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春の章・13話


春祭り・・・4月の半ばに行われるシュレイアの大型行事の一つである


今でこそ二日続きの大きな祭りだが、当初は農民が、秋の豊作を願い小さな村で始めたものだった


それが何時しか、領地発展と共に、このシュレイアを代表する大型の祭りにまで発展したのである


「当日は、多くの屋台の出店が見込まれるわ


領内の民が一同に集まる上、他国からの商人達の入領の申請が既に片手(500)はあるわ


当然、お酒も入ってみんな陽気になり羽目を外しがちよ。自警団には小さな諍いにも目を光らせて欲しい。


勿論、みんなが楽しんでいるのに、仕事なんて寂しいのは分かるから、2日在るんだし、1日交替で仕事についてもらうつもり


もし穴があれば、私たちがフォローするから、自警団には仕事の時はしっかり仕事をしてもらって、遊ぶときはしっかり遊ぶようにして、って一応団長からも話があるとは思うけど、疾風からもみんなに伝えてくれる?」


レインの言葉に疾風は頷いた


「皆も喜ぶ。確かに伝えましょう」


「異国の人も沢山来るの?レイン様―」


こてん、と小首を傾げるホルンにレインは笑って頷いた


「例年通り、ね。

祭りだけれど、シュレイアを<魅せる>展示会でもあるもの


しっかり今年も貿易黒字を目指すわ」


「張り切ってますねー」


のほほん、と笑うホルンにレインはうふふ、と笑った


「ウチは貿易に国一番力を入れている領よ?なにより、貿易で動くのは物だけじゃない。


お金は勿論、人や心も動くわ


異国の方々には満足してもらって、次回の貿易を此方の優位に持って行くためにも、気合いの入り方は比じゃないわよ


1年の貿易の成果は、この春祭りの影響を多大に受けるから、私だけじゃなく、アリア姉様達も気合いは十分よ」


珍しく闘志を燃やすレインに守護役達は笑ったのだった






シュレイアの領内の彼方此方で春祭りの準備が進む


大きな祭りなだけあって、領民達も楽しみなのだろう、活き活きとした表情で仕事と祭りの準備、どちらもこなしている


「レイン、目元のクマが凄いわよ」


「例年以上に、今年は忙しいからな」


アリアとキリクに指摘されレインは苦笑する


「今年はほら、赤龍様を招いたでしょう?


それでなくても元々入領する異国の方の人数も増えているし、そうなると警備とか、宿泊施設の準備とか諸々がね」


レインが春桜会の帰り道、キリクに伝えた内緒話・・・それは、殊の外シュレイアを気に入っている赤龍を、春祭りに招待しようという計画だった


今レインはその準備にも追われている


何せ、国の第二位の地位の者を招くのだ


警備や宿泊など、頭を悩ます事案は多い


それでも、レイン達は招待を決めた

うふふ・・・と遠い目をするレインにアリアとキリクは顔を見合わせ苦笑した


「私たちに振れる仕事はバンバン振りなさいな。私は貴女のお姉様よ?


妹に何でも任せて自分だけ既存の仕事のみ、だなんてあり得ないわ」


「そうだぞ。オレは確かにお前やアリアほど書類は早くこなせないが、自警団関係や簡単なものなら出来る。お兄様にも頼りなさい」


がしがし、とレインの頭を撫でる二人にレインは目をぱちりと瞬いて、そしてへにゃんと微笑んだ


「・・・じゃあ、アテにする・・・頼りにしてるわ、お姉様、お兄様」


「(素直なレインは凶器ね。可愛いわぁ)」


「(疲れてるせいか何時もより目はとろーんとしてるし。下手な奴に見られたら襲われちまうな)」


兄姉の贔屓目だろうか


しかし、普段しっかりしている人間の弱い部分を垣間見ると庇護欲に駆られてしまうものだろう


「(まあ、下手な輩はレインには近寄れないわね)」


「(過保護筆頭が守るだろう)」


キリクとアリアは視線で会話し、ほぼ同時にレインの足下を見る


一瞬揺れる影が、そこにレインの右腕が居ることを二人に報せた




「緑龍!」


「ん?何です赤龍。貴方が自宮に居ないのは珍しいですね


大概引きこもっているというのに」


「・・・・・・そこまでは宮に籠もっていない」


「その沈黙が、自覚している証拠ですよ。


さあ、どうしました赤龍?何のようです?」


「・・・招待状が、届いた」


ぽそりと呟かれた台詞に緑龍は軽く目を見開いた


「それは、・・・どこから?」


同胞に言ってしまえば傷つくだろうが、赤龍単体を誘う者はいなかった


珍しいを通り越して初めての事に、赤龍自身もどうしたらいいのか分からなくなったのかも知れない、と緑龍は努めて平静に首を傾げて見せた


「・・・シュレイアから、春の祭りにいらっしゃいませんか?と」


「ああ、シュレイア!それは良いんじゃないですか?」


招待した相手が分かった為、緑龍は微笑ましいとばかりに頷いた


「っだが、我はそのような祭りに行ったことがない


民を怯えさせ、シュレイア家の者達に迷惑を掛けたくない」


行きたい、けれど何かしてしまったら・・・嫌われるかも知れない、疎まれるかも知れない・・・そう、怯えているのは赤龍の方だと緑龍は内心で息を吐く


「大丈夫ですよ、赤龍。シュレイアの者は、そんな狭量じゃない・・・そうでしょう?


一晩居た私より、貴方の方が余程知っているでしょう?


それに、その手紙を見なさい

レイン殿達は、お前を招きたいと言っているのです。私でも、他の八龍でもなくお前をですよ?


言っては何ですが、彼女たちが招待しているのです。万に一つの間違いも起きないでしょう。それは、民への対処だってそうですよ。


だから胸を張って、堂々とシュレイアの祭りに行ってくると良い」


「・・・・」


「行きたいのでしょう?」


「・・・・・・・・・・行きたい」


小さなつぶやきを、しっかり耳にした緑龍は酷くイイ笑顔だ


何かをしたい、と、そう己の意思を主張する事がほとんど無かった赤龍が、今、自分から小さな小さな一歩を踏み出さんとしている


それが、緑龍は嬉しくて仕方なかった


「(ジルヴァーン様に、お伝えせねば)」


きっと彼の方も手放しに喜ばれることだろう、そう思った


「あ、」


「?」


「赤龍、春祭りに行ったら、是非お土産を買ってきて下さいね?


噂によると、シュレイアの祭りは、輸出する製品の展示会を兼ねてもいるようなので珍しいものもきっと多いでしょうから」


「そうなのか・・・?」


「嗚呼、らしいですよ。ジルヴァーン様がご存じのようで、先日ぽろりと零しておいででした。土産はジルヴァーン様にも、我々八龍にも頼みますよ」


パチン、とウインクをして緑龍はにっこりと笑った



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