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春の章・11話



「やっぱり面倒だったわ」


黄龍達が去った後、多くの貴族に囲まれ何を話していたのかと直球だったりかなり遠回しだったり聞かれたレイン達はくたびれた表情で集団から抜け出た


クリスなど迫る貴族の年嵩の女性陣が相当怖かったのか、当分夜会は良いです、と涙目になりながらキリクに訴えるほどだった


そんなクリス達とは少し離れてレインはパーティーの会場をゆっくりと、しかし余計なちょっかいは掛けられない程度のスピードで見て回る


勿論、普通の年頃の貴族の娘達がしているような男の物色ではないし、声を掛けられるのを待っているわけでもない


存外口の軽い貴族は多く、貴族達の間をすり抜けるだけで思う以上に情報を得ることが出来るのだ


誰とソレが仲が悪いだとか、あの方のツバメは、とか、愛人が、隠し子が・・・そういう下世話な話は不快でしかないが、何がどう繋がるかも分からない貴族の世界だ


・・・身を置いている以上、最低限の情報は集めておいて損はない


それでも、気分が良い物ではないが・・・


そんな風に思い溜息を吐いたところで美しい紅の三つ編みにして背に流している髪と装飾の少ない紺の衣装を身に纏う長身の姿を見つけ、レインは思わず声を掛けた


「あら?赤龍様?」


「っれいん?レインか、良かった。まだ居たのだな」


ぐん、と勢いよく振り向いた赤龍にレインは微笑む


「ええ。流石にダンスを二、三曲踊っておきませんと」


夜会というのは挨拶して、軽食をとって、さようなら・・・と言うわけにはいかない


情報収集序でに、二、三曲適当に踊って帰るつもりで居たので、もうじき始まるダンスの相手を探していたところだった


「ダンス・・・・・・・・


レイン、我と一曲どうだろう・・・?やはり我が相手ではイヤだろうか?」


意を決したようにレインを誘った赤龍の耳はその髪のように真っ赤で、レインは思わず微笑んでいた


「勿論、私で宜しければ是非」


「そ、の、誘っておいて何だが、我はダンスが苦手で・・・もし不快な気分にさせたらすまない」


「あら、奇遇ですわ赤龍様。私も苦手なんです」


にっこり微笑むレインに赤龍は目を見開く


「そうなのか・・・?」


「ええ。それでも宜しいでしょうか?」


「・・・是非、我と踊って欲しい。


その、出来ればレインが踊る二、三曲全ての相手は我であればと思う」


特になにか意識したわけでなく、口から出たのは驚くような誘いの言葉


「ん・・・?いやその・・・!!」


「ふふ。是非、私からもお願いしたいです」


「!そうか・・・有り難う」


嬉しそうに笑う赤龍に、レインは久々に犬の幻覚が見えた気がした


「(こんな事、失礼にも程があるのだけれど・・・やっぱりコロみたいだわ)」


人と接するのに臆病になっている赤龍は、野生の動物のようにも見える


そんな事を感じながら、表はにこやかに赤龍の手を取っていた


「(我ながら、この使い分けは上手くなったわよね。伊達に100超えてないわぁ)」


音楽の曲調が変わり、広間にいる多くの人間が踊り始める

赤龍と踊るレインを凝視するものも多かったが、レインは特に気にすることなく踊ってみせた


視線をいちいち気にしていたら、外交なんかやってられないわ、というのがレインの持論である


「(私が気にしたら、赤龍様はもっと堅くなりそうだし。)」


既に緊張しぎこちなく踊っている赤龍をちらと見たレインは自身の考えに間違いないだろうと確信した


「赤龍様、周囲の人などカボチャと思えば良いのですよ。周りは全員南瓜です南瓜。馬鈴薯でも良いかもしれませんが、とにかく気にしないことです」


「か、ぼちゃ・・・」


「路傍の石でも構いませんわ」


「・・・努力しよう」


神妙に頷いてみせる赤龍が何だか可笑しくて、レインはクスリと笑った



「おや、あれは・・・?珍しい事だと思わないかシヴァ」


「?ああ、赤龍が踊っているなんて、明日は槍が降るかも知れませんね」


黄龍と緑龍は酒を交わしていた手を止め、端の方でダンスをぎこちなく踊る同胞を認めた


「相手はレイン殿か。相当、彼女に入れ込んでいるようだな

それとも彼女たち、なのか」


「シュレイアを気に入っているのは間違いないようです。自覚しているのか無自覚なのか、先ほど挨拶に行ったときは、恨めしげに見られてしまいました」


「現(うつつ)に興味を持つことは良いことだ。アレはいい加減、我らの思いを酌むべきだと思うがね」


「左様でございますね」


「・・・緑龍、暫くは酒の肴に困ることはなさそうだな」


「彼女でなくても、これを機に我らのように、契りを交わし番を得てくれたら良いのですがね。そうしたら、酒の肴以上の収穫になる」


「そうだな。」


死に囚われている赤龍を歯痒く思いながら現に留めてきた二龍にとって、変化は喜ぶべき事である


知らず二龍の表情は柔和なものになっていた



始めに予定していた通り、三曲踊ったレインと赤龍は踊る人の波を避け、壁際へと向かう


すれ違う多くの貴族は赤龍とレインを二度見し、特に赤龍の姿を認めたものはサッと避けていった


「(貴族ならば隠したらどうなの)」


「レイン・・・?」


「なんでもありませんわ」


ほほほ、とレインが笑ってみせれば簡単に納得する赤龍・・・レインは素直すぎる方だと内心で苦笑していた


「赤龍様、赤龍様は普段どの様なことをしていらっしゃるのです?」

「む・・・?


特に何かしてはいないな。遠征が在れば遠征に行き、何もなければ日がな一日寝ているか、書物を読んでいるか・・・」


「左様で御座いましたか」


「うむ。・・・自分で言うのも何だが、我は八龍としての職務は戦闘にしか役立てない。

焔の使い道というのは中々少ない。少しの火力ならば火竜や炎竜で構わぬからな」


「赤龍様」


「知っての通り、龍・竜には属性があり、その属性を操る力には個体によって差がある


我は火を操るが、その操る属性の力の差は他の龍に比べて酷く大きい。


我は最高火力を操る。マグマから生まれ、マグマと同程度の火力を扱える


力の大きい順に、焔龍、炎竜、火竜、そして火蜥蜴の4段階

マグマの火力から小指の先程度の火力まで・・・・使い勝手の難しい力だ


火は万象を無に帰す

我は、この力が恐ろしくて仕方がない」


自分で自分の力の説明をしながら悄気ていく赤龍にレインは少し眉間に皺を寄せた


「赤龍様、ご自身のお力の強さを理解されることは、確かに必要な事なのだと思います。けれど、理解することと、恐れることは少し違うのではないでしょうか?


赤龍様は、そのお力を、破壊の力だと仰有る


けれど本当にそれだけでしょうか?私は否と思います。


火は、確かに怖い一面を持ちます。触れれば火傷しますし、熱いです。

けれど同時に、素敵な一面もあります。薪で見る芸能は情緒がありますし、火の暖かさがなければ冬は凍えてしまいます。


マグマとてこの世に必要不可欠なのです。島を作ることだって出来るのは決して破壊のみの力とは言わないでしょう・・・?」


「それは・・・」


「一面だけ見るから、怖いのだと思います

破壊の反対は、破壊ではなく創生なのだと思いますよ。

・・・出過ぎた真似を致しました。どうぞお許し下さいませ」


すっと頭を下げるレインを赤龍が止める


「謝るな・・・我は、その、嬉しく思う。

そなたと話していると、我の知らぬ新たな我を発見する」


ふ、と表情を和らげた赤龍にレインは内心で安堵の息を吐いた

赤龍が気安く話しかけるためつい疎かにしがちだが、赤龍は八龍の一角、この国の地位で言うなら第二位にあたる


本来ならば、簡単に話しかけて良い存在ではないのだ


「(・・・・とはいえ、今更は今更なのだけれど・・・身分というのは昔も今も世界が変わっても面倒なものよねぇ)」






夜会も中盤になるとレインは兄弟と合流し赤龍に別れの挨拶を告げた

長々と夜会に出席するほど、暇人でもなければ夜会が好きなわけでもない

勿論、視線に晒されることに快感を抱くような性格でもない


「そうか、そうだな。お前達はこういう場が苦手だったな。我も苦手だからよく分かる・・・しかし残念だ」


しょぼんと肩を落とす赤龍にレイン達は申し訳ありません、と腰を折った


「イヤ、我は今日、会えるとは思わなかったのだ。しかし、会えた。言葉を交わした。十分だ。」


ふ、っと笑う赤龍にレイン達はもう一度頭を下げた



翼竜に乗って夜の星空と輝く月の下一路シュレイアの地へと帰路につく


「レイン、赤龍様とお話しできたのか?」


「ん?ええ」


「ならば何故そんなに眉間に皺を寄せている?」


「なんで私前向いているのに眉間に皺を寄せていると思うの・・」


苦笑するレインは確かに眉間に皺を寄せていた


「オレはレインの兄だからな。嗚呼、精神年齢を考えるなよ?」


「・・・時々こういう面で兄様や姉様、母様達が凄いと思うことがあるわ。

勿論、他の面でだって背中を追うばかりなのだけれど・・・年取った記憶があっても私もまだまだなのよね」


ふう、と息を吐くレインにキリクはくつりと笑う


「何言っているんだか。それはむしろ此方の台詞だよ。

オレはレインの兄だ。格好付けたいと思うことは多々ある。だが、お前は簡単にはさせてくれない。


結果、・・・よく観察するようになっただけのことだ。


それにお前は余り感情をおおっぴらに表に出すことは少ない。

喜怒哀楽の内、喜と楽は見せても怒と哀は見せないし、焦りや不満も然り

そんなお前が、オレが殆ど観察しなくても気付く程度に感情を出しているのだ


気付かぬ方が可笑しい」


「そうかしらねぇ」


「ああ。・・・どうしたんだ?兄に言ってみろ」


「そうね、実は、」


キリクに聞こえる程度の音の大きさでレインは胸の内を吐露し相談する

その言葉を聞いたキリクは目を瞬かせ、二ッと笑った


「良いかしら?」


「賛成。協力するさ。ともなれば、忙しい春が更に忙しくなる


気合いを入れないとな」


ぽんぽんと頭を撫でるキリクの手をくすぐったく思いながらレインは頷いた


「ええ」


兄弟の内緒話は明くる昼には異国に出ているセルゲイを除き全員の耳に入るのだった


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