれば、無用な混乱を避けるためとして一切情報を伝えない領地もある


どちらが良いのか、一概には言えないが、レインはかつての経験と記憶から知らないよりも知ることの方が例え後悔しても良いと思っている

この考えから、装置も作った


領民には、知る権利がある


知って、己で判断し、行動する権利がある


無知は罪だと思うから


報せることが領主としての義務であると思っているから、レインはきちんと情報を流すし、それによる混乱を押さえるために、普段から対策を練っているのだ


数分も経たずに響いた各村や集落の了解の合図に、やることはまだまだある、とレインは踵を返した


窓の外では雨が勢いを増していた




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