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夏の章・序章

「おい、さっきの奴何処行った??!!」


「急に人混みに紛れて・・・」


「勘付かれちまったか!!!???おい急げ!!ひっさしぶりの上玉だ!!!


逃がすんじゃねえぞ!!」


どたどたと、荒々しい足音と品のない怒声が通り過ぎるのを路地裏から確認して、少女はそっと息を吐いた


「っおい!?むぐっっっ」


「(しずかにしてください)」


ばちん、と音が出そうなほど景気よく、青年の口元を小さな手で塞いだ少女はもう一度辺りを見回し、人影が居ないことを確認したあと、漸く青年を見た


「(みつかりますから、ちゃんとこごえでしゃべってくださいね)」


こくり、と頷いた青年を認めて、漸く手を離す


「その、なにがなんだかよく分からんが、助かった、のかな?」


「あれは、ひとさらいのしゅうだんです。


おにいさんは、にさんにちまえからねらわれてたんですよ」


気付きませんでした?とこてん、と首を傾げる少女は酷く愛らしく見えるのに、言っている内容が物騒である


青年は口元をひくりと震わせ、漸く己の危機を思い知ったのだった



こっちですよ、と案内されるがままに、手を引かれるがままに青年は路地を歩く


入り組んだそこを躊躇いなく進む少女は、きっとこの町の子供なんだろう、と青年は疑わない


「ここは、アベルにほどちかいですから、まぞくしんこうのあるむらもあるんです」


「・・・魔族信仰?」


「はい。いけにえを、かってにささげるんです。


まぞくはきれいなものがスキだといわれているので、みめのいいにんげんはねらわれやすいんですよー


べつにまぞくたちはのぞんでいないんですけどねえ」


「・・・」


「じぶんたちのむらじゃあ、すぐいけにえをだしきってしまいますから、このくにでイチバンおおきなこのまちで、ひとかいたちはでかせぎにきた、みめのいいおとこやおんなをさらうんです。


そして、まぞくしんこうをしているむらにうっています」


「・・・えらく物騒だな」


「そうですねー」


にへら、と笑う少女に、青年は溜息を吐いた


全くもって緊張感が見あたらない


「(しかしこのちみっこ、やけに手慣れてるな・・・ひょっとして俺みたいなのを逃がすの、初めてじゃないとか・・・?


人攫いが横行しているってはなしを聞いたばかりだしな・・・)」


小さな手、身長も低く、頬も丸くぷにぷにとしている


10は下だな、と青年は見当を付ける


「(俺がこいつくらいの頃、こんなにしっかりしてたかねぇ


・・・鼻垂らして木に登って怒られていたかも)」


とりとめない事を考えていると、少女が漸く足を止めた


「ん?」


「はい、つきましたよー」


「は?・・・此処は、宿・・・?」


「ここでしたよね?ちがいました?」


「いや、ここだが」


路地の入り組んだ道を抜けると、大通りに出た上、青年の拠点である宿が目の前に現れ、そのうえ初対面であるはずの少女が青年の宿を知って案内したような口ぶり


目を見開く青年に少女はふわりと笑った


「どう、して?」


「なぜだとおもいます?」


「・・・・お前、やっぱりただのちみっこじゃないんだな。面白い」


にやり、と笑った青年は、しゃがんで初めて少女と視線を合わせた


「俺は、タイム。お前の名前は?」


「ユキですよ、タイムさん」


にっこり笑う少女、ユキにタイムは心の底から笑ったのだった






それは、とある街の出会いのお話




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