異空間でお客様
こちらまで来ていただきありがとうございます。
ではではご覧下さい。
「俺っ!?」
気がつくとそこは知らない異空間だった。
知らないも何も異空間に飛ばされたことはないのだがあれだ。
雰囲気を重視してみた結果の言葉だ。
どこまでも続く深い闇に、魂が鷲掴みにされた気がした。
そういえばどうしてこうなったのか…確か女の人から「あなたが欲しいんですっ!」て言われたからじゃなかったか?
「その結果がこれか…」
神屋がポツリと溜め息混じりに息を零すと目の前に先ほど見た女の人が姿を現した。
「ごっごめんなさい、いきなりあなたをこんな場所に連れ出して、驚かれたんじゃぁ…ないですか?」
さっきと同じようにビクビクと怯えるような感じでこっちに問い掛けてくる。
やっぱりどこか兎を思い出す様な空気を出すなと洋は思いながら彼女の言葉を振り返る。
吃驚していると言えば確かに吃驚している。しかし、洋にはいきなり別の場所に連れて行かれたことなど幾つも経験している。今回のように手足を縛られていない状況の方がまだましと感じていた。
女の人をそっと見てみると、これから叱られますって言わんばかりに、上目遣いで瞳をウルウルさせながらこちらの様子を窺っている。
これでは怒れる人なんているのだろうかと洋は苦笑する。
「驚いてはいますが、昔と比べたらまだマシですから大丈夫です。さきほどもお話させて頂きましたが、お客様のご用件をお伺いしても?」
「………よく落ち着いていられますね。いきなり連れて来てと怒ったりしないんですか?」
彼女は微妙に引きつつもそんな言葉を呟く。
「あぁこういった事は慣れているんですよ。昔から両親のおかげかどうかは分かりませんがね。流石に異空間なのは吃驚しましたが、そのあたりも含めて説明していただけると助かります。」
そう俺は昔から両親の影響で世界中をまわり、人とは変わった経験をしていたのだ。
その中には危険な組織や狂信的な宗教団体に追い掛け回されたり、知らない場所に監禁されたり逃げたりしてきたのだ。多少の事では動じない。
さっきは目の前にいる美少女から美人になりそうな女性から「あなたが欲しいんですっ!」何てことを言われたからだついうっかり「俺っ!?」だなんて素になってしまった。
しばらくお互いに無言の状態だったが少し落ち着いたのか彼女から言葉が紡がれた。
「私の名前はアリス。神々に仕える天使の1人です。普段は神界で神様のお手伝いなどをしているのですが、今回は創世神様からのご命令により参りました。この空間は導きの間と言いまして、転生をする前の場所になります。ここまでは分かりますか?」
「お客様はアリス様というのですね。そして天使でいらっしゃると、ここが導きの間と言うのは分かりましたが自分は死んでしまったのですか?そしてここに連れて来られたと言う事なのですか?」
「いえ、神屋洋さんをお連れしたのは訳が有りまして、決して亡くなったからではありません。訳を説明する前に経緯をお話しさせて頂きますね。」
そういうとアリスはオドオドした態度から深呼吸をすると、雰囲気がガラリと変わり威厳に溢れだした。そこから凛とした声で詠うように言の葉を紡ぎ出した。