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春の章・15話


春祭りは、華吹雪の舞台が終わると終わりに近づく


レイン達もまた、人の波が少ない内に、と帰途に着いた

赤龍が、案内されたのは2月前も訪れたレイン達領主の館で、同じ部屋だったのだが、部屋に入ったとたん、溢れんばかりの花に出迎えられ、目を瞬かせる



「これは・・・」


「赤龍様に、と祭りで手渡された花たちですわ


・・・こうしてみると、思った以上に凄い数ですわね」


ふふふ、と苦笑混じりに笑うレインに、赤龍も呆然とする


「花は、思いの欠片

みんな、赤龍様に感謝しているんですよ


この国を守ってくださる、優しい方に、ありがとうを伝えたいのです」


「っ」


花を渡されたときは喜びもあったがそれ以上に驚きが勝っていた

だが、今はただ、嬉しくて仕方なかった


ぐいっと横にいるレインを抱き寄せ、きつく抱きしめる


「???」


ぎゅうぎゅうとまるで幼子が母にするように抱きしめれば戸惑っていたレインもそろそろとその広い背を撫でた


「(赦された、気がする


此処にいて、この世界で生きて良いのだと


我も共に生きて良いのだと)」




・・・・・・・・長く生きて、生きてきた・・・飽きるほどに

恐怖の眼差しで見られることに疲れ、死ねない頑丈な身体に嘆いた

ずっと、卵から孵った時から、この瞬間を願っていたのかも知れない


この場に、居て良いのだと思いたかった


存在を望まれているのだと思いたかった


答えはずっと、無音だった・・・・・けれど今、このとき、漸く欲しかった答えをもらった気がする


渡された溢れんばかりの花が、その答えだと思って良いのだろうか・・・・・・・






「戻った」


ぶっきらぼうに窓から侵入した同胞に緑龍はオカエリ、と返す


「どうだった?初めて招待された祭りは」


「・・・」


「うん?」


緑龍の問いかけに、赤龍はゆるく顔を窓の外に向ける


「とても、とても優しい場所だった


人も、龍族も、異種族の者達も、みんな笑っていた


我にも、笑いかけてくれた


花を、くれた」


子供のように辿々しく祭りの感想を告げる赤龍に、ほう、と緑龍は目を見張る


「(無意識かい・・・?その表情カオは)」


目尻を下げ、頬をゆるめるその姿は、とてもじゃないが最凶と名高い八龍きっての武闘派には見えない


「良い物だったんだね。さあ、もう少しお前の土産話を聞かせてくれないか


丁度、シュレイアの酒もある。良い月夜だし、是非」


ひょいっと酒樽を細腕で引き寄せ持ち上げて見せた緑龍に、赤龍は頷いた


「(聞いてもらいたいのかも知れぬ。あの優しい空間を、少しでも、誰かに伝えれたらと、思っているのかもしれない)」


赤龍はほんの少し温かい気持ちになりながら、緑龍に促されるまま杯を持った





「レイン、そしてシュレイア家の者が、漸く赤龍の枷を1つ外してくれた


・・・・・・感謝しよう。赤龍と、シュレイアの者を巡り合わせた運命に」


黄龍は、緑龍と赤龍の会話を耳にしながら微笑み、月に杯を掲げた


「赤龍は、長く長く耳を塞ぎ、目を閉じて生きてきた


・・・・・否、あれを生きていると言っていいのかも分からぬな

アレはただ、そこに在っただけだ・・・


だが漸く、小さいが一歩を踏み出すことが出来た

長かった、だがその一歩は未来に踏み出す一歩だ。大きな一歩になる

そしてその一歩を踏み出す為に手を引いたのが、シュレイア家の人間だとは


・・・まさしく運命という奴だな」


黄龍は微笑む


瞼を閉じれば浮かぶ、複数の人影は何れも黄龍にとって大切な友人達だ


「全く、今もシュレイアに根付く意思に、お前に感謝しよう。


イチよ。全く、今も昔もシュレイアはこそっと歴史の影で動いてくれる。」


国の大半が知らぬ事


長らく黄龍だけが知っていたこと


「恐らくはこの先、そう経たないうちに国中がシュレイアに気付くぞ、イチよ


お前の意思を受け継いだ少女の手で、シュレイアはきっと飛躍的にその地位を上げるだろう。


望まずとも、世界は動く。国も人の心も動く


こればかりは我々には止められぬ


止める気も実は余りない。私は同胞に甘いのでな。赤龍の初恋は応援したいのだよ」


困ったことだ、と黄龍の記憶の中の男が苦笑する


「はは、初恋は実らぬとか言っていたな。だが、実らせてやりたい。遅すぎる春な上に本人まだ自覚には遠いが・・・見ていれば分かる。


本人次第ではあるが・・・頑張って欲しいのだよ。


赤龍には、私たちの誰よりも幸せになる権利があるのだから」



黄龍のつぶやきは、誰に聞かれることもなく空気に溶けて消えた









日の光が一切入らない分厚い雲の下、同時刻、闇夜に目立つ白い城のバルコニーで半透明の男がふわりと笑った


<だが黄龍、ジルヴァーン様・・・彼女を射止めるにはライバルが少々多いですよ彼女が救ったのは、赤龍様だけではないですからねぇ>


これにて春の章=出会いの章終了!!

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