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一話

今日も今日とて、部員は部室へ集う。

今日は文集「freedum」(スペルミスは、初代部長さんが原因)の発行に向けての活動日だった。小説の挿絵担当の胡蝶ちゃんが、追い立てられて絵を描いている。

「あとどのくらいで終わります、胡蝶ちゃん。文章のほうは原本印刷終わったのでいつでも刷れますが」

「うぅー……あとは郁流の小説の挿絵だけなんだけどね、難易度高すぎるよ! 何、この小説。どんな挿絵を描いたらいいの!? あとがきに書いてあるからかろうじて『テーマが毛細血管だったためこんな意味の分からん小説になった』ことがわかるけど、初読の読者さん絶対ドン引くと思うよ!? どうして急に魔法使い(三十歳独身男性・彼女いない歴=年齢)が現れて、ハードボイルドな雰囲気の主人公の血管が毛細血管ばっかりに変えられてしまうの!? しかもなんで最終的に主人公はヒロインとイチャイチャしてるの!? どういう経緯!? ねえ!? カタルシスを得られないってまさにこれのことだと思うよ! どんな挿絵描けばいいって言うの!?」

少し涙目な胡蝶ちゃんが一瞬かわいそうになったが、この文芸部の方針は、


一、常に自由であれ

一、常に活動的であれ

一、常に根は真面目であれ


であるから同情しないことにした。その結論に至るまでに要した時間、わずか〇.八秒。自由に書いた結果が、これなのである。

というか、文句ならこのテーマを提供した先輩たちに言って欲しいと思う。今月号の〆切が決まって何か書こうとしたのはいいが、ネタが全くと言って良いほどなかったのだ。それで、しょうがないから三題噺にしようとしたら、テーマを求めた先輩たちはこうのたまったのだ。

橋「ハードボイルド」

赤「毛細血管」

佐「ラブコメ」

これでどう書けと? 一回でも書き物をしたことがある人は赤城先輩のお題が異色だということに気づいてくれるだろう。いや、一度も書き物をしたことがなくても、誰でも気づくに違いない。ああ、テーマは胡蝶ちゃんにもらえばよかった。まあ、もう原稿は書き上げたことだし後悔しても無駄だろうが。


休日活動だったため、それから数刻経って胡蝶ちゃんがなんとか挿絵を終わらせるまではライトノベルが原作の漫画を読んでいた。昨日出た最新刊である。休日は顧問が学校にいないため、危険が迫ることが少ないのだ。

「終わった……」

胡蝶ちゃんのその声を聞いた橋本先輩が、丁度携帯ゲーム機、通称『遊ぶ駅ポータブル』で見ていた深夜アニメの影響なのか、妙に中二なポーズで叫ぶ。

「スキャニングよーい!」

それに周りにいた部員があわせる。

「いええええええええええええ!」

……うん。今日も文芸部員は元気です。少々遅れながらも私も叫んだ。

「いええええええええええええ!」


驚異の速さで印刷を終わらせ、製本作業をする。予算はほぼ全て貯金なので、製本を業者に頼むだなんてもったいないことはしないそうだ。まずはページの順番どおりに紙を重ねていく。これは全員作業だった。終始無言で、紙を重ねては整え、重ねては整える。

次はホッチキスでそれらをとめる。今回の文集は、赤城先輩が張り切りすぎたので分厚く、なかなかホッチキスの針が通らない。

「ふぉぉぉぉぉ!」

男性陣が全体重をかけてやっとガッチャンと音がする。これは自分に分が悪いと察した私と胡蝶ちゃんは、流れ作業に切り替え、製本テープを貼る作業に徹することにした。胡蝶ちゃんは身長が私と五センチ差と、他の先輩達と比べて小柄である。

「あ、胡蝶ちゃん、ゴミ箱持ってきたのでテープめくったゴミはここにお願いします」

「はい、ありがとう」

「おい、郁流! ちょっとたまってきたから十部くらいそっち置くぞ、場所空けろ」

「私もそろそろなだれそうだなと思ってました、了解です」

「あーっホッチキスミスった。誰か針抜いて」

「っしゃ、こっち置いといて、やっとく」

「十八ページがない! なんかページが足りないやつがあったんだけど? あまってない?」

「余ってない! さっき確認した!」

「どうしよ?」

「郁流、至急フタバちゃんで刷ってくれ。フタバってのは印刷機の二号機のことだ!」

「誰が命名したのかは後で聞くことにして……了解です。胡蝶ちゃん、一瞬席外します」

「わかった~」

「ホッチキスの替え針誰か持ってない?」

「ああ、あっちの引き出しにあるはず! こないだ整理したからすぐ見つかるはずだ」

汗を流しながら動き回る製本作業。このときはみんなが、あの変態でテンションがやたら高くてふざけてばかりの部員たちが、全員真面目に働いている。私は自分も働いてはいるが、周りが働いているのを観察するのが好きだった。これはギャップ萌えの一種なのかもしれない。真剣な顔で黙々と作業に励む人、たまにミスをして叫ぶ人、冷静に処理をする人、さまざまで本当に楽しい。


一時間半して、作業が終了した。製本テープを貼った文集の束を見て、橋本先輩が言う。

「これ、白い製本テープ貼ったの誰だ?」

「ああ、私ですけど……」

名乗り出ながら、何かやらかしたかなと記憶をたどる。多少ずれているのもあるが、しわになったりはしていないはず……

「じゃあ黒い製本テープは胡蝶ちゃん?」

「そうですよ……? それが、何か……」

うなずき、そのあと首をかしげる。と、橋本先輩がつかつかとこっちに寄ってきた。何事かとみんなが見守る中、先輩は手を振り上げた。

「ぎゃっ!」

反射的に飛び退ろうとするが、背後の壁に背中を強打する。反動でこけて、右腕も強打した。

「いった! ちょ、先輩、何するんですか! あれですか、自分は何もしてなーい! とか言って責任逃れする幼稚な遊びですか!」

思わず大きい声で怒鳴ると、橋本先輩が寄ってきた。

「いや、そんなつもりじゃなくて……ごめん。ただ、白い背表紙の文集のほうが多いねって褒めるつもりだった」

手を差し出されたので握ると、ひきおこされた。佐藤先輩がニヤニヤしているのであとでボコると心に決めつつ、スカートについたほこりをはらう。

「えっと、じゃあ改めて」

何を思ったのか、先輩は私の髪をなでた。ちょっと引け腰になったが、振り払うわけにはいかないと思ってただ、いぶかしんでいると、赤城先輩が隣に来て言う。

「不器用な橋本なりの褒め方だよ」

ニヤニヤして傍観している佐藤先輩が気になったが、褒めてくれているなら何も文句はないので逆らわずになで続けられていた。



作者です。私たちの日常はこんな感じ。多分!文章は、イメージです!

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